破壊神は事実かもしれないけど
「よければ、俺ら……このダルニア国から、魔物を狩ることを生業にしている者を数人派遣しようか? 俺らは、狩った魔物の肉や皮なんかの素材をくれるならタダでいい」
「おお、それは良いな。まずはお試しで、狩人達を護衛につけましょう。殿下達を安全に送り届けますので、どうかご検討を」
「ええ、ぜひに」
パーサの言葉に、ダルニア国王と王妃も笑顔で頷く。アガサの目には、三人の顔に『カモ見っけ』と書いてあるのが見えた。気づいていないのは、パーサ達の『安全』と『タダ』という言葉にだけに飛びつき、期待に目を輝かせているハーヴェイとその護衛騎士達だ。
(私は、メルに乗って飛んできたから無事だったけど……そうか、普通に旅してたら魔物に遭遇するわよね)
今までは結界で守られていたので、エアヘル国民は国内にいれば魔物の被害はなかった。その結界が無くなった、あるいは張り直すにしても範囲が狭くなることを考えると、これからは魔物の被害は増えるだろう。
と言うか、ダルニア国が結界を断るのは魔物を狩って、素材を手に入れたいからと言っていた。つまり素材を回収することで、結果的にはタダではないのでは、とアガタは思った。
しかし、思ったがアガタは言わなかった。
前世の記憶を思い出すまでは、言われるままにタダ働きをしていたが──労働には、対価が必要なのだ。そして、その技術が高かったり稀少だったりする場合は安売りせず、その能力に見合った金額を受け取るべきなのである。
(だまされるのは、気の毒……いや、全然気の毒じゃないな。先に、私を騙したのはエアヘル国の方だし? 嘘は言ってないし、お互いWinWinなら良いわよね?)
内心、腕組みしてうんうん頷いていたアガタの前で、ハーヴェイが偉そうに言った。
「もう貴様には頼まん! そして、ぜひ護衛を頼む! 無事に辿り着いた暁には、私が父に頼んでやろう!」
「よろしくお願いします」
すっかり、アガタからダルニア国の狩人に関心が移ったハーヴェイ達と、息子くらい年下の相手に笑顔で対応するダルニア国王に、アガタはハーヴェイに気づかれないようやれやれとため息をついたのだった。
※
「馬鹿だよな、あの王太子」
その後、城からアガタ達をサマンサの店まで送ってくれたパーサが言った。
「最初、アガタがチラっと言ってた婚約者のことを考えて……とも、思ったけど。あれは違うよな。ただ、目先の好機に何も考えないで飛びついただけだ」
「ええ、タダって言葉しか聞いてませんでしたよね」
「だから、お花畑だって言うんだよ」
そしてククッと笑って、パーサは話の先を続けた。
「あの王太子の感じだと多分、エアヘル国王もあっさり頷くと思うんだよな……俺ら、有能だし? ただ、いくら楽したいからって他国の人間をホイホイ国に入れていいのかね?」
「…………」
「……アガタ様。もしかしたらあえてアガタ様が呼ばなくても、下級精霊によって神官達や聖女は手痛い目にあうかもしれません」
「メル?」
不穏なことを言うパーサに少しヒヤッとしたが、次いでのメルの言葉にも引っかかった。そんな彼女を、メルは金色の目で真っ直ぐに見返して言う。
「魔物への対抗策が別に出来れば、そもそも神官達や聖女は身を削ってまで結界を張らなくなるかもしれません。そうなると、中位や高位の精霊は好きなところに移動するでしょうが……下位の精霊達は、それこそ楽して人の生命力を得て、存在していましたから。その供給を断たれたら、不満を訴えると思います」
「っ!?」
ますます不穏な発言に、アガタは息を呑み──けれど、しばし考えた後にアガタは言った。
「聖女だったのにって思われるかもしれないけど、私は王族や貴族、神官達とはもう関わりたくないし……国民は無関係だと思うけど、ダルニア国で魔物対策をしてくれるなら、それでいいじゃないって思うの。あとは、精霊の声が聞こえないことで出来損ないって言われてきたけど、そうやって不満を言われるなら聞こえなくて良かったって……薄情だから、破壊神って言われても仕方ないかな?」
「まぁ、色々ぶっ壊れるだろうけど……そもそも、女の子一人に色々背負わせすぎ。せっかく自由になったんだから、アガタはうまいもの食って好きな料理してろよ」
本音を漏らしたアガタの顔を覗き込んで、ランが優しく言う。そんなランに、アガタは思いつくままに口を開いた。
「ドラマだと、頭撫でたりもするんじゃない?」
「いやー、そういうスキンシップって家族や恋人までだろ? 俺の価値観としては、たとえイケメンで親しくても絶許だな」
「それもそうね」
そして、互いに前世のネタを口にして──アガタとランは、見つめ合って笑い合った。




