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10.M1ガーランド

 斎藤は一班で一緒に行動していたメンバーの一人だ。特に灰汁も強くなく良識的な人間の一人で落ち着いて行動できる隊員でもある。


「M1ガーランドじゃないか?」

「M1ガーランド?」

「アメリカ製の小銃だよ。むかしの式典の映像とか見ると儀仗銃ぎじょうじゅうで使われてるやつ」


 斎藤の一言に、総員が「え……」となっている。まず、違和感を覚えたのが「小銃」という言葉。司自体が長銃と認識していたこともあってまったく分からなくなる。

 そこを今現在、気にするのは若干ベクトルがずれているとは思うのだが。


「斎藤……すまない、俺はこれを長銃と言ってしまったが、小銃なのか?」

「どうみても長いだろ」

「てかお前、銃とか詳しいの?」


 名前が出る時点でまったく一般人にはかけ離れた知識と思われる。サバイバルゲームなどやっていた類かと指摘されると、斎藤はモニターを覗き込んでいた体を起こして、なんとなく気恥ずかしそうに後頭部に手を当て苦笑した。


「あーはは、俺じゃなくて昔の友達が。すっごいミリタリーマニアでレトロなのが特に好きでこれ、米軍が使ってたやつだぜーって何度も語られたことがあってさ」

「レトロなんですか?」

「うん、世界大戦の時に使われててそのあとは日本でも式典で肩に担いでたやつだって」


 儀仗銃。そういわれると今でもこんな感じの長い銃を居並ぶ白制服の人たちが揃って片手に持っている。それがどんなものか意識してみたことはもちろん、ない。


「今は違うんか」

「違うらしいけど俺もそこだけ熱心に聞かされたから覚えてない。M1ガーランドは確か半自動小銃のはずだったけどな」


 どこが。どこが小銃。

 という疑問に再び戻ったところで肝心の本題に立ち戻る。


「これが何かわかればまた進展ないか?」

「斎藤、お前の友達は?」

「あー高校の時だし、連絡先までは……」


 しかし彼らは忘れている。もっと身近にマニアではないプロがいたということを。何気ない忍の一言から突破口が再び開けることになる。


「式典って警察なんでしたっけ?」

「いや、陸自だろ」

「陸自……陸上自衛隊……」

「!!」


 全員が一瞬で同じ人物に心当たりを覚えた。「南さーーーん!!!!」と全員での確認を待たずに、南の名前を呼んで一人がすっ飛んでいった。彼は庁舎内にいるはずだが席を外している。

 そして少しして、慌ただしく戻ってきた。一緒に来た南はとにかく連れてこられて事態が分かっていないようなので説明をしてからモニターを見てもらう。


「ちょっと暗くてわかりづらいが……M1ガーランドだとは思うな」

「違うようにも見えますか?」

「うーん、儀仗銃としては2019年だったかに退役してるし、少し違う気もするが……年代によって違うからな」


 銃に退役、という言葉を用いるあたり元自衛官らしいと思うが、頼もしい。

 そんな南は悩んでいたがふと、他のことにも気づいたらく表情を一瞬緩めた。


「……この男の来ている服、というかヘルメットもだが米軍の軍装備じゃないか?」

「え」


 全員が改めて全体を見直す。

 確かに色合いもミリタリー風で、スーツシルエットではない。しかし、こういうかっちりしたセットアップのライダーは、割と見かける。

 ライダーとして違和感のない服装ではある。そこへ「首都高でヘルメットはふつうハーフではない」を合わせると……


「ないとは思う。でもむかしの軍人に見えてきた」


 そうなのである。今の軍服ではなく資料や教科書に出てきそうなむかしの軍人だ。米軍の軍服なんてよく知らないが、映像のものは少しクラシカルに見える。


「誰か、バイクやってるやついないの?」

「職業上、全員乗れるけど趣味はいなかっただろ」

「軍服風シルエットのセットアップは人気もあるようですよ」


 意外なことに、答えたのは忍だった。


「え」

「元々軍服は動きやすさと耐久性を考慮して設計されているから、快適に着用できて安全なんだって」

「そういわれるとどちらも機能性と安全性、それから保護も求められる点で共通しているな」


 自前のデバイスですかさず検索をかけたようで、忍の片手に持たれたデバイスの小さな画面には、検索による回答が示されていた。

 最も軍服に造詣が深いであろう南が合理性に感心している。


「しかしこれにファッション性はない」

「そうだな。俺はもう軍人さんにしか見えなくなってきたよ」

「暴走にミリタリー……マニアなのか。重篤な感じの」


 銃に服まで揃えるとなるとそうなのだろうが問題はそこではない。


「これが実在の人間ならな」

「……」


 司の一言で、水を打ったように静まり返った。

 これが実在の人間ならば。ただのマニアだ。が、トンネルで姿を消すことが実在の人間に可能かという点で、疑義が発生してしまう。


「司くん……」


 事件性に対してではなく、存在そのものに対して「怖い」と目で訴えている。神魔に対して驚くほど恐れや警戒を持ち合わせていない忍は、なぜかこういうものになると過剰におびえる傾向にある。

 ただ、その感情については表に出さず黙っているので司も目で「すまない」と返して心を鬼にして話を進める。


「神魔でなく実在しない『人間がらみ』なら管轄は術士だ。清明さんに相談しながら進めよう」


 何も間違っていないのだが、鬼にもなっていなかった。結果としてそこはかとなく「今すぐ、特殊部隊は絡まないから大丈夫」みたいな後ろ向き感を自らの発言に感じながら司は忍のどこかほっとした気配を感じていた。

楽屋裏【M1ガーランド】などについて(活動報告)

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3303946/

序盤で司が銃撃を受けた際の描写やダメージの基礎となった資料が置いてあります

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