力があれば、違っていたのかな…
1人は嫌いでないけど、孤独は嫌いだ。だからこそ好きな人の前では独りぼっちの姿を見られたくないし、一緒にいても落ち着けられる友達が欲しい。
でもいいんだ。ギリギリかもしれないけど、これ以上悪化しない生活が続いてくれればいいんだ。
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「普通に授業かー…。体育祭終わってからだと、なんか憂鬱だなーー」
「だなーー」
キーンコーンカーンコーン
「うわ、チャイム鳴った。ダリィ…」
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「えーーとですねぇ、、今日はp87のアウゼス支配体制を学習していこうと思いますぅ。早速ですが授業に取り組んでいこうと思います。始まりは西暦1000年に_______」
元々授業なんかつまらなくて聞いてなかったけど、体育祭の余韻が残ったままの授業はさらにつまらなかった。
窓越しに写る景色をただジーッと、何も考えることなく眺めることにした。
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「課長! 遂に放火殺人犯が口を開きに来ました!」
「よし、向かうぞ!」
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「実行犯は他に2人いた…。仲間同士結託して取り掛かるつもりが、いざ実行すれば時間に余裕が無かったのか、アイツらは先に逃げて俺だけ取り残された」
「お前、妻と子供を持ってなぜそんなことを…?」
「考えてみりゃ分かるだろ。家庭を持ってたからこそ焦っちまったんだよ」
「エラく反抗的だな。それで仲間というのは? 友達って意味の仲間か?それとも、組織的な仲間か?」
「もう仲間なんかじゃねーよ。裏切られたんだからよ」
「はいはい、いいから質問に答えろ」
「ふっ…、ただのお友達だよ」
バンッ!!
強く机を叩いた。
「嘘だな。もうこっちは尻尾掴んでんだ…。お前はテロリストの一味なんだろ…?」
「はぁ? 一体何のことだ?」
「なるほど、確信に迫ることはお口チャックって訳か。ならお前は死刑という形で収まるわけだ」
「な、ちょっと待て!? 俺は本当に何も知らねぇ! それにこの国は黙秘する権利ってのがあんだろ!? 黙ること自体は刑罰の判断材料に値しないと聞いたぞ!!」
「ちっ…、バレたか」
「端から教えないつもりだったのか!?」
「なんで教える必要がある? 我々は店員ではなくまたお前はお客様ではない。真実を掴むためなら卑怯な手段をも選ぶ。それが刑事の仕事だ。まあ黙っておくのは正解だよ。今更いくらこちらの味方をしようと終身刑または死刑から免れることはないだろうしなぁ」
(クソっ…。結果が同じじゃ、口を滑らす意味もなかったのかよ…)
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「犯人、偉く態度がデカいですね…」
「ありゃぁ焦っている自分を隠している証拠だ。俺もここに立つのは多くてな、大半はああやって平常心を保つために強がるんだ。まあそれが何か左右するって訳でもないがな」
「彼がプレアデスであるというのは?」
「いいや、実際は何一つ証拠がない。ただ揺さぶってみただけだよさっきのは」
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「こりゃ、ご本人に聞いても分からずじまいってことか。それじゃ、後の方は頼むぞ。よいしょっと!」
「……友達っていうのは嘘だ。アイツらの名前も知らない。教えてもらえなかった」
「は?」
「初対面から実行までが早すぎる。アイツらどうやって俺の身元調べたか正直さっぱりで、俺が絶望していたのを知って手を差し伸べてきやがった。見ず知らずのこのおっさんにだ。まんまと乗っかっちまった結果がこのザマだ。そもそも疑問を疑問で片付けるべきじゃなかった。どうして見るからにガキの奴が2人してこんな悪事をおかせるんだ?…って」
「ガキというのは具体的に…!?」
「中高くらいの女と、小学生くらいの男」
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「あーーもうつまんなーいー!鈍ってるんだからもっと楽しい授業にしてよーつるっぱげ先生ー!」
「つ、つるっぱげ先生だと…!! 君!この教職員である私になんてことを!!」
「教師は王様じゃねーんだよ! なぁ、今グラウンド使われてないし外でドッジボールしよーぜー!」
「おっ、いいね! 市民権勝ち取ったり〜!」
「コラ!! ダメに決まっているだろ!」
「先生も一緒にどうですかぁ?」
「ダ、ダメだと言っている! 先生を何だと思ってる! そんなことで時間を費やすより、人類が歩んだ歴史を学ぶ方が良いというのがわからないのかね!?」
「シューラはどうする? 行くか?」
「ったりめぇだろ!」
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しーーーーん
………
「はぁ…」
教室は静かになった。
わたくしクレスコ55歳男性職業教師。幼き頃から歴史に興味を持った私は、故郷ヤマダ市では当時18歳高校生にて、世界中のあらゆる歴史を熟知していたことから『歩く世界史』と呼ばれるほどの男であった。ある日友人に歴史を教えたときのあの気持ちの高ぶりは素晴らしかった。そんな私は教師を目指して努力し、高校生の5%しか大学に進学しない傾向であった時代の中、超一流のギンバタケ大学への進学を成し遂げた。その後も学習を怠らず優秀な人材となった私は、カタヤ第6高校の教育者となり早30年。今となってはストレスが溜まる日々。新人だった頃の輝きはどこへ行ったのやら…
「まったく…最近の若者といったら……な~~にが外で遊ぼうだ! あぁ! 人類が長い年月を掛けて築き上げた文明というものを本を通じて体験する素晴らしさを知らんのかね? だいたいこの学校の教育方針も甘すぎる! だからこの学校もどんどん廃れて______ブツブツブツ_______」
「あの~……」
6人教室に戻ってきた。
「なんだね君たち… 外に行ったのじゃ…」
「私たち先生の授業が好きだから、、」
「それに…、なんか可哀想ですし…/」
「人数少ないですけど、授業の続きお願いします!」
「僕からもよろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!!」
「き、君たち……」
あぁ、この仕事、まだ辞めなくて良かった…!まだ今の若者も捨てきれたもんじゃない…!
