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第壱記 山中の人影

1520年、日向は和歌山の山奥を歩いていた。季節は初夏。気持ちの善い季節だ。仕事を終え、出雲の須佐部落に帰路の途中だ。

八雲立つ・・・と、須佐男さまは歌った。その風景を思い浮かんだ。この言葉が「出雲」の地名起源になったと云う。須佐一族は須佐男に由来する。


随分と歩いたようだ。ふと、気分が悪くなった。

「何だ?急に」あたりに芳しい香りが漂った。花か?しかし、フラフラとよろけて倒れ込んでしまった。立てない・・・。目もうつろだ。だめだ。気を失いそうだ。すると大きな人らしきが見えた。助かった。そう思ったがその人影は「何だ、大人か。よそ者だな」と云い、去って行った。「いや、殺すか」

何だと?!しかしそのまま気を失ってしまった。

傍から見たこともない大刀を出した。うーーーーーーーー!!狼だ。狼が数匹、木陰から現れた。

そして、日向を守るように囲んだ。


「何だ?なんで狼が?」その人影は逃げて行った。狼は日向を舐め、その周りで見守った。

しばらくすると日向は気がついた。

「狼たち、お前たちが見ててくれたのかい?ありがとう。もう大丈夫だ」

狼はくうーーーん、と一言鳴いて去って行った。

あれは何だったんだ?やつがれを殺そうとしたな。見たこともない刀を出した。ぼやっとだが見えた。

それになぜ?急に気分が悪くなった?


近くのむらに寄って休憩するか?少し療養が必要なのかも。

小さな邑に寄り、医者だと云うと喜ばれ歓迎された。病の方がいたら診ますよ。と云うと、います、います、と連れて行かれた。大体は夏風邪程度だったので飲み薬を渡した。

「先生、ありがとうございます。まあ、そこで一献」「辱い(かたじけない)」

日向は一献の席で、あることに気がついた。「わらしが居ませんね?」

おとこ集はぎくっとし、下を向いて隣と小声でボソボソと話し始め、女は泣き始めた。

「さらわれたんです」傍の女が叫んだ。「これ!」と漢が止めた。

落武者に?

「いえ、鬼です」

鬼?!!

「山に棲む鬼軍団です。赤ん坊をさらって喰らうんです」

まるで酒呑童子しゅてんどうじのようだ。


○酒呑童子

平安時代、大江山(京都府加佐郡大江町)鬼が城があった、頭領の名は酒呑童子。鬼である。茨木童子など多くの鬼を従えていた、室町時代の「御伽草子」、「酒呑童子絵巻」などに、此の鬼は、顔、薄赤く、髪、乱れし赤毛、背丈が6mを超え、角5本、目が15個あったと書かれている。しばしば京都に出現し、若い貴族の姫を誘拐し、仕えさせたり、刀で斬って生のまま喰った。


あまりの悪行のため帝の命により源頼光(よりみつ、別名らいこう)、渡辺綱つなを筆頭とする坂田金時など、頼光四天王の討伐隊が結成された。彼等は途中、不思議な僧たちに会い、「神便鬼毒酒」と云う酒を貰う。「貴方方の加勢を致す。鬼に此の酒を呑まし、油断した処を退治しなさい」と云われた。頼光らは、鬼が城に着くと、「仲間になりに来た」と嘘をつき、酒宴に招かれた。姫の血酒や肉(足)を食べ、あの酒を土産に酒呑童子に飲ませた。酔いつぶれた処を夜半、寝床を探したが、彼等が傍らに視たものは幾多の姫たちの屍だった。其の後、寝床を見つけ、寝首を掻き、退治した。しかし首を切った後も頼光の兜に噛み付いたと云う。


討ち取った首を京へ持ち帰ろうとしたが、老ノ坂で地蔵尊に「不浄なものを京に持ち込むな」と忠告され、其処に首を埋葬した。また童子は死に際に罪を悔い、首から上に病気を持つ人々を助ける事を望んだ為、大明神として祀られたとも云う。此れが老ノ坂峠にある「首塚大明神」だ。また山中に埋めたとも伝えられ、大江山にある「鬼岳稲荷山神社」が、其の由来となっている。


人肉を喰う鬼か


「先生は医者だべ。話して何になる」

いや、私は武芸の心得もあります。と云うと背から刀を出し、掌に手裏剣を見せた。

「ど、どっから出した?!先生、志能備しのびかえ?医者かえ?さもなくば妖怪?法術師?」

錬丹術師です。出雲の須佐一族の者です。

1人の年寄りが、あっ!と叫んだ。「爺さま、どうすた?」

「昔、噂に聞きました。神のような武人の集団が居ると。そこのお方か」「では、先生、お仲間を呼んでもらえますか?」

須佐は人世には手を出さないんです。

「え?でも先生は手を貸してくださるんで?」

私は武人ではないんです。異端な須佐です。苦しんでいる人世に医者として降りろと族長のめいを受け、全国を旅しています。そう云うのは私ただ1人。須佐では異例です。

「しかし、1人じゃあ、相手は集団ですよ」

頼りになる仲間が居ます。

「はあ?お仲間?須佐は駄目なんでしょ?」


日向はその鬼の棲む場所を聞き、今から成敗しに行くと皆に云った。

「先生!殺されるだ!」

日向は外に出て、指笛を吹いた。ぴいいいーーーーー!

すると週十匹の狼が現れた。

「う、うわあ!狼だ!!」

これが仲間です。

「え?ええ?!」

彼らは須佐が育てた軍用狼。さあ、行くぞ!


邑人たちはポカーンと見ていた。

先ほどの老人が述べた。

「皆、あの人は須佐の方。武人ではないと云いつつ遥かな人のようだ」


居場所は奥深い山中の窟らしい。

待てよ。そう云えば、先日の大きな人影は・・・奴等だったのか?

鬼?まさかな。

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