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クロノスゲート  作者: 無音
2/9

始まりは王の地、終わりは漆黒の空

「もしもし、ウルバどうした?」


「どうしたじゃねーよ!3丁目の奴らとタイマン張るんじゃなかったのかよ?オメェがいねぇとまとまんねぇだろ。それに逃げたと思われてんぞ」


「急な気分で実家帰ってたんだ。すまんな、無断で抜けて。携帯置きっぱで行っちまったからしゃーねぇだろ?」


「オメェ、最近何かと理由付けて来ねぇこと多くないか…? 付き合い悪くなったし、…もしかして好きな女でもできたのか?」


「は、は!? なんでそういう頭の転換になんだよ!」


「オメェって…タマでけぇくせにそこはクソ小さいんだな…」


「とにかく! オレもう教室前だから切るぜ。先輩には適当に言っといてくれ。頼むぞ」


「お、おい! シューラ!」


ピッ





街には心地良い風が通るようになったらしい。



--ブゥゥゥゥン



オレがまだ自我を持ってなかった頃、戦争が終わんなくて街がよく焼き焦げにされていたらしい。



--『指名手配犯として挙げられていた犯罪テロ組織プレアデスの一人が昨夜、民間の目撃情報から逮捕までに至ることができました』



まだまだボロくて汚くて貧乏で治安が悪いけど、復興に日々街は音を立てている。






ガラガラガラ


「すいません遅れました」


「遅い!今まで何やってたの!?」


「寝坊しました。そんな怒んないでくださいよ先生」

 

「はぁ…まあいいわ、早く席に着きなさい」





「ねぇねぇ…、ホントはどうして遅れたの?」


クレハが小さい声で話し掛けると同時にオレの胸の鼓動が高くなった。


「べ、別に何も…」


「ふーーーん……」



.

.


「えっ!働いているの!?」


「シーー!! 声デカイ…!」


クレハとは1年生からの関係だ。とても活発的で可愛くて、まるで男が考える理想のタイプそのものだ。



「働くのって楽しい?」


「そんなわけねぇだろ…。覚えることたくさんあるわ、ちょっとでも失敗したらすぐ怒られるわ。ただただしんどいだけだよ」


「へぇー、大変そう。ますます気になる! 何のお仕事か教えてよ!」


「えっ…! 聞いてもつまんねーぞ!?」


「いいから早く~!」


「そ、それじゃあ耳貸して。他の奴に聞かれたくないから…」


オレは顔を赤くして、チラチラ周りを見ながらクレハに耳打ちを試みるが______


「おーい、シューラ。プレフ先生が呼んでるぞー」


ビクッと驚いて体勢を戻す。


「お、おお…。今行く」


クレハはほっこりと眉をひそめる。「行ってきたら?」そんな表情を見せた。



.


.


職員室にて



「ちゃんと働いていたのか知らないけど、寄り道せずなるべく早く来なさいよ。学校に行けるってことだけでありがたいのだから」


担任のプレフ先生(おそらく二十代後半)が、ぶりっ子みたいにプクーっとして怒っていた。いわゆるあざといってやつだ。


「はいはい分かりました」


プレフ先生は軽いからこうやってあしらっても怒られない。


「まあそれは良しとして、シューラくんっ! 学校生活楽しい?充実してる?」


「え? 何すか、キモいっすよ」


「ちょっ! もう、真剣に聞いてるの…」


「授業が短くなれば楽しいですね」


「そっ。冗談言えるくらいならよかった」


「冗談言ってるわけ_____」


「先生は心配してるのよ。私だけじゃなくて他の先生も。一度きりの学生人生を授けているのだから、全然楽しくないなんて言われたら困るのよ?特に君は皆より学生として居られる時間少ないのだから」


