何事も予習は大事
「今の一連の動作の流れからすると、あの木札が通行証って事になるのかな。」
「だよね、私もそう感じた。ねね、お姉ちゃん。それなら中に入る為の通行料か手数料かは魔力で支払い出来るって事で合ってる?そしたら私達無一文じゃ無いよね?」
「うん。それにもしかすると貨幣は流通してない可能性も出てきたね?だって魔力結晶が貨幣の替わりも出来そうじゃない?あの石板があれば。・・・いや、でも小さな商店に一々あのミルク色の石板の魔道具みたいなの用意出来るもんかな?そんな安いはず無いよね?」
「・・・そうなると、魔力でやり取りできる所はある程度決まってて、やっぱ貨幣は別でちゃんとあるのかなぁ。」
「でも貨幣を作って管理するコスト考えたら利に見合わなくない?・・・うーん、分かんないね。」
ヒソヒソと話しながら衛兵の頭上を着いていくと、思った通りアオザイ商隊がいた所へ戻って来た。どうやらアオザイ商隊は既に移動の準備が出来ている様だ。もう皆馬車に乗り込んでいるのか、マントの人物は見当たらなかった。この様子だと、おそらく通行証の受け取り待ちだったのであろう。
衛兵が先頭の護衛に何事か話し木札を渡すと、護衛のリーダーらしき人物が後方へ出立を告げ動き出した。衛兵はそれを確認するとまた門へ戻って行く。なんとは無しにそれを見送った。
「ねぇみーちゃん、あの衛兵、端数の小さな魔力結晶返さなかったね。」
「みたいだね。あの人のポケットにまだ入ってるよ。」
「ん?ああ、魔力視か。て事はあれチップだったのかな?あんなちょびっとで賄賂な訳ないし。」
「うん、微々たる物過ぎるもんね。って言うか、通行料?入国料?手数料?さ、すごく安くない?壁の中に投入した魔力結晶ですらすごーく小さかったよね?こんなちゃんとした城壁ある都市なのに。鑑定できる距離じゃなかったのが残念。」
「まぁ確かに?魔物に脅かされてるなら、こんなしっかりした城壁の都市にみんな住みたい筈だから、住民税みたいなのは高そうだもんね・・・。ふむ、なら旅人料金とかかも知れないね。何日間滞在して良いとかさ。じゃないと移民ですぐ満杯になるだろうし。あんな入国のシステムもあるなら、ちゃんと統治されてそうだし城門から見えた広場も汚らしくはなかったよね。」
「ああ!それなら納得。」
ぼーっと人々を眺めていると、並んでいた冒険者風のグループの番になった様だった。
「あ!みーちゃん見て見て、さっきの冒険者っぽいグループが入国手続きする番っぽいよ!業者と個人じゃ違うかも知れないし見てから帰ろ。」
「うん!」
人々の頭上をシューっと急いで素早く門まで近付く。すると丁度手続きが始まったところの様だ。
「アルエンティティシアへようこそ。滞在許可証か何れかの認定証をお持ちでしたらご提示願います。」
衛兵が問うとパーティリーダーなのだろうか、盾を背負った男性が腕時計を見せるような仕草で手首を見せた。
「ありがとうございます。依頼が目的であれば審査は免除になりますが・・・。」
「いや、拠点を変えようかと思っている。下調べの様なものだ。様子見といえばいいか。実際見て確認する為に来た。」
「なるほど、かしこまりました。では此方へは始めてでしょうか?」
「ああ。」
「それでしたら少し面談させていただきます。その後に入場手続きになりますので、この木札をあちらの者にお渡しください。混みますので並ぶのは上役の方お一人のみでお願いします。」
「了解した。」
衛兵がそう話すのを聞いて妹と顔を見合わせた。衛兵があちらの者と言ったタイミングで指し示した、門のこちらと逆側の壁にあるテントを見ると、簡素な机と椅子が数組置いてあり面談が行われている様だった。冒険者はキチンと最後尾へ並んだ様だ。
「面談してる・・・全然気付かなかった。」
「私も・・・。初めてだと面談なんてあるの?入国管理、厳重だね。知らない事聞かれたらどうしよう?お姉ちゃん。」
「面倒だな・・・。」
面談を見守っていると、冒険者の三人程前に並んでいた人物の所へ身形の良い男性が来て、場所を変わった。態度と雰囲気からして並んでいたのはおそらく従者か何かだった様だ。すると直ぐにその代わった男性の番になった。
「では其方へおかけ下さい。」
「一番上役の方でお間違い無いでしょうか。」
「ああ。」
「アルエンティティシアへ来られた目的はどう言ったものでしょうか。」
「特に目的は無いが、観光、だろうか。」
「か、観光ですか。それはまた豪胆な、・・・失礼しました。同行者は居られますか。人数もお願いします。」
「侍従と部下四名が同行している。」
「滞在日数はどの程度のご予定でしょうか。」
衛兵は聴取しながら白い大理石のような石板に指を滑らせている。気になり上から観察すると、指を動かしたあとから石板に文字が浮かんでいるのが見えた。もしや文字を入力しているのだろうか。これが調書がわりと言う事か。
「今の所一月程のつもりだが。」