「よし! では先程の、アスゼス4世が行った支配制度の仕組みを深掘りしていこうと_______」
バリバリバリ!!
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「う、やべー…うちのクラスの窓割っちまった…」
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「せ、先生……?」
血だらけ教員クレスコになった。
「ゴラアァァァァ!!!」
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「今日も社会の先生余裕だったなー!」
「あれ、もう外暗くなってる。こんなに早かった?」
「もう秋の真っ只中だね~」
授業が終わり、放課後になると生徒たちの声がまた登校時間のようにワチャワチャと聞こえる。校舎を出るとパッと目に映る夕焼けの空は、夏の終わりを感じさせる。
「シューラは部活入んないのか? と言っても、働いてんだもんな。そりゃあ忙しいよな」
「おいおい、質問しといてすぐに解決すんなよ笑」
クラスメイトのニュクスとはつい最近話すようになった。
「この時期から部活って早く終わるんだよな。暗いし寒くて疲労が大きくなるし。シューラは夏か冬だとどっちが好き?」
「夏」
「答えるの早っ。理由は?」
「冬は寒いから」
「ハハハ。単純だな! やべ、そろそろ部活行かないと」
ニュクスは校舎の時計を見て焦った。
「なあシューラ、学校行事っていいよな。普段喋んない相手とも関わる機会ができるし。体育祭を機に俺たち話すようになったよな?」
「そうだな」
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裏庭
「よいさー!!」
ボコッ
「テペウくーん、抵抗されると困るんだよねー。間違って殴っちゃうかもしれないからさー」
「うっひょー、1000も入ってるぞ!」
「山分けしよ〜ぜー。1000➗3だからー……えーとぉ…」
「お前計算遅すぎww 300余り100な」
「もっと割り切れるぞ。お前もバカじゃねぇか」
バチバチ!
「こーんな変な力が生まれて焦ったけど、テペウは弱いままで本当に良かったよー」
「行こーぜー!」
「……」
僕が何かアイツらに悪いことをしたわけじゃない。これは知らないうちに自然と始まっていた。身長が高いだけのでくの坊で、猫背が目立って、身体が細い、根暗。ただそれだけの理由なんだろう。
教室でイジメが起きないのは本当に良かった。こんな僕にでも、好きな人がいるから。だからカッコ悪い姿なんてとても見せられない。
「ふんふっふふ~ん♪ふふふっふふーーん♪ふっふふ…げっ!」
「え?」
「人いんのかーい」
その生徒は片手にタバコを持っていた。
「どうした君? もう放課後だってのにこんな薄暗ぇ場所にいて___はっ! もしかして女の子と会う約束だったりして…!」
「ははは…、そんなのじゃないよ。君こそ…どうしてこんなところに?」
「あー…秘密にしてほしいんだけどぉ、実はタバコ吸いに……ってか君も吸う?笑」
彼はタバコの束を差し出した。
「い、いいよいいよ!!」
不良、だよな…?
