イージーモードな新居確保
大きな木の近くに小さめの結界を出し中に入ると、倉庫からゲームアイテムである普通サイズベッドを出して、洗浄する。
(いい匂いさせた方がゆっくりできるかな?シトラス系の匂いイメージで洗浄!・・・できたか?・・・はぁ、さわやかな良い匂い・・・これいい。今度からじゃんじゃん使おう。ん?洗濯これで良くない?もみ洗いするより生地も傷みにくいだろうし。手抜き最高。)
ベッドに顔を近付け再度嗅ぐと、やはり爽やかないい匂いがした。汗をかいていたら嫌なので、一応自分と妹にもう一度服ごとまるっと洗浄をかける。妹をベッドに寝かせようと、体から離したところで、目を覚ましたようだ。
「んゅ・・・。・・・???しゅわしゅわ?ここどこ?」
「おはよ。草原から少し歩いた所の森の中だよ。しゅわしゅわはお風呂のかわりに洗浄かけただけ。まだ寝てていいよ?」
「・・・おきる。」
「お水飲もうか、喉渇いてるんじゃない?」
「・・・のむ・・・。」
(起き抜けでふにゃふにゃしててかわい。)
先程洗浄して仕舞ったグラスを出し、魔法で少し冷たいくらいの水を入れる。先程抜け目なくとっておいた、洗浄してあるストローをさして妹の口元に近づける。
「はい、どうぞ。」
「ありがとう。」
(結構たくさん飲むな。喉渇いてたんだね。)
返されたグラスを受け取り、水を足す。
「まだ飲む?」
「大丈夫!お姉ちゃん、ありがとう。ペットボトルのお水より、魔法でお姉ちゃんが出したお水の方が美味しい気がする。なんでだろ。」
「そうなの?唯単に、喉が渇いてたからじゃない?」
「そうなのかなぁ。」
(私もついでに飲んどこ。)
足した水を全て飲み干し洗浄して倉庫にしまった。因みに、自分では美味しさは分からなかった。
一息つきベッドに腰掛け、妹を膝に乗せる。
「今から、お家建てる為に更地を広げようと思ってるんだけど、みーちゃん何しとく?」
「さ、更地?なんで!?どうやって??」
(お、なんか動揺してる。なんでだ。)
「叩くと何でも素材にしちゃうハンマーが倉庫に入ってたからそれで地道に。お姉ちゃんがゲームしてたの見たことあったでしょ?あれ。」
「・・・そんな事、その体で出来るの?」
「物は試しっていうじゃん?身体強化でなんとかなるでしょ。」
「・・・。」
(な、またもや絶句している。何故。)
「だって魔法で焼き払ったり吹き飛ばしたりしたら勿体ないじゃない?せっかくの素材が。音も大きく立てちゃうし。」
「・・・ふきとば・・・。そ、そうだね。わたしも何かお手伝いできる?」
「うーん、一先ずは無いかなぁ。できればこの結界の中にいて欲しいんだけど・・・。」
「それならわたし、ここで魔法の練習してていい?」
「もちろん!でも火とか雷とかの危なさそうなのは無しね。あと転移とかもダメ。」
「念動力練習したいの。」
「なるほど。いんじゃ無いかな。そうだ、これ使う?」
「ううん、大丈夫、ありがと。」
ゲームで作ったぬいぐるみを出したが断られた。どうやって物を動かす練習するのだろうか。疑問に思いながらも、妹なりの考えがあるのだろうと納得する事にする。
ベッドにのったまま結界の壁面に触れる事ができる様に、念動力を使いベッドを端に寄せる。
「よし、じゃあ何かあったら結界にタッチして?
すぐに戻って来るよ。まぁ、どちらにせよちょこちょこ見てはおくからね。」
「分かった!お姉ちゃん、怪我しないでね、がんばって!」
「ありがと!ささっと更地にして来るよ!また後でね!」
妹を軽く抱きしめ外に出、結界に触れながら、内からも外からも結界に何かが接触したら、アラームが私にだけ聞こえるようにイメージする。できてる確証はないが、作業しながら目視でも確認するし大丈夫だろう。
(よし、頑張ってと言われたからにはサクッと終わらせよう。)
身体強化をしっかりめにかけ、例のハンマーを取り出しぎゅっと握ってみた。先程までの身体強化よりも体が軽い。更に、腕を含む上半身にもう少し強く重ねて、手首から先はもっと。
(よし、こんなもんかな?なんかハンマーが妙に手に馴染むな・・・。)
結界から離れた所で上下左右に振り回すと、ハンマーに当たった木が1メートル程の正方形になりながら周りに散乱する。
(思ったよりデカいな!?)
