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After Surf ...  作者:
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 大仏様は仏委員会のメンバーと一緒にホールには攻め込まず、夏男の前にいて、夏男の目を見つめ続けていた。そして果てのないような・・・まるで澄んだ夏の日の海のような優しい笑顔を表情に浮べ、夏男に語りはじめた。


「夏男、ああ夏男、あああ夏男、お前は、本当によくやってくれた。お前のつっぱりは、なかなかのものだった。それでこそ、私が見込んだ金髪坊主。お前は心が優しすぎるがゆえに、傷つきやすく、その傷を隠すための暴力を振るい続けていた。人間の頃のお前のつっぱりは、自分の弱さを隠すためだけに存在していた。でも、お前のそのつっぱりは・・・・自分のためではなく大切な誰かのためにつっぱりきれた時、本当の強さを持つ。今なら感じるか?お前が隠し続けた弱さの影に隠れていた本当のお前の強さを。自分のためじゃない、自分が守るべき誰かのために、絶望的な状況にガンを飛ばすことは、なかなか粋なことだ。自分の出世欲のために鶏を殺し続ける悪魔に立ち向かうなんて勇気ある奴じゃないとできない。誰かを守るために自分の命を捨てる覚悟で前に進んでいくことは・・・なかなかできることじゃない。本物の優しさを持つ者のみが持ちうる覚悟だ。どんなことに対しても覚悟を決められない愚痴ばかり言う坊主達がこの世には腐るほどいる。逃げるばかりでは悟りなんて開けやしない。金髪坊主の覚悟は本当に尊いものだった。私は何度お前の覚悟に手を合わせたことだろう。人面犬に変わり果てたお前に全てを託すために何度祈ったことか・・・・・。


 かなり危険な冒険をさせて悪かったな。あまりに悪魔の勢力が強くなり過ぎて、我々もきっかけを待ち望んでいた。善と悪の勢力図を書きなおす必要に迫られていた。それにはあの若い悪魔エリートを罠にはめ、鎌倉最強の・・・いや当時は最凶で最狂の坊主だったが・・・・お前を悪魔の元へと送り込み、悪魔の本陣に攻め入る機会を探っていた。あの悪魔のいっくんはずる賢く、優しさを装って生命の尊厳を踏みにじることで有名だった。あいつが私に語った野良犬が保健所で殺された話しも嘘だ。お前の体になっているその柴犬は、小田原の山中で悪魔に遭遇し、自分の志望校合格のために鶏を殺そうとする醜い邪心を知り、正義感から噛みついた。そして、あいつに殺されたんだ。あいつはずる賢すぎる故に仏委員会でも手が負えなかった。が、しかし、私はあのずる賢さを逆に利用できると考えた。そこで、夏男を悪魔退治の勇者として選抜した。悪魔のように扱われてきた天使をな。。。仏はちゃんとわかっている。本当の勇者は誰なのか、本当の優しさを持つものは誰なのか。夏男、お前は仏が住む鎌倉においては我々が最も頼りにする金剛力士みたいなもんだ。お前のつっぱりが、我々の前に閉ざされていた道を開いてくれた。あの悪魔エリートの卵が油断する一瞬の隙をずっと狙っていた。そして、あいつが油断することで、この警備が厳重な悪魔晩餐会へのルートが開かれた。悪魔界の誰もが全国模試トップクラスだったいっくんのところで警備が崩れるとは思わなかっただろう」


夏男は大仏様の語った内容を聞いて体中の力が抜け落ちた。腰が抜けた。夏男の口は唖然として開いたまま動かない。


 悪魔晩餐会が催されていたホールでは奇襲を受けた悪魔達が仏委員会によってあっけなく退治されていく。肖像画は焼き払われていった。現悪魔の王は、悪魔晩餐会に出席していなかった。それでも仏委員会は、悪魔の王を退治するくらいの気構えを持って、この悪魔の本陣に突っ込んでいた。夏男は善と悪の対立が奏でる音を鼓膜で聞き分けながら聞いていた。そして闘いを厨房の開いた扉から力なく眺めていた。夏男は何を思っていいのかわからなかった。悪魔が死んでいく様を見て、これからは素直に生きていけるような気がした。あまりのことに夏男は腰が抜けたまま。果てしない脱力感を感じる。


「夏男、お前の人面犬姿もなかなか凛々しかったぞ。人面犬を経た今のお前には鋭い睨みの中に温かい優しさが映る。つっぱるということの本当の意味を知ったお前さんは何かを悟ったのではないか?」と大仏様が訊くと、夏男は大声で、むかつきながら本気で叫んだ。


「ああああああああああ、もう訳わかんねー。本当に、訳がわかんねー。何が一体どうなって、俺は一体・・・・どうなっちゃってた訳。ちきしょー。なんだか、俺一人だけ皆に騙されてた」


 仏様達から仕掛けられたドッキリみたいな展開に夏男は、どうしていいのかわからず、感じている脱力感を素直に大声で表現した。そして一通り訳のわからない気持ちを発散した後、夏男は大仏様の目を真っ直ぐに見つめて、「まー、知らないところでよく訳わかんないことに巻き込まれちゃったけど、大仏様・・・・・俺は今、もの凄く気持ちがいいよ」と笑顔で語った。

 大仏様は満面の笑みで、「ははははははは、そうか、そうか。夏男も大きくなっていく。夏の男は夏に苦しんだ分だけ、でかくなりおるわ」と気持ち良さそうに言った。


 夏男はボロボロになったアロハを誇らしげに大仏様に見せた。宝物を誰かに自慢する子供のような笑顔が夏男の表情に浮ぶ。


「夏の男の強さは、アロハが証明してるだろ?」


 大仏様は、夏男が着ているアロハシャツを国宝のようにして崇め奉った。


「ああ、男はそうでなくてはいけない。ボロボロになればなるほど、美しいアロハシャツだな。お前さんが流した汗と血、そして涙を吸い込み続けたそのアロハシャツをいつまでも誇るがいいさ。さてと、悪魔はお前に嘘の約束をした。が、大仏は誠意と感謝の気持ちを持ってお前を人間の姿に戻したい。あの輝かしい金髪坊主の花成夏男へと戻ってくれるな?」と大仏様が言うと、夏男は全てを悟りきったように素直に、静かに肯いた。


大仏様は夏男の前で座禅を組んだ。そしてその太ももの上に人面犬の夏男をのせた。大仏様は夏男の頭を大きな掌で「いい子、いい子」と撫で撫でをした。

 大きくて柔らかい掌が夏男の頭を包み込む。大仏様の包容力に夏男の疲れ果てた体と心は包みこまれた。絶対的な思いやりの極限というものを夏男は全身で感じた。そして、包み込まれた優しさの中で、夏男は生暖かい暗闇へと落ちていく。何度も闇を見た・・・でも、最後に見た闇は柔らかかった。

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