第弐記 鬼窟
日向は窟に向かった。
あれか・・・・。
うおーーーん
中から音が聞こえる。奴らか?日向は背から刀を出した。狼たちも何かを感じたらしい。唸っている。
窟の前に着くと日向は三匹だけ連れて中に入った。
変な匂いがする。何かを煮詰めているのか?いや、これは俺と同じことをしている。妙薬を作っているのか?
更に中へ入って行った。
「誰だ?」中から声がした。「貴様、誰だ?」大男がそう云って現れた。それは髭もじゃの異国人だ。
南蛮人か?日向は聞いた。
「その前にお前は誰だ?立派な刀を持ち、野生の狼など連れて。只者では無いな?」
日の本の人間はまず、名乗るのが筋だろう?と云った。
なぜ?ここに居る?なぜ?和語を話す?
「はて?お前は、確か山中に居たよそ者か?」
須佐日向と云う者だ。医者だ。
「医者?医者がその出立か?信じられんな」
貴様、乳児を攫い、喰っていると聞いている。なぜ?そのようなことをする。
「・・・・・・・貧しさからだ。喰うものが無い」
山中で狩が出来るだろう?
「俺は狩人では無い。やっても中々捕れないんだ」
山草や茸、山には食材がたくさんあるじゃ無いか。
「俺には足らん。肉が欲しくなる。赤子は容易く手に入る」
それが人喰いになった理由か?日向は怒りに震えた。
仲間はどうした?
「仲間など居ない。俺、1人だ」
嘘を吐くな。邑人は集団だと云っている。
「ああ、あれはこだまだ。この洞窟は叫べば、彼方此方に反響するらしい。それが無数の穴から漏れて数十人が居るように聞こえるのだろう。俺に戦意は無い。まあ、話をしよう。お前に興味がある。その刀を見せてくれるか?」
素晴らしい刀だ。異人はそう云った。
「これの原料はなんだ?鉄のようでそうではない」
ヒイイロカネと云う古代の金属だ。
「オリハルコンに似ている・・・が、こちらの方が上だ。生き物のように刃が波打っている」
○オリハルコン
古代ギリシア・ローマ世界の文献に記される金属。プラトンは『クリティアス』の中でアトランティスに存在した幻の金属だと記述している。
○ヒヒイロカネ
「竹内文書」に記述される謎の金属。金剛石より硬く、朽ちず錆びず、触ると冷たく、驚異的な熱伝導性を持つ。と述べている。基本的に古代ギリシャのオリハルコンとは明らかに違うものである。
!!!オリハルコンを知っているのか?何者なんだ?
俺のも見せよう。と奥に行き、刀を持ってきた。
古い南蛮の刀だ。少なくとも100年は経った鉄製のものだ。
お前は武人か?
「俺はヒッタイトの純粋な末裔だ」
ヒッタイト?!!
○ヒッタイト
隕鉄から世界で初めて鉄を精製した古代民族。鉄を武器にアナトリア平原で勢力を誇ったが、新しい民族によって滅ぼされた。
しかし国は滅んでも民族は生き残り、メソポタミア周辺に小さな国をつくり、後、現トルコになった。生き残りは世界にも分布し、亜細亜遊牧騎馬民族(現モンゴル)と交わったと云われる。大国中国に侵略する豪気さを備え、彼らは「匈奴」と呼ばれた。
中国は匈奴からの防御のため、万里の長城を造ったとされる。
匈奴は、縄文後期から弥生初期にかけて鉄を持ち、中国、朝鮮半島から海を越えて、日本にやって来たとされる。本州、蝦夷地(北海道)で勢力を拡大し、蝦夷=アイヌと名乗った。平安初期、平安王朝により、本州のほぼ全ての蝦夷は討伐され滅びた。