お昼寝タイムに企む姉
そろそろいいかと妹に声をかける。
「みーちゃん、そろそろ帰ろっか。大体分かったし。」
「あー、うん・・・。」
「あら。どうしたの?具合悪くなっちゃった?大丈夫?」
「ううん、なんでも無いよ。なんか、話すのが、ちょと億劫になって来た、みたいな感じがするだけ・・・。ごめんなさい。」
「なんで謝るのよ。そう言う事なら体力が心配だし急いで帰ろう。スピード出すから疲れたなら目閉じてなさい。直ぐ着くよ。」
「うん・・・、ありがとう。」
念の為妹を鑑定するも、特にステータスにおかしな所は無い様だ。ホッとするも、ここの所いつも元気にしていたからか妹が疲れ易い事を失念していた。ただ疲れて眠くなっただけであればいいけれど・・・。妹はこの見た目の歳頃は、まだそれ程虚弱では無かったけれど、再編されたとは言えあの虚弱が進行した大人の体が若返った仕組みは私には分からないのだから気を付けるに越した事はない。
素直に目を閉じ私の肩口に頭を預けた妹を確認し上空へ浮上した。ある程度の高度へ到達するとそのまま家がある大樹の方角へ進む。行きよりもかなりスピードを出しているが、結界のおかげか全く影響は無い。そのおかげで県を一つ二つ跨ぐ程の距離をものともせず直ぐに家に着いた。結界を通り抜け玄関ポーチへ降り立つ。
「着いたよ。大丈夫?」
「え・・・?もう?はや、お姉ちゃん、もしかして行きの時すごく加減してた?」
「ああ、うん、勿論。そう言えばさ、話変わるけどみーちゃん、高いとこ苦手だったのにこの短時間で随分慣れた様だったね?」
「え?・・・言われてみると最初は少し怖かったけど、お姉ちゃんに抱っこされてたら、平気になったみたい。なんでだろ・・・?後半なんて、高所恐怖症だった事すら、忘れてたし・・・。」
「だよね、なんか見ててそう思ったもん。・・・あー、あれかな?自分で浮けるようになったからじゃない?ほら、機械とか建物に命預けるんじゃ無くて、いざとなったら自分の意志で浮遊できるって言う安心感とか。・・・まぁでも悪い事じゃないしいいんじゃない。」
「そだね。いい事だし、別にいっか。」
言い合いながら一応二人を浄化しスリッパへ履き替え家に入る。
「え?なんで二階に行くの?」
「ちょっとお昼寝しなよ。疲れたんでしょ?病院あるか分からないんだし、大事をとった方がいいんじゃ無いかな。」
「ええ?でも別に眠くは、あれ?・・・無いことも、ないかも・・・?でもそんな、具合悪いとかじゃ、無いよ?」
妹がポツポツと途切れ途切れに静かに話すのを聞きながら、二人ともに再度全身に浄化をかけ廊下から部屋に入り足を止める。いつも寝起きしている寝室と二間続きの私室部分に置いてあるソファが目に入った。スイートルームの様な部屋割を参考にして貰えれば想像に難く無いと思う。寝室にもソファセットはあるけれど寝る前に妹に白湯を飲ませようと思ったものの、寝室には湯を沸かせる設備は無い。私室の一画の、給湯設備が目隠しされている付近にある応接セットのソファへ妹を抱いたまま座った。
「うーん。じゃあみーちゃん自己申告しないから、お姉ちゃんが勝手に気を付ける事にします。」
「えっ、あの、・・・ごめんなさい。」
「ああ違う違う。責めるつもりじゃないの、ごめんね怒ってないよ。大丈夫、よしよしいい子。だってほら、・・・こっちへ来る前なんかは、もう常に疲れてる感じになってたんでしょ?ハルに聞いたよ。」
「あっ、・・・なんか言いにくくて・・・。」
「いいよ。で、その状態に体の感覚が慣れちゃってるから、自分では気付きにくいのかも知れないね。」