コレはそういうハンマーなので、叩いた木が、正方形の素材になったり草が素材アイテムになったりするのには、然程驚きは無い。無いが、大きさには驚いた。邪魔なのでアイテムボックスにしまいながらやらなければならないようだ。
ハンマーが当たって無い場所は残るのかと思いきや、二振り程で木が丸ごと一本解体されるようだ。そして太さや高さがそこまで無い筈の木も関係無く同じサイズに・・・。一本につき木の素材は大きさ関係なく三つらしい。残った切り株はもう一度叩くと同じ正方形になった。
(質量保存の法則は働いてません!家出中と見た!・・・まぁ、そもそも魔法がある世界の時点で質量保存の法則も何もない。何でもありか。)
自分を無理やり納得させながら、邪魔になった側からアイテムボックスへ入れるイメージをしながらタッチしていく。
その間もチラチラ妹を見ながら作業を続けていたが、ふともう一度見ると妹がベッドから浮いていた!驚いてハンマーを落としてしまった為慌てて拾い、結界に駆け寄り中に入る。
「み、みーちゃん、今、浮いてなかった!?」
「う?うん。その練習中!」
「念動力の練習って自分を浮かせる事だったの!?ど、どうして?もしかしてそんなに抱っこ嫌っだった?」
「えっ!?違うよ!何かあった時の為と、ずっと抱っこだとお姉ちゃんが両手使えないから。私が自分で歩くのは遅いし。わたしもお姉ちゃんのお手伝いしたいし・・・。」
「(ほっ。)そうだったんだ。そっか、お手伝いか。嬉しいな。でも無理しちゃダメだからね。気を付けて練習してね。」
(ベッドの両側面にふわふわの感触で柵状に結界付けとこう。落ちたりしたら危ない。フローリングじゃないし怪我しても汚れてもかわいそうだしね。これで、よし。)
「はぁい!」
「じゃあ、また続き行ってきます。」
「行ってらっしゃい!」
(お手伝いしたいから練習してたんだって!可愛すぎない?あ、まって、私の周りを浮いて動くの想像したら、天使みたいで可愛いすぎた。天使の羽付けたい。浮くのは慣れるまでベッド上限定にして、私が安心できるレベルになったら解禁ってことにしよう。絶対かわいい。日傘とか持たせたい。)
妄想はどんどん膨らむがなんとか落ち着ける。念動力は妹の方が私より達者になるだろう。子供からスタートと考えれば。一体どれ程ハイスペックになるのだろうか。
(よし、切り替えて続き続き!どんどん行くぞー。)
しばらく無心になって作業をこなす。
(よし、取り敢えずこんなものかな?)
妹のいるベッドと一番大きな木を中心に、大きめの公園サイズの円形広場ができた。小山になっていた部分は、ハンマーで削ろうと何度か横凪にすると土ブロックになり平らになるので、全体的に出っぱっている箇所を大凡平らになるように削いでいく。
一応終わったのでアイテムボックスを確認すると、木の素材が結構増えていた。植物も新しく何種類か手に入れている。驚く事に石材もあるようだ。あまり硬さをそこまで感じなかったから、岩の無い場所だったのかと思ったがそうではなかったらしい。
(身体強化怖。)
周りを見渡し自分の中で及第点に達したので、ハンマーごと自分に洗浄をかけて、ハンマーを仕舞いながら結界に戻る。
「終わったよー。そろそろおやつにしよう。」
驚く事に、妹はベッドから浮いて、ゆるい女の子座りの姿勢のまま、ベッドの上を8の字に中々のスピードで移動していた。
熟練スピードがおかしい。
「も、もうそんな事出来る様になったの?凄いね。」
「お姉ちゃん、おかえりなさい!」
輝く笑顔は可愛らしさしか無いけど、止まって言って欲しい。浮遊移動が解禁になる日も早そうだ。
「おやつの時間だよ。・・・つーかまーえたっ!」
すかさず柵を解除し、移動してる所をキャッチして抱き上げる。
