sideミズキ②
「おねーちゃん?」
知らない人かも知れないのに、つい声かけちゃった。どうしよう。なんだかお口が話しにくい。
どうして?
「まさか・・・いや、」
お姉ちゃんに似た人がこちらを振り返って、何か言ってるけど聞き取れない。
「みーちゃん?」
聞こえた!
お姉ちゃんが私を呼ぶ時の・・・お姉ちゃんだ!
どうして?
中学生くらいの時のお姉ちゃんだ。
何が起きてるの?
ここどこ?
「え?ほんとにお姉ちゃん?どして?」
「うわぁ、これ・・・シールド・・・・・・やっぱりかぁ・・・。」
お姉ちゃんが何か呟くと、なんかボウルをひっくり返した様な半透明の何かが急に出現した!
「????」
「みーちゃん、これ異世界トリップだ・・・たぶん」
コンコン、とボウルをお姉ちゃんがノックしている。
異世界トリップって何だっけ?
分かるけど、分かりたくない。
どうして?
お父さんとお母さんに会えないの?
どうして?
怖い。
でもこんな訳分からない所で泣き叫んだら危険なのは分かる。いけない。泣くな!私!
「大丈夫。何か分かんないけどお姉ちゃんがいるよ。大丈夫だよ。抱っこしよう、おいで。」
昔みたいにお姉ちゃんがおいでって言ってる。
飛びつきたいけど、いくらなんでも大人の私が中学生のお姉ちゃんに飛びつけない。
ここどこ?どうして?
大人のお姉ちゃんじゃない。
中学生のお姉ちゃん、よく見たらすごく大きい。
巨人だ。
何で?
どうなってるの?
でもお姉ちゃんが呼んでる。
「みーちゃん、手を見てごらん。ね、小さいでしょう。たぶん七、八歳くらいになってるよ、理由は不明だけど。子供が抱っこされるのは普通の事だから恥ずかしくないよ。おいで。」
本当だ!
手がちっちゃな手になってる?私どうなっちゃったの?怖い。お姉ちゃん、助けて!
飛び付いたら、すぐ抱っこしてくれた。お姉ちゃんの腕の中は安全地帯。怖いけど、お姉ちゃんと一緒なら頑張れる。
泣かない。
「・・・隠蔽、防音」
お姉ちゃんの首元に抱きついたまま、また何か呟いたのを聞く。周りを見るのが怖くて、お姉ちゃんの首元に顔を埋める。
「これなら一応大丈夫かな。あれみーちゃんのバック?」
お姉ちゃんが何かした後、聞いてきたので指差している方を見る。私のバックとお菓子が落ちていたので、頷く。お姉ちゃんに貰ったバック、大事にしていたのに忘れちゃってた。
今、声出しちゃうと泣いてしまう。だめ!
なるべく怖い事を考えないように、お姉ちゃんを見ているとバックと袋を拾ってくれて、さっきのボウルにまた入った。
「びっくりしたね、体がちっちゃくなってるし怖かったでしょう。よしよし。お姉ちゃんがいるからね、何も怖くないよ。大丈夫大丈夫」
お姉ちゃんが優しい声で大丈夫って言ってる。
それなら、大丈夫。
お姉ちゃん、私どうしてちいちゃいの?怖い。でも、お姉ちゃんがあまりにも優しい声で大丈夫って言うから、ホッとした。このボウルの中は安全って事?
ホッとしたらもう涙が我慢できなくなっちゃったみたい。
お父さんとお母さんに会いたい。
コンビニ行く前まで一緒にいたのに。
「・・・・・・・・・ひっ、ひっく、うぅー、おね、ちゃぁ、うー、ぅあぁーん」
自分でもコントロールできないよ。
私どうしちゃったんだろう。
「よしよし。大丈夫だよー。知らない場所だったから我慢して偉かったね、いい子、いい子。」
そうだよ、私の泣き声で危ない何かが寄ってきたら、危険な目に遭うかも知れないと思って我慢したんだよ。
異世界トリップってなんで?何でこんな事になっちゃったの?
お姉ちゃんがいい子って言ってくれる。お姉ちゃんの声を聞いていたら、恐怖心は段々と落ち着いてきたみたい。お姉ちゃんの腕の中は安全地帯。
・・・いい年して赤ちゃんみたいに泣いてしまった。
どうしよう。
内心あわあわしていると、鼻をかまされ、涙を拭かれた。赤ちゃんじゃないのに。ゴメイワクオカケシマス。
お姉ちゃんがほっぺを触ってきた。お姉ちゃんの手はスベスベで気持ちいいの知ってる!お姉ちゃんを見ると優しい顔でこちらを見ていた。嬉しくなって勝手ににやけちゃう。お姉ちゃん大好き!