「・・・うーん、そうなのかな・・・。ちょっと、話すのが億劫だなって、思ってただけなんだけど、寝なさいって、言われたら、なんか、急に、ねむくて・・・。」
おっと、今直ぐにも眠ってしまいそうだ。水分を取らせねば。お湯を沸かして白湯を、と思ったけれどもうお水でいいか。
(あっ!魔法で温められるじゃん、私はバカか。)
「みーちゃん、寝る前に少し水分とろっか。」
洗浄済みの空のマグカップに水を出し、ちょうど良い温度へ暖めると、妹の口元へ沿わせる。
「ふーふーしなくてもそんなに熱くないからこのまま飲みたいだけ飲んで?」
「うん・・・。」
妹は素直にそのままコク、コク、とゆっくり数口飲んだと思ったら、はふ、と息を吐いてそのまま眠ってしまった様だ。
私の腕の中ですっかり安心しきって眠っている妹を見る。途轍もなく愛らしい、小さくなってしまった私の妹。
先程私が自分で言った、妹があちらではもう常に疲れてる状態だった、と言う事を妹からでは無くハルから聞いた時は、途轍もなく寂しく感じたものだ。私には言ってくれなかったのに、と。けれど妹からすれば、たまに帰省する時にしか会わない姉に言っても仕方無い上、たまにしか会えないからこそ、楽しい話がしたいと考えるのは当然の事だったのかも知れない。体調の話をハルから聞き苛立ち、ハルに八つ当たり気味に話していた時にそう諭され、それにもまた苛立ったものの、その言葉には納得してしまったのだ。
その後、「まぁ?もう姫には私が付いてるから安心して。いい加減シスコンもやめてどうぞ。姫は私が末長く幸せにするので。」と続けて煽られ、次あったら殴ると心に決めたのだが。
その妹は小さくなって、異世界で私と二人きり。妹には悪いけれど、私大勝利と言っても過言では無い。可愛がり放題、甘やかし放題である。
(それにしても、あの三人、ああやって受け取る相手によっては勘違いさせそうな事ばかり妹に言っていたけれど、まさかガチだったとか無いよね?牽制し合ってたし・・・。いや、同性だしさすがに無いか。期間はごく短くともそれぞれチラホラ彼氏がいた事もあったしね。)
そう思いつつも、妹にはそこの所の確認は出来ない。何故なら万が一肯定されたら姉は死んでしまうので。まぁ、その様な雰囲気になった所は見た事ないし、ネタだったのだろうが。
(ハルが偶にするあの鳥肌もののさむい王子様ムーブに、みーちゃん、頬を染めていた事もあった様な気がしたけど、気の所為気の所為。その様な事は無かった。うん。)
よし、と気を取り直して、寝室のベッドへ妹を寝かせ私はその近くのソファへ座った。妹が寝ている今の内に作成する衣装を決めねば。もう作っちゃった・・・、と悲しげに言えば多少派手でも着てくれる筈。
メイカー、と念じてスキルを立ち上げ、出てきたインターフェースから裁縫アイコンをタッチする。色々な名前がズラッと出て来たが所々文字が灰色になっていて、そのアイテムはタッチ出来ない様だ。おそらく材料か熟練度的な物が足りていないのだろう。
アイテムが、服と小物とアクセサリーまでごちゃ混ぜに並んでいて困った。これでは一通り確認するだけで一苦労な気がする。どうにか出来ないかと舐める様にまじまじと見ると、今見ているページの上部に、全て、とタブがついていた。その右に幾つかタブが続いており、全てタブの右にコーディネイト、と言うタブがあった。その隣はオリジナル、オリジナルコーディネイト、上衣、下衣、頭、足、と細かい分類が続いている。しばらく流し見ていると、なんと!アンダーウエアのタブの中にコルセットや肌着に埋もれてブラやパンツ等も載っていた!これで今持っている下着の着替えがダメになるのを恐れる必要はない!一種類しかアイコンが無いシンプルなもの一択なのが悲しいが贅沢は言っていられない。熟練度が上がれば追加されるかも知れないし。寄り道になるけれど、チュートリアル替わりに試しにこのシンプルなショーツを作成してみる。SMLが選べる様なので試しにMをタッチ。材料は足りている様だ。