「きゃー、捕まっちゃったー!(にこにこ)」
(は?かわいいが過ぎる。なんだこの天使は!私の妹ですが!最高!今の動画に残しておきたかった!!!あーーーーーかわいい!・・・って、今の反応、大人の時なら絶対しないよね。みーちゃん、体にどんどん馴染んできてるなー。)
妹のおでこにキスしたあと抱き上げたまま、素材になった石材を取り出しベッドの横に16個正方形に平に並べ、上から念動力で抑え地面に半分ほどめり込ませる。その上にゲームアイテムのテーブルと椅子を出し洗浄。
(今日のテーブルクロスは、・・・今はいいか。)
お皿にビスケットを並べ、洗浄したコップにアイテムボックスに入っていたミルクを注ぐ。
(念のため毒味する?あ、鑑定あるじゃん!そう言えば。)
『新鮮な美味しいミルク。殺菌消毒済み。体力・魔力小回復。』
(大丈夫そうだな。と言うか飲むと体力と魔力回復するの?もしかして雑炊もそうだったの?・・・まあいっか。悪い事では無いし今は置いておこう。)
「みーちゃん、ビスケットとミルクでいい?」
「うん!ありがとー」
「じゃあお行儀悪いけど、またお姉ちゃんのお膝の上ね。」
二人ともの手を洗浄し、ビスケットがのったお皿を妹の手元に引き寄せる。いたずら心で一つとり妹の口元に寄せると、こちらをちらりと見た後、凄く小さく齧りとった。
(何これ。かわいい以外の語彙が消える。)
「どーお?」
「・・・自分で食べる。」
半眼で断られた。
「んふふ、はい、どうぞ。ミルク溢さないように気をつけてね。」
「うん。」
するとテーブルの上の受け取ったコップに手を翳して何かしていた。
見ていると、支えていないのにも関わらず、手が当たってもコップが微動だにしていない。もしや魔法で固定のような事をしているのだろうか。
(うちの妹やばい。それともこっちの世界出身だから?え?こっちの世界だと子供ってこんな普通に魔法使いこなしてるの??あ、そうか大人の記憶があるから想像力と応用力はあるのかな。いや、でも、子供は魔力が安定しないとかいう設定はラノベの中だけですか?!・・・さっきの8の字移動を考えたら今更か・・・。)
チートな子供になる予感しかない。
(いや、いいんだけとね!?凄いじゃん!うちの妹優秀で!でも手助けが必要なくなっていくのは寂しいなー!あーあ。こっち来てみーちゃんを独り占めし放題お世話し放題だと思ったのに!シクシク)
あまり急いで自立しないで欲しいと思うのは完全に私のわがままだ。今朝までは大人だったのだし、早く一人前になりたいに決まっている。
(・・・私も何か食べよ。ビスケットあんまり数が無いし、キッチン出来るまでどれくらいかかるか分からないから、別のものがいいよね。)
フライドポテトを発見した。ケチャップが無いのは残念だが一先ずこれで良いだろう。
(あったかい、サクサク〜。塩で十分美味しい。)
・・・何か下から視線を感じる・・・。
(だよね、体が新しくなった今、心は元は大人だからたまにはジャンクフード食べたいよね!人が食べてると余計ね!しょっぱい系おやつみーちゃん好きだもんね!うーん、塩分と油、子供には良くないよね?体は小学生かぁ。うちではいつから解禁されたっけ?数本ならいいかな?今だけ!)
「食べさせてあげたいけど、油も塩もあんまり良くないから数本だけね。お姉ちゃんだけ食べてごめんなさい!もうちょっと成長したら食べようね!取り敢えず今はこれ以上はお姉ちゃんもやめときます。」
「・・・やったー!・・・ポテトおいしい!数本でも嬉しい。・・・ごちそうさまでした。」
「え、ビスケット一枚だけでいいの?」
「ん。おなかいっぱい。」
(フライドポテトは欲しがったのに?嘘じゃん!)
