ふと前世の伴侶を想う
サマンサがテーブルを拭くと言っていたが、閉めているのに食堂の中は綺麗だった。悲しみながらも、亡き夫が残した店を慈しんだのかと思うとアガタの鼻はツンと痛んだ。けれど、涙を流すとサマンサが気にしそうなので必死に堪えた。
(『安形』は、奥さんを見送ってしばらくしてから、亡くなったけど……良かったって言うのも変だけど、亡くなった時の悲しみをこんな風に、奥さんに味わわせなかったのは……うん)
そんなアガタの横をランが通り過ぎ、にんにくスープの鍋を店のテーブルに置いてくれた。実年齢より小さく細いアガタなので、万が一にも熱々の鍋を落としたら大変と彼が引き受けてくれた。
(ごめんね、ランさん……でも、こうやって料理が作れるって解ったのは、良かったかも)
何せアガタは、ダルニア国に仕事を探しに来たのだ。生まれ変わってから最近まで、聖女としての仕事だけをしてきた訳だが――精霊にお願いしての結界は、旅には役立つかもしれないがそもそも体力や腕力が人並み以下なので旅の最後まで持つか解らない。何しろ、今までがメルの背中に乗っての移動なのだ。もふもふで快適だったので、馬車などで最後まで結界を張りつつ完了出来るか不安でしかない。
(そういう意味では、こういうところで働けると良かったけど……無理は禁物だし。あ、でも仕事決まっても、たまにはサマンサさんにご飯作りに来ようかな)
アガタがそう思ったのは、湯気を立てるにんにくスープを見てキラキラと目を輝かせているからだ。前世の妻もだが、こういう反応は料理人の大好物なのだ。
「どうぞ、召し上がれ」
「ありがとう、頂くわね……んんっ! 熱々で、美味しいっ」
スープを具であるパンや卵、あとソーセージや刻んだにんにくと共に深いお皿によそう。そして早速、口に運ぶと――丸い頬をふんわりと緩ませて、弾んだ声を上げた。
そんなサマンサにほっこりしつつ、アガタもまた自分の作ったスープを口にする。
城でもパンは固かったが、今日もスープに入れるのに千切ったところ、外皮が固くてパリッとしていたので、そもそもふんわり柔らか食感のパンが出回っていないか、あるにしても富裕層向けなのかもしれない。
けれどそんな固いパンもスープを吸って、口に入れると優しい味と香ばしさが広がる。コンソメ程ではないが、ソーセージのおかげでコクもあってホッとする。美味しいし、にんにく効果もあり体がほっこり温まる。
「美味いな、これ!」
「アガタ姉様、美味しいですっ」
そして一緒に食べていたランとメルも、あっという間に食べておかわりをよそっていた。