タッチしろ、と言うように次から次へとカラーやモチーフを選ぶアイコンやボタンがでてきて光る。どうやらあのアイコンは総合的な物で、作成時に色や柄を選べる様だ。その光に逆らわず選びタッチしていくと作成開始、とボタンが出てきた。どうやら始まるようだ。
開始ボタンをタッチすると、実物大の半透明のホログラムが出てきた。幾つかの部位に数値が
出現し光っている。何となく、その数値分魔力を込めろと言われている気がして、試しにそうしてみると何処からともなく糸が出てきて勝手に織られていく。
先程チラと見た材料には何とかスパイダーの糸と記載されていたから、おそらく何らかの蜘蛛の糸なんだろうけれど、魔力視を使って糸に魔力が含まれていると言うことは魔物素材なのだろうか。いや、この世界ならば普通の動植物に魔力があっても不思議ではない。
等と、どうでもいい事をツラツラと考えながら
ホログラムを上下左右に回転させながら光る数値に魔力を込めていく。自分から切り離し済の魔力を操るのは少しだけ、少しだけ苦手かもしれないが、体内の魔力を込めるだけならば至極簡単な作業だ。私は操作よりも放出に特化しているのかも知れない。
そうこうしている内に完成したらしい。淡くポワッと光ると、パステルブルーのかなり質の良いレースのショーツが完成した。念の為引っ張ったり少し揉んでみたりしたが、糸の綻びなども全く無く十分使えそうだ。むしろ、お値段もそれなりにする上質な物を購入していた筈の私の所持品よりも更に良い物だ。値段を見ない類の人が買うやつ。
まぁそれはいい。作り方が分かったので、真剣に衣装を決める事にする。この分なら質の心配はしなくて良さそうだ。
違和感を持たれないよう説得力を持たせるならば、頭から足先まで同じ趣向の物を揃えるべきだろう。商隊を見ていて、同じ商隊の者は生地や柄、形が多少違えど衣装が殆ど同じであった。一部分だけ付けている、付けていない、と言う様な違いはあったものの、地球のようにてんでバラバラに和と洋を混ぜたりジャンルの違うアイテムを組み合わせて其々おしゃれを楽しむ、と言う感じでは無かったのだ。だからこそ商隊毎に違う土地から来ていたのだと感じたとも言える。
例えば極端な話、お高い着物の人が頭にカンガとかを巻いていたら日本人なら違和感でいっぱいになる場合が多いと思う。洋風の小物を合わせるならまだしも。この世界のおしゃれ上級者はそう言うこともしているかも知れないけれど、そんなものはこの世界をよく知って慣れてからで無くては。いくら外国人だから、で押し通すとは言っても、拘りがある訳でもないどうでもいい事で怪しさを増加させるのは馬鹿すぎる。
と、言うことで、コーディネートのタブの中から選ぶ事にした。このタブの中にあるのは、それこそ頭から足先までセットになっている物だったのだ。見ていると、和装や洋装のセットものは灰色になっているアイテムが少ない気がする。さらに言えば、和装に関しては材料はあまり変わらないのにも関わらず、洋装や他とでは付与される特性が大幅に違うのだ。例えば淡い紫のドレスの特性が、クリーン・破壊耐性なのに比べ、桜文のピンクのグラデーションの振袖はクリーン・形状記憶・破壊耐性・全属性魔法耐性・、となっている。どう考えてもおかしい。かと言って、難易度が高いと言う訳でも無い。
