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異世界から転生  作者: 流石
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「お前が転校生か。調子に乗ってるらしいな」

 昼休みに自分の席でクリームパンをかじるタロゥの前に、やたら大きくて太ったチリチリパーマの男が立ちタロゥを見下ろしながら言った。

「辰村、こんなショボいやつお前がしめとけや」

 デブパーマはイラだたしげに、後ろに隠れるように控えている仲間に声をかけた。初日にタロゥに足を潰された同じクラスの不良である。あれからタロゥの事を意識しているようだったが、何もしてこなかった。本能で危険を察知したのかもしれない。

「それで、自分より強い仲間を呼んだわけか」

「あ?お前立てコラ。そのムカつく顔ボコにしてやんよ」

 眉を寄せて睨みつけながら凄んでくる。口が臭い。引きこもりニートだったタロゥだが、この状況には全く恐怖も緊張も感じていなかった。ゲームの世界と達観しているわけではない。ただ目の前の男から一切魔力を感じなかった為である。

 (前世の奴らは、皆俺の何十倍も魔力があったからなぁ。魔力は威力で迫力だ。高魔力のオーラは怖くてちびっちまうけど、こんな全くオーラない奴には何も感じないな。なんで他の生徒はこいつにビビってるんだ?その辺の虫でもこいつより魔力持ってるだろうに)

 タロゥの知る常識で言うと、魔力の低い奴はゴミ以下の扱いを受ける。前世のタロゥのように。目の前の男は、魔力量で言うと前世のタロゥ以下だ。これでは簡単なライトすら点けられまい。

「カッコつけてられんのも今のう……」

 バシッ

 タロゥの髪の毛を掴もうと伸ばした腕を払い落とした。既に身体強化は発動している。

「この、なまいきな」

 殴ろうとしてきた拳を掴み、握りつぶしながら立ち上がる。

 グシャ

 青い果実が破裂するみたいな音を出して、デブパーマの拳が潰れた。

「ぶあああ、手が、手が」

 叫ぶ顔面にパンチを叩き込み黙らせる。鼻が陥没し前歯が折れる。反対の腕で腹にも1発お見舞いする。衝撃が脂肪を突き抜けて内臓に届くのがはっきりとわかった。白目を剥いてデブパーマが前へ倒れ込んでくる。胸ぐらを掴んで支え、そのまま引き摺って教室を出た。廊下の窓から校舎の裏庭へ投げ捨てる。3階からなので下に風魔法でクッションを作り、死なないようにゆっくり下ろす。

「さて、次はお前か」

 辰村の方を振り返ると、口を開けたまま呆けたように立ち尽くしていた。とりあえず近付いて強化した掌でビンタする。良い音がして、辰村の頬が真っ赤に腫れ上がった。爽快だったので、何発か繰り返すと、辰村も気絶して倒れた。さっきと同様に引き摺って裏庭へ捨てる。デブパーマの手下らしき不良も何人か着いてきていたので、皆気絶させて裏庭へ積み上げた。逃げようとする奴も加速して追いかけて全員顔を腫れ上がらせるかどこかしらの骨を追って気絶させてから投げるようにした。最初はざわついていた周りもだんだんと静まり、しばらくタロゥが不良を潰す音だけが教室に響いていた。時折女生徒の悲鳴や息を呑む音も聞こえた気がしたが、不良潰しに夢中のタロゥは気付かなかった。ゲームでも雑魚敵に無双するのが好きだったので、リアルに手応えを感じながら倒していくのは一層心地良かった。


 それから数日、学校の悪い先輩や力自慢が来てはタロゥに窓から捨てられる日々が続いた。帰り道に待ち伏せされて複数人からバットや鉄パイプで襲われることもあったが、そんな時は死ぬ手前まで痛めつけてから真っ裸にして路地裏へ捨て置いた。そのうち誰も来なくなった。同級生も誰も話しかけてこなかったが、元々が引きこもりのタロゥにとっては苦痛ではなくむしろ楽なくらいで、のんびり日本の学校生活を楽しんだ。

「アルバイト?あのミニゲームか。やってみたいな」

 とあるハンバーガーチェーンの店前に貼られていた求人を見て、タロゥは思い出していた。『テラ・マンマ』に出てきたアルバイトというミニゲーム。バイトリーダーが出す無茶な指示通りにバーガーを作り、ハッピーポイントを貯めると武器や防具と交換できた。NPCの女子店員と仲良くなれる特典もあった。当日新商品だったムラサメソードを買うために、散々ハンバーガーを作ってポテトを揚げたものだ。

「佐藤太郎です。よろしくお願いします」

 店の制服に身を包み、タロゥは意気揚々と挨拶した。その日のアルバイトはタロゥの他に4人。男は2人で、背が高くてお人好しそうな顔の男と、もう1人は猫背で目つきの悪いニキビ面。ゲームではバイトリーダーは陰険な男だったが、この日本では女性だった。背は低いが気は強いらしく、先程タロゥをロッカーに案内して制服を合わせている間もあれこれと細かい注意を出していた。この3人はフリーターという学生でもないが固定職でもないという謎の立場らしい。あと1人は高校生で、ふっくらした体つきとほんわかした喋り方が特徴的なツインテールの女の子だ。存在感のある胸の膨らみに、目のやり場に困る。タロゥは実際は14歳だが高校生ということにして学生証も魔法で偽装してあるので、ツインテールとは同学年という設定になっている。

