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もこもこコラム

ミニスカートコンプレックス

作者: hanohi

今世界で活躍している同世代の女性が、素足を出してショートパンツを履いてブランド店を闊歩する姿をインスタグラムで見かけて、私もミニスカートを履いていいんだ、むしろ履きたいと思った。今はまだ春先で寒くて、自分は30代でむちむちの足だけれども。


中学、高校生時代、ほぼ制服とパジャマで過ごしていたせいで、外に来て行ける服なんて1着もないって思ってた。休日に友達とカラオケに行こうなんて決まった時は焦ったものだ。服は親に買ってもらえたけど、そんなの稀だったから、緊張して決めた1着ははっきり言って合わせる服が無くて、合わせるスキルもなくて、結局箪笥の肥やしか、ダサいファッションの構成員にしかならなかった。わたしのお小遣いで服が買える店なんて、せいぜいハニーズやしまむらくらいで、それも友達と被らないかヒヤヒヤしてた。そもそも衣料品店に着て行ける服がなくて恥ずかしいって思ってたけど。

そうやって少しずつ集めた服たちで、なんとか外出時に着て行けるコーディネートは出来上がっていったけど、友達と出かける機会は増えなかった。だから、そういう服を着る時はもっぱら、家族の買い物について行く時か、自分の部屋で行う一人ファッションショーだけ。誰に見せるでもなく。


ある時、漫画のパンク少女の格好に目を奪われた。ミニスカートに、ガーターベルト、ニーハイソックス。とても素敵に感じて、仲のいい友人にまで、漫画のパンク少女みたいになりたいと宣言した。そしたら友達は、絶対似合うよ、この子みたいになって、と言ってくれた。

近くの衣料品店に行ってみると、青と赤の色違いでミニスカートが売っていた。赤も青もどちらも良く見えて、でも限られた予算で、両方買うことはできない。どうしても決められなくて、なぜかその場で例の友人に電話して相談した。すると、そのパンク少女だったら、どっちの色にするかなんて悩まないと思う、なんてとんでもなくまともな言葉をかけてくれて、なんとか赤色の方に決めることができた。

そして、赤いミニスカートと、その友人が誕生日に買ってくれた黒のガーターベルトとストッキングを履いて鏡の前に立つと、そこには、目を輝かせる自分がいた。はっきり言って、外に出て行くにはいやらしすぎる格好だと思った。太ももの露出度が高すぎるし、ガーターストッキングも短すぎて、ベルトにぎりぎりしか届かないから、普通に歩くだけでどちらかが千切れてしまうだろう。でもすごく満足した。着たい服を着れて。それだけで、パンク少女の生き方に、一歩近づけた気がした。


後日、デニムのミニスカートを購入した。丈ももっと長めにして、地に足がついた、現実的な選択としてそれを選んだ。いつも選ぶスカートよりかなり短かったけど、着心地も良くて、お気に入りの1着となった。それを初めて履いて妹と出かけた時、女三人組の不良に絡まれた。たぶんカツアゲしようとしたんだろう。話しかけられた時は普通にしていたが、周りに人気もなくヤバいと察知した瞬間に、妹の手を引っ張って逃げた。今までこんなことなかったのにどうして、と考えた時、もしかしたらミニスカートのせいかもと思い至った。分不相応な丈が不良女たちの癪に触ったか、ミニスカートに自信のない私が弱々しく見えたのかもしれない。

それからミニスカートを履くのをやめてしまった。スカートすら履かなくなった。怖かったのかもしれない。ファッションによって、人から見られる自分が変わってしまうことが。ミニスカートを履かなくなって不良に絡まれることもそれ以降なかったし、親が、短すぎるスカートを履いて出かけるのを心配することもなくなった。気に入っていた服を着こなせなかったというくやしさを胸にしまったまま、私がなりたかったパンク少女から、自ら離れて行ってしまった。


