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シスコン姉妹の異世界生活  作者: キリコ
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エウメネス


 僕の名はエウメネス。僕と従兄弟で幼馴染のフィリッポスは其々の一族の時期長としてあまり時を経ずに決まった為、周囲の土地の神殿へ住まう精霊達への挨拶へ一緒に回る事になった。そのはじめとして僕の住んでいるアルエンティティシアの南東側の隣の土地、サヴァジュへ挨拶を無事済ませその帰りの道中、計画に沿って魔素溜まりへ補充に立ち寄った。そこから出発しもう少しでようやく故郷へ帰り着く、と言う時にそれは起こったのだった。






 もうすぐ街へ着く、と車の中でフィリッポスと帰宅後の予定などを雑談していた時だった。


 不意に外が騒がしくなる。何事かと思っていると額に脂汗を浮かべた護衛が、車の小窓へ身を寄せ叫ぶ様に報告した。


「フィリッポス様、エウメネス様!魔物が追ってきております!まだ追い付かれるのには時間はございますが、現時点で確認できる数は凡そ20!」

「何だと!?魔物がその様に群れるなど聞いた事はないぞ!」

「ですが遠目のカミロが目視しております!」

「くそっ!もう少しで帰り着くと言うのに!ここまで来てこれか!少し待ってくれ、話し合う。」

「了解しました!」


 なんと言う事だ。フィリッポスが信じられないのもその筈、魔物はその様に群れたりなどしない。弱い種類によっては親子単位で片手ほどの数ならあり得るとしても、それならばイーリオがこのように焦るはずもない。フィリッポスの態度もそれを汲み取っての事、状況は絶望的と言う事だ。ならば事は一刻を争う。半分の騎士は僕と一緒に死んでもらうしかない。


「フィリッポス、君は護衛の半数を連れて騎獣で先に帰るんだ。」

「ふざけた事を言うな!俺にお前を足止めに使えと!?」

「そうするべきだ!君は時期領主なのだから。その命は僕よりも重い。分かるだろう!」

「いいや、分からないね。そもそも時期領主などと、周りが囃し立てているだけだ。そんな打診をされた事は無いし、領主様は未だ若くご健在だろうが!いい加減にしろ!」

「だが魔力量的にも、僕達は別れなければ共倒れだぞ!」

「ならばお前が行け。その方が両方助かる可能性は高い。お前は攻撃には向かないだろう。」

「そんな事出来るわけがない!そんな事して、もし君が帰ってこなかったら僕は、」

「俺も同じと言う事が分からないか?その判断が出来ない時点で、俺もお前も領主の器ではなかったと言う事じゃないか。はは。」


 こんな時に笑うな。俯き目に滲んだ涙を拭う。こうなると、護衛を多く連れている事は良かったのか悪かったのか。戦力が多いのは助かるが、全滅となれば無駄に多く優秀で貴重な若者の命を散らしてしまう事になるだろう。両親の過保護が悪手になろうとは。


「フィリッポス様!前方からも魔物が!」

「エウメネス、顔を上げろ。」


 もう一度目元を拭いフィリッポスと目を合わせる。


「こうなったら、戦うしかない。」


 それもそうだ。それしか道は無い。恐ろしいと思う気持ちを何とか閉じ込め、覚悟を決め頷いた。



「よし。イーリオ!車を止めろ!此処で迎え撃つ!前方からも来ているならば時間の問題だ!」

「御意!車を止めろ!陣形を組め!車に指一本触れさせるな!」


 魔物に対峙するのはどれほど鍛錬を積んでも恐ろしい。戦力差の劣っている状況なのが尚更。でも、攻撃には役立たずでも、皆に補助をかける事なら出来る。どれ程戦闘か続くか分からないなら、無駄撃ちする訳にはいかない。僕のこれは魔物が目視できる距離に来てから始めなければ。


「フィリッポス、僕、舞うよ。」

「!そうか、頼む。俺も戦う。車にいるべきなのは分かるが、お前が外に出るなら意味がない。俺が近くで守ってやる。」


 これだから顔のいい奴は。たらしめ。こう言うところがもてる秘訣なんだろうか。羨ましい。まぁ友達甲斐はあるけど!


 止まった車から外へ出る。護衛のみんなは既に陣形を組んだ様だ。


「お二人共何を!早く中へ!!」

「イーリオ、僕は僕の出来ることをやるよ。ここへ魔物が来るなら車に乗って居たって意味がない事は分かるだろう?」

「ぐ、ですが!」

「こいつは俺が近くで護衛する。お前達は訓練通りにやれ。」

「なりません!」

「お二人をそうさせているのは俺達だろう。イーリオ、諦めろ。それに補助が貰えるならそれに越した事はない。少しでも可能性が高い方に賭けたい。それに心配なのはみんなそうだ。堪えろ。」

