自分自身に目を向けた末路
まだ人間が存在しない幾千年前、神々は争っていた。争いの終止符を打つ結果、神は世界を幾つかに分断させた。その境目こそが結界の誕生であった。
神は消滅し、後に人間が誕生したわけであった。しかし、限りある土地を奪い合うことで人類は争いに長い年月を費し、遂には結界の中でも更に『国』というもので土地を区切った。
終戦後、カタヤ国に住む高校生シューラは穏やかな日常を送っていた…
ガタン ゴトン ガタン ゴトン …
電車の振動に揺られながらボーっと向かいの窓から見える景色を眺める
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「思い切ってこれ吸ってみましょーや。どんな味か気になるでしょ?」
シューラくんはタバコ1本を僕の前に立てた。
「ズカズカ勧めてくるね笑 君が想像しているよりずっと身体に良くないんだよ」
そう言いながらも、慣れない手つきで棒の先に火をつけた。
「ゴホ! ゴホ…! 何これ…! よくこんなもの好きで吸えるね?」
「ははは! 初めてのくせに一息でけぇって」
「もういいよ…」
スゥーーー
オレを見習えとばかりにシューラくんは余裕の表情でプカプカ吸っている。
「親、結構厳しいんだっけ?」
「…うん。もっと言えば、僕だけに厳しいかな…。妹がいるのだけど、才能あるから優遇されるんだ。僕と大違い…」
「へぇー、オレの親は特にあーだこーだ言ってこなかったなぁ」
静まった空気の中でシューラくんは、正面一点を見つめていた。
「別にオレたち子供は親の奴隷じゃねぇんだ。親の言い成りになんかならねぇで、いっぱいハメ外していこーぜ。どうせ先輩の人生つまんねぇだろ?」
「つまんないって… 本当、包み隠さず言うんだね…笑 でもその通りだよ。きっと皆は僕が想像している以上に楽しく過ごしているのだろうね…」
「いーや、実際のところ知らねーけど多分他の奴もつまんねー人生送ってるよ。先輩と同じで環境を変えることにビビってんだ。何かを始めるにしても、何かを捨てるにしても、なぜか勇気がいる。オレはある事がきっかけでそれが簡単にできるようになった。おかげさまで今は楽しいぜ。友達と呼べる奴も増えてきたしな」
「シューラくんは凄いよ。もしも僕が君のような性格をしていたら、苦労しなかったのかな…」
「友達作ったり増やしたり、女に告ったり、ナンパしたり、ラブホ連れてったり、髪染めたり、ピアス空けたり、暴走族入ったり、大きな舞台を夢見て有名人になったり、数えてもキリがねぇよ。そうやって色んな事始めて、つまんねぇ事はおさらばして、明るい人生を手にしていくんだ。それで失望されんならその程度の愛情ってわけだ。親なんか関係ねぇ。先輩自身のやりたいことに、目を向ける時だろ」
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プシュー
「え?」
「ちーっす! こんにちわー!」
「久しぶりー! 2時間ぶりだねー!!」
いじめ3人組が僕の帰りを待ち伏せしていた。
「テペウくーん、一緒に帰ろっか。お家までついていくよ!」
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「何から始めればいいかわからないけど、とにかく頑張ってみるよ!」
「おう! 期待してるぜ。負けんじゃねぇよ!」
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僕は___
「人目少なくなったなー」
「今日はお金譲ってくれなくていいからさ、服全部脱いでよ。段々寒くなる時期で申し訳ねーけど」
「聞いてんのか? 全裸になれっつってんだよ、全裸に__」
負けない!!
「お、おい…! 大丈夫か?」
「あ? テメェ殴ったな…?」
負けない!
ドゴッ!!
「ぐあぁぁぁぁぁ!!」
負けない…!