「どーもご親切にありがとございました。そんじゃあ失礼します」


「学生よ、青春するのじゃぞ!!」


そしてプレフ先生は手でグッチョブサインを作った。



ガラガラガラ



普段ちょける担任も、意外にも人の心を掴む優しさがあって驚いた。卒業までの残り時間を、真剣に考えてみてもいいのかもしれない。




「さーて、用も済んだし______」


(クレハはまだ教室居んのかな……)



初めて喋ったのいつだっけ? そう思えるくらいにクレハと喋る機会が増えて、それだけですっげー嬉しい。ずっと話していたい。


けど、、



「あ、明日サッカーの試合あるんだけど観に来てよ!」

「えーー(笑) 私結構忙しーんだよねー」



教室のドア前に立った時、クレハが複数の男と喋ってるのが見えた。

振り返って、ここを離れる。




分かっているはずだ、期待するだけ損だってこと。そうだろ、オレ


前に進まなくていいんだ。今の状態が続くだけでも十分なんだ。





放課後はよく屋上へと上がる。なるべく高い場所で空気を吸うことで安らぎを感じられるから。そして毎度タバコをポケットに隠し持ちながら一服するのを試みる。もちろん校内では禁止、というか未成年の時点でアウトだけど。



ガチャ


「あっ、こんにちわ先輩」


後輩のアグニがいた。


「最近よくここにいるんだな」


彼女との出会いはこの場所。どうやらまだ学校に慣れないところがあるらしい。


「やっぱりこの場所が一番落ち着きますからね」



ポケットからタバコを取り出す。

2人は一点を見つめながら黙り合う。

オレは柵を背もたれにして町の風景を。アグニは柵を掴んで運動場を。



「アグニって好きな人いるの?」


「何ですか急に!?//」


「ほれほれ〜! 教えてみなさいよ〜!」


「___私は…! いますよ。それに挫けないですよ! 小学生の時に幼馴染に振られたからってすぐに恋愛を諦めた先輩と違って!」


焦りのような感情が、見てるオレからにも伝わる。


「もぅ…! 落ち着くために来たのに… どうしてくれるんですかぁ///」


両手で顔を隠した姿がとても可愛かった。


「オレも好きな人いるよ」



「____え…? でも先輩、もう恋愛はしないって…」


「…うん。だからちょっと辛い…」



スゥゥゥー…


空を見上げ1つ吸う。







〈35〉

スゥゥゥー…



「うげっ…。父ちゃん、タバコ臭いよ」



「かっかっかー!!そんなことよりアルバート!今日は塀を越えて海に行くぞ!釣りだ釣り!楽しいぜ」



「どこまで行くの?どれくらい掛かるの?」



「イスタリアだよぉ! うーん、2時間くらいかな」



「えー! それって、僕たち大丈夫なの…?」



「大丈夫だっての、ほれ!行くぞ!」



「…バレないよね?」



「心配すんなって、いざってときは守ってやるよ」



.


.


.



「知ってるアルバート? カタヤって昔はすっごく大きな国だったんだって。まだお母さんが生まれる前の話なんだけど」



「どうして小さくなったの?」



「それはね、今よりもっと酷い争いがあったらしくて____」



.


.


.



「あ…あ、あなたのことがす、す、す、すき…です// 付き合ってくれたら…う、嬉しい…かな!あはははは!」



「うふふっ、アルバートくんはやっぱ明るくて面白い人ですね。いいですよ、私たち付き合ってみましょ」



「あ、ありがと…! あーなんかスッキリした~」



.


.


.



「別にワシの畑の跡継ぎしなくて良いぞ?」



「えっ、どういうこと?」



「アルバート、中学終わったら学院に行ってこい」



「別にいいよそんなの! 学費は?」



「そんなの大したことねぇ。オメェの自由だ。それに、やっぱ学校っていうのは楽しいだろ?」



「父さん…!」



.


.


.



「おいお前ら海行こーぜ!イスタリアのとこの」



「お、おい… 大丈夫なのか…?」



「止めといた方がいいって…。もし見つかったら何されるか分からないし…」



「何ビビってんだよ、バレねーって! 俺昔なぁ、親父と海行ったけど全然余裕だったぜ!秘密の通路ってのがあるんだよ!」



「じゃあ…、一回だけでも行くか…?」



.


