夢での逢瀬
「・・・ありがとう。見終わったよ。」
言外に閉じていいよと伝え一息つき、すっかり冷めてしまった紅茶を飲む。
(いや、凄いな。私も大概チートだと思ってたけど、ベクトルが違ったね。流石愛し子と言うべきか。みーちゃんの事、大事なんだろうなって思うステータスでしたね。
魔法とスキルの内容から察するに、万が一にも大事な人を失って無力感に絶望しないように、元々の才能を活かして生活に困らない様に、心の癒しに趣味も楽しめる様に、悪い人に騙されない様に、心も体もなるべく傷付けられない様に、ってところかな。それと、流石にこれは深読みし過ぎかも知れないけれど、夢渡りでいつか会いに来て欲しかったりするのか、とか。考え過ぎか。)
(感想としては、素直に嬉しい。この一言に尽きる。家族とハル達以外でみーちゃんの事を大事にしてくれそうな存在がこれ程嬉しいとはね。会った事もないのにアカシア様に対する高感度更に高くなったわ。そのせいで他人事に思ってたアカシア様事情が今更心配になって来たけど。)
私のステータスを見終わっていたらしい妹に声をかける。
「よし、みーちゃん自身の事は大体分かったけど、次は夢の事詳しく教えてくれる?なんか夢がどうとか言ってたよね?」
「うん、まずあの大樹ね、浄化能力が少しあるみたいなんだよね。」
「それ、どうして分かったの?」
「うーん、何か分かるとしか言いようが無いんだけど・・・。」
(私の直感力みたいなのと同じ様な現象?それとも同じ浄化の力があるから?)
こう言った大事な事で妹が私に嘘をつく事は無いのでそれはそもそも考慮していない。
「・・・まぁいいや、じゃあ大樹はみーちゃんのお仲間さんになるのかな。完全にみーちゃんだけじゃないなら、プレッシャーも少し減るね!良かったじゃん。」
「そうなんだけど、良かったとも言えなくて・・・。あのね、あの大樹凄く弱ってるみたいなの。だからあんまりやらせたくは無いって言うか・・・。あの時、お姉ちゃんとの会話に出るまで夢の事すっかり忘れてたんだけど、夢で大樹の・・・精霊なのかなぁ、はちゃめちゃにイケメンのお兄さんがもうすぐ眠りにつかなければいけないって言ってたの。」
「んなっ?!え?夢で男の人に会ってたの??」
(みーちゃんはプリンセスだった?いや、愛し子も大概だけども。と言うか樹の精霊って言うからお爺さんのイメージだったわ。イケお兄さんか。意外だけどまぁ精霊イコール美女のイメージもあるからそう言う事もあるか。)
「会ってたって言うか、幽体離脱みたいな感じで、ベッドに臥せってるお兄さんを上から覗き込んだみたいな?すごく苦しそうだったから病気なんだと思う・・・。」
「病気・・・。でもあの大樹見た目は特に枯れそうとかではないよね?どうしてその男性が大樹だと思ったの?」
「わかんない。」
「わかんないかぁ。」
「でも、あの人あの大樹だよ。あ、あと、君だけに任せる事になってすまないって言ってたから間違ってないと思う・・・。」
「・・・ふむ。任せるって浄化の事?眠りにつくって事は死ぬわけじゃないって事だよね?」
「多分・・・、でも今思い返すと凄く辛そうだったから、本当にそれですむのか私には分からないかも。」
「・・・それさ、そもそもどう言う流れでそんな事になったの?」
「んー・・・、たしか、ああ、そうそう。昨日は、これは夢だって分かる夢見てたのね。明晰夢って言うんだっけ。そう認識した時にはもう白い霧の中にいて、フヨフヨ浮いて動き回ってたの。しばらくしたら何となくあっちだな、と思った方向の霧が晴れて、その先にこのお家の側のあの大樹よりも、もっともっとすんごく大きな大樹があったのが見えて。大き過ぎて上の方は雲で見えないくらい。今思うと不思議だけどそれが家の側にある大樹だって分かって。その大樹に近づいて行くと、その足元になんか凄く大きな神殿みたいなのがあったのね。どんなだったか覚えてないけど、何となく神殿だなって思ったんだよね。それで、中に入っても誰もいなくて、そのまま神殿の奥へ進んで行ったら綺麗な彫刻の豪華な扉があって、また何となくその部屋に入って行ったの。幽霊みたいな感じで通り抜けて。そうしたら、大きなベッドがあって誰かが寝込んでて。まぁその人がさっき言ったお兄さんだったんだけどね。それで、覗き込んだらお兄さんが私を見て、愛し子、って言ったの。」
「うーーーーーーん。」
(嫌な予感がする。アイデアロール成功してしまいそう、と言うかした・・・。もうさー、神殿の時点で嫌な予感したんだけど!言っちゃっていいかな?!いや、取り敢えず最後まで聞かなきゃ。)
「それで?」
「私の事知ってるのって聞いたら、もちろん、って。思ったより消耗してしまってもう干渉出来ないし助言とかも出来なくてごめんって。勝手に喚んだのにお姉ちゃんがよくありがとうって言ってくれるから救われるって。ごめんねって。・・・まって、話してたらどんどん思い出してきた。お姉ちゃんの察しが良過ぎて驚いたって言ってたよ。ここまで協力的とは思ってなかったから、凄くホッとしたんだって。いつ大樹にありがとうって言ってたの??」
「っ・・・。」
(確定ですね!てか、私の感謝の念?届いてたの!?なんか恥ずかし!まって、同担がどうこう言ってたのは届いてないよね!?)
