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はじめまして、小森といいます。
王道物語を書いてみたくてはじめました。
完結を目標に頑張ります。
よろしくお願いします。
跳ぶ、走る、吹き飛ばされる、跳ぶ、逃げる、吹き飛ばされる。何度繰り返しただろうか、旋風が駆け回り頬の皮膚が裂ける。風がいつでも首を切り裂くことができるぞと脅しをかけてきているみたいだ。
不思議と恐怖はあまり感じていない。風の発生源たる男は一歩も動かず、ただ風をこちらに送ってきていた。ボサボサの髪で顔の上半分は見えないが、口元は薄く笑みを浮かべており何を考えているかよく分からない。この男にとっては俺を殺すことなんて造作もないことは明らかだ、なのに風で皮膚を裂く程度のことしかしてこない。
「なぁ!もういいだろ!!俺はお前に用はないんだ!!通してくれよ!!」
男に叫ぶが返答はない。わざとらしく手を振り不可視の風の軌道を教えてくれる。最初はフェイクかと思ったが、ここまで手の延長線上から身を避けることで致命傷はくらうことなく済んでいた。
ここは港にある倉庫の中で、唯一の出入り口は男が背にして立っている。この倉庫から出ようと思ったらあの男をスルーしないといけない位置関係だ。
俺の持つ武器といえば、覚えたての転移魔法と簡単な防衛魔術。自宅に一気に転移ができればいいのだが、目視で転移先を設定しなければならない都合上、転移できたとしてもこの倉庫内だけだ。ちなみにこの倉庫内にはあの男の風が吹き荒れており、倉庫全体があの男の射程内と思われる。防衛魔法もスタンガンのように触れた相手を痺れさせる魔術は習得したが、とてもあの男に触れられるとは思えない。
「通りたければ通るといいさ、五体満足は保証しかねるけどね。」
うすら笑いを浮かべ男が言う。強い風のせいで聞き取りにくい。
男の目的はおそらく時間稼ぎ。何かの準備が整うまで、あるいは何かが到着するまで俺をここに押し留めることがあいつの仕事だろう。それなら、さっさと捕まえて縛るなりしたらいいと思うが、多分舐められているんだろうな。実際魔力の扱いはむこうが何枚も上手と感じる。
なんとか逃げ出す方法を考える。俺のことを明らかに格下と侮っているのなら、チャンスはあるはずだ。
男が使う風は大きく2種類ある。吹き飛ばす風と切り裂く風。その2種類が常に男の周りに吹いており、時折俺に向かって飛ばしてくる。
試しに大きな木箱の裏に転移してみる。すかさず木箱ごと吹き飛ばされる。
目線で転移先を読まれたか?
受け身をとり、木箱に隠れるようにして再び転移を発動させる。しかし、転移した瞬間にまた吹き飛ばされる。
何故だ!?今度は木箱で俺の目線は見えなかったはず、どうして転移先が分かった!?
再度受け身をとり、今度は走って距離をとる。距離をとったことで周囲の物が散乱しているのをみて理解できた。転移先を読んだのではなく、周囲一帯を吹き飛ばしたのだ。
「っ!?」
男が腕を振る!咄嗟に横に飛ぶとそばにあった木箱が真っ二つになる!!バフっと中に詰まってた粉が舞い上がる。
「おいおい!俺を殺しちゃマズいんじゃないの!!」
「そんなんで死んじゃうなら別にいいんじゃない?」
「なっ!?」
要するに今まで俺をいたぶってたのは、ただの気まぐれってことかよ。
「ほら、しっかり魔力を練らないとホントに死んじゃうよ?」
「クソが!!」
どうすればいいのか分からないが、とりあえず走り出す。考えろ、あいつは俺が転移をすると全方向に吹き飛ばし、足を止めると切り裂きを狙ってくる。倉庫内は、たくさんの木箱やら袋やらが積み上がっていて死角はあるが、さっきの切り裂きからして壁にするには不十分だ。あいつが本気で殺しに来る前に逃げる方法を考えないと。
「っ!?」
あいつ!今度は手当たり次第に切り裂きを飛ばしてきやがった!俺は一旦足を止め、あいつの腕の振りに集中し不可視の刃を避けることに専念する。
どうやらこの倉庫には、小麦粉か何かの粉製品が保管されていたらしく、あいつの切り裂きにより粉が舞い上がり、手の振りが見え辛くなる。
マズイマズイ!!このままではミンチだ!!
切り裂かれるくらいなら、吹き飛ばされた方がマシと目についたところに転移する。
男は俺が転移したことに気付くと、躊躇なく吹き飛ばしを発動し俺を探す。更に粉が舞い上がる。もはやぼんやりとしかあいつを確認できないが、それはお互い様だ。ゴロゴロ転がりつつも木箱の裏に転移する。
1つ閃いたことがある。もはや自殺行為だが手段を選べる状況にはない。今必要なことは覚悟を決めることだ。
木箱の裏から体をさらけ出す。ここからはあいつの一挙手一投足に注意を払う。
「どこを狙ってるんだ!」
俺を見つけるとあいつは腕を振りかぶる。それを確認しあいつに向かって走りだす。まさか俺が突っ込んで来るとは思ってなかったのか、一瞬腕が止まったがそのまま振り下ろしてくる。
「ここ!」
腕の振りに合わせて、前に転がるように風の刃を避ける。今度は反対の手で横に払うように刃を飛ばそうとするのが見えた。
「うぉお!」
咄嗟に男の背後に転移する。背中合わせのような体勢になり、俺はそのまま男の後ろの扉に向けて走る。
ゾワっ
背筋が凍る。男の魔力が高まるのを感じた。
来る!!
キィィィン
これまでとは別格の風切り音が頭上を過ぎる。そのまま飛ぶ斬撃は扉を切り裂く。扉の一部が破壊され外の光が差し込む。チャンスは今しかない!
俺は振り向き、男にむかってとっておきを発動させる。
「スタン!!!」
“スタン”とは最も簡易な防衛魔術だ。触れた相手を軽く痺れさせる程度の威力しかなく、なにもないところで発動させても指先から火花が散るのみだ。
しかし、倉庫という室内、舞い上がった粉、男を中心に吹く風、様々な要因が重なり小さな火花は大きな爆発を引き起こす。
バチッ・・バフン!!
爆風に吹き飛ばされゴロゴロと転がり、扉にぶつかる。男も同じように吹き飛ばされたようだ。
そのまま扉の隙間から外に転移し走り出す。
「ざまぁみやがれ!!」
喉が焼かれたのか声が掠れてる。しかし、背後の倉庫に吐き捨てると気分は最高だった。
「全く、君はどうしていつもそう無茶ばかりするんだい。」
あの男が空中で俺を見下ろしていた。
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