「大丈夫かな?ちょっとお姉ちゃんとお話しよう。」
お話、しないとだよね。抱っこされたままなら出来る。
「お姉ちゃん、どうして大丈夫なの?」
この状況、お姉ちゃんは全然驚いてないみたい。
いつも冷静なお姉ちゃんだけど、こんな時でも慌てないなんて凄い。
「どうして慌ててないのかってこと?・・・これはあくまで推測だけど、ゲーム的に言うならパッシブ系のスキルとかじゃないかと思うんだよね。混乱耐性、みたいな。いくら私でもこんな事あったら動揺するはずだし。我ながら動じてなさ過ぎて明らかにおかしいから。」
わお!スキルかぁ。そんな事ある?と、思うけれど、異世界トリップらしきものを現在体験中の身としては否定出来ない。お姉ちゃんなら何かされてなくても、あまり驚かない気がするけど。でもお姉ちゃんがそう感じてるならそうなのかも。
「スキルって、そんなことあるの!?」
「それ以外で言うなら、ラノベでよくある始まりのシーンで今と似たような状況の物を幾つか読んだ事あるからって言うのもあるかも知れないね。」
「ラノベ・・・」
「あとこれもあくまで推測だけど、二人とも体が子供になってる分、これから心と思考も引っ張られる可能性があるよ。だって体のサイズに合わせて脳みそも多分小さくなったりしてると思うし。確か赤ちゃんの脳の大きさって大人の70%くらいしかないんじゃなかったかな。私達はそれよりは大人に近いだろうけどね。」
私の脳70%しかなくなっちゃったの?だから感情がコントロールできないんだろうか。考えもとっ散らかっちゃってる気がするし・・・。自分を大人だと思うのやめた方がいいのかな。現に抱っこを降ろされるのを恐れてる私がいるわけで・・・。
「だから無理に我慢しないでいっぱい笑ったり泣いたりしていいんだよ。むしろそうなるのは仕方の無い事なんだから恥ずかしくもないしね。我慢ばっかりしてるとストレスでどうなるか分からないから、なるべく我慢しないように。そしてお姉ちゃんにいっぱい甘えて。それがこれからみーちゃんのお仕事だよ。」
「で、でも心は大人なのに・・・」
「もちろん無理に子供っぽくする必要は無いよ。ただ、お姉ちゃんにとってはどちらにしろみーちゃんはずっとかわいい妹なみーちゃんのままだから、自然体でいいんだよって事。大人ぶったり我慢したりしないで欲しいって事だよ。」
「いつもと一緒?」
「そう言う事!それにお姉ちゃん相手にカッコつけなくていいでしょう。家族なんだから。赤ちゃんの時からぜーんぶ見てるしね。いつでもみーちゃんはかわいいよ。よしよし。」
・・・自分を大人と思うのなるべくやめよう。精神衛生上危険な気がする。ストレスマッハで胃炎コースしか見えない。でも、所構わずかわいいって言うのだけは釘を刺さなければ!
「もー、また言ってる!恥ずかしいからお外で言わないでよね!ま、まぁお姉ちゃんがそう言うなら、なるべく気にしない様にする。」
そんな事思うの家族だけなんだから!そんなんだから親バカとかシスコンって言われるんだよ。これを本気にしたら、どんな痛い子になってしまう事か。もっと現実を直視して欲しい。お宅の下の娘さんは、全てにおいていまひとつって評価なんだからね!
お姉ちゃんがキャリーケースから、ストールを取り出して広げその上に座った。そしてそのお膝に乗せられる私。うむ、中々の安定感。
あれ?そう言えば、体小さくなったのにお洋服はぴったりだ。また一つ謎が増えた。お気に入りのワンピースが子供用みたいになってしまってショック。
「よしよしいい子。落ち着いたかな。それで、みーちゃんはどう言う流れであそこにいたの?」
「ええと、お姉ちゃんが帰ってきたら、一緒におしゃべりしながら食べようと思って、コンビニにお菓子買いに行ってたの。それで自動ドアから出たらここにいたみたい。」
「なるほど・・・と言う事は、やっぱり同時間帯に血縁者をそれぞれ別の場所から同じ場所に呼び寄せてる事からして、この世界によばれたのは明らかに偶然じゃない。目的によっては気を付けなくちゃね。悪意を持つ存在じゃなければいいけど。」
「たしかに!」
悪意だって。わざわざ召喚までして、私達何させられるの・・・?確かに、相手が分からないのって怖い!
「・・・・・・まぁ考えてても分からないし、まずは出来るなら能力の確認と私達の所持品チェックだね。じゃあ先に、異世界と言えば、の定番のやつやろう。わかる?もし出せたら便利そうなアレ。」
あれね!ステータス画面出すやつ!もし無言呪文で出せたら、隠蔽付けて人前でも見れたりする?よし!