「その人アカシア様だよね。」
「ええ!?」
「ええって、だって、みーちゃんを一目見て愛し子って呼んだんでしょ?それに勝手に喚んだって言っちゃってるじゃん。私達を召喚したのアカシア様だって話したじゃない。あと神殿って時点でもうね。それに、あー、そうだ。ちょっと待ってて。すぐ戻るから。」
席を立ちそのまま玄関へ向かうと靴を履き替え外に出た。身体強化でさっと大樹のそばまで来ると、姿勢を正す。この世界の作法が分からないので日本式で申し訳無いけれど、二度礼をし更に二度手を打ち鳴らした。
「ご無礼をお許しください。」
そう言いながら鑑定を使う。
アカシア
その文字を何度タッチしても追加情報は出ない。もうそれが答えではなかろうか。ならば伝える事は一つだ。伝わるか分からないけれど。
「アカシア様、改めてご挨拶させていただきます。ミズキの姉のミオと申します。妹と一緒に私を喚んで下さり本当にありがとうございます。お目醒めになるまで必ず妹は身も心も守り抜きますのでご安心ください。どうか少しでも早く御身が回復されます様に。」
お辞儀をし姿勢を戻すと、ふと、何だか魔力を注ぐのが良い気がして半分程注いでみた。いつもの直感である。まぁ、これくらい注いだところで何か変わるはずも無いと踵を返そうとすると、ひらり、ひらりと、何かが落ちて来た。思わず掬い上げると、風も無いのに自然に落ちるとは思えない程、まだ青々しい綺麗な葉だった。思わず鑑定する。
アカシアの葉
これもこれ以上は出ないようだ。タイミングからして魔力の対価?におそらく下賜してくださったのだろうけれど、何に使うのだろうか?お守り?もう一度礼をし、一先ず急いで同じ手順でリビングのソファへ戻った。
「ただいま。やっぱりそのお兄さんアカシア様だと思う。」
「え?どこ行ってたの?どう言う事?」
「外の大樹を鑑定して来ました。」
「!!!」
「鑑定結果は、アカシアと表示されるだけで何度タッチしても追加情報は出なかったよ。まーそうよね。神を鑑定なんて出来るはずも無いし。名称しか鑑定する事の出来ないアカシアと言う名前の樹。他に考えられる?まぁ、全然関係なくて今の私の魔力量じゃ追加情報の対価に足りないだけ、と言う可能性もゼロじゃないけど、考えにくいよね。」
「お兄さんがアカシア様・・・。」
「それに、ありがとうって言ってた話だけど、心の中で、みーちゃんと一緒に召喚して下さってありがとうございます、ってしょっちゅう感謝してたから、それだね。」
「んなっ、」
妹は少し顔を赤らめ、絶句している。
「それと、多分だけど会えたのは多分みーちゃんの夢渡りのスキルだと思うよ。」
「夢渡り!あのスキル!」
「アカシア様からの接触じゃ無くて、みーちゃんの方から行ったって言うのが決め手だね。まぁ、アカシア様からも少しは呼んだかも知れないけど。霧に囲まれてた時点でお互い引き合ったのかもね。」
妹はまるで何かに思いを馳せるかの様に、ここからは見えない大樹の方角に目をやったあと、物憂げに目線をさげた。幼い顔に似合わない表情に大人の妹の面影が重なる。夢の記憶でも思い出してでもいるのだろうか。あの様な顔で一体何を想っていると言うのか。分かるけれど、知りたく無いような気もする。
その顔を見て唐突に、アカシア様にとられる、と思ってしまった。
・・・いや、もう遅いのだろう。二人は既に出会ってしまった。もうあと数度も夢で会えば、・・・そうなるのだ。寂しさを感じながらも、ストンと納得してしまった。
それでも、いくら記憶は大人とは言えど妹はまだ子供だ。ましてや、アカシア様はこれから眠りにつかれると言う。ならばまだまだ、最低でも成人までは私の手元で大切に育ててみせる。
そう内心で決意している私をよそに、妹は少し目を閉じると、泣きそうな顔でこちらを見た。
「・・・ねぇ、やっぱり早く浄化の旅急ぎたい。あんな・・・、ゆっくりしてたらアカシア様死んじゃう・・・。」
そう言った妹の大きな目から涙が一雫零れ落ちた。