「ジュリオ!お前こんな」

「やめろ、揉めている時間は無いぞ。皆で助かれば問題は無い。そうだな?」

「「「「はいっ!」」」」


「来ました!先頭は変わらずファイアブル!」

「総員構えろ!」


 僕もスキルを起動した。手には勝手に神楽鈴が現れ、僕は報告を聴きながらゆっくり舞い始める。


 シャン、と最初の鈴が鳴る。


「補助きました!」


 良かった。上手くいっているみたいだ。


 このスキルは神楽舞と言って、巫女が練習を重ね習得する事が多いスキルだ。元々難易度は高いが何故か男性は取るのが更に難しいらしい。けれども僕は、十歳の鑑定の儀で既に持っていた。女性が持つとされるスキルを与えられた事が嫌で、兄姉と違う地味な見目を合わせて揶揄されるのと相まって、それを他人に言及されるのが苦痛で避けている内に、知らない人と接するのが苦手になってしまった。


 その頃既に仲の良かったフィリッポスにも相談もした。見せろと言われ渋々拙いながらも舞ってみせると、幼い彼からは綺麗でカッコいいじゃんと言う感想を送られ気が抜けたのを思い出す。


 彼を死なせたくない。


 神様、どうかお助けください。


 皆の間をすり抜けてきたらしき魔物が僕の方へ近付くのが脇に見えた。フィリッポスが何とか剣で受け止め払う。勿論それだけで倒せるはずも無く、幾度か斬り結んでいるとイーリオが援護に来た。暫くして二人がかりでようやく倒せたみたい。二人とも怪我をしている様だ。


 僕はずっと舞い続けているから手伝うこともできない。悔しい。けれど僕は僕の仕事をしなければならない。僕が止まれば皆の補助が途切れる。僕のこれはほんの少しではあるけれど、敏捷と疲労回復速度を上昇させる。この御行の為に、付け焼き刃だけれど万が一こうなった時の為上昇時の速度などに慣れさせる様、領の騎士達の訓練時に何度もお邪魔させて貰った。皆気のいい者達で、僕も慣れそのおかげでこの御行にも不安はそれ程無かった。それなのに。

その万が一が来てしまった。

こんな事しか出来ないのが悔しい。








 どれくらい続けている?

 もう腕が。


 息がしにくい。目眩もしてきた。足を動かすのも辛い。


 今すぐ倒れ込みたい。けれどそんな事をすれば、皆の動きが鈍り大変な事になる。


 フィリッポスも満身創痍だ。


 だめだ。僕が止まれば彼は競り負ける!







 やめて!フィリッポス!いやだ!いやだ!僕をかばうなんて!だれか!神様!


 落ち着け!回復薬をかけるんだ!手が震える。魔物はイーリオが相手してくれている。僕が舞うのを止めたから負荷があるはずなのに。


 何か言っているけれど聞こえない。早くしないとフィリッポスが!


 その時だった。


『動くな』


 

 声が聞こえたと思った時には、もう体が動かなくなっていた。フィリッポスが間に合わなくなる!何事かと声の方へ唯一動く目をやると、宙に浮いた車からとんでもなく秀麗な、夜の男神と言わんばかりに神々しい男が降りてきた。本当に神様が来てくれたのだろうか。フィリッポスを助けて!


 縋る様に見ていると、その方から途轍もない重圧がかけられている事に気がついた。固められていなかったらすぐに崩れ落ちて額づいていただろう。粗相をしないだけ褒められてもいいと思う程の圧。



 その方が美しく装飾された細長い物を僕の額に当ててきた。



「君は動いてよし。作業を続けなさい。」


 ・・・作業!フィリッポス!体が何かから解放されたのは分かるけど震えて動けない、息が上手く出来ない、どうすればいいの。動いてよ!


「ん?それをかけるのではないのか?そやつ死ぬぞ。」

「あ、う、」

「お兄様、魔力を抑えねば。」


 車の中には女性もいらっしゃるみたい。鈴の鳴るような、と言ったのは誰だっただろうか。その言葉がピッタリの可愛らしいお声だった。助言くださったのか。ふっと重圧が消える。


「か、神様・・・。」

「これで動けるか?作業を続けるといい。」

「!は、はい!」


 急いで回復薬をかける。驚きのおかげで手の震えは少し収まっていた。だが・・・、最上級では無いとはいえ、この程度しか治らないのか!?このままでは時間の問題だ!まだ血も止まっていないのに!


