アリス問題
“If they have no thread,then them take the cake!”
(もし筋道がなければ、ばかばかしさは並外れている!)
不思議の国のアリスにはイかれ帽子屋(The Hatter)というキャラクターがおり、彼は何でもない日も祝うお茶会にてこんな「なぞなぞ」を出した。
“Why is a raven like a writing desk?”
(カラスと書き物机が似ているのはなぜか)
普通に考えてみれば、鴉と机が似ていると思うはずがない。もちろんそれは、作者であるルイス・キャロルも同じ考えであった。話を作る中で適当に出した「なぞなぞ」なのだ。
しかしこの「なぞなぞ」は意外にも多くの反響を呼んだ。そこで彼は悩んだ末に、こんな「答え」を出した。
“Because it can produce a few notes, though they are very flat; and it is nevar put with the wrong end in front!”
(なぜならどちらも非常に単調/平板ながらに鳴き声/書き付けを生み出す。それに決して前後を取り違えたりしない!)
※ここでの“nevar”の綴りが間違っているのはキャロルの遊び心で、raven (カラス)という綴りの前後を逆にすることで“nevar”となる、というものだ。
今回はダブルミーニングを用いた面白い答えだが、実はキャロルは作品中にも“lesson”と“lessen”といった駄洒落のような言葉遊びをしているのだ。
話が少し脱線したので元に戻そう。
さてどうだろう。こじつけのようではあるが、中々頷ける答えが、作者本人から出たのではないだろうか。
だがこの話はここでは終わらない。先述した通り、この「なぞなぞ」は意外にも多くの反響を呼んだのだ。さまざまな人間がこの「なぞなぞ」の虜になったのだ。そして、さまざまな答えが出されたのだ。
例を一つ紹介するならば、
“Because Poe wrote on both”
(なぜなら、どちらもそれに就いて/着いてポーが書いたから。)
※エドガー・アラン・ポーの小説に『大鴉』というものがある。
これは私の好きな答えなのだが、どうだろう。ちなみにこの答えを出したのはサム・ロイドというパズル作家だ。これには『一本取られた』という気持ちになった記憶がある。実際、この他にも世界中で沢山の答えが今までに出揃っている。
さあ、ここからが本題である。
果たして、これだけ多くの答えがある中で、我々は新しい答えを導き出せるのか。
これが今回の話である。かなり無謀ではあるだろう。しかしよく考えてみれば作者の答えもかなりのこじつけになり得る。ならば風が吹けば桶屋が儲かる的な考えを巡らせれば、我々でも案外できるのではなかろうか。
私には一つ思いついたものがある。その答えには自信はないが、それはこう言ったものだ。
どちらにも「あし(足/脚)」と「はし(端/嘴)」がある。
確かにその通りではある。その通りではあるのだがしかし、これには日本語でなければ伝わらないという大きな欠点が生じてしまっている。
「あし(足/脚)」に関してはどちらも”leg”なのだが、「はし(端/嘴)」では『端』は“the end”、『嘴』は“bill”になる。
いや待て、これではどうなる?
“Because it have legs and the end.”
(なぜなら足/脚があり、生物としての終わり/端がある。)
これではカラスと書き物机に限った話では無くなってしまう。例えば、猿と椅子だとかだろうか。(まあ、これに関しては『腰掛けるもの』という共通点があるが)
より良い「答え」にするためには何が必要か。「なぞなぞ」に於いては視点を変える事が必要とされる。ならば一度別の視点に立ってみよう。
先程挫折した『嘴』を使ってみればどうなるか。嘴とは何か、口だ。ここではカラスの口であり、書き物机との共通点を持つ口なのだ。このような言い方では、柔軟な考えではないように思えるが、一つずつ可能性を見つけては潰す作業と根気強さも必要ではなかろうか。
そういえば
「どちらも“bill”(嘴、勘定書)と“tale”(尻尾、物語)をその特性として含んでいる」
というものも見かけた気がするし、
「どちらも“leg”(足、支柱)に支えられており、““shut up”(黙らせる、閉め切らせる)させるためのものである」
というものも見かけた気がする。おや?嘴…?それに、上のを応用すればなんとか新しい答えは出せるのでは?
ここから導き出した「答え」がこれである。
“Because it used to open the mouth and glossy.”
(なぜならどちらも普通嘴を開く/口を開いて使われるもので、艶やかだからだ。)
※ is を省略
今までのものを踏襲した感じの答えだ。カラスも普通(used to)嘴を開くものではあるし、書き物机も、机となる板を出すための口を開いて使われる(used)ものである。
また、新たに発見したこととして“raven”には形容詞として「艶やかな黒」の意味を持ち、木製の物書き机も艶やかであるから、理には適っている。
ということで、私の中での「答え」は
“Because it used to open the mouth and glossy.”
(なぜならどちらも普通嘴を開く/口を開いて使われるもので、艶やかだからだ。)
に決まった。皆はまた別の「答え」が見つかっただろうか。結局何が言いたいという訳ではない。しかし、絶対に言えることは、
この「なぞなぞ」についての研究はきっといつまでも終わることはない。
つまりはそういうことである。
……のだろうか?
こんな考察を読むというのはいわば「時間殺し」である。