気持ちは自分にしかわからない
まだ人間が存在しない幾千年前、神々は争っていた。争いの終止符を打つ結果、神は世界を幾つかに分断させた。その境目こそが結界の誕生であった。
神は消滅し、後に人間が誕生したわけであった。しかし、限りある土地を奪い合うことで人類は争いに長い年月を費し、遂には結界の中でも更に『国』というもので土地を区切った。
終戦後、カタヤ国に住む高校生シューラは穏やかな日常を送っていた…
「あの、、俺ってどれくらい眠っていたのですか?」
「1ヶ月ってところだな」
あの時助けた少年がようやく目を覚ましたらしく、オレは病院まで足を運んだ。
「そうですか…。あの、、ありがたいんですけど、お互い面識ないはずなのにどうしてお見舞い来てくれてるんですか…?」
「そりゃー、オレが君を助けたからだよ。それ以外に理由なんてないぜ。 オレだって君のことなんか全然知らねーし、今さっきゼキラって名前知ったばっかりだ」
「あはは…、そうですよね…。自分、質問ばっかりで失礼ですよね? 、、もう1ついいですか…?」
「うん?何?」
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「バルバドス先輩はまだ変わってないっすか…、まあ仕方ないです。コレガ二くんはもう起動OKな感じっすかね?」
「ああ大丈夫って言ってた。というか召集のエンジンかかれば基本大体は準備できてる。ジュエノだってちょっとほっとけば「血が騒いできた…」ってなww」
「なんすかそれ!w ともかく皆落ち着いてきたっことは把握っす」
「おめぇはどうなんだウルバ? ずっと召集頑張ってるけど、心は平気か?」
「何言ってんすか。確かにウチも何人か死んじまったけど、全員知り合いでも何でもない奴っすよ? そんなんで別に心なんか痛まねぇっつーの」
「あっそ。じゃあ後はおめぇがリーダー奮い立たせておけよ」
「手加えなくても大丈夫っすよ! もう十分時間経ったんだし、シューラは自分から薦んでまた立ち上げますよ。俺はあいつがケンカ大好きって一番知ってますから」
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ゼキラは形相を変えてオレの服を両手で掴んだ。
「はぁ!? なんで!? なんで俺なんか助けてアグニさん助けなかったんだよ!!?」
「チッ、離せよ…。まずお前から話せ…。なんでアグニの境遇知って____」
手を振り解こうとするが、中々離さない。
「どうしてそんな澄ました顔ができるんだ!? 悲しくないのか!? お前、いっつもいっつもアグニさんとイチャイチャしやがって…! もう会えないのに、どうしてそんな___」
「なあ、おめぇはアグニの何だ? カレシか?友達か?好きな人か?大切な人か? おめぇに何の立場があって悲しんでるんだ?おめぇにオレ程の気持ちがわかんのか? あぁ!!?」
「い、いや…」
「じゃあ口出すんじゃねぇ。…それに嘆いたって、もうしょうがねぇだろ…」
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「ボス、今更ですがどうしてあのような策略を?」
「あのような策略とは?」
「同じ数を殺し返すのはわかりますが、高校生を標的にしたことや1つの学校に絞らず分散させたのはどうような考えで?」
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「自分の身が護られたのはとても良いことです。しかし生徒を差し置いて我々教員が傷一つ無いというのは、本当の無事と言えたものでしょうか?」
「わ、私は……!」
「続けてくださいプレフ先生」
「…私は偶然近くにいたので、勇気を振り絞って立ち向かいました。けれども武装者は抵抗する私に目もくれず、強引に生徒に向かって発砲しました……!」
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「別に高校生でなくともよい。ただ、少年少女を殺すことで我々が脅威的存在であることをアピールしたのさ。これで歯向かうことも滅多にないはずだ。テロなど起きてはならない。私の命は国民の命同等だ」
「素晴らしいお考えでごさいます…。それで、1つの学校に絞らなかったのは?」
「君って心はあるかい?」
「…はい??」
「1つの学校で200人殺したとしよう。もしそんなことが起きてしまえば、例えそこで生き残ったとしても一生モノのトラウマだ。では20校に10人ずつ殺せばどうなる? 確かに悲しみ、虚しさ、悔しさは滲む。しかし200人と10人では全く違う。それに悲しさの共有範囲も広がる。さすればいつかこの悲しさを忘れることができよう。敵国といえ理解はしている。私は固まったバターを薄く広げてあげたのだよ」
