魔力枯渇
「えっ!?急にどうしたの?」
雰囲気を一変させた妹に戸惑いつつ尋ねると、頭痛でもするかのようにこめかみに手を当て静かにこちらへ振り向いた。
「・・・お姉ちゃん、あれから、どのくらい時間たったの?今はわたし?わたくし、ちがう私っ、うっ、げほっ、」
突然錯乱しえずく妹に驚いていると、そのまま床に蹲り吐き戻してしまった。慌てて洗浄をかけ、揺らさぬようそっと抱き上げる。ソファへ寝かせ顔を覗き込むと蒼白になっている。どう言う事だ。あの一瞬で何が。
「みーちゃん!?頭痛がするの?吐き気?熱は無さそうだけど・・・!」
焦りながらも大きな声を出さないように気を付けつつ問いかけるも、荒い呼吸をするだけで返答は無い。気を失ってしまったのだろうか。
何か手がかりでもと、体調に問題は無いのか、何か変化がないかを意識して妹をへ鑑定をかける。
Lv.7
HP 91/1060
MP 32851/873665
魔力枯渇(強)
体力減少(中)
(何で、さっきまでもう少し体力回復していたのに!このデバフみたいな表示のせい?違う、これは現在の状況が載ってるだけだ。原因がある筈。MPの器がかなり大きくなってる!さっきまで50万程だった筈だ。これか!?急に総量がふえたから?何故?いや、それよりも先に回復させないと!MPが凄い速さで減ってる、HPも危険だけれど、まだゆっくりだ!先にMPを!)
直ぐに高濃度魔力水を取り出しグラスへ移すと、妹の上体を少し起こしスプーンで口に含ませる。グラスを口に当てたところで気を失っているのに飲めるはずもないからだ。
(良かった、ちゃんと吸収されてるみたい。)
MP 38769/873665
そのままひと瓶全て飲ませ、次いでHP回復の為ジュースも二杯程飲ませた。これ程水分ばかり摂らせればさぞお腹がタプタプしているに違い無いと思ったが、どうもその様子は無い。枯渇寸前だった為に、即座に吸収されたとでも言うのだろうか。それなら、と、魔力水をもうひと瓶のませた。
Lv.7
HP 1017/1060
MP 129823/873665
魔力枯渇(弱)
どうやら危機は一先ず去った様だ。体力減少は消え、魔力枯渇も(弱)へ下がっている。数値の減りも止まった。念の為もうひと瓶飲ませようかと考えたところで、妹が咽せると荒い呼吸をしつつも目を開いた。
「はぁ・・・はぁ、・・・ああ・・・、ずっと側にいてくださったのね・・・。お姉さま・・・。私、私・・・なんてことなの・・・ずっと知らなくて、・・・。言い付けを守らなくて、ごめんなさい・・・。」
そう言うと、妹は気を失ってしまった様だ。
(なんだって言うのよ、それは。まるで、まるで妹が妹でなくなるような・・・。何が起きてる?)
冷や汗が止まらない。
(妹が何かに乗っ取られた?いや違う。)
疑った瞬間、あれは私の妹だ、といつもの直感が頭痛を伴いつつ強く知らせてくる。一体何だと言うのか。私にも何が起こってる?激しく動揺している自身を認識する。
(落ち着け、今私が取り乱してはならない。)
痛む頭へ手を当てながら、感じ取った自身の渦巻く魔力をなんとか制御し落ち着かせると、自然と思考も落ち着いた様だった。私が考えているよりもずっと、精神と魔力は密接に影響し合っているのかも知れない。
それは今はいい。私をお姉様と呼んだ妹。その様な呼び方をされた記憶は一度も無い。
(考えろ。考え続ければ、いつもの直感が教えてくれるはずだ。)
最後の魔力水のひと瓶を飲ませながら思考する。あの時作成した五瓶の内二瓶は妹へ渡してしまっていた。しくじったな、とは思うが、よもやこんなにも早く使う事になるとは思いもよらなかった。もっと濃度を高めた物を作成しておかなければ。もう二度とあっては欲しくは無いけれど、備えは必須。
(もしもあの時、みーちゃんに言われず作っておかなければどうなっていた事か。考えたくもない。)
Lv.7
HP 1017/1060
MP 179714/873665
(よし、枯渇の表示も消えたし減少も無くなった。ハァ〜・・・、めちゃくちゃ焦った。アカシア様に約束したばかりで速攻危険に晒してるし。人生で一番焦ったわ。)
顔色も戻り、普通に眠っているだけの様に見える。ステータスに異常が無いならば、もうこのまま寝かせたほうが良いだろう。眠ればMPも回復するはず。
抱き抱え寝室へ行くと二人まとめて全身洗浄し、妹をベッドへ寝かせた。考え事をする為、ベッド横へ椅子を出すと、一つ息をついて椅子へ背を預けた。
念の為、先程の一連の発作が万が一またおきた場合の為にしばらく妹を視界に入れながら考える事にする。
突然増えた妹の魔力の器。妹では無い口調なのに妹であると伝えてくる私の中のナニカ。
動揺する魔力を制御する事で落ち着いた、私自身の精神。そこから考える魔力と精神は密接に繋がっていると言う推測。ならば、あの妹の魔力の減少と、器の増大についてあの子の精神が関係しているはず。あの時に精神に何かが起こった、と言う事だ。
直前にあった事と言えば、突然妹の雰囲気が変わり、『アカシア様が死んでしまう』と言ってきた事だ。その後は、思い出したくもないが、まるで他者に乗っ取られた様に普段と違う口調で話し、私をお姉様、と呼んだ。
(いや、違う。その前に、どの程度の時間が経ったのか聞いてきていなかったか?そしてわたしと言ったりわたくしと言ったり、一人称が混ざった・・・。これだ!)
