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突撃!隣の女子トイレ




 心なしか先ほどよりも暗くなった廊下を二人で歩く。

 涼夏の前で格好つけて自分で幽霊モドキの正体を探りに行くと言ったはいいものの、なぜか涼夏までもついてきてしまった。なんで涼夏はついてきたがったんだ? 


 やはり怖いのか、俺より少し後ろを歩く涼夏の腰は少しひけている。とても可愛らしいが、今の俺にそれを幸せな気持ちで眺めるだけの心の余裕はない。どんな状況においても涼夏をめでれるようになるためにまだまだ精進が必要である。


「……怖いんだったらやっぱり生徒会室で待っといた方がいいんじゃないか?」


 その手が少し震えていたのでそう言ってみたのだが、涼夏は頑として首を振った。


「ダメ、一人じゃ危ないじゃない」

「そりゃそうかもだけど……何も涼夏じゃなくても……ほら、秋葉先輩とか、全然こういうの怖がってないし」

「……別に、私も怖くないけど」

「いや、それは無理があるだろ。手も震えてるし」

「あなただって震えてるじゃない」

「これはあれだって、あのー、振動使ってソナーみたいにしてんの。十メートル先までばっちり確認できっからこれ」


 呆れた視線を送られる。緊張をほぐすために言ったのだが、あまり効果はなかったらしい。まあ、涼夏の緊張を解くというより、俺の緊張を解くためであったのだが。

 懐中電灯の光は床の上を滑って行く。


「今日の見回りだってそうだけど、何で私にそんな来てほしくないのよ」

「来てほしくないってわけじゃないけど……もしなんかあったら大変じゃん」

「それは秋葉先輩もじゃない」

「それはまあ」


 誰よりも涼夏に危険な目にはあってほしくない、その言葉はだいぶ照れ臭いので誤魔化しておいた。俺がイケメンならスッと言えたんだろうな。


 歩いていると、暗闇の中にぼうっと何かが見えてきた。懐中電灯で照らしてみると、それは女子トイレのマークだった。先程の人影が入っていったのは多分ここらへんだった気がする。

 俺は振り返り涼夏に言った。


「じゃあ、俺見てくるから、ここで待ってて」

「私も行く」

「ダメ」

「……なんで?」

「危ないから」

「だったら、一緒に来た意味ないじゃない」

「話し相手になってくれたからだいぶ緊張解れたよ」


 不服そうな涼夏。けど、こればかりはしょうがない。もしかしたら変質者かもしれないのだ。そんなところに涼夏を連れて行くわけにはいかない。

 決して俺が女子トイレに一人で入りたいとかそういうことではない。ないったらない。


 不意に、水が流れる音がトイレの中から聞こえてきた。

 いきなりのことに二人揃って固まってしまう。


「…………」

「…………」


 これはふざけている場合じゃない。


「やっぱり危ないわよ。警備員の人とか呼んだ方がいいんじゃない……」


 不安げな声の涼夏。その言葉にちょっと揺らいでしまう。このまま生徒会室帰って警備員来るまで待ってようかな。

 いや、しかしそれを待っていたら今トイレの中にいる不審者はさっさとどこかへ行ってしまうだろう。


「じゃあ、涼夏は警備員呼ぶように秋葉先輩に言ってきてくれ。俺はパッと確認だけする。やばそうだったら俺も逃げるわ」

「……けど」

「俺は大丈夫だから。さっさと問題解決して生徒会の評価もあげないとだしな」


 強がり半分鼓舞半分の言葉ではあるが、ある程度の効果はある。しかし秋葉先輩からすると、俺は啖呵を切って出ていったくせにすぐ帰ってきて警備員を呼んでくれと泣きつく情けない人間に見えるのだろうか。いやまあ、しょうがないか。けどちょっと恥ずかしい。

 ブルーな気分になっていると、不意に涼夏が俺の手をぎゅっと握りこちらを見つめる。


「無理はしないでね」


 そう言って彼女は生徒会室へと引き返して行った。

 一気にブルーな気持ちも吹っ飛んだ。今の俺には怖いものなんてない。多分。


 大きく息を吐いて、トイレの中に入る。少しひんやりとした空気の中に混じる、水道の音。誰かが手を洗っている音が聞こえる。

 意を決してトイレの中に入る。入って右を見なければ中を見ることはできない作りになっている。ホラー御用達の設計である。

 懐中電灯の光が右に移動し、トイレの中を照らす。



 ──蛇口から迸る水道水。やや背を屈めて手を洗う姿。驚いた表情と、口に咥えられたハンカチ。それらを彩るのは、懐中電灯の灯りで眩しいほどに光る純白の髪と真紅の瞳。






 そこには、間抜け面でこちらを見る真冬先輩がいた。



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