「脱がすの手伝え! こいつの服全部川に捨てんぞ」
「やりすぎじゃね!? こいつの家族にバレるんじゃ__」
「いいから! こんな奴に殴られてマジでイライラすんだよ…!」
負けない…
「うぅ…! ううぅ!! うぅぅぅぅ…!!」
***
「あ、あんた…、その格好…!」
「ゴメンお母さん。今まで黙っていたけど、僕いじめられていたんだ」
お母さんは驚いて恐る恐る電話を取り出そうとした。
「そうだったの…なら早く言ってくれれば良かったのに。とにかく学校に報告しなくちゃ」
「あ、でも大丈夫! これから僕沢山努力して強くなるから! 高校生ってまだ自我持ってない奴いっぱいいてさ~、平気で虐めてくるんだよね! 僕と似た境遇の人まあまあ見てきたけどやっぱ大抵はヒョロヒョロだったり根暗な人だったよ。もっと強く、たくましく生きるために人生賭けてやり遂げる必要があるって感じたんだ! それで正直に言うけどさ、勉強もう辞めるよ。ずっと嫌いだったんだよねー。その時間をトレーニングや家族との会話に費やして、家でも学校でも有意義な時間にしていくからさ。ね?いいでしょ?お母さんにとってもいいことだと思うけど」
何かおかしくなった僕は、それでも叱られる準備をするほどにまだ心はあった。
「そう。じゃあ勝手にすればいいじゃない」
「え?」
「その代わりもうあんたに作るご飯も、あんたのために払う学費もないわ。もうぜーんぶ勝手に1人で解決しときなさい。もう何も世話しません。家も早く出ていけば?」
「そ、そんな無責任な…!」
「無責任じゃないわよ。あんたは私たち『親』に育てていただいているのよ?なのにそんな恩を知らずに勝手に道を外されるのならこっちだって願い下げよ。きっとこれにはお父さんも同じ意見よ」
「どうして!?勉強しない、タバコ吸ってる高校生だっているのに、どうして僕はそうなろうとしたらそんな扱いを受けるんだ!?」
「は? あんたバカじゃないの? 誰に育ててもらったかわかってる? 他所は他所、家は家に決まってるじゃない! バカな大人が産んだ子どもはどう人生を歩もうが勝手だけどね、こっちは医者と医者が産んだ子どもなの! あなたは生まれたその瞬間から優秀な大人になるという使命があるの」
「勉強することが優秀な人とは、か、限らないし…それにどうして、そんな…極端な考え方しかできないんだ…!」
「それに何?いじめられたくないから強くなる? そんなのしなくたってあんたがさっきしたように、いじめの告白を早くしておけばいいの。そしたらお母さんや学校側が対応するのだから、あんたはただ勉強すればいいのよ」
「そんなのじゃ対応しきれない…。そ、それに違うんだ……。ぼ、僕は自分をもっともっと変えたくて……!」
「あなたは勉強だけ頑張って立派な社会人になればいいの。そしてゆくゆくはお金持ちになる。そのために今が肝心なの。それがイヤならここから出ていってちょうだい。それともやっぱり母さんの言うことに従うならさっさと今日の塾の準備をしなさい」
だ、だめだ…。僕は…
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「それで失望されんならその程度の愛情ってわけだ。親なんか関係ねぇ。先輩自身のやりたいことに、目を向ける時だろ」
~~
………
「…ごめんなさい、僕が悪かったです。塾の準備をしてくる…」
ごめんシューラくん…。やっぱり僕、怖いんだ…!
「わかったらそれでいいのよ。とにかく学校に電話するから」
「あと1日だけ待って…」
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2階へと上がると、妹が待ち伏せていた。
「そういや帰り道でアンタ見かけたけどさ、ボコボコにいじめられてたね。観ててチョーウケたんですけどw」
妹のことなんかどうでもいい。
「はーあ、ダッサ。アイシーの兄辞めてくれます?」
どうでもいいけど、どんな人でさえ悪口を言われると悲しくなる。
ガチャ
そして自分の部屋でうずくまった。
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「塾、行ってくる…」
そう言って辿り着いたのは、1度も行ったことのない、暗くて誰もいない山奥だ。
自転車を漕いで3時間くらいかかった。
皆さん自殺を考えたことはありますか?