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「バルバドス先輩もカノジョ失って引き籠もりになった。他の奴も誰か大切な人死んじまったかもしれない。ああ、酷い事件だ」
「……」
「皆悲しい思いをしてる。でもいつまでもこんな思い背負ってられねぇだろ? …アオギリ町の族から誘いがある。なぁ、久しぶりにメンバー集めてタイマン張りに行こーぜ?」
「…ああ、わかったよウルバ。後で迎えに来てくれ」
ピッ
広範囲に及ぶ高校生虐殺事件は、世間を大きく騒がせた。この無秩序な殺害にカタヤ人はイスタリアをより一層憎んだ。
テレビではテロに関することは一切報道されなかった。だからこそ悩んだ。テレビや新聞が報道しているものは全て真実であることを教えられ、そう思ってきたから。
あの兵士の言ったことがもし真実ならば、一体何を信じればいいのかわからない。
「おかえりシューラ。ゼキラくんだっけ? 彼の調子どうだった?」
お人好しなのか、トワは知らない人でさえ様子を聞いた。
「ポカーンとしてたけど、意識を失う前に何があったかちゃんと覚えてた。何にも心配することないし、心配することあっても赤の他人だからオレからすることはもうねぇよ」
「そっか」
「なあトワ。カタヤはまた、戦争に巻き込まれんのかな…。人が武器を持つことがあんなにも恐ろしいなんて思わなかった」
「そんなの私に聞いても分からないよ」
トワは素っ気ない顔で返答する。
「結局、魔法って何だ?」
「それもよく分わかんない。私に備えついた異能力としか言えない」
「そっか。じゃあもう1つ聞きたいけどさ、___いつまでここに住む気だよ!?!?」
「えぇ〜、いいじゃーーん〜。ダメぇ?」
彼女の上目遣いがオレの心を支配する。
「お、親に心配とかされねぇのかよ…!」
「冗談は止して」
「え?」
「言ったでしょ。施設育ちだって」
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「暇だったらそこにいるジジイとでも何かしといて」
「別にアンタがいなくたって寂しくないよ。でも遊びって、どこで何するの?」
「何でもいいだろ。あんまり詮索すんなよ」
「……喧嘩でしょ? 私としては辞めてほしいな」
「…ああ。だから白黒付けにいく」
「ほどほどにしてね…___総長さん」
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ブゥゥゥーーン
「すっかり日暮れちまったなぁ。今日は楽しかっただろ?」
「あぁ、そうだな…」
夕日を眺めながら、バイクを2人乗りするオレとウルバ。
「毎日とは言わねぇけど、これから先もずっとこうやってバカ騒ぎしてきてぇなぁ。そうは思わないか?」
「……。実は今日来たのは、他にも理由があるんだ」
「へっ、女でもできた報告か?」
「じゃねぇよ。女なんか、オレには要らない」
「じゃあ何で改まった口調してんだよお兄さんや」
「……変わんねぇ毎日でも、笑い合って生きたい。そんな恥ずかしいことをさ、大事な人に言ったことがあんだ。でもオレの前から居なくなった。多分、死んじまった」
「……」
「それでなんでか知らねーし伝わらねぇと思うけど、そいつが死んでしまったことでオレはこのままでいいのかって思い始めたんだ。もう誰も悲しませないためにもっと強くならないといけないとか、そうなんだけど根本は違う気がする。そう、もっと国に貢献するとか…、もっと大きな舞台で活躍したい。これってきっとオレ、有名人になりたいんだ」
「だから何だって言うんだよ…?」
「だから…こんな外道、いつまでもやってられねぇんだよ」
「…それは違うだろ。おめぇ、そんな事件が起きる前から都合悪かったり気分で行かなかったりしてたよな? なあ、単純につまんねぇって思ってんだろ?」
「いや、だからそんなんじゃなくて___」
「俺たち、ずっと最強コンビのままでいようって誓ったよな?」
「それはお前が勝手に言っただけで___」
「認められたから俺たち総長副総長の座を獲得したんだよなぁ!!? 何がいけねぇんだよォォ!!!」
コイツにしては、中々に聴けない声量だった。
「………おめぇ今日どうした…?? 何そんな事で怒って___」
ウルバはエンジンを止めた。
「総長のくせに『そんなこと』じゃねぇよ……。今日はもうおめぇと話したくねぇ。降りてくれ」
「なあウルバ、おめぇいつまでコレを続ける気だ? 今はいいけど、こんなクソみてぇなことずっとはやってられんぞ。そろそろいい加減目を覚まさ_____」