7、8歳児のおやつの量が分からないので文句が言えない。
(まぁ今回に限っては、好みの問題だろうけど。
フライドポテトは食べたそうにしていたし。量は個人個人で違いそうだしね。妹は特に小さいしこんなものなのかな。)
(さて、取り敢えず、今日は寝られる様にしなければ。まぁ、最悪このまま此処で隠蔽かけて寝るか。その時は結界を二重にしよう。)
この世界は一日何時間くらいなのだろうか。
時計が欲しい。私一人ならどうとでもなるが、妹がいるなら話は別だ。水分、ご飯、おやつの間隔が体感でしか分からないと言うのが困る。
(あれ!?そう言えば二人ともトイレしてないぞ。トイレの事忘れるくらい何も感じて無かった。)
「みーちゃん、お姉ちゃん今怖い事思い出したんだけどさ。トイレ行きたくなったりした?」
「・・・おトイレ、忘れてた・・・!」
(なんか衝撃うけた顔してる。かわい。こんな顔もするんだな。こっちにきた最初の呆然としてた顔とはまたちょっと違う。)
「食べたり飲んだりした物、どうなってるんだろう。まぁ、無理やり納得するなら、私達、渡りの時に体がこっち仕様に再編されてるらしいから、地球の生き物とは消化器官が違っててエネルギーに全部変換されて吸収されてる、とかかな。」
「ぅむむ・・・・・・。」
トイレが必要になるなら、真っ先に建設しなければいけないけれど。全くもよおさないせいで、完全に忘れていた。
「お、お姉ちゃん!魔力、魔力増えてる!」
いつの間にかステータスを開いていた妹が呼びかけてきた。
「!!!」
「違うの、減ってたけど増えてる!」
「ゆっくりでいいよ。大丈夫。ちゃんと聞いてるからね。お姉ちゃんに教えてくれる?」
「あのね、わたし魔力たくさん使ったの。念動力練習するのに。でも今は、その時よりほとんど元に戻ってるの。」
「なるほど・・・、教えてくれてありがとう。よく気が付いたね!お姉ちゃんも確認してみるからちょっと待っててね。」
「あい」
言われて慌てて自分のステータスを開く。
取り急ぎ、MPだけ見る。
Lv.1
HP 151/162
MP 1289270/1290000
(おお、本当だ。あんまり覚えてないけど、確かさっきは検証したり探知とかに使ったから、ギリギリ123万くらいだったよね。え?雑炊で回復してたとしても、その後の方がMPがっつり使ってる事考えたら、フライドポテト数本でどんだけ回復してんの?・・・これはやばくない?)
その時、ふと考えてしまった。考えようによってはゲームアイテムは魔力の塊なのではないだろうか。それも、アカシア様と言う神様?の。元はただのデータであって質量はゼロなのだ。私達が使用出来る様に魔力か神力のような物で具現化した、と言う事にならないだろうか?
そして私が作成スキルを持っていると言う事は、彼の方が作ってくださったシステムを使って、これから作成時は自分の魔力で作るか、現地の材料を自分の魔力で加工するかと言う事になるのではないか。
(待って。フライドポテトのストックめちゃくちゃたくさんあるんだけど。アカシア様の魔力量とんでもないぞ。だって他にもご飯から何からめちゃくちゃたくさんあるんだよ!?)
一瞬パニックになりかけるも、直ぐに落ち着いた。
(・・・神のような存在、であるならば当然か。)
所謂、魔王や勇者などの特別の存在でもない、唯の人間一人が基準になるわけが無い。
それは置いておくとして思考を戻すが、それなら私達は魔力しか摂取しておらず、栄養と言われる物はとってない事にならないか?これからそれで生きていけるとしたら、魔力だけで生きていける存在は果たして人間なのか?いや、魔力を物質へ変換する際にそういった事も再現してあるのだろうか。栄養価なども。
(混乱してきた!みーちゃん賢いから相談してみよう。)
「・・・みーちゃん、お姉ちゃん思ったんだけどさ。アイテムってアカシア様が魔力で具現化してくれた物質(?)なんじゃないかな。それってアカシア様の魔力の塊じゃない?そして魔力の塊らしき物で普通にお腹が膨れる私達。」
「・・・・・・・・・やっぱりそうなりますか・・・。」
(何で敬語?ちみっ子が難しい顔してるのも面白可愛い。)
「お姉ちゃん、私達って人間?」
(うわ、重い事聞いてきた。でもやっぱそう考えちゃうよねー!)
「うーん、・・・ギリギリ?人間?じゃないかなぁ。だってさ、みーちゃんお昼寝してたでしょ?
精神体とか魔力で生きる生き物だと、睡眠食事は必要ないのが定番だから・・・。現に肉体はあるよね。汗もかいてたし。それと見た目からして、他の種族では無いんじゃ無いかな?まぁでも、元の世界基準では今の私達は魔法使いだからそもそも人間じゃないよね!まぁ、魔法使いは人間ですって言われたら、そうか。ってなるだけだけど。」
(はい、丸め込み第二弾になります。だって、人間じゃない何かだとしたら、もう少しこの世界に馴染んでから知った方が良くない?みーちゃんは。繊細だし。ぶっちゃけ人間じゃ無い気しかしないんだけどね!)
