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ちょっとした我儘



 涼夏はまるで待ち合わせ中みたいな顔で、生徒会室の前に立っていた。何かの用事でもあったのだろうか。

 しかし一年生が生徒会室に用事なんてあるか? さすがにないだろ……ということは、もしかして俺か? 


 がっつり俺と目が合った涼夏は少し気まずそうな表情を浮かべて、「どこ行ってたのよ」と言った。


「ちょっと屋上に」

「なんで?」

「いやまあ……それより涼夏はなんでこんなとこに?」

「それは……」


 再び押し黙る涼夏。出来ることならばずっと涼夏と黙り合っていてもいいくらいだが、さすがに生徒会長をこれ以上待たせるわけにはいかない。


「じゃ、困り果ててる生徒会長様を助けてくるわ」


 軽く挨拶をして、生徒会室に入ろうとする──が、今度は涼夏に肩を掴まれ止められた。

 驚いて振り返ると、思ったよりも近くに涼夏の顔があって面食らってしまう。涼夏も同じだったようで、お互い少し離れた。


「ど、どうしたん?」

「……私も手伝うわ、生徒会」

「え?」


 涼夏は覚悟を決めたような表情でそう言った。

 手伝う? 生徒会を? 


「……なんでまた涼夏が?」

「う……」


 そう尋ねると、再び言葉に詰まる涼夏。しばらくの間目を泳がせていたが、すぐに口を開いた。


「あなた一人じゃちゃんとできるか心配だったからじゃ、ダメ?」

「全っ然だめじゃない」


 食い気味に答える。ダメどころかむしろありがたい。一人じゃ何をしていいかわからなかっただろうし、何よりも涼夏と一緒に働くことができるということが大きい。精神的な支え、大事。

 バリバリに働けるところを見せて格好いいとこみせてやるか! 

 俺の返答に、凉夏は少しだけ表情を緩めた。


「じゃ、行こうぜ」

「うん」


 生徒会室のドアを開ける。埃の匂いと紙の匂いがする部屋は静かで、もう何年も誰も入っていないような雰囲気を醸し出している。

 二つの長机が向かい合うように置いてあり、その奥に少しだけ豪華な机があった。生徒会長が座っているのが見えるので、まあ生徒会長の机だろう。


「お疲れ様です。今日からよろしくね」

「お疲れ様です。今日からよろしくお願いします」

「うん、手伝ってくれてありがとうね」


 深々とこちらに頭を下げた生徒会長は、俺の後ろにいた涼夏を見て首を傾げた。


「えっと、二宮さんは」

「ああ、なんか涼夏も手伝いたいらしくて」


 そう言うと、生徒会長は嬉しそうに目を輝かした。


「本当? ありがとう! 二宮さんがいたらすごく助かる」


 おや、俺の時と反応が違うぞ。もしかして俺っていらない子? 

 いやまあ、どうせ仕事するなら美少女としたいよな、俺もそう思う。


 俺の心を読んだのか、はたまた俺の悲しそうな表情で察したのか、生徒会長が慌てたように言葉を足す。


「あ、もちろん榎本くんもすごく助かる!」


 あからさまに取ってつけたような言葉ではあるが、まあ美人に褒められて悪い気はしない。我ながら単純な男である。


「まあなんでも任せてくださいよ! 大船に乗ったつもりで!」

「ここ座って大丈夫ですか?」

「うん、書類とお茶持ってくるから待っててね」


 めっちゃスルーされた。まあいいけど。

 固いパイプ椅子に座っているとすぐに山のような書類とコップが置かれる。あまりの紙束の大さにコップがとても小さく見えた。


「ごめんね、作業すごい溜まってて……」

「それは全然いいんですけど、この量一人でしてたんですか?」

「まあ……」


 死んだ目で遠くを見つめる生徒会長。どうやら権力や立場などが付き纏う役職というのも大変らしい。

 渡された紙一枚一枚にサインをすればいいらしく、どちらかといったら流れ作業だった。いつも思うんだけどサインだけの作業ってどういう内容なんだろうね? 


 暫く紙の上を鉛筆が走る音だけが生徒会室に響く。涼夏も集中しているようで、すらりと美しい指が紙を捲る洗練された動作を繰り返していた。


 そういえば、何よりも先に聞いておかなけらばならないことがあった。


「すみません、ちょっといいですか?」

「うん? どうしたの? 何かわからないとこあった?」

「はい、一つ聞きたくて」

「いいよ、何でも聞いて!」


 その言葉を聞いて安心した。俺は心置きなく、ずっと胸に抱いていた質問を投げかけた。


「生徒会長の名前ってなんでしたっけ?」




 涼夏に怒られた。

 生徒会長の名前は秋葉瑞希(あきは みずき)さんだった。名前を知られていなかった秋葉さんは、大層ショックを受けていた。


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