10.夏の攻略対象
(何かスッゴい見られてるような…。)
入学式を終え、教室待機の時間中に隣の席から物凄い視線を感じる。乙女ゲームのヒロインこと桜凪雪実からだ。
(俺なんかした?)
心当たりが全くない。一目惚れじゃない?とか思ってるやつ。そんな訳なかろう。俺みたいなフツ面に一目惚れとかは絶対ないし、第一にそんな熱の籠った視線じゃない。もっと、観察されてるような鋭い視線だ。
(まさか…。早々に嫌われた?)
それはまずい。ヒロインに嫌われてしまえば、春樹にまで影響が行ってしまうかもしれない…。何とかしないと…。そう思っていると、教室のドアがガラガラっと開いた。先生かと思ったが、どうやら違うみたいだ。背が高くとてもカッコいいイケメン男子だった。
(わーお。スッゴイイケメン。春樹と同格ぐらいじゃないのか?……ってことはまさか。)
教室に入ってきたイケメンは黒板の座席表を見ると、こちらに近づいてきた。
(え?近づいてきた!?)
どんどん俺に向かって歩を進めてくる!怖い怖い!
そして俺の目の前に来ると、俺の前の席にドスンと座った。
(あ、俺の前の席の人君だったのか。)
少し自意識過剰だったなと、思いつつ重要な事を思い出した。
(そうだ!彼の名前確かめないと!)
そうして、声をかけた。
「「あの!」」
「「え?」」
隣の人と声が重なった。そう、桜凪も彼に声をかけたのだ。
「あ…、俺は後でいいよ…。お先にどうぞ…。」
「ど、どうもありがとう…。」
お互いぎこちない会話を終えると、桜凪が再び彼に話しかけた。
「始めまして!桜凪雪実といいます!よろしくね!朝遅かったけど、どうしてこんなに遅かったの?」
あ〜。確かにそれは俺も気になった。
「あ?お前には関係ないだろ?気安く話しかけんな。」
うっわこっわ。
「確かに関係はないけど…。気になったから…。そのごめんね…?」
「チッ」
そう舌打ちをして、彼は俺の方へ向いた。
「で?お前はなんの用だ?くだらないようだったら殺すぞ。」
こ、怖。
「いや、俺の前の席なんだから、名前くらい知っとこうと思って。」
「あ?お前もそこのクソ女と似たような感じか?」
ちょ、こいつヒロインをクソ女扱いしたぞ!しかも初対面だろ?
「ちょっとクソ女って何よ!」
流石の桜凪も黙っていられなかったようだ。
「あ?そのまんまの意味だ。」
「は?何で私が初対面のあなたにクソ女呼ばわりされなくちゃいけないのよ!」
「はぁ。これだから女は面倒くせぇ。」
「何ですって!」
このままじゃキリがない。仕方ない。
「あの。俺の前で喧嘩しないで下さい。やるなら他所でやって。」
「あぁ?」
すると、怖い彼がすっごいガン飛ばしてくる。
「喧嘩なんざしてねぇよ。コイツがウゼェだけだ。一緒にすんな。そんで、テメェは何様だ?指図してくんな。殺すぞ。」
彼は鋭い視線をこちらへ向ける。
「別に何様でもないよ。俺は君の名前が知りたいだけだから。」
「あ?」
すると、何故かヒロインと彼は驚いたように俺を見てくる。え、何でなん?
「え?何でそんな驚いたような顔するの?」
「いや、…お前変わってんな。」
「え?いや、至って普通だと思うけど?」
(何なんだ一体?)
「…久瀬夏目」
「え?」
「俺の名前。」
「え?ああ、名前ね。久瀬夏目ね………。」
夏の文字、やっぱり攻略対象だったか。
「じゃあ、久瀬。これからよろしくな。」
「……お前とよろしくするつもりはねぇよ。」
「ハハ、そうかい。何かあれば言ってくれ。」
またもや、久瀬が驚いた顔をする。………俺、そんな変なこと言ってるか?
「何だ?」
「何でもねぇよ。」
そう言って久瀬は前へ向き直った。
(仲良くは……。なってないよな。)
なるほど、夏の攻略対象はこんな感じか。攻略難しそうだな。
(ん?そう言えば桜凪の用事は…。)
桜凪の事を思い出して、隣を見ると警戒するような睨むような目で、こちらを見ていた。
(も、もしかしてイベントの邪魔しちゃったんじゃ……。)
もしそうなら、ごめんなさい。口に出すわけにはいかないので、心の中で深々と頭を下げた。