「やっぱりあれかな、平穏に納得するなら、消化器官の違い。栄養価も含まれてて、残りは全部エネルギーというか魔力にしちゃうから排泄は無し、のやつ。お尻は万が一消化できない物口にした時の為の・・・みたいな。」
「・・・まだ、1日も経ってないし、おトイレ行きたくなってないだけかも?」
「そうだね。その可能性もゼロじゃない。まぁアイテムでトイレも持ってるから、万が一催しても大丈夫だよ。その時になってから考えよ。」
「あ!お姉ちゃん、体しゅわわってしたやつは?イメージによっては・・・。」
「!!!・・・体に必要無い汚いと感じる物除去するイメージ・・・。それとお風呂上がりのさっぱりした状態、かな。潤いとか必要な細菌みたいなのはあやふやで・・・。もしかして?」
「違うかもしれないし、あくまで可能性のひとつ?」
(みーちゃん凄いな。こんな賢い子供いないよ!いや、ほんとの子供じゃないけどさ。こう言う元の世界の常識に無い、分からない事象を相談できる相手がいるのって、答えが出なくても一人きりなのとは心持ちが全然違うんだろうな。もしみーちゃんが、大人の記憶の無い完全な子供だったりした場合も、少し精神的にキテたかも知れない。一人でトリップさせられる数々のラノベ主人公凄い。ダイヤモンドメンタル過ぎる。)
「おトイレ事件、びっくりしたね。みーちゃんと一緒で良かった〜。」
「みずきも!ひとりだったら、って考えたくもないもん。」
(どうせなら、お父さんとお母さんも一緒ならもっと良かったのにな・・・。まぁそれは、贅沢な願いだろう。二人とも心配してるだろうな。なんてったって体が弱ってたみーちゃんが、コンビニから帰って来ないんだもんね。普通に何かあったと思うよね。いや、あったんだけどさ!異世界トリップがね!どーしたもんか・・・。)
妹はその辺りについて何も言ってこない。どう思ってるんだ?我慢してないだろうか?
(あんなにお父さんお母さんが大好きなのに。)
いや、これ以上考えると深みにはまって止まらなくなってしまう。それより夜までに、ある程度の安全を確保しておきたい。もしこの子も考えないようにしているなら、落ち着いてから話そう。
(よし、そうと決まれば、気も紛れるだろうし建てたい家の間取りを一緒に考えよう。)
「みーちゃん、お家の間取り一緒に考えてくれる?」
「わかった!楽しそう!」
「まず、自分のスキル見ながら専用のお部屋が必要そうな、挑戦してみたいことをあげてみようか。」
「うん。」
「じゃあ、シンキングタイムはじめ!」
(まずはやっぱり錬金術と調合だよね。病院があるか分からないし、ちょっとした薬は作れる様になりたい。病院があってもめちゃくちゃ高かったり、私達を診れるかどうかも分からないしね。
それにテンプレならお金が必要になった時、役に立ちそうだし。後はお裁縫は確実に必要だし、アクセサリーとかも作りたいな。ハンドクラフト系好きだったし。この辺はみーちゃんも好きだよね。
魔道具製作の熟練度が上がってきたら乗り物系も作りたい。
よし、多分まだまだやりたい事後から出てくるだろうけど、その時はそれ用の建物建ててもいいし取り敢えずこのくらいかな?)
アイテムボックスに入れていたキャリーケースから、手帳とペンを取り出し思いついた必要な部屋を書き出していく。
調合室(錬金術・薬術)
手芸室(小型のクラフト系全般)
魔道具研究室(魔道具専用)
ガレージ(乗り物の作成・保管)
「お姉ちゃんが思いついたのはこれくらいかな。他に何かある?やりたい事とか。あ、キッチンとかお風呂とか普通の生活に必要なのは考えなくていいよ。」
「うーん、わたしが考えてたの、もうお姉ちゃんが書いてくれてるんだよね。あ、そうだ体力作りできるような、トレーニングルームとか?私、泣いただけでHPが5分の1減っちゃった紙装甲みたいだから。あと遊びでもいいなら、温水プールもあったら楽しそう!和室とか図書室もあったら嬉しいかも。本があるか分からないけどね。」
「いいね!それ全部採用しよう!」
トレーニングルーム
温水プール
和室
図書室
書き加えたが、全部採用するとなると結構完成に時間がかかる気がする。とりあえず生活するだけの小さな家を先に建て、じっくり取り掛かった方が良さそうだ。
「これ、かなりの豪邸になりそうだから、とりあえず生活するだけの小さな家を作ろう。そこで生活しながらお屋敷作成に取り掛かろうと思うんだけど、どうかな?」
「確かに。小さなお家はもう取り掛かるの?私お手伝いできる?」
(なんて健気なの。そんなにお手伝い希望?優しい、かわいい、健気、かわいい、こんな最高な女の子いる⁉︎いるんですよね、ここに!私の妹!最高!)