.


.



「違うんだ!!コイツらは悪くないんだ!!俺がムリにコイツら巻き込んで連れて行ったんだ!!全部俺が罰を受けるから……他の奴は許してくれ!!!」



「ダメだ。全員に等しく罰を与える。お前たちの親にも」



「そ、そんな……」



「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」



.


.


.



「ごめんなさいお父さん…」



「アルバート、お前に与える選択肢は2つ。学院を退学して家を出るか、それとも娯楽を捨て学業のみに専念するか」



「アナタ…! さすがにそれはやりすぎ____」



「お前は黙ってろ!!! さあ決めろ」



「……学業に…、専念します…」



.


.


.



「別れよ、アルバート」



「え…!!」



「いや、アルバートと居て私すっごく楽しかったよ。でも私はお母さんの紡績業の跡継ぎ、あなたは学院。きっとあなたにはそこで良い出会いが見つかって、もう私の事なんか忘れちゃうんだ。だからね、これは私のケジメだよ」



「そんな……。もうユレナだけが俺の生命線なのに……待ってくれよ……離れないでくれよ……」



「さっきも言ったけど、本当に楽しかったよ」



「ユレナ…!!」



「バイバイ」




俺が強く彼女を想っていただけであって相手側は俺に対する想いがその程度だった、多分こうなんだ。

それに気づいたときが一番ショックだった。




「雪、降ってきた…」



1人になって、雪も降って______寂しいな……



.


.


.



「お前、約束したよな? 学業に専念するって。そろそろいい加減にしろ」



「待って父さん!次は何とかするから!」



「具体的にどうするのかちゃんと説明しろぉぉぉ!!!」



「うぅ…! ううぅ……! ううううぅ!」



「この泣き虫が。もう出ていけ」





「アルバート…、お父さんにはお母さんが説得しておくからそう落ち込まないで_____」


「触るなあ!!!」



.


.


.



「きゃああぁぁぁぁ!!! アナタ!!!」



「う… うふ、 うふふふふ! うははははは!!!」



父を刺した。





俺は誰もが思い描く普通を歩みたかった。けれど、どうして俺はこんなにも不幸になってしまったんだ。どうして父親を殺す羽目になってしまったんだ。




貧乏なのが原因だと思った。極論に聞こえるけど、逆順に元を辿っていくとそれが妥当な解答だ。というより、自身の小さな脳みそではそれしか考えられない。

そして醜い戦争が、貧乏の魂胆に違いない。



だからもう、終わらせなければ_____



.


.


.


.



「私は、カタヤから来たりし超空魔法を持つ反逆者、アルバート」


全ての者にこの声を届けさせた。


「僕らの国はスラムと化しています。土地が狭く、食糧不足で悩まされ医療に手が尽かず、経済が機能しない。理由は簡単です。それは不平等だからです。僕は世界に不平を投げ掛けます。


争いは終わらない。それは誰もが不幸であり、その不幸さをまた他の誰かにぶつけてしまうからだ。それは果てしなく続き。


私は終わらせるつもりだ。それは、戦いを終わらせるための戦いではなく、話し合いによる終焉。


今は何をするか、何をすべきかわからない。けれどいずれ変える。世界を、変えてやる」






ーーmgw2ts60jsy3no5vk9n3tg6tgmpーー



「先輩?」


「え?」


「話聞いてました? ボーッとしてましたよ」


「あれ?なんかすっげーヘンな考え事してた…」


「って先輩、またタバコ吸ってる。未成年は禁止ですよ!」


「ははっ、堅いね~アグニちゃんは」


「もぅ…、せめて私のいないところで吸ってください。副流煙の方が病気のリスク高いんですよ?」


「それで結局話ってなんだった?」


「全く聞いてなかったんですかー!?」


「いや聞いてなかったというか…、夢でも見てたのかな? 別人になっちまったかのように違うこと考えて一瞬この場にいる記憶すら無くて…、でもあれは夢と思えないくらい鮮明で___。で、どんな話?」


