体育祭
まだ人間が存在しない幾千年前、神々は争っていた。争いの終止符を打つ結果、神は世界を幾つかに分断させた。その境目こそが結界の誕生であった。
神は消滅し、後に人間が誕生したわけであった。しかし、限りある土地を奪い合うことで人類は争いに長い年月を費し、遂には結界の中でも更に『国』というもので土地を区切った。
終戦後、カタヤ国に住む高校生シューラは穏やかな日常を送っていた…
「テペウ、今日学校は…?」
「体育祭だから出席取らないんだ。勉強するから大丈夫」
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ーーカタヤ第6高校体育祭ーー
「あ! あそこにお前の母ちゃんいるぞ〜!!」
「ホントだー! キミカだーww」
「お前らめんどくさい!茶化すなっ!!」
開催前には既に多くの親が観戦場に広がっていた。
「シューラは親見に来てんのか?」
「知らねー、何も聞いてない」
暇ジジイのことだから来るかもしんねぇ。
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「カタヤはこの時期、多くの学校で運動会らしい」
「呑気なものです。つい最近、多くの民が殺されたというのに」
「悪い事ではない。賑やかなのは、とても微笑ましい」
「...失礼します」
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「えー、おはようございます。新年度から約4ヶ月が経ちましたが生徒の皆さんは新しいクラス、新しい学校生活にいかがお過ごしでしょうか。私はというと____」
生徒入場後の全体挨拶では校長が担っていた。
「いっせーのーで、2!」
「うわー騙された!」
「じゃあ次俺とお前で決勝な」
「決勝ってなんだよw 3人しかやってねーのにw」
「ちょっとあんたらうるさい」
「ああ? 別にいいじゃねーか、校長の話長いし面白くねぇし。なぁお前ら?」
「…」
「今回ばかしはちゃんと聞いた方がいいよ」
「きっしょ、真面目かよ」
「不幸な出来事が度重なりました。分かっておられますが、我が校で30名の生徒の命が絶たれました。中にはこの体育祭を楽しみにしていた方もいたことでしょう。その方々に関わるお友達はもちろんのこと、関係性がない人にせよ、痛く心が締め付けられました。決してこの惨劇を、そして胸の傷を忘れてはいけません。しかしいつかは前を向いて歩かなければなりません。その理由は明確で、『良い思い出』を作るため。そうしなければきっと大人になって後悔するでしょう。こう私が断言できるのは、私が大人だからです。皆さん、今日はいっぱい競い合い、楽しみましょう。
これより、第32回カタヤ第6高校体育祭を開催します」
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ギュゥゥ!
「そーーれ! そーーれ!」
「フンガァァー!!」
って、朝イチから綱引きかよォ!
「赤軍あと少しです!」
「うぉぉぉおりゃ!!!」
「終了〜! 赤軍の勝ち!」
まあ…余裕だわな、、、 ハァ…
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「トイレトイレ...」
「シューラくん〜〜」
向こうで手を振っていたのは、
「マルチナ姉さん!?」
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「えーっと…、そちらの方は?」
「こんばんは、仕事仲間のアルフェルです。いつもマルチナさんには頼りにしてもらっています笑」
「何それ冗談?笑 私に何も言わないで勝手に行動してるくせに」
「ははは…」
「綱引き勝てて良かったね。全力のシューラくんカッコ良かったよ。あんな姿見たら、女の子皆キュンキュンしちゃう」
「冗談止してよ(笑) 全然モテないんだよ、オレ」
「仕事の方はどう? バルセラ襲撃の犯人、噂のテロ組織に関係してるんだっけ?」
「ごめん、あんま思い出したくないかな…笑」
「あら、そう。こっちこそごめんね。テロリスト早く捕まるといいね」
「うん! 必ずオレがとっ捕まえてみせるよ!」
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「はあ!? アンペア今日旅行で休み!? じゃあ誰がアンカー走るのよ!!」
「俺に聞いたってわっかんねぇよ!! 誰か陸上部いないのか? テルマ! お前確か陸上部だったろ!?」
「僕走り幅跳び専門だよ。それにこのクラス、僕とアンペアしか陸上部いないよ…」
「ど、どうするの! 走順だってまだ決まってないのに!」
「おいおい、お前らビビってんのか?」
