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身の丈にあった願い




「この世界に凉夏以上のヒロインいなくね?」


 世界の結論にたどり着いた俺は、万感の思いを込めてそう言った。中庭に一陣の風が吹いた。

 対する2人の反応は、


「はあ」

「そう……」


 などといった、淡白なものだった。


「お前ら、興味無いの?」

「今朝見た雑草に向ける程度の興味なら」

「正直中間テストの方が大事かな」


 それはその通りである。中間テストを出されると俺の話題の重要性が1ランクくらい下がってしまうじゃないか。


「まあ、聞くくらいはしてやるよ」

「二宮さん以上の女子がいないって?」

「ああ、校内にいる女性全員と話したことで、俺は気づいてしまったんだ。涼夏以上のヒロインはいないし、これからも誕生することはないだろうなと」

「よかったじゃん」

「めでてえな」

「興味ゼロすぎんか?」


 だってなあ、と智。


「そんなこと言っても、お前嫌われてるじゃん」


 その言葉に俺は大きく頷く。問題はそこなのだ。

 俺が涼夏以上のヒロインがいないことに気付いたことは歴史に残るほどの快挙だが、やはりそこの問題は消えることはない。俺がいくら涼夏を好いたところで、嫌われていては意味がない。


「って、嫌われてはないから。めんどくさいって言われただけだから」

「同義だろ」

「いや同義じゃ──同義か……」


 堂々巡りの会話である。

 ぼんやりと校舎を眺めていると、俺たちの教室の窓からちらりと涼夏が見えた──ような気がした。


「ていうか、軽く流したけど最高のヒロインってなんなの?」

「いいこと聞いてくれたな、知己」

「余計なこと聞いたな、知己」

「藪蛇だった」

「まあまずは顔だろ? 涼夏以上の美少女なんてこの世に存在しないからな。そんで次は性格、スタイル、声、口調、立ち振る舞い────まあ平たく言えば全てだな」


 俺の言葉に、同時に溜息を吐く二人。おいやめろ、可哀想な人間を見る目で俺を見るな。


「ツンデレじゃないのに完璧なのか?」

「まあ欲を言えばツンデレなのが一番だが、一週間考え抜いた結果、涼夏は今の性格でも全然良いんじゃないかと思えてきたんだ。もちろんトップはツンデレだけど」

「彰のことだからてっきり二宮さんをツンデレに変えたい! とか言うのかと思っちゃった」

「そう考えもしたんだが、嫌ってる相手にデレないだろ……」

「めんどくさいだけだったんじゃないのか?」

「同義だわそんなん」

「お前が言うのか……」


 やめろ憐れむな。

 二人から向けられる憐みの視線を無視し、再び校舎を眺める。もう涼夏らしき姿は見えなかった。


 ツンデレの涼夏を見たくないと言えば俺は嘘を吐いていることになるだろう。あんなにはっきりとツンデレじゃないと言われたというのに、俺は未だにツンデレの涼夏というものを夢に見ている。

 だがいくら夢見たところでそれが現実になるわけもない。涼夏はツンデレではないし、俺にデレることもない。

 可能性があるとするならば、涼夏が俺じゃない誰かに対してツンデレになるという線があるのだが、そんなことを考えたら俺の脳が破壊されるので全く考えないことにする。

 赤の他人にツンデレってる涼夏と、それを遠くから見てる俺──あ、やばい吐きそう。


「これが寝取りってやつか……」

「何を想像してるのかわかんないけど、物騒なことっていうのは理解できる」


 やっぱり純愛がナンバーワン。

 それはともかく。


「結局、ツンデレじゃなくても涼夏は完璧だったんだよな」

「じゃ、その完璧なヒロインである二宮さんとどうなりたいの?」


 鋭い質問を投げかけてくる知己。

 しかし、ここまで熱くヒロイン像について語っておいてなんだが、俺は未だに涼夏とどうなりたいのかはっきりとはわかってはいなかった。

 そりゃ付き合いたいと思うし、もっとイチャイチャしたいとも思っている。しかしそれと同時に、今の俺じゃそんなことできっこないってことだって理解している。

 涼夏はツンデレじゃないし、俺のことを好きでもない。はっきり言って、もう詰んでいるのだ。


 だからこそ、俺はたった一つの願いを呟いた。

 シンプルで、それでいてはっきりとした、俺の願い。


「……涼夏とまた仲良くなりてえなあ」



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