「ハァ… 将来、この町を出るか出ないかって話ですよ。ほら、少し田舎じゃないですか?ここ」


「そうか? まあでも、もうそんなこと考えてんだ。偉いなアグニちゃんは~」


「『もう』って言ってられるほど余裕じゃないですよ。高校を卒業したら私たち、もう大人ですから。私はあと2年半で、先輩はあと1年半。学生気分になれるのって、意外と短いですね…」


「そっか。でもどうして突然そんな質問を?」


「ただ気になっただけですよ…。少し昔と違って今は『選ぶ』ことができる新しい時代ですから」


「なるほどね。うーーん……、オレも考えたことないかなぁ。まあ、今みたいな生活が続いていられるなら、町を出なくてもいいかな。世界なんてちっぽけだから、出ようが出まいが関係ない気がする」


「今みたいな生活って?」


「ふれあって、笑いあって、何かに夢中して、変わんねぇ毎日でも生き甲斐を感じる、そんな生活」


「へぇ素敵…!それに意外! 先輩ってもっと夢があると思いましたよ。この暮らしにはもう満足できてるんですか?」


「満足なわけねぇよ。終戦して平和になったと言えど貧乏で家は小せぇし道路は狭くて窮屈だし飯は少ないし気性の荒い奴ばっかだし、欠点ばっかりだよ。そりゃー、結界なんて無くなってほしい。そしたらこんな不満なんて考えなくてもいいようになるかもだし。けどそれが、人並みより大して望んでいないってだけ」


「先輩っていいな。のんびり気ままに考えることができて。なんだか私がバカみたい…」


「そんなことねぇよ。時代が時代だから、アグニ以上に考えてる人いっぱいいると思う。それより今を楽しもうぜ。今は学校生活楽しい?」


「はい! まだ人見知りが直ってなくて緊張しますけど、とっても充実していて、きっとこれからもっと楽しくなると思います」


「その意気!でも先輩からのアドバイス。どんだけの人と友達になるかじゃなくて誰と友達になるか、それが大事だぜ」


「はい!」


「それじゃあオレもうここ出るけど、一緒に来る?」


「いえ、私はもうちょっと景色を見ておくので大丈夫ですよ!」


「おー、おっけぇ…」


ちょっとカッコ悪い締めで、アグニに背を向けた。



「…先輩、1ついいですか?」


「ん、何?」


振り向くと彼女は不安げそうな顔つきだった。


「さっきのって冗談ですか…? まるで記憶が無かったって…」


「え? ああ、言ったな。結構マジでそう思えるくらいボケーっとしてたんだろうな。それがどうかした?」


「実は私もその経験ありました…。幼い頃に丸1日中夢を見ていたかのように、私の場合はその日全部の記憶を失っていました」


「な、何だよそれ…!(笑) そっちこそ冗談かよ」


「その後は何も無かったんですけど、驚きとかそれ以上になぜか怖かった……___だから先輩も気をつけてください!」


「うん…わかった。アグニもあんまり考えすぎるなよ」



オレは彼女の様子を伺いつつ、うるさい飛行機の音と共に扉を開け、ここを去った。



「アグニ…、相当怯えてた_____」



______


「……」


この話には続きがあった。

歳を跨ぐ程に時間が経った頃なのに、徐々にその記憶を失った日のことをフワフワと呼び起こされるように思い出した。遠い昔なのにチラつかされ、それはその日の事であるのを何故か分かる。


そして1つ確かなのは、私は誰かと目が合った。


「これも言っておいた方が___」


先輩が出たドアへと方向を向ける。




駆け抜けようとした途端、上から影が私を覆う。






ドオォォォォォォォォン!!!!!!!



______



「!!!」



急いでまた扉を開けた



シュゥゥゥゥ…









空爆だ

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