「シューラ!」
「ビビってるって何よ!」
「だってそうだろ? 何が陸上部だ。アンペアいねぇくらいで騒いでんじゃねぇよ」
「じゃあ何か策でもあんのか?」
「オレがトップとアンカーを走る。2走目がテルマ、後は速い遅いを交互に分ける。オレたちは平均的に動けるクラスだから絶対勝てる!」
「お、お前50m何秒だよ?」
「7秒2」
((び、微妙……))
「目立ちたいだけじゃねぇの?」
「あぁ?」
「お前みたいな奴が逆に士気を下げてるの分からんないかなぁ? はっきり言ってダサいよ」
「...なんか小学生と相手してるみたいで嫌だな(笑) そういうこと言うお前の方が士気下げてんだよ。ちっとは周り見ろよ」
「キモ。やるか?」
「お、いいぜ」
「ちょっと2人とも!」
テルマが仲裁に入ったので自分も自身を抑えた。
「それでもまだ"ダサい"とか"キモイ"って言葉使って逃げんならいいよ、おめぇが1番と最後走れよ」
「はいはい、何にも言うことありません。シューラ君が決めてくださーい」
「ほーら、責任重くてビビってるじゃねーかw。おめぇが1番ダサくてキモイし、おめぇ自体に興味が無さ過ぎて名前知らねぇわ」
***
「さっすがシューラだな。ランダーラに対してもどうって事ねぇ」
「あれが元ヤンキーの貫禄かぁ。元なのか知らんけど」
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玉入れ競走
「...」
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「誰に捧げることなくただ自分が生きる目的に途方もない日々を繰り返し、道を見失う」
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「その現実を知った上でお前はなぜ生きる______」
「夢があるから。おめぇが女を愛したようにオレには夢があるから命を辞められない。それが全てだ」
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______
...そうさ。オレには夢がある。
「わぁ!!」
「うぉっ!!」
よそ見で女の子とぶつかった。
考え事をしていたオレにとって驚くのは当然だ。
「だ、大丈夫?」
「うん...。でも足ちょっと挫いたかも...」
「マジか...。ちょっと先生呼んでくる」
他人に迷惑掛ける面倒事って困るんだよな...
「待って」
「ん?」
「シューラくんが...保健室まで連れてって」
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.
「まあ打撲と言っても冷やす程度で大丈夫ね。特に腫れている訳でもないし」
「ありがとうございます」
保健室の先生はそう言って自分の作業に戻った。
「ライメールさん、だよね?そういや話したこと無かったな」
「うん! 折角だから、話そっ」
へー、意外だ。
稀にオレの目に映るのは確か静か子だったから触れずらいと思っていた。
「話すって...(笑) メガネしてるのは視力悪いから?」
「うん。読書が好きなんだけど、近視が癖になっちゃって」
「アンジュさんとよく一緒にいるイメージだけど、いつから仲良いの?」
「中学校が一緒でその時からだよ。シューラくんはこの学校に中学からの同級生いる?」
「あー...。...オレって地元遠いからいないんだ(笑)」
「そういえば言ってたよね! 地元ってどこ?」
「オリヴィア州ネムロ町。ここと比べてド田舎」
「1度行ってみようかな」
「うん。自然いっぱいだから良いと思う」
「そうなんだぁ」
「「...」」
初めて話す仲だから、こういう間があるとしんどい。
「逆にライメールさんは質問ある?!」
「え!、、じゃあ...」
「うん」
「...シューラくんって、...カノジョさんいる?」
***
「あっ」
アルフェルさん来てくれたんだ...!
「え...」
隣で話す女の姿を見て、私は絶望した。
______
保健室から出て、ルーズな視点から運動場を見る。
1人、日陰で遠くから観るのも悪くない。
「魔法、禁止にしてないんだな」
「え?」
少し距離を空けた場所にもう1人、ここから眺めている20代くらいの男が独り言のように呟く。
「...ああ失礼。異能力のことさ。統一しないと卑怯になる」
「...まあ、何となくのルールで禁止にしてるんだと思いますけど...」
「あんな不思議な力、よく躊躇いなく使えるもんだ」
何か重いように語っている気がする。
「人が人でなくなるというのに」
「…あ、行かねぇと...」
次の種目に出るわけじゃないが、何となく居ずらくなったからそう言ってこの場を去った。
「(変な人...)」
いや待て...!
