お花畑の国
そんな訳で、和気あいあいと食事をしていたアガタ達だったが。
……アガタ達が、エアヘル国から来たと聞いた瞬間、サマンサが身を乗り出してきたのに驚いた。
「あのお花畑の国から? ああ、でもランさんが連れてきたのなら、大丈夫ってことよね……ダルニア国に来たのは、正解よ?」
「……あの、お花畑って?」
門番にも言われたが、サマンサまでこうして口にするところを見ると、ダルニア国ではエアヘル国のことをそう呼ぶのが一般的らしい。
チラ、とあなたとサマンサに呼ばれたランを見るとフードを被ったまま、けれど気まずそうに頬を掻いている。獣人の里では人間自体が嫌悪されていたが、国と言うか人間達の間にも何かわだかまりがあるのだろうか。
その疑問を視線に込めて見上げると、ランは肩を竦めて話してくれた。
「エアヘル国って、結界に守られてるだろう?」
「え、ええ」
「だから、魔物がいることは知ってても危機感がない。逆に、結界のおかげで助かってるくせに、自分達が特別だって勘違いしてる奴が多い。まあ、ダルニア国が金や物を渡しておだててるから、侵略とかに走らないでくれてるが、エアヘル人以外は見下してる。だからお、いや、他の国の奴からカモにされやすい」
「だから、ランさんは珍しいのよ。ただ、持ってくる商品が良いから、露店を出すとすぐ売れるの」
「……サマンサさん、俺のこと知ってたんだ」
「買いに行ってたのは主人だけど、話は聞いていたわ。フードを脱がないのも、訳アリみたいだからソッとしておくようにって」
「あー……」
そう、ランは店の中でもマントを着てフードを被ったままだ。耳と尻尾を隠す為である。
しかし、サマンサは何も言わず――けれどそれが「亡き夫から言われたから」と聞いて、ランは脱力したようだ。声と共に息を吐くと、おもむろにフードを脱いだ。
「……まあ、こんな訳で」
「あら! もっと早く、打ち明けてれば良かったわね。今は寒いから良いけど、暑くなったら別に席を用意したり何なら持ち帰れるようにするから。マントもフードも脱いで、楽にしてね?」
「いー、んですか?」
「勿論よ! それこそ、フードを脱いだら別人になるくらいに思ってたから」
「あ、はい……ありがとう、ございます。この子らの仕事が決まったら、そうします」
「いえいえ」
サマンサにあっさり獣人であることを受け入れられて、ランは困惑していたが――やがて、深々と頭を下げた。
そんなランに笑顔で答えると、サマンサはその表情のままアガタに目をやって言った。
「ねぇ? 仕事を探しているのなら、ウチで働かない?」




