重要人物だとは思ったけれど
その後、大食い美人──パーサは、しっかりロールキャベツを堪能して店を出た。そして言っていた通り、サマンサの店の営業が終了した後、再び彼はやって来た。
そんな彼に、まず物申したのは意外な、というのも何だがサマンサだった。
「あの……ウチの店をご贔屓にしてくれるのは嬉しいんですけど……アガタちゃんを捕まえるとか、連れていかれるのはちょっと……彼女がいてくれて、ウチは本当に助かってるんです」
「サマンサさん……」
その言葉をありがたく嬉しく思い、アガタは感激しながら老婆の名前を呼んだ。そんなアガタの前に出て庇いながら、マントを着てフードを被ったままのランが続けて言う。
「頼むから、見逃してくれ。年の割に小さいけど、初めて会った時はもっと棒みたいにやせ細ってて……この店に来てから、アガタはたくさん食ってようやくここまでになったんだ」
「ランさん」
「……僕が、精霊だって気づいてるんですよね? アガタ様に害を成すなら僕も、他の精霊もあなたを、そしてこの国を許しません」
「メル……」
更には、隣にいたメルまでアガタの手を握りながら参戦する。そんな面々の発言を、一通り黙って聞いたところで──パーサが、肩を竦めて言った。
「見逃すのは、無理だ。アンタを探してるのはエアヘル国の王太子で、俺は王太子に頼まれたダルニア国王の命を受けてる」
「「「「っ!?」」」」
「国王の命って……お城に勤めてるんですか? あと、あなたも精霊の加護を受けているんですか?」
パーサの言葉に、サマンサ達がギョッとする。
一方、相手の話を聞いてアガタはパーサにそう尋ねた。それはパーサの格好や言動が、城勤めにしては随分、崩れているからだ。それとも、それすら演技なのだろうか? そしてメルが精霊だと気づいたようだが、もしかしたらその能力を買われているんだろうか?
一応年上だし、何より店の客なのでサマンサ同様、アガタは敬語で問いかけた。そうすると、パーサはパチリと紫色の目を瞠った。
何故、驚かれるのか解らず首を傾げていると、パーサは困ったように笑って金色の頭を掻いた。
「いや、城だと暗黙の了解だから改めて聞かれることがなくて……あと、俺はアンタが元聖女だって聞いて知ってるから、コッチのも言わないと不公平だよな」
「……あの、言い難かったら無理にとは」
「いや? 俺は、国王が使用人に手を出して生まれた子供なんだよな。で、その使用人がエアヘル国から……と言うか、神殿から逃げてきた女神官だったって訳」
「「「「は?」」」」
「ちょっ、重要人物だとは思ってたけど……情報量が、多すぎる! 設定盛り盛りすぎるだろっ!?」
パーサがさらりととんでもないことを言ったのに、アガタ達は思わず間の抜けた声を上げ、ランはたまらず絶叫していた。




