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トイレの花子さん(ガチ)



 しばらくの間、無言の見つめ合いが続く。

 少し頭の中を整理してみよう。


 まず、この学校には前生徒会長の幽霊が出るという噂が流れており、それを確かめるために俺たちは夜の学校の見回りをすることになった。そしてトイレに入る何者かの人影が見えたので突撃してみたところ、前生徒会長にとても似ている真冬先輩が手を洗っていた、ということである。


 ──どういう状況? 


 つまり噂になっていた前生徒会長の幽霊とは真冬先輩だったということだろうか。じゃあ真冬先輩が前生徒会長? あれ、けど前生徒会長ってもう卒業してたし、仮にそうだったとしてもこんな時間にここにいる理由がないし……なんだかこんがらがってきたぞ。


 真冬先輩はいきなり現れた俺に驚いているのか微動だにしない。小さな窓から差し込む月光が彼女に彫像のような冷たさと美しさを与えている。多分彫像のタイトルは「手を洗う亡霊」とかそんなのだろう。なんかイマイチだな。

 しかしいつまでもこのままでいるわけにはいかない。


「真冬先輩、こんなとこで何してるんですか?」


 俺は真実を突き止めなければならないのだ。気分は名探偵である。格好いい。

 俺の鋭い質問に、真冬先輩は優雅な動作でハンカチをしまいながら答えた。


「女子が女子トイレにいるだけだけど」

「たしかに……」


 論破されちゃった。


 ……いや、そうじゃないだろ。なんで論破されてんだよ。俺はそんな答えを求めていたわけじゃない。なぜこんな時間にここにいるのか、ということを聞かなければならないのだ。ここはもう一度ズバッと格好良く決めて真実を突き止めてやる。

 しかし、俺が言葉を発する前に、真冬先輩が口を開いた。


「そういう君はここで何を?」

「男子が女子トイレにいるだけですけど」

「大問題じゃないか」

「たしかに……」



 論破されちゃった。

 迷宮入り、だね……。





 いやそうじゃないだろ。何で2回も言いくるめられてるんだ。


「そうじゃなくて、何でこんな時間に学校にいるんですか」

「…………」

「真冬先輩?」

「忘れ物しちゃって」


 シラーと目を逸らしながら答える真冬先輩。何ともまあわかりやすい嘘である。ていうか忘れ物取りに来たならなんて荷物も何も持たずにウロウロしてたんだ。


「ていうか、何で君はこんな時間に学校にいるの?」

「噂になってる幽霊を見るために来てんですよ」

「こんな時間に校内に忍び込んだらダメだよ」


 どの口が言ってんだよ。


「ちゃんと先生から許可もらいましたよ」

「もらったの?」

「はい」

「へえ……」

「…………」

「…………」


 会話終了。そういえばこの人はこう言う感じだったな。

 ふと廊下からパタパタと走る音が聞こえ、涼夏がトイレ内に駆け込んできた。


「大丈夫っ?」


 どうやら急いで秋葉先輩のところに行ってきたらしく、少し息が切れている。俺がトイレから出ていなかったので心配してくれていたのだろうか。あるいは女子トイレに長居する俺を訝しんだのかのどちらかだな。前者であることを願う。


 急いで駆け込んできた涼夏は、トイレの中で見つめ合う俺と真冬先輩を見て固まる。そういえば涼夏は真冬先輩を見たことがなかったし俺と面識があることも知らなかったか。そりゃ夜の女子トイレで背の高い顔面つよつよ美少女とストーカーが睨み合ってたら困惑するか。誰がストーカーやねん。


「あー、一応大丈夫。警備員は呼ばなくて大丈夫だったかも」

「警備員呼んだの? それは困る」


 全く困ってなさそうな口調の真冬先輩。ていうか困るのかよ。絶対忘れ物じゃなかっただろ。


「知ってる人?」


 俺の後ろに立った涼夏が、小さな声で耳打ちしてきた。耳元で囁かれる涼夏の声に思わず昇天しそうになるが、何とか魂を現世に押し留める。死因が耳打ちで現場が女子トイレなのは勘弁。


「知ってるといえば知ってるけど、知らないといえば知らない」

「なによそれ」


 なによそれと言われても、俺もわからない。真冬先輩の独特なオーラのおかげで普通に会話できているが、よく考えれば俺と彼女は一回話したことがあるだけで全くといっていいほどに他人である。涼夏に説明できるほどの情報は持ち合わせていない。


「真冬先輩。前生徒会長に似てる幽霊疑惑のある先輩」

「……なるほど」


 絶対理解してなさそうな顔で頷く涼夏も美少女である。この表情の涼夏の1/1フィギュアが出たら販売した瞬間に買うこと間違いなしだろうな。


「そういえばこの前聞くの忘れてたんですけど、真冬先輩って前の生徒会長となんか関係あるんですか?」

「…………ない」


 沈黙の後に目を逸らしながら答えられても説得力がない。


「生徒会長の写真見せてもらったことあるんですけど、まんま真冬先輩でしたよ」

「……生き別れた姉妹」

「…………」

「…………そっくりさん」

「………………」

「…………ドッペルゲンガー」

「……………………」

「………………どれか選んで」

「本人っていう選択肢は」

「ない」


 これ本人だな。

 多分涼夏も俺たちの会話の流れから真冬先輩の正体を察したらしく、俺の後ろからおずおずと声をかけた。


「あの、先輩はここで何をしてるんですか?」

「女子が女子トイレにいるだけだけど」

「あ、はい」


 俺と同じ方法でやられてるわ。運命共同体だね(激キショ)。


「俺たち白い髪で真っ赤な目をした幽霊が校舎内をうろついてるっていう噂を聞いてやってきたんですけど」

「じゃあ私じゃないね」

「そのまんまの見た目ですよ」

「これ、カツラとカラコン」

「じゃ髪の毛思い切り引っ張ってみますんで、後ろ向いてもらっていいですか?」

「女子トイレで男子生徒が言っていいセリフじゃないぞそれは」

「じゃあ廊下で言いますんで一回廊下出ましょう」

「廊下でもダメよ」


 涼夏にも注意される。お前は一体どっちの味方なんだ。……多分人類の味方とかだろうな。


「とりあえず、もうすぐ生徒会長が来ると思うので、ちょっと待っててください」


 俺たちの質問を余裕の表情でのらりくらりとかわしていた真冬先輩だったが、涼夏のこの一言でぴたりと固まった。

 そして、無表情のまま涼夏を見る。しかし俺は見逃さなかった。その頬に流れる冷や汗を。


「秋葉?」

「そうですけど、知り合いですか?」

「いや、全然知らない。見たことも聞いたことも感知したこともない」


 絶対知っている。というか生徒会長って言っただけで秋葉先輩の名前が出る時点で知らないという言い訳は通用しないだろう。



「とりあえず私は幽霊でもないし秋葉も知らないから、もう帰る。じゃあね」


 そう言いながらそそくさと俺たちの横を通る真冬先輩。どうやら秋葉先輩と会いたくはないようだった。

 しかし、トイレから出ようとした真冬先輩は、入口でドンと誰かにぶつかった。


 そしてそれはもちろん、他でもない秋葉先輩だった。


 ぶつかった反動で尻餅をついてしまった秋葉先輩は、顔をあげその表情を驚きの色に染めた。


「──先輩?」




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