「おい、降りろ」
「はいはいわかったよ。話全然通じねぇからオレもイライラしてた頃だしよぉ」
オレは気が立って喧嘩腰に口調を改めた。
だから思ってたこと、ぶちまけた。
「そもそもオレたち、性格が合ってなかったんだ」
「……ああ、まさかおめぇがそんな奴だと思わなかった」
「あっそ。じゃあな」
「おい」
オレを見ず、背を向けたまま呼び止める。
「どうせ最後なんだろ?」
「何だよ」
「妙に変だった。初めて会ってからずっと、今に至っても。どんなにグレようが、どんなに拳を振り回そうが、おめぇの根っこから見えるのは、嫌われたくないが故に本音をあまり吐かない気の優しさ…弱さだった。そんな奴がガキの頃にして大罪を犯したことも信じられない。おめぇこそ今日どうした? 死んだそいつに、一体どんな影響があるってんだ?」
本当に疑問に思っているのか、目をかっ開いていた。
「相手の影響力とか関係なしにただそれがおめぇの性格と言うのなら___、そもそもおめぇは大切な人なんか作るべきしゃなかったんだよ」
そう言ってウルバはバイクを走らせ、その音と共にその場を去った。
…
「チッ… あんまり間違ってないからイラつくんだよっ…!」
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「「私、金持ちの男しか目にないんだよねー」ってその女が言ってましてね!、いやいやまずあんた男選べるような顔してねぇよってめっちゃ思ったんですよーwww」
「ははは… プレフさん酔ってます?」
「えーまだまだ全然シラフですよ~~。イエーーイ、ピースピーース!」
「まったくですね…。教師なんですから、生徒の前ではちゃんとやってるんですよね?」
「当たり前ですよ~~。そんなことよりー、そういう自意識過剰なあざとい女って男性から見てもキモいですよね~? 私も同姓として恥ずかしくなっちゃいますよーww」
「はは…、でも自信を持つことは大事だと思いますよ。それに僕とプレフさんが知り合ったのは合コンからじゃないですか。合コンなんて最初から自信ないと、参加しようなんて思わないですよ」
「自信と自意識過剰は違いますぅー。アルフェルさんってなんかいつも否定的ぃぃ。そんなんじゃ嫌われますよー。女の心なんてガラスのように弱いんですから。すみませーん! 生ビール追加でーー!」
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「落ち着きましたか、プレフさん?」
「ちょっとキモチワルイ……。…ねぇ、アルフェルさん聞いて」
「いつも耳立ててますよ」
「今、教師ってすっごく重苦しいの」
「わかりますよ。物騒な事件がありましたからね」
「生徒自身が前向きにいてくれて良かったです。そうじゃなかったら、私はもう生徒を見ることができないくらいに耐えられなかった…。もう亡くなった生徒の親御さんに対応するのが辛い…!」
「そう落ち込むくらいに生徒さんのことを大事に思っているのですね…。プレフさんはどうして教師になろうと?」
「単純ですよ。十分すぎるくらい楽しかったんです、私の高校生活。それはそれは、青春でしたね。だから今度は教師しという立場だけど、もう1度学校の空気を吸いたくて教師目指しました」
「なるほど。僕ならその生徒さんたちと同じように、イヤなこと忘れて、熱く明るく前向きに過ごしていきますよ。親御さんにもそう言ってやりましょう。無理やりでもいい、心の整理がついてなくてもいい。人間、何でもネガティブになっちゃいけないですから。でもそう簡単になれないから僕たちは日々ストレスや悩み事抱えてる、そうじゃないですか?笑」
「ウフフッ、アルフェルさんカッコイイこと言いますね(笑)」
「そうだよ、もっと前向きに…。時間は有限なんだから…」
「アルフェルさんこそ酔ってるんじゃないですか?笑」
「プレフさん、僕と付き合ってください」
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「__高校襲撃事件において、第6高校では生徒4名の重傷と10名の死亡が確認されました__」
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「__しかし現場に居たはずの女子生徒1名が未だ見つからず__」
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「__行方不明者として現在捜査を検討__」
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