破壊神『で』交渉を
「何故だ!? 貴様が戻れば、いいだけの話だろうか!?」
「えぇ……恋人以外は、どうなってもいいんですか? まあ、いいんでしょうね」
「口の減らない奴だな!」
「あなたは、色々と残念ですね……もう、お話しすることはありません。お帰り下さい」
そう言って一方的に話を締め括ったアガタに、最初、理解出来ずに呆けて──次いで、ハーヴェイは怒りで真っ赤になった。それから大股でアガタに近づき、捕まえようと手を伸ばしてくる。
「貴様!」
「させるかよっ」
「同感」
そんなハーヴェイから庇うように、ランとパーサがアガタの前に立ったが──更にその前に、メルが立ち塞がった。小さな男の子の登場にハーヴェイが鼻で笑うか、次の瞬間、その顔が驚愕に歪む。
「去れ」
短く男の子が言った途端、彼を中心に風が渦巻き、ハーヴェイへと襲い掛かって吹き飛ばした。そして、無様に転がったハーヴェイと慌てて駆け寄った護衛達の前で、メルはグリフォンへと姿を変えた。もっとも場所を考えてか、小型トラックから軽自動車くらいにサイズを縮めているが。
「せ……精霊?」
「いかにも。ぼ……私が、愛し子様に仇なすことを許すと思うな」
いつもの一人称が出そうになったのを、何もなかったように訂正する。ちょっとほっこりしつつも、まるで懲りていないようなのでアガタはハーヴェイ達にしっかり釘を刺すことにした。
「帰らないのなら、エアヘル国の精霊を呼び集めます」
「はぁっ!?」
「私がいなくて、今までみたいな結界が張れないのかもしれませんが……それすらも、精霊がいなくなったら出来なくなりますよ?」
「脅しか! この破壊神がっ」
「何とでも」
こちらの話を聞かず、自分の我ばかり通そうとするハーヴェイに、いい加減アガタは面倒になってきた。しかし、ここで話をつけなければまたこの我が儘野郎の相手をしなければならなくなる。
(メルの言葉通りなら、メルみたいに協力してくれて集まってくれるから、交渉材料になると思うのよね……わたしのことを怖がってるらしい、下級精霊以外は)
そういう精霊達は、神官や聖女からの生命力が欲しいので残るだろう。だがメルや、自宅や獣人の里の結界を張ってくれた精霊達のように、アガタに好意を持ってくれるらしい精霊達がいなくなればもっと苦労するだろう。
(ああ、でも、普通の人間には精霊を見ることも、声を聞くことも出来ないから……この馬鹿坊やエアヘル国の人達には、本当にいなくなったかどうか解らないのか)
さて、どうするか。内心、頭を抱えたアガタに、助け船を出してくれたのはパーサだった。