色々見ていると、着たことが無いたぐいのものが特に難易度が高い事に気が付いた。そう考えると辻褄が合うのだ。着物は割と着る機会が多かったし、下着類は言わずもがな。先程の紫のプリンセスラインの物はああだったけれど、Aラインやスレンダーラインの物は難易度も低く特性もいいものがついている。ちょっとしたパーティやお呼ばれで着ていたからではないだろうか。よくわからない、おそらくこの世界の民族衣装らしき物などは殆ど灰色だ。偵察の時に見たアオザイ風の物やシンプルな丈の短い詰襟の上下に一枚布を巻き付けた物などはかろうじて灰色でこそ無いが、難易度が高過ぎる。スキルの仕様を推測するに、作りたければ一度購入して着てみなければ難しいだろう。
洋装にするか和装にするか悩んでいたが、明らかに性能がおかしい物を見つけてしまった。なんと十二単衣があったのだ。アイテム名には女房装束と書かれている。しかも特性がおかしい。クリーン・形状記憶・破壊耐性・全属性魔法反射・マルチブースト・軽量化が付いている。チートと言うか、完全にぶっ壊れ性能である。魔法反射とマルチブーストだけでも、ゲームでのラスボス戦まで着れそうな内容。もうこれを妹に着せろと言わんばかりではないだろうか。旅行に言った際に体験の程で母と三人で着て写真を撮った記憶はあるが、それだけだ。どう言う理屈でこれだけおかしな性能になっているのか・・・。これを着た妹をアカシア様が見たいだけでは無かろうな、とついチベスナ顔になってしまう。冤罪だったらごめんなさい。
まぁ、素材も多めにある様だし別にいいけれど、これを着て旅をして来ましたと言うのは違和感の塊では無いだろうか。せめて何か乗り物に乗っていなければ、いくらあの都市でなら魔力富豪になれそうなスペックとは言えども怪しさしかないだろう。だが、かと言って他のにするにはこの性能は惜しい。これを着ていれば妹が危険な目に遭う率は格段に減衰する。
もういっそのこと逆に魔力の高さを見せ付けて目立つべきか?・・・あの時は現実逃避にあえて触れなかったけれど、あの場にいた人物は全て魔力のランクは黄色だったのだ。衛兵に豪胆な、と驚かれていた若様とやらも、実力者らしき冒険者達ですらも。因みにマップの自分達に設定していた色を解除してみたが、金と銀が消えると魔力ランクは私と妹は黒で表示された。妹には言えず驚いて直ぐに戻したけれど。あの様子の人々が黄色ならば、黒の私達と一般市民ではかなりの差があると言う事。私達姉妹が魔力チートな事は確定だ。
ハルと友人だったお陰で皮肉な事に、今更他人の視線は気になら無い。それに、逆に顔が売れて常に人目があるならば、妹に降りかかる犯罪も起こり難いのでは無かろうか。日常の中で一般市民がどの程度魔法を利用しているのか分からないから、私達が今普通に使っている魔法が一般的な物か高度な物かか擦り合わせできない。目立たないという選択をするならば、一般的に使われている魔法がどの程度か詳しく知らなければ難しいが、こればっかりは腰を据えて市民の生活を観察しなければ無理だ。黄と黒程の魔力差があるならば、すぐにやらかすに決まっている。まだ此方に来てそれ程経っていないのにも関わらず、もうすでに無意識に魔法を使っていたりもするのだ。一般市民のフリは難しいだろう。私達は悪くない。魔法が便利すぎるのがいけないと思う。
数秒迷うも、やはり私の面倒くさがりメンタルが勝利してしまった。だって、目立たない様にするならば、気を付けなければならない事項が多すぎるのだ。その点を諦めてしまえば妹を守る事に注力できる。
(よし、方向性は決まったな。みーちゃんが嫌がらなければ、だけど。一先ず作れる物は作って見よう。素材は十分あるしね。)




