side ミズキ① 異世界トリップって何?
「おはよう。瑞樹、朝ごはんできてるわよ。早く食べないと冷めちゃうよ。」
いつもの優しい母の声がする。
「はぁい。おはよう。起きたよ。」
ドア越しに返事をする。
うーん、久しぶりにぐっすり気持ちよく眠れた気がする。今の体調も割といい。ここ数年、不眠のお薬を飲んでも浅くしか眠れず、あまり体調が良くない。
食欲も落ちていて、食事量も中々に減っていた。食べてももどしてしまう。おかげで体調を崩しやすく、家族に心配を掛けてしまっている。
けれど、今日はここしばらく楽しみにしていた日なのだ!仕事の転勤で都会に行ってしまった姉が久しぶりに帰って来ると言っていた。こんな日に体調がいいなんて、嬉しい!最高!
いけない落ち着かなきゃ。あまり興奮すると姉があちらに帰った後また発熱してしまう。
軽く伸びをして、動けるようになるまで少しそのままじっとする。
パジャマから適当な服に着替えてベッドを整え、顔を洗いに行く。顔を洗いオールインワン系のゲルをささっとつける。
「おはよう。お父さん。わたし、今日元気みたい!お姉ちゃん何時くらいにうちに着くかな?」
ダイニングに行きテーブルにつくと、朝ごはんをとうに食べ終わっていたらしいお父さんが、お茶を飲みながら本を読んでいた。
「おはよう。顔色もいいみたいだし良かったな。澪はまだ家も出てないんじゃないか?電話ではお昼過ぎと言っていたと思うが。」
「まあ!ふふふ。起きたばかりでもうお姉ちゃんの話?楽しみにしてたものね。そう言えば、お昼食べてから来るのかしら?後で聞いておいてくれる?」
「わかった!いただきます!」
今日は食欲もあるしいい一日になる事間違い無しな予感!
お味噌汁を飲み一息つく。お母さんのお味噌汁は優しい味がして食欲なくてもあってもいつも美味しい。
私が久しぶりに朝ごはんをパクパク食べられているからか、お父さんとお母さんはお茶を飲みながらにこにこしている。照れちゃうけれど、私は家族に愛されていて、幸せだ。
「ごちそうさまでした。」
「はい、お粗末様でした。」
お皿をさげるも、二人の分は片付けも終わっているようなので自分のだけだ。ささっと洗う。
「はい、お茶」
「ありがとう。」
テーブルに戻ると、お母さんが私にもお茶を淹れてくれた。
お茶美味しいな。ホッとする。お姉ちゃんが到着するまで何しようかな。そうだ!一緒に食べるお菓子を買いに行こう!
お姉ちゃんと一緒だと、何故かご飯も美味しくたくさん食べられるし、普段なら食べたくならないお菓子も食べられるの!
「もう少ししたら、お姉ちゃんと食べるお菓子買いに出かけて来るね。」
「あら、そうなの?お姉ちゃんとみずきの好きなケーキなら買ってあるわよ?」
「それも食べるけど、お姉ちゃんとジャンクなお菓子も食べたいんだもん。」
「いつまでたってもお姉ちゃんが大好きねぇ。」
「はは、澪がいると瑞樹は食欲が旺盛になるからな。いい事だ。」
「別にそんな事無いけど!」
「ふふっ、そうだったかしら?」
いや、あるんだけどさ。人に言われるのは何だか恥ずかしいの!もう出かけちゃえ。あまり遠くに行くと疲れちゃうから、歩いて5分くらいのコンビニに行こうっと。
すぐ近くだけど、お姉ちゃんが到着したら夕飯は外食になるだろうし、気分も上がるし、気が早いけれどもう今からお気に入りのワンピースを着て行こう!自分の(材料だけは高価な)手作りのシンプルなブレスレットと・・・、成人祝いにお父さんとお母さんに貰った腕時計も着ける。他のアクセサリーは夜にお出かけする時に着ければいいよね。コンビニだし。
お姉ちゃんに誕生日に貰ったおしゃれなバックに必要な物をつめて、よし、出発だ。
「いってきまーす。」
玄関から声をかける。
「「いってらっしゃい。」」
私が席を立ってから移動したのか、リビングから返事がかえってきた。
玄関から出ると、優しい風が吹いていて気持ちいい。お天気もいいなんて、素晴らしい!
ゆっくり歩いても近いからすぐにコンビニに着いた。どのお菓子にしようかな。
お姉ちゃんはキリッとしたかっこいい顔立ちの割に、甘い物が好きだ。いや、お顔と好物は確かに関係無いけどさ、なんかギャップがあっていいじゃない?
そんな事を考えながら、チョコ系をいくつかカゴに入れる。しょっぱい系も一つ。これくらいかな?あまりたくさん買っても明日にはお姉ちゃん帰っちゃうし。
ああ、ダメダメ、悲しい事は考えない。しょんぼりしちゃうからね。
お会計をしながら、お家に帰り着いたら少し休憩しようと考える。
ちょっと疲れちゃったみたい。どんどん体が弱っているのを実感してしまう。
あぁもう、考えちゃダメって言ってるのに。
でも病院で調べて貰っても原因不明なの。どうしたらいいんだろう。こんな体調だから正社員のお仕事も辞めて、今は週に数回の短時間のアルバイトをしているけれど、それももう難しくなってきた。このままどんどん弱っていって死んじゃうんだろうか。家族に愛されてるのを実感している身としては、きっとみんなを悲しませてしまう事が分かるから辛い。
お姉ちゃんに会いたい。
大丈夫って言って欲しい。
お姉ちゃんが大丈夫って言うといつもなんとかなるのだ。まぁ、この体調だけはお姉ちゃんの大丈夫も効かないんだけど。
お会計をすませ、入店時とは真逆の精神状態でコンビニを出る。
あれ?え?荷物が急に重くなって驚いて落としちゃった。
と言うか、どうしてこんな所にいるの?
振り返ってもコンビニがない!
道路も無い!
どうしよう、何で?
あ、あの後ろ姿
「おねーちゃん?」