「お姉ちゃん?もー、またニヤニヤしてる。ねぇ、ミズキのお話きいてる?」
「ごめんごめん。聞いてる聞いてる。小さなお家はとりあえず、私がスキルで建てるから、みーちゃんはまたここで魔法の練習してもらってていい?体力少ないなら、お家の中でできる事が出てくるまでそれが良いかもしれないね。」
「そっかぁ。・・・残念だけど、足手まといになりそうだし、魔法練習してお姉ちゃんのお手伝いできるようになるから!待ってて!」
「ん、いい子。」
妹の頭を撫でながら、メイカーのスキルを立ち上げる。すると錬金術や道具作成などの項目が表示された。たくさんある項目から建築をタッチ。次の画面の1番上に、設計図と言う項目があった。これだとすぐさまタッチすると、建物の外観とその設計図の一覧が表示される。勿論、日本で設計士さんが作製するようなそれではなく、ゲーム仕様の、簡単な部屋割りとアイテムの配置が記載されている。
(ここからとりあえず選ぶのが早いかな。)
小さな家からお屋敷レベルまで色々な設計図が並んでいる。小さな家シリーズは白や青、黄色など色はもちろん、部屋割りなども少しずつ違っていてバリエーションに富んでいる。スクロールすると、ずっと下にはタッチできない項目が結構な数あるようだ。
見てみると寝殿造、数寄屋造、日本家屋、〇〇宮殿などの記載がある。ゲームにはこんなのなかったはずなので、アカシア様のサービスかもしれない。
(妹が、地球が恋しくなった時のために。・・・考え過ぎか。)
技能や能力値が足りないので成長したら解放される等、何かカギがあったりするのだろうか。
(は?成長したら世界遺産作れるかもしれないの?やば。先行きが楽しみだ!って、興奮してる場合じゃない。)
今はとりあえず小さな家シリーズの中から選ぶ。小さな家とは言うものの、現代日本ならそこそこ豪邸にあたるのでは?と、言う感じだが。
みーちゃんに似合いそうな、薄いベージュの屋根に白い壁のフレンチスタイル系なかわいいお家に決めた。
間取りを調べ、生活に必要な部屋が揃ってるか、空き部屋は足りるか、確認する。大丈夫そうだ。妹にもこれでいいか聞かねば。
「みーちゃん、ちょっとこれ見てくれる?このお家でどうかな?」
「えー!かわいい!こんなかわいいお家に住めるの⁉︎嬉しい。」
良かった。見た目は好みにヒットしてくれたようだ。それなら早速取り掛かろう。
「好みに合ったなら良かった!じゃあこれで取り掛かるね。場所は端の方がいいかな?将来的に。あ、でも格納で移動させる事は出来るから、とりあえずそんなに端じゃなくていいか。大体あの辺りに建てるね。」
大樹からそれ程遠くない、更地部分を指さす。
「分かった!じゃあまた練習しとくね。」
「うん、何かあったらまた結界にタッチね。」
「はぁい。」
返事に微笑みを返し、結界から出ると予定の場所に近寄る。先程の設計図をタッチすると、実寸サイズになった半透明の設計図が出現した。向きを確認しゲームと同じ様に予定地に敷く。すると、実寸サイズの家の半透明のホログラムが出現した。この指示の箇所にアイテムを配置していくと、自動でどんどん合体してお家になるのだ。
(必要なアイテムは倉庫に揃ってるな。良かった。)
アイテムボックスから素材を取り出しつつ、念動力の練習がてら設計図の指示通りに設置していくと、乗せていく内に元々そういう壁や床だったかの様に継ぎ目なく馴染んでいった。
作り付けの棚や扉なども、設置する度に彫刻やペイントなどの装飾も施されている。一メートルサイズだったはずの絨毯も、隣に同じ物を敷くと勝手に繋がり、模様も設計図の物に変化している。ただのガラスが設置した途端に可愛らしい窓になったのも驚いた。
できていくのを見ているだけでも楽しいかもしれない。
(魔法のある世界すごすぎでは?それともスキル作ったアカシア様がチート過ぎるだけなの?)