私の中のナニカがあれも妹だと言うならば、おそらくあの一瞬で今の私が知らない妹(前世の記憶の様な何か?)が流れ込んできたのではないか?それならば、魔力がどんどん減っていた理由も想像がつくと言うものだ。
そう、何かをきっかけにして、おそらく星の叡智から情報(いや、この場合は記憶と言うべきか)を引き出したのだろう。
だが、それだと魔力水を飲ませた時に減少が止まった説明がつかない。あの時に引き出しが止まったのだろうとは思うが。あの時に、偶々、最後まで見終わったと言うことか?あり得ない。偶然にも程がある。
(アカシア様がなんか如何にかこうにか干渉して止めてくださったとか?まだそちらの方が偶然よりはあり得る。)
但しその場合はいよいよアカシア様の命は危ぶまれる状況なのは想像に難く無い。生物では無いから消滅?とかになるのだろうか?地上の生命体へ干渉するだけでも事だと言うに、剰え妹の言っていた状態なら想像するまでもない。
けれど、そもそもそこまで力は残っているのだろうか?召喚し受肉させただけで干渉出来なくなっていたのに?となると、やはり違う何かがあったと見た方が良い気がする。
(まぁ、だからそれが何なのかって話なんだけど・・・。振り出しに戻ったな。)
あの時、おそらく飲ませた時から記憶の流入が徐々におさまり、その関係で魔力の消費が止まったからこそ魔力水で補充しただけで枯渇の表示は消えたけれど、もしも魔力消費が止まらなければどんどん飲ませ続けなければいけなかった筈だ。そうなるとイタチごっこになり、枯渇の表示は消えなかっただろう。
鑑定しながら飲ませていたが、数値から推測するに、枯渇の表示は総MPの2割を下回ると表示がでると見ていい。
((強)がつくのは1割をきった時かな。90000くらいまで回復したら(強)から(弱)に変わったし。いや、それともHPを回復したのが良かったのか?魔力水ひと瓶の後飲ませたジュースで、多分HP500とMP2000くらい回復したと思う。一瞬だったから絶対ではないけど。
その時点で
魔力水
MP50000
ジュース(2本分)
HP1000
MP2000
を飲ませ終わって、消費スピードの落ち始めていた魔力消費が完全に止まったと思う。但しこの時点ではまだMPは130000弱までしか回復しておらず、枯渇表示は消えていなかった。その後、更にもうひと瓶魔力水を飲ませ表示が消えた、という流れだったはずだ。
そこを考慮すると、消費を完全に止めたのはジュースと言う事だろうか?でも魔力水を飲ませ始めた時点で消費スピードは落ちていた様にも思う。
・・・対処療法と言うか、応急処置の様な対応だった時点でその辺りの正確な事情を知る事は出来ないのだろう。もっと考えながら対処すればと後悔するも、あの時の私にはあれが精一杯だったのだ。そもそもあの様な突発的なアクシデントで一般人に焦るなと言うのは無理な話だと思う。と言うか、順応スキルでは抑えきれない程動揺していたという事だろうし。
(頼みの直感も、合ってるような合ってないようなモヤモヤしか感じないし、疲れた。)
(取り敢えず、枯渇のそれぞれの段階によって不調の具合が違う様だった事からして、これから使う場合はそこを踏まえて使わないと危ないね。MPが残ってても枯渇の症状で倒れれば何も出来なくなってしまう。)
(そもそも何故、突然魔力の総量が増えたのだろう。精神と魔力の関係を考慮して、記憶が流入してきた事が原因とか、そうか、やはり記憶が原因か。)
ようやく直感?理解力?が働いたようだ。だが、何故記憶が流入した事で総量が増えたのだろう。ラノベ的に魔力量に影響しそうな事象を考えると、
①過去を思い出した事によって能力の引き継ぎがあった?
②過去に経験し乗り越えた物事を思い出し精神力が上がった?
(なるほど、②が近いけれどそれだけではないと言う感じか。)
これ以上は分からないようだ。
窓の外に目をやると、すっかり暗くなっておりいつの間にか結構な時間が経っていたようだ。
妹をもう一度鑑定すると、異常も無く魔力も殆ど回復している事を確認できた。
ならば、と、妹の隣に横になった。カーテンを閉め忘れた事を思い出し、視線を動かし念動力で閉じる。
直ぐに睡魔が訪れ目を開けていられず、そのまま大人しく目を閉じる。
(自主的に眠ろうとしなくても睡魔が訪れると言う事は、私はまだ人間だよね・・・。)
何となくそう思うものの、考えるのも難しくなり、ゆっくり意識を手放した。
(みーちゃん、おやすみ。)




