嘘の番
静かに門が開きはじめる。先程飛び出した二人が仕事を熟したのだろう。門特有の開閉音が鳴らないのは動力が関係していそう。電動ならぬ魔動ってところだろうし。
と言うか、騒めきがうるさい。もめている感じではないから、おそらく役人ではなく野次馬の類いか。むしろあの衣装の揃った面々が役人ではないだろうか?偵察に来た時の門衛とは色が違うが。人々が雪崩れ込まないように抑えている風にも見える。人混みの人員整理に駆り出された海外の警察官の姿と重なり、可哀想だけれど苦笑が漏れた。ご苦労様です。
それにしても開閉音が鳴らない分余計に騒めきが余計に際立つ。手っ取り早く隠蔽膜を解放でもして脅すか?
「騒々しくて申し訳ございません! エウメネス、俺ちょっと静かにさせて来るわ」
おっと。もしかして顔に出ちゃったかな。気を遣わせてすまん。
「フィリッポス!?」
「待て。気にするな」
「しかしこれではあまりにも礼を失しているとしか」
「二人とも。気になさらないで。お兄様も膜を解くなど以ての外でしてよ」
「アッハイ」
何故バレたんだろう?
「私達二人、不審人物なのだから街の方達が驚くのも仕方のない事だわ。しかも金色の謎の物体に皆さんを乗せているのですし」
「ですが、御恩のある方々に対して余りにも不躾な・・・」
「まぁまぁ可愛い事を言うのね。そうね、なら・・・少し待っていてちょうだい。お兄様、此方へ来てくださらない?」
子供へのかわいい発言にムッとした直後に呼ばれ浮き立つ。この子の手にかかれば私の情緒などいつもジェットコースターだ。くそ。喜んで行きますけど!
直ぐに横に浮かせている牛車に近付き、そっと御簾をめくった。
「どうした?」
声を顰めて問う私に妹も小声で答える。
「私もそちらへご一緒しようかと思って」
「またそれか。今度こそダメに決まっているだろう」
「けれど、同じ年頃の少女がいた方が犯罪臭は薄まるのではないかしら。少なくとも魔力の強い大人が子供二人を、とか思われないのでは?」
「う、それは、だがな・・・」
私も気にしていた事を! 確かに絵面犯罪だなと思ってたけどさ! ショタコンの汚名を着せられたらやだなとかね!
「ずっとお兄様の腕の中で大人しくしているわ」
「う・・・」
まって、セリフも仕草も可愛いが過ぎる。上目遣い〜
「後から存在が知られて不審がられる方が面倒よ。きっと。それに最初はそうする予定でしたわよね?」
「・・・」
まてよ、この流れ・・・いってもいい? かな? だってモブの牽制も出来るし一石二鳥じゃん! あーでも後戻り出来なくなる? でもオッケー貰えたらかなり面倒事が減るよ。・・・とは言っても、ま、やるよね、私なら。
「・・・はぁ、全く。仕方ない。それ程言うなら許すとしよう。けれどそれは、私達が番だと言う設定でいくことを了承するのが条件だ」
「はっ??? つがい? それってあのなんとかバースとかみたいな」
「お、まぁオタクなら履修済みだよね。あれ?前もこの話題でたっけ?そうだよその類いの番」
「なんで?????」
「いいか? 私達は二人とも豊富な魔力と整った容姿を持っている」
「おね、お兄様はそうだけれど私は」
「まて、最後まで聞きなさい」
「はい」
あれ、みーちゃんなんか顔赤くね? あ、顔近付けすぎた? これもしかして、じゃない! なんか私の思考、そっち方面へ向きやすくなってないか? ゴホン、それは後で考えるとして。
「私達は魔力の高さだけでも取り込むには十分魅力的な存在だ。婚姻し次代が産まれれば十中八九、高魔力であろうしな。それに加え魔力がお金の代わりになるのなら、金蔓にもなる」
「なるほど」
やっぱこっち方面で攻めるのが正解か。
「するとどうなるか分かるか? 偶然を装ってでも、未婚の男女と面会させたがるであろう事は想像に容易い。二人で過ごす時間は確実に減る」
意味分かるかな?
「えっとそれって」
「見合いだよ。見合い。あの結界にどれ程魔力を使っているのか知らないが、普通の街の権力者なら家は無理でもせめて街にと考えるだろう? 取り込む為にもしつこいだろうね。建前を用意して私達には告げずに、勝手に見合いの様なものを仕組まれる可能性は充分にある」
「でもそんな事、真剣にお断りすればいいじゃない。そもそもそんな事お兄様がさせないでしょう?」
それはそうだけど、それじゃあ話が進まないからね。悪いけど交渉事で弱点を突くのは当然の事だから、半分嘘みたいなもんだけど先に謝っとく、ごめんネ!
「勿論私達がそれをとりあう必要はないし、一蹴すればいい。だが、あの二人はどうだ?」
はっとするみーちゃん。あー、罪悪感。
「あの二人を故郷の者と板挟みにさせたいか?まだ子供だと言うのに」
はいここで少し憂いのある困った顔、出来てるかな?
「それは、確かに私の想像力が欠けていたかも。いくら何でも可哀想よね・・・」
よしよし、もうひと押し。
「私達が番だと知ればその辺りのいざこざは大方消えると言っていいだろうね。」
「因みに、あの子達がこそこそ話してるのが聞こえたんだけれど。なぜか私達神様だと思われてるし、なんなら既に番だと勘違いされています」
畳み掛けようと焦ってついいらん事言ってしまった!
