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第十七話

 少しずつ、ダリアン王子に近づいていく。


 土を踏む、シャリっという音で、ダリアン王子が私に気づいた。


 ダリアン王子は、心持ち笑顔になる。緊張しているのだろう、笑顔は固く、能面のように見えた。


「久しぶりだ。無事だったんだね」


 ダリアン王子の喉が鳴る音が聞こえる。よほど、切羽詰まっているのだろう。


「あなたに、牢に入れられて、感染させられて、もうすぐ死にそうだけどね」


 私は皮肉な色合いを込めて言う。


「あのときは、ああするしかなかったんだ。すまなかった。後悔している」


 ダリアン王子は、申し訳なさそうに、腰を曲げて謝罪する。意外な行動だった。まさか、謝ってもらえるとは、思わなかった。


「なら、感染源のブースト科の猿はどこ?ミンティア令嬢に、遺伝子操作させたわよね?」


 私は、強気の姿勢で言った。


「そうだ。私がミンティアに頼んだ。まだ生きている。君たちに渡そう。それに、サーラ令嬢が自分の国に帰られるよう、全て手配してきた」


 ダリアン王子は、あっさりと引き下がり、全ての要求を受け入れた。


 なに?どうしたの、急に。。死者が続出して、流石に罪悪感がでてきた?


「そ、それで、ダリアン王子は、その後、どうするの?」


「ミンティア令嬢に泣きつかれたよ。自首をして一緒に罪を償っていこうと。でなければ、死ぬと言われた。私にとっては、ミンティア令嬢がいなくなれば、私は生きてられない」


 ダリアン王子は、か細い声で話す。


 2人は固い絆で繋がっている。


 私がつけ入る隙間は、1ミリもない。


 現実を突きつけられる。私が黒魔術を使うことなど、できないのだ。


 黒魔術を使うとしたら、ミンティア令嬢だったのだ。しかし、ミンティア令嬢は、黒魔術など考えず、現実を受け入れて、罪を償っていくことを選んだ。強い人だ。


 私は悔しくなった。私の恋は、初めから蚊帳の外。試合にもならない。あまりにも、無惨な結果だった。


「きっと、それが一番良いことだわ。何か、私ができることはある?」


「いや。君には本当に悪いことをした。ミンティアに怒られたよ。今日は、せめて謝りたくで来た。本当に、申し訳なかった」


 ダリアン王子はそう言って、深々と頭を下げた。


 私にできることは、何もなかった。


 完敗だった。


「もういいですよ。早くワクチンを仕上げて、民に配らないといけません」


 森や太陽が、滲んで見える。声がうわずってしまうから、あまりにも惨めに感じられるから、早くここから去りたかった。


「ありがとう。サーラ令嬢の汚名は、撤回してまわるようにしておく。貴方こそが、正義のヒーローだ」


 ダリアン王子は、再度頭を下げると、チースト科猿の所在を教えてくれる。


 ここから近くの牧場だった。


 私たちは、急いで牧場にむかい、血清をとり、ワクチン開発に成功する。アニサスが私にまず打ってくれる。


 一応、実験者として、効果を見て配布するのは待った。翌日には解熱し、体が軽くなっていた。副反応もなさそうだった。


 すぐにワクチンを大量生産し、民に配り始めた。感染は、終息していく。


 ダリアン王子の約束通り、私とアニサス、リーキは、感染に負けずにワクチン開発へと戦った正義のヒーローとして謳われた。


 反対に、ダリアン王子とミンティア令嬢は、重度犯罪者として死刑の判決を受けた。


 広場での公開処刑であり、最も厳しい火あぶりの刑と聞き、私はどうにかしたく、もがき苦しんだ。


 黒魔術を使うべきか。


 他の方法があるのか。


 私は、何をするべきなのか。


 公開処刑は、明日に迫っていた。




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