③
朝、目を覚ますとそこはベッドの上で。彼女の柔肌、温もりの余韻がまだ残っているみたいで思わずベッドを抱き締めてしまった。彼女の甘い香りがする。
「朝から何してるの？ 少し気持ち悪いよ」
そんな俺の姿を見つめる日本人形。
テーブルの上にちょこんと乗っていた。
「あ、いや。何でもないです。やっぱり昨日のは夢じゃなかったんですね……」
「夢なら良かった？」
「いや………ハハ…」
すでに喋る人形には、驚くことも無くなった。昼は人形。夜は人間。
しかもその人間は、連続殺人犯だし。
すでに設定が混線してる。
まぁ深く考えても仕方ないし、今は目の前のことに集中しよう！
軽く朝食を準備したら、この人形が「私も食べる！」と言うから、少し分けたら本当に食べた。
「その人形のカラダ、どうなってるの？」
「私に聞かれても分からないよ。ただ、ちゃんと消化されてるみたい。喉も乾くし、お腹も空くし」
「はぁ……そうなんですね」
今日は朝から講義があるため、この人形に留守番を任せて、俺は自転車で大学に向かった。
講義中、人形のことが気になったが下唇を噛み、ホワイトボードに集中した。
昼休み。学食で食べてると声をかけられた。
数少ない飲み友達の速川 蓮司だ。
「なぁ～海人～。ん、どうした？ 朝から元気ねぇじゃん」
「いや……少し寝不足でさ」
「バイト？」
「バイトじゃないんだけど」
「ふ～ん。まぁいいや。それより、今度の土曜忘れてないよな？ 女子大との合コン」
「あぁ、うん。久しぶりの合コン…」
「そうそう。やっとお前も童貞捨てれそうだな！ 良かったな、俺に感謝しろよ？ セッティング、めちゃ苦労したんだから」
悪い、蓮司。童貞様は昨日の夜、天国に旅立ったよ。
「今日、バイト？」
「いや、バイトは明日」
「じゃあ今日、お前んちで飲み会やらない？ 咲希もお前と遊びたがってたし」
咲希は、蓮司の一つ上の姉だ。俺達とは頭の出来が違い、有名大学で医大生をしている。
「あ、ごめん。今日はムリ」
「はぁ！？ 付き合い悪ぃな」
喋る日本人形がいる家に友達を上がらせられない。しかも丑の刻には、人間レイアに戻るオマケ付。
この秘密だけは、話せない。別に恩があるワケじゃないが、裏切るみたいでしたくはなかった。
ブーブー文句を言いながら、去っていく友達の背に手を合わせて謝罪した。
今日の講義がすべて終わり、俺は急いでアパートに帰った。
「ぁ……」
「お帰りなさい」
日本人形は、テレビの前に正座して韓国ドラマを見ていた。
「ただいま……。問題なかった？」
「ないよ～」
着替えた後、人形の前に買っておいたメロンパンを置いた。
「食べて良いの？」
「あぁ。今度さ、レイアさんの好きな食べ物とか聞かせてよ。タダで留守番させるの悪いから」
「………うん」
その後、人形は目を輝かせてメロンパンを食べていた。
