第四記 邑人
ウウウウ。外にいた狼が数匹現れた。
どうする?この狼は軍用の訓練を受けている。我らと戦う気か?狼たちは俺の剣より早く、お前の喉元に噛み付くぞ。逃げ場もない。外はぐるりと狼たちが見張っている。
「・・・・・・・わかった」
日向は地下を見つけた。ここにもどこかに行けるのか?
狼たちにハトウシャを見張らせて、地下に行った。小さな戸を開けると・・・。
むうう!!
貯蔵庫だ。地下は自然の冷蔵庫のようだ。それも殆どが肉だ。動物の肉もあれば・・・これは?・・・
バラバラの赤子の肉だ。熟成させているようだ。
酒呑の鬼・・・・・・・・・。
暗澹な気持ちになり、地上に戻った。
お前はなぜ?赤子を食べるようになった。
「食い物が無いからだ」
嘘だな。
「・・・俺は生粋のヒッタイト。それを維持させるには、どうしたと思う?」
・・・・・・?。
「近親相姦だ」
古代、天皇族もそうだった。
「近親を繰り返すと精神と云うか?頭がおかしくなるようだ。人の道を外れる」
それを千年以上続けていたと云うのか。
お前は犯罪者として須佐が捕らえる。
「俺を殺さないのか?」
須佐が人間を殺す時は我らの規律を侵した時だ。
「邑人が許すはずがない」
説得してみる。
どのみち、お前はここには居られない。ここの荷物は須佐部落に留める。
「やめろ!お前まで殺されるかもだぞ!」
日向は邑に向かった。狼たちは引き上げるように指示した。
1人にすれば逃げるだろうか?それならそうすれば善い。が、どのみち生きてはいけないな。
「須佐殿、どうでした?」村人が多数集まっていた。
奴は犯罪者だ。それに奴は1人だ。ただの異人だ。鬼ではない。
だから私が連れて行く。
「連れて行く?って、どこへ?」
須佐部落の牢獄だ。
村人たちは目を見合わせた。
「ふざけるでねえ!殺してやるんだ!」「1人ならみんなでやってやる!」「この邑はおいらたちで守るんだ!」
待ちなさい!こんな戦国の世でも法と云うものがあるだろう。なら役人に出頭させる。殺人者だからと無闇に殺すな。
「みんな、武器を持て!」鍬や鋤、落武者の死体から奪った刀、槍を集めた。
や、やめろ!
「殺せ!」「おう!」総勢30人ほどの農民が集まった。そして窟に向かった。
流石にこの人数ではハトウシャはなぶり殺しに遭う。どうか逃げていてくれ。
途中でも日向は止めた。やめろ。しかし、誰も耳を貸さない。目が血走っている。
「居たぞ!!!」
ハトウシャは入り口付近で荷物をまとめていた。
「殺せーーーーーーー!!!!」
一斉に突進してきた。
ハトウシャ!なぜ?逃げなかった?
ハトウシャは殺されることがわかった。
「須佐!裏切ったなーーーー!」
違う!
ハトウシャは逃げた。
村人は「追え!!」と、どこまでも追いかけてきた。血を見なければ治らない。日向も追った。
ハア、ハア、ハア。
村人の数人が窟に残って中を見回した。地下壕も見た。
「なんて奴だ。赤子の肉を保存してやがる」怒りは頂点にのぼった。
「こんな場所は焼いてしまえ」
松明を起こし、火をつけた。瞬く間に窟内は火の海になった。
ハトウシャを追っていた邑人たちが、それを見た。「見ろ!あの煙を、窟に火をつけたぞ!」
わああああーーーっと歓声が上がった。
膨大なヒッタイトの資料が・・・なんてことだ!
日向は嘆いた。
それをハトウシャも見た。泣いていた。
なぜ?こんなことになった?なぜ、俺はこんなになった?
逃げて、逃げて海上の崖に出た。逃げ場はもう無い。
ハトウシャは剣を持ち上げた。それを村人たちは怯んだ。
「ヒッタイトの最期を見ろ!」
自らの首を切り、崖から岩に打たれながら落ちた。
ハトウシャーーーー!!!!日向は叫んだ。
そして皆は見た。死体が荒波にさらわれ、沖へと遠のいていったのを。
村人はボーゼンとそれを見ていた。
日向は膝から崩れ落ちた。