そして今、ミニスカートを履きたいと思ってクローゼットを覗いても、そこにあのミニスカートは無い。随分前に処分してしまって、あるのは30代の女性が履いていそうな丈の長くて体型のカバーに必死なスカートばかり。あれから10年以上経ってやっと怖いものがなくなり、素の自分の本心で、ミニスカートを履きたいと思うまでに心が回復したということか。


Amazonでミニスカートを探して購入することにした。昔と違って財力も服を見る目もあるから、自分のサイズや似合う色はわかる。足の長さに合ったスカート丈も。と思うのに、なかなか購入ボタンが押せず半日が経った。一つのスカートの青と赤で悩んでいた少女より、退化している気がした。それとも、時代の進化で選択肢が増えたことで決められないのか。欲しいもの上から下まで全部買えばいいじゃん、と頭の中の小悪魔が言ったり、ミニじゃなくて良いではないですか、ほらこの合皮のレザータイトミモレ丈スカートも大人っぽくて素敵ですよ、なんて天使が微笑んできたり、こんな短いスカートを買ってどうするつもりなの、ほらあと10センチ長い丈にしたら?と提案してくる、頭の中の母の声を無視するのに忙しかった。

でもポチった時にカートに入っていたのは、頭の中の声に悩まされる前に一番初めに選んだ、裾丈40センチの黒いタイトスカートだった。


届いたものを身につけてみた。黒色のミニタイトスカートって超エロくて可愛い。何にでも合うし。スカートを買って鏡の前に立ってみるというという、パンク少女の真似をしていた自分と同じ場所からのスタート。一時は後退したけれどまた数十年後に同じスタートラインに立ててうれしい。

鏡に映る自分を見る満足感は、あの頃と変わらない。そりゃ、足は太くなったし、おなかもぽっこりしちゃったけど、身に付けたいものを身につけられた時に訪れる感動は、ファッションで得られる幸せの瞬間の一つであることには間違いない。

夫に見せてみたら、なんだか嬉しそうだった。Amazonでミニスカート買ったと伝えておいたら、家に届いた時、私より早く梱包を解いて私に持ってきたり。いつもわたしのお尻が大きすぎるとか、年々太っていくとかからかってくるくせに、いつそれ着て出かける?なんて嬉しそうに聞いてきた。黒いタイツと合わせたいから、春先前までにはこれを着て外出したい。そして改めてクローゼットを見直した時、買ったけど持ち服に合わない、でも可愛くて手放せないブラウスがちらりと目に入った。黒ミニと合わせてみたら、ギャルっぽくて可愛いかった。夫にもいいねをつけてもらえた。そうか、黒ミニちゃんを待ってたのね、あなたは。と、ブラウスに話しかけた。


あの頃の私も、今のわたしも、

パンク少女になりたいわけではない。人の目を気にせずにファッションを思い切り楽しみたい。ただそれだけ。誰にどう見られるからこれは着れないという、自分でかけている呪いを打ち破りたい。

ガーターベルトとストッキングは、友人にもらった誕生日プレゼントだったのに、一度も身につけたところを見せられなかった。恥ずかしかったのだ。

ガーターベルトとミニスカートを身につけた写真を撮ってメールで送りたい。

このプレゼント、すっごい嬉しかったんだよー。でも恥ずかしくてあんまり見せなかったから今更見せるね、なんて変なメッセージと共に。

赤いスカートは手放したけれど、ガーターベルトとストッキングは、ずっと手放せなかった。財力がついても他のものを買えなかった。ただ、何度も鏡の前で履いてはうっとりしてた。

きっと友人はびっくりするだろう、なんで急に熟女の脚見せてくるんだ、とか、何十年も前にあげたストッキング未だに持っててキモいとか、何で普段連絡取り合わないのにこんなのだけ送ってくるんだ?とか。でもいいんだ、私は、ミニスカートを履いて外へ出たいんじゃなくて、世界で只一人、私の欲望を打ち明けることができて、それを肯定してくれた友人に、あのときはありがとうを伝えたかっただけなんだと気づいたから。





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