楽しいからいいのでは?と言う気持ちが大きいが、我ながら、とんでもないハイスピードで家が出来ていってる事に心が追い付いていない。
だが、色々と思考しながら設置し続けている内に外観は屋根以外完成である。
そこで、念動力に慣れてきたので、妹の様に自分も浮かびながら物を動かす事に挑戦する。浮くだけで移動しながらでなければ大丈夫だろう。
スーっと屋根より少し上まで浮かび上がる。思ったよりかなり安定している。
(これなら大丈夫そうだ。)
と、言う事で続きを再開する。屋根はあっと言う前に完成した。あとは内装だ。完成していくのは見ているだけでも楽しいからみーちゃんも誘ってみる事にする。
「ただいま。外観は出来たからあとは内装なんだけど、見にこない?結構面白いよ。魔法!って感じで。」
「いいの?行きたい!やったあ。」
「ふふ、じゃあ行こう。さ、体力25の人は抱っこね。」
笑いながら手を伸ばすと、拗ねた顔をしながら大人しく抱かれてくれた。
家に近寄ると、かわいいとみーちゃんは大興奮である。気に入って貰えて嬉しいが、体力が心配だ。泣いただけでHP5分の1消費とかとんでもない虚弱少女なのだ。
こっちの体に魂に馴染んで元気になるまでは大人しくしていてもらわなくては。
「こーら。喜んでくれるのは嬉しいけど、あまり興奮すると体壊すよ。はい、深呼吸してー。」
「スー、ハー、はぁい。ごめんなさい。大人しくします。でもかわいいお家ありがとうお姉ちゃん。」
「まぁね、かわいい妹の為だしね。」
「えへへ」
照れ妹もいいものである。心が洗われる。今日は特に洗われっぱなしなのだが。
「さ、ここが玄関だね。まだお姉ちゃんも入ってないんだ。行こう。」
「楽しみ!」
中に入るとポーチから繋がる同じタイルの広い土間だ。左を見るとドアはなく壁をアーチ型にくり抜いてあり土間が続いている。靴やコートなどの為のウォークインクローゼットになっていた。
「これ使いやすそうだね。お姉ちゃん。」
「だね。えーと、ここには、鏡とランプを取り付けます。」
言うや否や、シンプルなデザインのそれらを念動力で指示の箇所へ接触させると、少しブレたあとシャラン、というSEを鳴らしながら可愛らしい凝ったデザインに変化し設置された。
「なにこれ?え?お姉ちゃんすごい。魔法使いじゃん。」
「ね、見てるだけでも楽しいでしょ?ちなみに今は二人とも魔法使いですよ。まぁこれはアカシア様パワーなので。」
「でた、全て納得させられる魔法の言葉!アカシア様パワーなら仕方ない。」
「あはは、はい、じゃあ、じゃんじゃんいくよー。」
微妙に日本仕様なのか一段高く上り框があって、そのまま廊下に繋がっている。ありがたさしかない。やっぱ家の中では靴は脱ぎたいよね。土足文化は無理だと、私の中の日本人が激しく主張している。アイテムのスリッパを取り出し靴から履き替えた。
そのまま所々、ドアや棚、ランプや、ゲストルームと思わしき部屋にはベッドなどの家具なども設置して行く。
リビングにテーブルや椅子、棚、ソファ、カーテン等諸々を設置していくとリビングが完成した。みーちゃんを見ているとソファの色や生地、テーブルや椅子などの家具達のデザインなど概ね好みに合ったようだ。
そこでふと試しに、設計図によって布が張られ装飾が施された、高級そうな加工済椅子をアイテムボックスへしまい、新しく未加工の椅子を再度設置してみると、これも加工された。そうして同じ様に、壊れた時の為に色々な家具のストックを幾つか作っておく。
(まぁ、こんな事しなくてもおそらくメイカーで作れる様になってはいそうだけど。)
次はキッチン、大浴場、サロンと、次々と完成させていく。空き部屋もたくさんあり、後から何部屋かはアトリエにできそうだ。そしてやはりと言うか、トイレは無かった。と、言う事はやはりそう言う事なのかもしれない。
2階も配置し終わり、残りはこの寝室のベッドと動力になるらしき魔石の設置だけだ。話し合いの結果、最初は同じ部屋で寝て、ここでの生活に慣れて来たらそれぞれ自分の寝室を選ぶ、と言う事になった。今日は一緒のベッドでいいかと、指示の箇所へ指定の大きなベッドを置くと、白系の枠に可愛らしい天蓋付きのベッドへ変化した。
