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高熱と幻想




 凉夏に傘を押し付けてずぶ濡れになりながら帰った次の日、いつものように目を覚ました俺は、いつものように登校をした。凉夏から何かを話しかけられたとか、ツンデレめいたことを言われたとかは全くなく、本当にいつも通りの一日の始まりだった。泣けてくるね。


 教室に入ると、皆が少し緊張しているのがわかった。

 そういえば、今日は中間テストの返却日だった。凉夏が可愛すぎて全然気にしてなかったわ。


「おはよう、彰。今日は早いね?」


 教室の入り口で突っ立っていたら、後ろから知己に声をかけられた。まあまあ地頭のいいこいつは全く緊張していなさそうだ。視線をずらして、教室の入り口付近に座っているはずの凉夏を探すが、見当たらない。まだ来ていないのだろうか。


「ちょっと早く目が覚めてな。智は?」

「テスト返却が怖すぎて布団と一体化したんだってさ。……って、あれ、顔赤いけど、大丈夫?」


 知己が俺の顔を覗き込む。やめろ、男に顔近づけられたところで嬉しくもないわ。


「熱測った?」

「体温計家にないわ」

「保健室で測ってみたら? まだHRまで時間あるし」


 自分の額に手を当ててみるが、別に熱いとは思わない。確かに今朝鏡を見た時は少し顔が赤いような気がしたが、知己が少し大袈裟なだけなのではなかろうか。

 まあ、教室にいて中間テストの話題を聞くのも鬱陶しいし保健室に行こう。どうせ大したことないだろうけど。








「37.8度ね、ベッドで休んどく?」


 大したことあったわ。

 しかし今まではなんともなかったのに、熱があることがわかった瞬間体が怠く感じてきた。やはり体温計は悪だ。


 ベッドに横になると、どっと疲れが襲ってくる。簡易な作りのベッドだったが、体を休ませるのにはちょうどよい硬さだった。薬を飲むかと聞かれたが、遠慮しておいた。そこまで重症ではない。


 廊下からは生徒たちの喋る声が聞こえてくる。しかし、保健室の中はどこまでも静かだった。保険医の先生がペンを走らせる音だけが微かに聞こえてくる。

 凉夏は今何をしているんだろうか。中間テストの返却のことを考えて緊張したりするんだろうか。緊張する凉夏……かわいい。凉夏は何をしても可愛いんだから参ってしまう。


 いけない、色んなことを考えていたら頭が疲れてきた。無駄な考えを一旦忘れ、寝むことだけに集中する。すぐに心地よいとはいえないものの、眠気がやってきた。

 凉夏の夢が見れますようにと願いながら、俺は眠りに就いた。




 ▽



 どれくらい寝ていたのだろうか。

 まず気づいたのは、喉の痛みだった。ずきずきと痛む喉は、それだけで風邪の症状が悪化したのだと理解できる。心なしか体のだるさも先ほどよりひどくなっている。


 身体を起こしてカーテンを開けると、保険医の先生がこちらを見た。


「あれ、なんか辛そう。悪化した?」

「多分、ちょっとしんどいです」


 熱を測る。38.6度。まあまあな高熱だ。


「あれ、結構高いね。お父さんかお母さんに連絡して、迎えに来てもらう?」

「今家にいないです」


 そう言うと、保険医は困ったような表情を浮かべた。仕事を増やすなって感じだな。

 ただでさえ忙しそうな先生に朝からさらなる仕事を増やすのも少し心苦しいので、自分で帰ることにしよう。


「……大丈夫です。普通に歩けるので、自分で帰ります」


 身体を起こしてみた感じ、別に歩けないというほどのものでもない。

 心配そうな保険医を安心させるために立ち上がって、荷物取ってきますとだけ言って保健室を出た。頭がぐわんぐわんと痛むが、まあバスに乗って帰ることくらいは可能だろう。


 教室に戻ると、いい感じの喧騒に包まれる。結構な時間寝たと思っていたが、そんなことはなかったらしい。あと少しでHRが始まる程度の時間だった。


 荷物を取りに俺の席に行くと、智に声をかけられた。


「お、大丈夫か? なんか具合悪いって知己から聞いたが」

「おう。ちょっと今日は早退するわ。お前は布団から出れたんだな」

「もうすぐで持っていかれるところだったわ」

「何をだよ」


 心配そうな表情でこちらに歩いてきた知己にも早退することを伝えて荷物をまとめる。

 ふと、どこからか視線を感じた。


 顔を上げるが、別に誰かに見られているわけでもなさそうだ。


 熱のせいでなんか変になっているんだろうなと思い、教室を出る。

 教室を出る際、涼夏と目があったような気がした。

 そんな自分を嘲笑する。




 ほんと参っちゃうよな。まだ幻想抱いてんのかよ、俺。



閲覧ありがとうございます。

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