到着
街の中は想像していた異世界の街並みとは違い、高層ビル並みに背の高い塔が乱立していた。
妹へ目を向けると、扇から目元だけ覗かせつつも、どうやら顔を上げてキョロキョロと見回したいのを堪えているようだった。そんなはしたない事、と思う気持ちと異世界の街並みへの興味との間で葛藤しているらしい。なんとも可愛らしい事だ。
けれどそれに反して、私としては少しがっかりした心持ちだった。きちんと整えられてはいるものの道幅はあまり広いとは言えず、更には緑など全く見当たらずあまり景観は良くない。辛うじて塔のバルコニーや小窓から所々観葉植物の様なものが見え隠れする程度だ。
塔同士は頭上に張り巡らされた空中回廊で繋がれていて、道幅はそこそこあれど高所恐怖症には住み難そう。他の土地でもこの様な街並みがスタンダードならば、みーちゃんのそれが改善されたのは、喜ばしい事だったな、と独り言ちる。
見たことのない景色に驚きはすれど、下から見るのには景観は特に良いわけでもなく感動も何もない。上から見たならば壮観なのだろうか? と一瞬思うも、空中回廊が重なり地が見える事は無いだろうし、高層階からと言えどたいして見晴らしには期待できなさそうだ。そして建物に高さがある事に加え渡り回廊に陽射しが遮られてか、全体的に薄暗い。異世界の街並みへのワクワクがどんどん萎んでいく。
特に景色も変わる事なく少々退屈に思いながら、中々の距離を進んだところで高い建物が唐突に減り、一気に視界がひらけた。よく見れば地面の石畳の色も切り替わっている様だ。
目に入る建物が、戸建ての家程度の高さのものばかりになった。高層建築物は向かいのはるか向こうへ霞んで見えるだけ。どうやら正円の中心部には高層建築はないらしい。この辺りが子供達の言っていた『日の当たる土地』と言う場所だろうか?
そのまままた少し進んでいると、今度は畑ゾーンらしき地帯にさしかかる。マップを見ると建物がない事からして、そこそこ広めの幅のドーナツ状に畑や果樹園といった類いのものが、ぐるっと一周広がっているみたいだ。
服装が統一された人々が、両側から道へ向かって所々で膝をつき礼をとっているのを所々見かける。しっかりとした体幹に裏打ちされた規律ある仕草を見るに、もしかして作業員ではなく軍人か騎士なのだろうか? まぁ畑仕事をする様な服装ではなさそうだしな。と言うかそもそも、この道の先にあるであろう権力者の住まう土地のすぐ側に、畑ゾーンがあると言うのも不思議だ。さすが異世界。意味がわからない。
暫く行くと畑地帯が終わり、庭付きのお屋敷みたいな建物ばかりになった。石畳もそれまで以上に整えられ滑らかに見える。ラノベによくあるお貴族様ゾーンというやつだろうか。きっと権力者が多く住まうに違いない。今更だが、城までそこそこ広い道で、遮る物なく一直線に来れて大丈夫なのか? 戦争などの争いはない土地なのだろうか。平和なのは素晴らしい事だけれど。
そのままボケっと進んでいると、ようやくお城とやらに到着する様だ。かなり広そうな建物が見える。おそらくこれがお城とやらだろう。他にそれらしき建物はないのだし。そして周辺の建物の例に漏れず高さはそれ程ない。広々と土地を使っていることが権力の象徴、というところか? だがこれでは城内の移動はさぞかし大変な事だろう。マップを確認するに、城は正八角形らしい。正八角形の中心部の一部分だけ階数が高いのだろうか、そこだけぽこんと飛び出している。
それを見ながら、それ程高さのない塀と門をくぐると、正面玄関と思しき、扉の開け放たれた大きな入り口の前の広場に大勢の人々が、先程から見かけていた膝をついた礼をとっている。最前列の何人かは立っているけれど。いつからそうしていたのだろうか?
紅玉のが、人々から10メートル程空けて進みを止めた。それにならってこちらも止まると、紅玉のが謎のアイコンタクトをとってくる。善きにはからえ的な意味で頷きを返すと、目礼を返してきた。通じたの? マジならすごくね?