ステータス
あれ?でない。と、思ったら私が座ってる逆側の方に近未来的な青っぽい浮いてる板が出てた。すぐできるの、さすがお姉ちゃん。
「わあ」
「お、出た出た。これいーちゃんも見えてるの?いーちゃんのは?」
「心の中でステータスって言ってみたけど出ない・・・お姉ちゃん呪文何だったの?」
「メニューって念じたら出たよ。」
「わかった・・・。・・・・・・・・・ダメみたい・・・どうして・・・?」
やっぱりできないのかな・・・。パッとしない妹といつもあてこすられる私は、この世界でもお荷物なんだろうか。
・・・いや、諦めないぞ!こんな平凡妹でもお姉ちゃんと一緒に頑張りたいもんね!でもどうすれば。他の呪文で出るのかな?
「・・・最近よく遊んでたゲームのステータス表示はどうやって出してた?ゲームしてた時の操作で。」
ゲームかぁ、あれかな。パイ作りまくる錬金術師。そのシリーズたくさんやった。
「スタートボタン押しっっわあ!」
「お、良かった良かった」
私にも出来た!やったあ!嬉しい!良かった・・・!
「え!え?!お姉ちゃんどうしてやり方分かったの?」
お姉ちゃんに言われた事考えながら話そうとしたらすぐにできたし。
「いや、予想でしかないんだけどね?パソコンのコントロールパネルみたいなの出すイメージしながらメニューって念じたらお姉ちゃんのはでたからさ。イメージあった方がいいのかな?ってだけだよ。それに、みーちゃんはゲームの方がイメージしやすいかなと思って。今の感じだと、みーちゃんはスタートボタンの呪文(?)で大丈夫そうだね。いや、イメージだけでもいけるのか?」
イメージかぁ、なるほどね。さすが何でも知ってる安定のお姉ちゃん!
私が小さい時から沢山勉強してたもんね。残念シスコンさえ治れば完璧だけど、それはそれで寂しいからこのままでいて欲しい私はわがままだ。
私はただでさえパッとしないんだから、しっかりしなきゃ。この世界の事勉強して、お姉ちゃんの役に立ちたい!頑張ろう。
「さすがお姉ちゃん!何でも知ってる!」
「いやいや、世の中知らない事だらけだよ。知ってる事しか知らないよ。お姉ちゃんのハードル上げないであげて!・・・まぁ特に今ここでは尚更ね。仕組みも常識も知らない世界だから、危険を極力回避する為にも、知らないといけない事を大まかにでも把握できたらいいんだけど。ステータス確認して、自分が何をできるのかできないのか、知らなきゃね。どんな危険があるか分からないし。」
さっきも、どんな存在によばれたのか分からないって言ってたし、その事?
「本当は街や村を早めに探して野宿回避した方がいいのかもしれないけど、すぐ見つかるかも分からない上、どういった世界か分からないからね。」
「そっかぁ。」
「運良く街や村を見つけても中に入れて貰えなかったり、騙されたり、悪い人に捕まって奴隷にされたりとかの可能性もゼロじゃないと思うんだ。ラノベの見過ぎかもしれないけど・・・。ここは今のところ、見渡す限り人も動物も全く見かけないし、空気もおかしくない。結界を使えるっぽいという事もあって、危険かも知れない所に何も対策がないまま大事な妹を連れて行きたくはないかな。」
奴隷?そんな事考えても見なかった。そうだよね、日本じゃないんだから、基本的人権なんて無いんだ。戸籍も無いし。
泣いてる時にチラッと、夜になったらどうなっちゃうのか考えたけど、それどころじゃ無いんだ。そうか、地球基準でましてや日本基準で考えちゃダメなんだ。
私達を大事にしてくれる優しい両親がいて、生きて行く事に特に困った事のない、むしろあらゆる手助けがあった私達が放り込まれたらどうなるんだろう。
私達、何があるか分からない所に居るんだね・・・。そもそも人間がいるのかも分からないよね。怖い事があるかも知れないと分かってたつもりなのに、お姉ちゃんがいるからって安心しちゃってた。お姉ちゃんだって今は中学生なのに。
・・・どうしよう。子供なんて連れてるのは危険では?気付きたく無い事に気付いちゃった。
このままお姉ちゃんと一緒にいたらお姉ちゃんも危険に晒されるんじゃない?逃げなきゃ行けない事になったら確実に私はお荷物だ。でも別行動はすごく怖いよ。きっとすぐ死んじゃう。でも怖いからってお姉ちゃんを危険に晒すの?そんなのダメだよ!
どうしよう。
「じゃあいい加減二人のステータスを見よう。重大案件だよ。先に自分のをそれぞれ確認しようか。」
そっか、ステータス。
一緒にいても、差し引きプラスになる能力があったら、お姉ちゃんの役に立つ何かがあったら、一緒にいてもいいよね・・・?
ない時は怖いけど、私は唯でさえ役立たずだから、お姉ちゃんとはバイバイだ。満足に動き回れない子供なんて、お姉ちゃんにとって足手纏いでしかない。
・・・確認するしかない。凄く、怖いけど。
「わかった。」