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第十三話

 城までの道中、街には兵士が民に食糧を配ったり、死体を運んでいく姿があった。


 私たちは、兵士に気づかれないように、迂回をしながら、慎重に道を進んだ。


 おそらく、ダリアン王子は、秘密を知る私たちを必死になって探しているだろう。


 もしかしたら、私の国にも使徒は来ているのかもしれない。


 お父様やお母様が私の根も葉もない噂を聞いたら、どれほど悲しむだろうか。いや、きっと、両親は私のことを信じてくれるはずだ。


 走るたびに、熱で頭がくらくらとしていた。リーキの肩を借りながら、私はなんとか進んでいける。


 城の前まで行くと、アニサスは鞄から、小瓶を取り出した。


「これは、眠りに誘う液体です」


 そう言うと、左手で持った小瓶から一滴の滴を垂らし、すぐに右手で火をおこした。


 液体は火にあぶられ、蒸気となり、門番へと漂っていく。


 2人の門番は、匂いを嗅ぐと、その場に倒れ、いびきをかきだした。


「すごいわ。どうやって火をおこしたの?」


 間近で見ても、右手から突然、マジックのように火が出たようにしか見えなかった。


「これは、火おこしの砂を吹かせただけです。私の魔法は、だいたい、薬草で作るものばかりです」


 アニサスが説明している間も、私たちは眠ってしまった門番の脇を通り、先に進んだ。


「アニサスの魔法は、きっと白魔術ね。攻撃性より、癒しを感じるわ」


「ええ。黒魔術は自分に跳ね返ってきます。だから、サーラさんには使ってほしくない」


「そうよ。サーラさん、ダリアン王子などのために、道を誤らないで下さい」


 アニサスとリーキは、それぞれ私を説得する。


 わかっていた。頭では。


 でも、心は、ダリアン王子から離れない。恋ってなんなのだろう。ダリアン王子がいなくなることのほうが、怖くなるのだ。


 まるで、奈落の底へと落ちていくような、恐怖が湧いてくる。


 もしかしたら、これは、恋ではなく、執着なのかもしれない。


 執着の恋。粘着質で、何より恐ろしさを感じる。


 まるで、自分ではないようだ。でも、確かに恐怖を感じる。


 どうしようもない、恐怖を。だから、自分が救われたくて、ダリアン王子を救おうとしているのかもしれない。


 考えても考えても、答えが出ない。


 私は、もはやアニサスとリーキの手を借りて、やっと城の中を進むことができていた。


「なんだか、城の中は静かですね」


「そうね。人がいない」


 城を進む中、私も気づいていたことだった。人の気配がなかった。


「多分、感染者の対応で、出払っているのでは。もしかしたら、城が一番、警備が手薄なのかも」


 リーキは、考え巡らせながら言った。


「だとしたら、私たちにとって、ここが一番安全なのかも」


 アニサスは、ほくそ笑んで言う。


「ミンティア令嬢の部屋まで、あと少しよ!」


 私は二人の士気をあげるために、声高に口を開いた。


 二人は力強く頷き、足を早めた。


 ミンティア令嬢の部屋は、東棟にあった。


 部屋の前まで辿り着くと、私は唾を飲み込み、ドアをノックした。


「はい?」


 ミンティア令嬢にしては、低いトーンで返事が返ってくる。


 感染者がどんどん広がっていくことに、恐怖感を持っているはずだ。


 私は、ひとつ深呼吸をしてから、ドアをゆっくりと開いた。


 


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