「赤のフィリッポス並びに白のエウメネス、只今帰還いたしました!」
紅玉のの覇気のある声が響き渡る。なんか物語りが始まりそう。こいつしっかり主人公はれそうだよな。いかにも陽キャだし。
「こちらの方々は道中、私を死の危機から救っていただいた大恩ある方々です。くれぐれも失礼のない様に願います」
魔力だろうか空気だけがざわつき、人々の驚きは声や仕草には出ていない。さすが、この子達を教育したのはここの人々なのだろうし、当然か。まぁいい。色々端折って紹介してくれた事だし、いっちょそこそこ優しい神様ムーブしとこう。
「よい。その様に気にするなと言ったであろう。それに用が済めば直ぐに旅立つ」
「はい、あり」
「そんな!しばらく神殿にいて下さるのではなかったのですか?!」
だから翡翠の、お前短時間でなつきすぎなんだって。せっかく紅玉のがかっこつけていたのに台無しにしてやるな。それに私がショタコンだと思われたらどうする。やめて。
「さてな。私にはわからん。どのくらいかかるかは我が愛妹へ聞くがいい」
「そうなのですか? あの、女神様、どのくらいいてくださいますか?」
「ごめんなさいね、ここ、想像していたよりずっと瘴気が少ないみたいなの。長く見積もっても三日くらいで済みそうよ」
あれ?今更だけど三日って言って通じるの?と言うかそうなんだ? そもそもどのくらいを想定してたんだ?
「そ、そうなのですか? 用事とは、あっ、申し訳ありません! 詮索など、」
「ふふ、いいのよ。後で神殿に着いたら貴方のお爺様も混えてお教えしましょうね。お兄様、よろしくて?」
「いいだろう。で、お前達、上役の者達を放っておいていいのか? お前達の帰りを案じていたんだろうに」
「あっ!あの、えっと、急いで帰還の挨拶をして参ります。あるじ様と姫様にもせめてものお持てなしを・・・」
つってもな、絶対自分達のお茶の方が美味しいよねー。ソファとテーブルの部屋に通されても、この衣装じゃみーちゃんは寛げないだろうし。悪いけど断るか。
「いや、遠慮しておくとしよう。ここでお茶でもして待つさ」
「わか、畏まりました。あの、荷物と皆はここで降ろしていただいてよろしいですか?」
「いいぞ」
地に接してるとは言え、この雲、消したら50センチくらい急に落下する事になるよな?戦士だろう人間はともかく動物と荷物には良くないよね。段々厚みを薄くしていくか? こんな感じ? 想像一つでほんと何でもできるな。
「有難う存じます! 急ぎ戻りますのでしばしお待ちください!」
雲が完全に消えた途端、戦士達が子供二人の背後にさっと整列し、膝をつく。
「まぁ、貴方達、そんなに畏まらないで? 楽にしてちょうだい。それに二人とも、急がなくていいのよ。あんな事があったのよ?きちんと報告してご挨拶してらっしゃいな。私達も車でゆっくりしている事にするわ」
「そんな、あ、有難う存じます。」
なんかみーちゃん、姫さまムーブ自然になりすぎじゃね? いや、いい事なんだけど。そんな器用だっけ、この子。ダメじゃないんだけどね?
ま、いっか。直感もなんも反応してないし。
「では私達はこの中にいるから、準備ができたら呼びなさい」
「貴方達もきちんと休憩してらっしゃい。また後でね」
「はい! 有難う存じます!」
「行ってまいります」
空中を歩いて浮いたままの車へ近付く。腕の中からまだ二人に手を振っている妹を尻目に、アルデバランに声をかける。
「放ったらかしにして悪かったな。魔力消費はどうだ?」
「殆んど減っておりませぬ。皆さま何事も無くようございました」
「そうだな。しばらく休む。お前も蔵に戻るか?」
「宜しいのですか? 見張などは・・・」
「よい。敵意があれば視認できるからな。どうにでもなる」
「でしたら蔵へ戻りたく存じます」
「わかった」
んーと、置物に戻すのどうするんだったっけ?あ、やってみたかった能力者ムーブの一つ、今こそ試す時では?
「解」
人差し指と中指の先でアルデバランに触れながら呟くと、あっさり置物へ戻った。妹には少々呆れた様な目でみられてはいるけども成功したのは確か。
さっとアイテムボックスへ仕舞うと、御簾を捲り中へ滑り込んだ。