もし自殺をするなら、人に見つからない場所でしましょう。
死体が転がっている姿を人に見せないために。
救急車代、葬儀代、火葬代など、死んだ後にも迷惑をかけないために。
友達を、悲しませないために。
「シューラくんは、悲しんでくれるかな…!!」
ヒューー
頂上はよく風が通る。
外は暗くて景色がよくわからない。
死んでしまったら嫌なことも無理やり忘れてくれる。
そう考えながら僕は、全てに失望したかのように勢い悪く崖を飛び降りた。
走馬灯だろうか。どうでもいい記憶が引き起こされる。
「先生! なぜ透明な壁は消えることが無いでしょうか?」
「何、コレ...!」「魔法……?」
今日人生で初めて人を殴ったとき、僕は頭のネジが動き出した。しかしそのネジはストレスと共に脆くなり____
外れたとき、壊れたような思考が浮かび上がる。
ーー キライナヤツラミンナコロシタイ ーー
ここはヘンテコな世界。神様でも、人間でも、動植物でも、宇宙人でも、現象でも、何でもいい。
=僕に力をください=
あぁ...! 今外れておいて良かった...!!
『「いいだろう。その願い、受け取った」』
え!?
真っ暗闇の空が僕に話し掛けた。
『「リミッター解除だ。それが、お前本来の力だ」』
*****
カン カン カン カン
「おい、この踏切どうなってる!鳴り止まないぞ!」
「ちょっとこれー…時間ないんだけど…」
「人身事故で電車止まってます!近くの踏切全部渡れないです!」
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カン カン カン カン
「きゃあああ!!!」
「み、見ちゃダメ!!」
キ キィ キィィィ ……
「おぉぇ!!」
「大丈夫か君…とにかくトイレ行こう!ここで吐かれたら他の人に迷惑だよ!」
「目の前で…、女子高生が、、飛び降りた……!」
ニヤッ
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カン カン カン カン
【只今、バルザーク駅で人身事故が発生しております。この先、ホクチサト行きの電車を見送ります。只今、バルザーク駅で人身事故が発生しております。この先、ホクチサト行きの電車を見送ります】
「もしもし、課長…、今電車の遅延が起きまして____」
「これいつになったら学校に着くのかな…」
「おいおい、こんな朝一に物騒だな…」
「知ってるか?人身事故って大抵は自殺らしいぞ」
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「電車の遅延で部長遅れるとの電話が入りました。人身事故が起きたらしいです」
「一体どこで?」
「バルザーク駅です。どうやら女子高生が飛び降りたとか」
「バルザーク駅? 娘の通学路じゃないか。まさか娘じゃないだろうな、なんてな笑 ははは!」
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「ク、クーメル…。土曜日、デート行こっか…」
「う、うん…!」
「え! 今こいつデートって言ったぞ!!」
「えーホントー!!」
「お前ら付き合ってんの?」
「え、え、あ…、ごめん! 小声で言ったつもりなのに…!」
「い、いいよいいよ! いづれバレちゃう事だから、ね!」
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(随分と遅いな…)
「もう具合は大丈夫か____あれ、どこいった?」
ニヤッ
「はい先生ですぅ」
「先生すいません。寝坊した上に電車も止まってしまいました」
「もぅ何やってるの、大遅刻よ。テペウ君にしては珍しいね」
「いつもお母さんに起こしてもらっているんですけど今日は朝から不在で…」
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「何ぃ!? 放火殺人犯が脱獄しただとぉ!!」
「き、聞いてください!! ば、化け物が____」
「は?」
「得体の知れない大きな化け物が、、留置所を襲ってきて、、犯人を連れていきました!!!」
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「例の計画、遂に実行の日だ」
「例の計画?」
「ああ。カタヤに、揺さぶりを掛ける」
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「テメェら…!!」
後ろからの鈍器に、オレは頭から血を流した。