「よろしくー、同い年だねー。アキホだよー」

 握手するのに動いただけで、制服のボタンがはち切れそうになっている。色白の手をそっと握りながら、手に汗をかいていないかタロゥはドキドキした。バイトリーダーはミヅキさん。お人好しノッポは高見さん。猫背は稲原さんという名前だった。

「照り焼きバーグはここから取って、レタスとマヨ。フライフィッシュはこれね。タルタルとレタス。チーズはここ。今は鬼嫁バーガーやってるから、このイベントラックの上からポンポンポンっと取って最後に鬼嫁の焼き印押してね。般若がしっかりうつるように、ぐりぐりっと」

 仕事はミヅキさんが教えてくれた。細かい品目や配置は異なるが、基本的な所は『テラ・マンマ』のミニゲームにあったハンバーガー屋と一緒だ。これなら、できる。右手と左手に別々の仕事をさせながら最後に合体!仕上げをしたら、はい完成。実際にやってみると思ったよりも応用が効く。5秒で10種類完成させろとかいう無茶ぶりに耐えていたことから思うと、現実の方が優しく思える。焼きや温めの時間もあるので、余裕すらある。

「照り1ダルチ2鬼嫁3」

「はーい」

 初日ということで最初の頃こそミヅキさんが横についていたが、タロゥか注文を難なく捌く姿に数回頷いて離れていってしまった。レジ応援に回っている。

「ま、いいけどね」

 横でじっと見られている方が息苦しいので、今の方が気楽だ。注文が立て込んできても、こっそりスピード魔法を使って動きを加速すればなんら問題はない。バイト初日のタロゥが完璧にこなしていることに驚いてフリーター男2人がちらちら目線を寄越してくるが、気にするほどでもない。

「君すごいね。経験者?」

 ノッポの高見さんがニコニコしながら聞いてくる。自己紹介の時に、初めてのバイトって言わなかったっけな俺。

「いえ、初めてです」

「えー。初めての人の動きじゃないよ。僕より対応早いもん」

 嫌味でもなく心底驚いているらしい。

「いや、前にゲームでやったことあって……」

「ゲーム?バーガー作りの?そんなのあるんだ。いやぁ、できる人が入ってくれて助かるなぁ」

「チッ」

 稲原さんは手袋を交換しながら2人の話を聞いて、舌打ちしていた。気に入らないらしいが、タロゥが気にすることでもない。

「柚子胡椒、ナンデスカー」

 レジから片言の日本語が聞こえた。どうやら外国人のお客様が来ているらしい。

「え、えっと、ジャパニーズオレンジ?ライム?の皮?胡椒はペッパーだっけ?あれ?でも柚子胡椒って胡椒じゃないよね?」

 アキホが完全にテンパっている。見ると注文しているのは外国人の夫婦だ。

「柚子胡椒は唐辛子と柚子の皮を塩と混ぜて熟成させたものです」

 ミヅキさんがヘルプに入ったが、思いっきり日本語のみである。日本語ガイドブック片手に話す外国人夫婦には当然通じない。キョトンとして夫婦で顔を見合わせている。他に客もなく手の空いたタロゥがそっとレジへ近寄る。小声で言語翻訳の魔法を詠唱する。

「May I help you?」

 魔法の力でタロゥの口から発する言葉は英語に変わって相手に伝わり、外国人客の言葉は日本語になってタロゥに届く。亜人や異種族の多い前世では必須だった魔法だ。魔力もほとんど消費しない。

 そうしてタロゥと夫婦の会話は笑いを交えながらスムーズに進んだ。

「辛いのが苦手な人には無理かも知れません」

「私たちはどっちも辛いのは得意じゃないんだ。どうする?」

「あなたに任せるわ」

「どっちが良いかなぁ。とっても気になるけど、辛くて後のナゲットをソースなしで食べるのは悲しいから、いつもの甘味ソースにしとくよ」

「オッケー。バベソースですね」

 答えながらタロゥは定番のバベソースの横に、柚子胡椒ソースも載せて夫婦へ差し出した。

「これは?」

「サービスです。日本限定なので、話のネタにどうぞ」

 そう言って片目をつぶる。前世ではウィンクなんてしたことなかったので、うまくできたかはわからない。

「サンキュー!この店に入ってよかったよ!」

 夫婦のどちらもがウィンクを返してくれる。サマになっていて少し悔しい。調理場に戻ろうと振り向くと、ミヅキとアキホが並んで待ち構えていた。

「すごーい!佐藤くん英語喋れるの!?」

「ありがとう。助かったよ」

 目を輝かせて飛び跳ねるアキホと、少し頬を赤らめながら礼の言葉を述べてくるミヅキ。魔法のおかげなので何もすごいことはないのだが、この世界ではそう言うわけにもいかない。

「いや、少しだけね」

 適当に誤魔化しておいた。

 先程の外国人夫婦は、帰り際にレジへ寄り調理場のタロゥに聞こえるよう

「アリガトウゴザイマシタ」

 と声を揃えて言った。

「柚子胡椒、どうでしたか」

 また翻訳魔法を使いながら尋ねると、

「まだ舌がピリピリするよ!でも病みつきになる辛さだね!友人へのお土産に買って帰りたい!」

 笑いながらそう答えてくれた。そして笑顔で手を振りながら店を出ていった。タロゥも笑顔で手を振りかえした。前世では考えられなかった行動に自分でも驚いたが、悪い気はしなかった。

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