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【完結】タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。  作者: 渡里あずま


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温かさが呼び起こすもの

 厨房は、店だけあって竈が三つ(前世のコンロ三個口を思い出した)あった。今は火を消しているが、それこそ前世のコンロのように簡単に火力の調整が出来ないので、火の強さを分けて料理に活用していたらしい。

 さて、火は薪があったのでつければ良いのだが、それよりとも最近は火を使った料理をしていなかったので、食材がなかったことの方が問題だった。確認したところ、固いパンとソーセージしかなかったのだ。


「アガタ……流石にこれだと、そのまま食べる以外は難しいんじゃないか?」

「そう……ですね。卵一個と、にんにくが少しあれば温かいものが作れるんですけど。ただもうすぐ日も暮れるから、店なんかは閉まってますよね」


 ランの問いかけに、つい普通に返しそうになったが、今はサマンサがいる。仮にも年下のアガタが、ランにタメ口なのは良くないので気をつけて話した。幸い、メルもサマンサがいることで空気を読んでくれたのか、ツッコミは入らなかった。

 そんなアガタ達の会話に、サマンサが「まあ!」と声を上げる。


「それくらいなら、お隣の家にお願い出来るかも……ちょっと行ってくるから、待っててね!?」

「あ、はい」


 よっぽど温かい食事に飢えていたのか、サマンサはアガタ達にそう言うと厨房を出て行った。そしてしばらくすると「お隣さんに貰えたわ!」と言い、卵とニンニクを掲げて戻ってきた。


「すみません、ありがとうございます」

「いいのよ。むしろ心配されてたから、ちゃんとご飯食べるって言ったら喜ばれたわ……こちらこそ、ありがとうね」

「いえ、私の方こそありがとうございます」


 おかげで、サマンサに温かいものを食べて貰える。そう思い、お礼を言うと無事、食材が入手出来たのでアガタはにんにくを薄切りに、それからソーセージとパンを一口サイズに切るとまず鍋に油を入れ、にんにくを軽く炒めた。それからソーセージとパンを入れ、油がなじんだところで水を注いだ。


(本当は、コンソメを使うんだけど……今はないから、コクを出すのにソーセージで)


 今、作っているのは前世の客から教わったスペインのにんにくスープ(ソパ・デ・アホ)である。仕事で日本に来ていたが、故郷の料理が恋しいというのでレシピを教わって作ったことがあったのだ。

 鍋が煮立ち、パンがスープを吸ってふんわりしたところで、塩と胡椒で味を調えて最後に溶き卵を流し入れた。そして火を止め、全体を大きくかき混ぜて完成である。


「出来ました! 今、お皿に……って、サマンサさん!?」

「……あ……ごめんなさいね? 主人のことを、思い出して……あ、お皿はわたしが出すわね」


 料理が終わり、振り向くと――サマンサが、泣いていた。驚いて声を上げると、ハンカチで涙を拭いながらそう言って、言葉通り戸棚から皿を出そうとして止まった。


「あ、どうせならお店で皆も一緒に食べましょう? テーブルを拭いてくるから、ちょっと待っててね?」


 そして言葉通り、干してあった布巾を濡らすと店の方へと小走りに駆けていった。


「……サマンサさん、ちょっと元気出たみたいだな」


 出会った時、青白い顔をしていたので心配だったが――見送ったランが、そう言って笑っていたのでアガタはホッとした。

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