「お兄様、わたくしが治癒をかけてはなりませんか?」


 女神と思しき方が慈悲を与えてくださろうとなさった。そんな事が可能なら、と希望がわく。


「ならん。」

「ですがその少年、そのままでは、」

「私達はただの通りすがり。魔物の動きを止めてやっただけで十分だろう。そうだろう?少年。」


 その通りかも知れない。騎士の皆を解放してくだされば、動かない魔物などすぐに倒してくれるだろう。皆助かるのだ。


 フィリッポス以外は。


 そんなの、


「あ、あの、!大変不躾なお願いをしまして申し訳ございませんが、術があるならばどうかお助け頂けませんでしょうか、何卒、お願い致します!どうか!対価ならば、わ、私の持つ物なら何でも献上致します!どうか!何卒!何でも致します!どうか、どうか!」

「ほう?何でもと言ったか?」

「は、はい。」


 神霊への願い事の対価を考えると恐ろしいけれど、そんな事よりフィリッポスが。


「命でも?」

「・・・、はい。私の命で助かるならば。」


 むしろ僕なんかの一人の命で助かるなら優しいくらいだ。


「・・・そうか。ならばこれをやろう。我が妹の作りし秘薬よ。優しい妹にくれぐれも感謝を忘れるな。・・・沢山かける必要は無い。一滴づつ垂らせ。」

「あ、ご、ご慈悲を賜り、あの、ありがたく頂戴致します!で、ではその、失礼して、」


 恐らくとてつもなく貴重な品だろう、慎重に一滴垂らす。するとたった一滴でかなりの効果を発揮した。これならきっと助かる!


 その後も慎重にかけていくけれど、たまに震えが抑えられない。それでも地道に続けていくと遂に傷は全て塞がった。


 ・・・けれど、フィリッポスは苦しげな顔をしたままだ。痛みはもうない筈なのにどうして。


「お兄様。」

「はいはい。」


 女神様が声をおかけになると、夜の方がフィリッポスに掌をお翳しになった。


「毒と魔力枯渇だな。これを飲ませそのあとこれを舐めさせなさい。魔力がある程度回復したら吐き出す様に。間違っても噛むなよ、どうなっても知らんぞ。体が弾け飛んでもいいならそうしろ。はは!まぁそんなわけないが!ははは!」


 まるで医官が処方するようだと思ったら、とんでも無い爆弾を投げられた。万が一噛んでしまったら。その先を想像すると舐めさせるのを躊躇ってしまう。


「お兄様、不謹慎だわ。どうしてその様な事仰るの?そこの貴方、安心なさって。その子ならば噛んでも問題ないでしょう。」

「冗談なのに・・・。」


 お優しい女神様。夜の方の発言は戯れだったらしい。怒られている。神様の冗談は分からない。私達の命など恐らくどうでもいいのだろう事は分かるけれど。けれど気まぐれでも十分有難い事だ。いや、この感じならば、もしかしたら女神様がご慈悲をおかけ下さったのかも知れない。 


 取り敢えず急いでフィリッポスの口を指で開けさせ薬を流し込む。飲み込めたのか赤黒くなり始めていた顔がじわじわと普段の様に戻り、ようやく開かれた心配げな目に微笑みを返す。今まで目を閉じていたけれど、どうやら会話は聞こえていたらしい。目がちゃんと光りを灯していて安心から涙が滲んでくる。


 「絶対に噛むなよ。」


 念の為伝えると目で頷きを返したので、飴のような薬を口に入れてやった。


「こやつ、何を持っている?この者の胸元を探れ。」

「えっ?え???」


 どう言う事?突然何を・・・


「早くしろ。魔物がまた寄って来ている。」

「!」


 恐ろしい事を言われ、訳が分からないながらもフィリッポスの胸元を急いで探った。左の内ポケットに何か入っている。これか?


「それだな。」


 何か言う間もなくその装飾品の一部を壊された。夜の方の突然の暴挙に驚く。


「な、何をなさいます!」

「お待ちになって、お兄様にはきっと何か理由が、」


 女神の声に我にかえり静かにする。それはそうだ。それに神に口答えをするなど。夜の方は何か集中するそぶりをされると、軽く息をついた。


「よし。取り敢えずは問題ない。」


 言いながらフィリッポスの状態を確認すると、扇で指し示された。


「回復したならこの者を起こせ。このように魔物に襲ってくれと言っている様な物、何故持ち歩いている?お前達を全滅させるのが目的か。」


 あれにそんな効果が!?


「そんな!フィリッポスがその様な事する筈ありません!」


 何かの間違いです!


「だが実際に、いや、そうだな。お前達の揉め事は私には関係のない話だ。さて。」


 周囲を見回す夜の方にならってそうすると、みな泣いていたり青褪めていたり心労をかけたのが分かる。神を相手にしたのだ。然もありなん。万が一怒りを買えばどうなったことか。申し訳ないとは思うけれど、やり直すことになったとしても同じ様にお願いするだろう。


「この者達は解放して問題ないな?」

「は、はい、お願い致します。あの、怪我をしている者に、こちらの残りを使用してもよろしいでしょうか。」

「いいだろう。それはもうお前の物だ。好きに使うといい。それが終わったら皆と別れをすませなさい。お前は願いに命をかけたのだからな。」


 その言葉に現実を突きつけられるも、当然の事と納得している。フィリッポスには怒られそうだけれど。


 夜の方が指を鳴らすと皆が固定から解放され崩れ落ちている。


 すぐにフィリッポスに抱きしめられると、イーリオ達も駆け寄ってきてくれた。


 みなと最後のお別れをちゃんとしなきゃね。



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