「背高いねー。あれ?もしかして歳上だったり…」
「え? あ、僕は3年生だよ」
「あ、すいません。オレ2年です。勝手に1か2だと思ってついこんな口調になってしまって」
「いいよ全然! …それよりちょっと頼みごとあって…」
「何すか?」
「タバコ秘密にする代わりに……電車代貸してほしいっていうか……」
普段の自分とは逆の立場の人が使うような言葉に、中々はっきりと言うことができなかった。
「貸すっていうか、黙っててくれるならあげるよ」
「ほ、本当に!?」
「いいってことよ。えーーと、まあこんくらいあったら大丈夫しょ。はい」
彼は金を低く投げ渡した。
「さーて、先輩さんに迷惑掛けないよう遠くで吸いますか」
「あ、ありがとう!! な、名前聞いてもいいかな?」
「シューラって覚えといてください。別に金の礼はいらねーよ」
「わ、わかった。ありがとう!」
そして僕はその場を去った。
「だから礼いらねーって!w」
***
「ただいま…」
「お帰りなさい。今日は7時から塾があるからそれまでに学校の復習をしておきなさい」
母は僕の顔を見ずに淡々と口を動かした。
「う、うん…」
2階へとゆっくり上がる。
両親は共に医者である。だからとても勉強に熱心で僕の気なんか知らず、毎日毎日医者になるよう勉強しろと押し付けてくる。それもあって、今日お金を失くしたとは言えない。言ったところで勉強以外は面倒事かけない人だし、そもそも失くしたなんて僕に言う勇気がない。
ガチャ
隣の部屋からドアが開く。
「ん?あ? 何見てんだよゴミ・不潔・陰キャ」
この人は僕の妹のアイシー。明るい女なのは知っているが、僕の前では生意気な女。けれど僕は言い返せない。
彼女は成績優秀、それにバドミントン全州大会出場という実績がある。多少学力に劣りがあったとしても妹は許される。
そう、立ち場のない僕は嫌でも勉強にすがることしかない。
集中が続かず、時計の針は7時を差した。
「塾、行ってきます…」
「「……」」
誰も反応を示さない。いつものことだ。きっと僕はいらない存在なんだ。
誰も味方がいない。苦しい。
そしていつものように塾を終え、家に帰り、ラップがされたご飯を温め、食べ、風呂に入り、塾の復習をして、寝る。
もう何も変えられない。明日も学校で嫌な思いをして、家に帰ってまた嫌な思いをする。
もしも、僕に力があれば、違っていたのかな…
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.
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______
「おい…! テメェら何やってる」
「あ? 何お前。コイツの友達か?」
「マジでぶっ殺すぞ…」
「上等だっての!」
「おい…行くぞお前ら…」
「は?どうしたんだよ?コイツもまとめて______」
「いいから早く」
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スゥー ハァー
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫。…それよりシューラくんに嫌なところ見られて恥ずかしいな…。見ての通り、僕、イジメられているんだ」
「イジメねぇ…。あったよ昔、やられてる奴。でもそいつ親にもイジメられて行き場無かったから我慢できなくてオレが助けたんだよ。見て見ぬふりが1番の悪でダセーし恥ずかしいからな。でも後にそいつに酷いことされてさー笑」
「へ、へぇ…笑」
「先輩名前は? こっちからは聞いてなかったな」
「テペウだよ…」
「テペウ先輩よー、情けねぇって。背も高くて威圧感あるのにビビっちゃってどうすんよ? なんで反撃しないのさ?」
「怖いんだ…、いつも以上の事されるって思うと。喧嘩だってやったことない。異能力だって…何の役にも立たない」
「じゃあ負けないように鍛えーぜ。ヒョロいなら筋トレすればいいしその異能力だってよくわかんねぇけど練習すれば良くなるだろ」
「できないんだよ…。両親は医者で勉強に対して熱心だから、嫌だけど僕はずっと勉強していかないといけないんだ。じゃないと医者を継げなくなるから____」
「言い訳にしか聞こえねぇよ。何が勉強あるから鍛えられねぇだ。1日にどれだけ時間あると思ってんだ。しょうもねぇ休憩時間減らして復讐心燃やしましょーよ」
「そうだね…。シューラくんみたいな人にはきっと、弱者の気持ちはわからないよ…」
「……、勝手に自分を弱者と決めつけんなよ」
「え…?」
「弱者と思ってんなら強者になれるよう頑張れや。変な言い訳使って逃げんじゃねーよ。向上心無さ過ぎてイライラすんだよ。そんなんだからイジメられんじゃねぇの?」
「そ、そんな言い寄られる程困ってなんか無いよ! 別に、解決しなくたって…」
「チッ…、何泣きそうになってんだよ。言っとくけどな、イジメる奴よりイジメられる奴の方が悪いからな!」
「…」
シューラくんは落ち着くためにまたタバコ片手に一息吐いた。
「エルドラードに殺されなかった。暴走族を辞めると言っても仲間に何もされなかった。ああ認めるよ、結局のところ強者は優遇されるんだ。嫌な思いの大抵は自分が弱いって理由から始まる。でもそんな区切りをぶち破っていきたい。カタヤは終戦した。じゃあ次は? 環境の平和だけで終わるんじゃなくて、心の平和も目指さないと。強者も弱者もない、そんな日に…いつかなれればいいのにな」
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「なんでやらねぇんだよ! ビビってんのか!」
「バカか! 相手はあのシューラだぞ!」
「だからどうした! 警察官だからか?」
「それもあるけど違う!お前ら知らないのか。聞いた話だと、あいつって…過去に留置所いたんだぜ…」