振り返るともうその人は居なかった。
なんで魔法って言葉知ってんだ!?
「シューラ!!」
「...先輩!」
族の先輩方だ。
「観に来たんすか?」
「まあ俺ら暇だったしな。それに話したいこともあってな」
オレがウルバと絶交したこと、集まりに行かなくなったこと、大体話の予想は着く。
「お前のクラスメイト荒れてなかったか?」
「あー、あれは自分が強く言いすぎてキレちゃったんすよ。口だけの奴が大っ嫌いなんで。まあ100%相手が悪いし何の問題も無いっすけど」
「相変わらずだな。そんな威勢のいいお前がどうしてケンカやらねぇんだ?」
「ウルバから話は聞いてるぜ。揉めたんだってな。どんな口喧嘩したんだ?」
「先輩には悪ぃけど、ちょっとした気の迷いで族を引退しようと思ってんすよ。中々自分の口からは言えないんで理由が知りたかったらウルバから聞いてください。アイツには話したんで」
「もう聞いてる」
「え?」
「こんなちっぽけな集団から抜け出してちゃんとした社会に向き合いたいんだろ」
「まぁ...、そんな所っすかね...」
「俺は全く共感できねぇけどな」
「いいんじゃねーの? 理由がどうあれ辞める覚悟があった訳だ。もちろんケジメとしてツケは払うよなぁ?」
「おいっ。まだシューラはウチの総長だ。その口の利き方はよせ」
「何言ってんだ? もう引退するらしいからいいだろ」
「いいっすか!」
「ああ?」
少しキレ気味に言葉を発した。
「役目とか、ケジメとか…、それって本当に必要なんですか?」
「あ…?」
「どうせ皆いつかはこの暴走族から卒業する。その時期が早かっただけっすよ。それを役目やらケジメやら言って止めようとするなら、オレだって抵抗します。族だけじゃない、何にしてもそうだ。辞めること自体どうして悪く思われるんだ?」
「…」
「なんかすいません、半端な野郎で」
3人は少しの間沈黙した。
「自分で答え言ってんじゃねーか。辞める奴は皆、半端者なんだよ」
「じゃあ半端者の何がいけないんすか」
「こんな所で言い争いすんの止めろ!」
「シューラが言ったから妙に納得しちまう。弱ぇ奴がそんなこと言ったら聞く耳もなく今頃ボコボコにしてた」
「良かったなシューラ、喧嘩も立場も強くて」
「お前の好きにすればいい。俺たちは手出しできない。___だってお前は俺らの総長だから」
そう言って先輩は少し呆れた表情でオレから離れた。
「もうすぐで2年のリレー始まるんで観て行ってくださいよ。オレのクラス、負ける気しないんで」
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へぇ。1走目はオレ以外陸上部か。
「俺はドルマゲス、よろしくだ。ところでアンペアはどこだ? アンカー位置にもいないではないか」
「オレがアンペアの代理だよ」
「50mのタイムは?」
「7秒2」
「クソ遅いではないか」
「あぁ!?」
「今からでもいい、恥ずかしい思いをしたくなければ走順を変えてもらえ」
「引き下がるわけねぇだろ。確かに単純なスピードではおめぇに勝てんよ。それでもオレが先に繋ぐぜ」
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「よーーい、……バッ!!」
緊張の一欠片も無い圧倒的自信!!
ピピピー!!!
「フライング!! やり直しー! 戻ってー」
「アハハハハ! 赤軍の人見た?w あれやりすぎでしょww」
恥ずかしっ//
「その反則戦法が勝機法か?」
「バレちゃった...//」
応援席が1度爆笑の渦に包まれた。
「改めまして、位置について、、よーーい……バン__」
2連続フライング覚悟走法だぁ!!
「うおっ! シューラめっちゃいいスタート!!」
どうだ!おめぇの言う通りこれが勝機法だよ!