「ご職業をお伺いしてよろしいでしょうか。」
「ふむ、元騎士、と言えば良いだろうか。」
「元、ですか。」
元、と聞いて衛兵は視線を上げ男性を見た。理由によっては、と言う事かしらと考える。
「ああ、家を継ぐのでな。」
「なるほど、失礼致しました。お答えいただきありがとうございました。最後に此方に手を翳して頂けますか。」
そう言うと衛兵は、掌大のかなり淡いパステルブルーの石板を取り出した。男性は躊躇う事なく手を翳す。
「はい、結構です。!なんと、キリクスの若様でいらっしゃいましたか。」
石板を確認し、衛兵は瞠目した。男性は有名な家の出身だった様だ。
「アルエンティティシアへようこそ。問題は勿論ございませんでしたので此方をあちらの者へお渡し下さい。良き滞在になりますよう。」
「ああ、ありがとう。」
そう言うと男性は木札を受け取り立ち去って行った。
「お姉ちゃん、あの人良家のご子息だったって事であってる?」
「そうだと思うよ。話し方も態度も上に立ち慣れた人のそれっぽかったし。身形も良かったしね。商隊の幹部みたいな人達以外、みんな結構汚れてるじゃん?旅して来たんだから当然なんだろうけどあの人綺麗なままだったでしょ。お世話されてるんじゃない?」
「同行者に侍従がいるって言ってたもんね。」
ふぅ、と息をついて周りを見渡す。気の所為で無ければ身形のいい人々は面談が短いかも知れない。若様と呼ばれていた男性よりも前から面談していた少し見窄らしい2組はまだ終わっていない様だし、出身地や家族構成まで聞かれている。
「うーん、みーちゃん、帰ったら持ってる材料でちょっと上等な服作らないといけないかも。身綺麗な人の面談だけ短い気がするんだよね。」
「私も思った。拝金主義かと思ったけど、ある程度お金持ってる方が犯罪を起こす理由は少なさそうのは確かだし、社会の成熟度によっては仕方ないのかなぁ。」
「それもあるだろうけど名前の確認が最後っぽかったから、やっぱ貴族とか地位が高い人のお忍びだった場合とかの想定もして忖度してるんじゃ無い?若様とか言う人に驚いてはいたけど別にそのまま流してたから、よくあるんじゃないかと思うんだよね。」
「なるほど!お姉ちゃんよく見てるね。えーっと、それで、私達ちょっといいとこの子のフリするって事?」
「うん、その方が詮索されなさそう。どうせこの都市の社会構造とか関係してんだろうけどねー。見窄らしい格好してたら侮られた挙句、細かく聞かれて、最悪答えられないかも知れないし。」
「この際だししょうがないのかな。じゃあ言動もおば様のお家に訪問した時とかみたいにお嬢様達のまねしとけばいい?」
「身形だけよくても逆に怪しいし、まぁそうだね。と言っても、自分では分からないかも知れないけどちゃんと教育されてるよ。人前って事さえ忘れなければいつも通りで大丈夫。」
「肩こるけど、不信感持たれるよりはましだと思うしか無いかぁ。」
少し嫌そうにしている妹をチラと見る。あまり派手な物が好きでは無い妹を久しぶりに着飾れると思うと一気に気分が上向いてきた。楽しみだ。
「あ!お姉ちゃん、冒険者さん達の番みたいだよ。」
一人でソワソワしていると妹に呼ばれ、言われた方へ視線を向ける。
「一番上役の方でお間違い無いでしょうか。」
「ああ。」
「アルエンティティシアへ来られた目的はどう言ったものでしょうか。」
「拠点変更予定なのでその下見だ。」
「変更理由をおおまかで良いのでお聞かせ願えますか。」
「理由、と言うほどの事でも無いが、魔力が多い者には暮らしやすいと聞いたから見にきただけだ。」
「そうでしたか。失礼かもしれませんが、他の土地では多い方でもこちらでは人並み、となってしまう場合がかなり多いのでお気を付け下さい。念の為。」
「ああ、分かっている。」
「同行者は居られますか?」
「パーティメンバーが二名。」
「滞在日数は如何程ですか?」
「取り敢えず2巡りのつもりだ。決定が早まれば短くなるやも知れんが。」
「なるほど。出るのは早まる分には届の必要はございませんので。延長される場合は庁舎へ申請されてください。後は・・・、ご職業をお願いします。」
「ハンターだ。所属はグルカンザス。」
「グルカンザスから!?遠路はるばる、え、2巡りでまた戻るのですか?大変でしょうに・・・。永住申請で無くて宜しいので?」
「いや、それほどの労苦は無かったな。案じてくれるのは有難いが大丈夫だ。今回はあくまで下見だしな。」
「これは、差し出がましい真似を、申し訳ありません。それでは最後に此方に手を翳して下さい。」
冒険者がパステルブルーの石板に手を翳すと衛兵が確認する。
「はい、結構です。問題はございませんでしたので此方をあちらの者へお渡しください。アルエンティティシアへようこそ。良き滞在になりますように。」
「ありがとう。では。」
そう告げると冒険者風の男性はパーティメンバーの元へ去っていった。