あとは魔石だが、指定されている魔石は持っている素材の中でもそこそこ上位のランクのアイテムのようだ。取り出してみると片手でなんとか握れるサイズで、中々に大きい。魔石はもっと小さいイメージだった。壁に埋め込まれている、指定の作り付けの小さな箱へ設置して、その小さな扉を閉めた。
すると、家全体が淡く光り、全て完成した事を知らせてくる。そのまま外へ出て、巨大な設計図をはずそうとすると設計図は消えていた。使い切りで回収不要らしい。
これで野宿にはならずに済んだと、ホッとする。
「よし、眠る所もご飯食べる所も出来たから、とりあえず安心だね。今日は早めに寝ようね。明日からも元気でいる為には。」
「うん。」
外に出しっぱなしのベッドやテーブルを洗浄して回収し、家に入ると、玄関から家全体に魔力がまわる様にイメージしながら、洗浄をかける。すぐに終わった。気休めと言うか、念のためだ。
日が落ちてきているからか、家中のライトがついている。見たところスイッチは見当たらない。
試しに、廊下のランプに、オフ、と念じると明かりが消えた。次は同じランプに、AI家電よろしく、電気をつけて、と念じる。それでも明かりがついたので、念じる文言は何でも良さそうだ。
「今家中の明かりが点灯してるから、使わない所は消して行くね。みーちゃんもやる?文言はなんでもいいみたいだし。オン・オフでも電気つけて、とかでもOKだったよ。おそらく動力は電気じゃないのにね。」
「やりたい。連れてって。」
「じゃあ行こう。」
使わない所の明かりを落とし、カーテンを閉めていく。全て確認し終えた為、このままリビングに戻り夕飯を食べようと言う事になった。
「夕飯、今日はどういうのなら食べられそう?」
「わたし、今思えば、こっちに来てから今日一度も体調不良になって無いみたい。信じられないけど。ご飯もたくさん食べられそう!なんでも食べます!」
「そうなの⁉︎凄いじゃん!えらい!よしよし、じゃあ自分で選んでもいいよ。こっちおいで。」
設計図が変化させてくれていた、子供用椅子に早速座ってニコニコしていた妹を呼ぶ。膝に乗せアイテムボックス一緒に見て選ばせる。それぞれ選び、手を二人とも洗浄をかけて席に戻れば夕飯だ。
「「いただきます」」
「久しぶりにハンバーグ食べられて嬉しい。いつも気持ち悪くなっちゃってたから。好きだったのに。」
「良かったねえ。はい、サラダも食べてね。パンとスープはここね。」
異世界トリップ初日とは到底思えない状態で和やかに夕飯を済ませた。
(この時点でチート過ぎるよね。まぁそうじゃなかったらみーちゃんの命が危ないんだけど。虚弱体質だからね。)
テーブルの上を片付け、半分寝ている妹を抱き上げ二階の寝室に向かった。
寝室のカーテンをめくりそっと外を眺めると、日本では考えられない様な暗さだ。街灯など、森の中にある筈も無いのだから当然だが。これこそ漆黒の闇、というものだろうか。空には月も星も見えない。曇っているのか、そもそも存在しないのだろうか。
(しまった!なんで忘れていたんだ。)
結界をはっていなかった事にハッとして、急いでマップを確認する。この付近には生体反応は無さそうな事に一息つく。それならと広場全体を覆う巨大で強力な結界をはる。今回は円柱形で上部だけをドーム型にした。付与は明日しよう。探知でたくさん抜けたように感じた時よりも更にはっきりと、体から何かがごっそり抜けたのを感じ取った。中々に魔力を使ったようだ。あとは寝るだけだから良かった。
抱っこしている妹をみると、いつの間にか、すっかり寝てしまっている。妹の好きな匂いの花の香りを念じながらベッドを洗浄し、自分達も石鹸の匂いのぬるま湯で洗浄する。妹を横たえ自分も隣に入ると、どっと疲れが襲ってきた。体は疲れていないと感じているのに。精神的な物だろうか。
それにしても、つくづく、この子を一人にせずに済んで本当に良かったと思う。アカシア様には何度でも感謝したい。すやすやと眠る妹のかわいいおでこにキスを落とし目を閉じると、すぐに眠気が襲ってきた。
「みーちゃん、おやすみなさい。」
そうして、信じられないほど穏やかに、私達の異世界トリップ初日は終わった。