「シューラ早くないか!? 他と人たちと引け目を感じさせてない!」
「いいぞシューラくん! そのまま1位突っ走れ〜!!」
1回目のスタートは偶然合えばいいくらいで、フライングはほぼワザと。そうすることで他にフライングを敏感にさせた。オレはというと、恥ずかしさを受けたことが逆にアドレナリンを爆発させた。おかげで身体が解れ、さらに最高のスタートができた。
スピード勝負といってもたかが100m。最初で大きく決まる___
「!?」
「ドルマゲス速ぇ〜〜」
「あいつって2年生で選手権4位の実績を持ってるらしい」
「驚いたか?」
「走ってる最中に話してんじゃねぇよ、、」
「多くの実力者と経験を重ねた俺にこんな運動会で緊張するわけないのだ」
「クソっ…」
「でもいい! 3位だ!」
「テルマ!」
「シューラくん!」
「ナイスバトン!」
「行っけぇぇぇぇぇ!!!」
***
「結構惜しいところまでは行ったけどな…」
「ランダーラがバトンを落としやがった。大して足速くないくせにシューラに大口叩いたのが未だに謎すぎる」
「やらかした時の顔見たか?相当顔青かったぜ ?w」
「元から棘ある奴だとは思ってたけど、流石に嫌いになったわ。当分は無視だな」
この後も体育祭はヒートアップし、各軍点数を重ね重ね攻めぎあった。
夕暮れが近づいた大盛況の最終競技3年生リレーはあっという間に終わり、気がつけば全ての競技が終了した。
「優勝は緑軍です!!」
「やったぁぁぁー!!!!」
オレのクラスが属する赤軍は、緑と僅差で負けて2位という結果に終わった。
「うぅ……、うぅ…」
クラスメイトが泣いてたので励ました。
「泣くなよアガピトさん! 負けて悔しいのはわかるけど、たかが体育祭だろ?」
「た、たかがじゃないもん…!!」
「応援団としてクラス引っ張ってくれてありがとなっ!」
「頑張って優勝しようねってチーちゃんと約束したから…勝ちたかった…」
…! ああ、そっか…
「きっと"頑張ってくれてありがとう"って言ってるよ」
もちろん自分のクラスにも死亡者はいる。しかしそれを嘆いてる時間はない。明るい日常を取り戻すために前を見続ける必要がある。
朝校長先生が言っていたように。
「よーーし、皆で打ち上げ行こーぜー!!!」
「プレフさん、一緒に帰りましょう」
「うん… 。でも、私まだ残っている業務があるから今日はいいですよ…」
「それなら待ちますよ」
______
「テペウ、アイシー、夜ご飯できたから下に降りてきなさーい!」
「今降りるよ母さん!」
そろそろ体育祭は終わったくらいかな…
***
「準優勝って形で終わっちゃったけどドンマイということにして、カンパーーーイ!!」
「カンパーイ!!!」
ガヤガヤガヤ
「あいつは? オレと口喧嘩した奴」
「ランダーラか? 打ち上げしようって話の時からいなかったよな?」
「あの場から逃げたくてさっさと帰ったんだろ。緑軍と接戦だったのがかえって失敗した責任が重かったんだろうな」
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「どうしたんですかプレフさん? さっきから機嫌悪そうに見えますけど…」
「ねぇアルフェルさん…。私たち、付き合ってるんだよね?」
「は、はい…! そうですよ!」
「じゃあなんで他の女の人と楽しそうに喋っているんですか。私見てましたよ、アルフェルさんが女と2人っきりなの」
「いや、あの人はただの仕事仲間で____」
「"ただの仕事仲間"だとして、それがどうして楽しく話す理由に繋がるんですか?」
「プレフさん…まさか僕が浮気してると思ってるの? そんなわけないでしょ! つい先週、僕が告白したばかりですよ!?」
「じゃあ証明してください…//」
「え?」
「今夜、私の家に泊まってください//」
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「おかえりなさいシューラくん!」
いつも笑顔なジジイだ。
「あぁ」
「今日、運動会観に行ったよ。シューラくんカッコ良かった」
「あっそ」
視線を階段に向けて返答する。
「トワちゃんと一緒が良かったなぁ…」
「あぁ…?」
「どうして家出ちゃったのかな…」
「じゃあおめぇが呼び戻せよ」
「そ、そうだね…。詳しくは聞かないけど、シューラくん、喧嘩でもしちゃったのかな…?ははは…」
「なあ、煽ってんのか? 何の立場があってオレにそんな口聞けんだ。"どうして家出た?" "喧嘩でもした?" それ全部こっちのセリフだろ。時間が経てば許してもらえると思ってんのか?
オレはずっとおめぇを恨んでるぞ。母さん手離しやがって!
…調子に乗るな、オレを産んだだけのクソじじいが」