「はえ? なんで???」
あれ? 気付いてない?
「知らない。でもそう考えたらほら、何も変わんないでしょ? 匂わせるのは私がやるからみーちゃんは否定しないでくれるだけでいいんだし」
「そ、そっか・・・」
少し赤らんだモチモチの頬へ、つい手が伸びてしまう。気持ちいい。あーほっぺにキスしてえええーーー! 我慢我慢我慢。ずっと触っときたい。あー頬染めー! キュンキュンするー。このままじゃ早死するんじゃなかろうか。
「みーちゃんさ、私の魔力ビリビリするって言ってたよね? 誤解された理由が、もし抱き上げたり触ってる事だったらどうする? 誤解を解くならもう出来なくなるよ。」
「えっ・・・」
それは何の『えっ』ですか? 触れられなくなるのが嫌って事!? 抱っこやめないで欲しいって受け取っていい???
「罷り間違って、接触してる相手に魔力を流してしまったら? とか魔力差とか色々考えたら、触れ合ってる時点でかなり親しいって何も知らない私でも思うよ」
「で、でもそれは私がお兄様って呼んでるから、兄妹だから接触には慣れてるとかが理由になるのではないの?」
そう、私が気になったのはそこなんだ。
「いい質問だね。それこそ、そこが重要なところだよ。いいか? 私達は兄妹って分かってる筈なのに、番だと勘違いされたんだ」
「あれ? 確かに、なんで・・・・・・」
「逆じゃないかって事。兄妹だから、番だと思われた」
「あっ、え・・・・・・?」
「それが何故かってなったんだけど、さっきの考慮したらやっぱ魔力の受け渡しがなんかありそうだと思ってさ。番なら子作りするじゃん。」
「こっ!?」
子作りくらいで赤くなっちゃって可愛い。おい、興奮するな私。
「部屋に放たれた魔力感じただけでビリビリしたんでしょ? 言ってしまえばセックスイコール粘膜接触じゃん? 兄妹姉妹でこうなら、もっと他人の魔力なら大変な事になるんじゃね? ・・・とは言っても、あくまで全部想像。番とか番じゃないとか、そう勘違いさせた法則がわかんないんじゃ誤解を解くのはリスクがあるよって話。現に何もしてないのに誤解されたんだから」
因みに直感は正しいと告げている。それに言ってしまえばそれなら尚更、私達と人間が子作りなんて出来るわけないって話で(魔力流しちゃってパーンってなる可能性もゼロじゃないからね)、この話自体意味の無い事になる。でもそんなんじゃ、先々私達と同等の存在が現れた時、取られる可能性が存在してしまう。そうなった時、自分がどうなるのか分からない。・・・周知って大事な事だよね。
「・・・確かに、誤解といてからまた番と思われる事したら嘘つきだと思われちゃう」
「そおだね。まぁでも、みーちゃんがどうしても、姉妹なのに気持ち悪いとか、嫌だって事なら、誤解を解くしかないよね・・・、難しいけど、頑張ってみるよ」
はいここで悲しそうな微笑み。できたと思うけど。
「ちがっ! 嫌なわけない!」
「お」
はい一本釣り〜! 牽制する大義名分ゲットー! 嫌なわけないんだ、ふーん。え? 誘導したとは言えめちゃくちゃ嬉しいですが何か?
妹はさっきまでいじってた扇を取り落とし、膝立ちで袖にしがみ付いてくる。必死さが伝わってきて、胸がきゅっと絞められた。わざとふざけた風に考えても、それはおさまらなくて。
「本当?無理して欲しいわけじゃ」
「本当!」
「でも、結構渋ってたよね? 嫌なら」
「違うの! あの、番って設定が、その、恥ずかしかっただけって言うか・・・、ぜ、全然嫌じゃない、です」
平静を装って背を支えながら、言質をとる。私ってほんと卑怯で臆病。クズでごめん!
にしても可愛いが過ぎるんだよな! 愛しさが爆発するわこんなん。真っ赤になっちゃって食べ頃な感じ。え? これ本当に番になってくれたり? して? まて、私はロリコンではない。 でもワンチャンあるんじゃ? な訳ない! 姉妹だっつってんだろ落ち着け私。やべぇ、息荒くなってないよね? ハァハァしてキモいと思われたら死ぬ。落ち着け。そうだ。冷静になれ。・・・・・・よし。
「よかった、嬉しいよ。本当に」
はい、ここで渾身の王子様スマイル。ハル参考。やった事ないから出来てるか分からんけども。照れ照れ笑顔が見れたから成功と思われる。
「コホン。よし。そうと決まれば連れて行こう。何か考えがあったのだろう?」
ちゃんとお兄様キャラも戻すよ。
「あ、う、うん。・・・お願いシマス」
この反応、さてはこの子当初の目的忘れてたね。番のフリする話で飛んじゃったんだろうけど。それもまたいとかわゆし。
みーちゃんを掬い上げる様に抱き上げると、衿元をきゅっと掴んできた。可愛い。顔もちゃんと扇で隠してえらいぞ!
御簾を捲り抱き上げたまま外へ出ると、あんなに煩かった喧騒が止んだ。まーね、それはそうよな。こんな美少女が姿を現せば息を呑むことは理解できる。ここの人間にとっては美少女ってか女神か?




