同じだからこそ解ること
血の気の引いた、青白い顔をして動けなくなっている老婆を見て、ランが「あ」と声を上げる。
「サマンサさん?」
「ラン、お知り合い?」
「あー、サマンサさんは俺、知らないかもだけど……旦那と二人で、食堂やってるんだよ。その食堂に、何回か行ったことがあったから」
「……いた」
ランとアガタが話している(メルは黙ってアガタの横にくっついていた)と、サマンサと呼ばれた灰色の髪の老婆が声を上げる。それに、二人が話をやめて老婆に目をやると。
ぐうぅ……っ!
弱々しい声に反して、老婆の腹の鳴る音が大きく響き渡った。
※
恥ずかしがる老婆を、ランは横抱きにして家兼食堂へと運んだ。とは言え、今は店はやっていない。
……料理人だった老婆の夫・イーサンが、二か月前に亡くなったからである。
「知らなくてごめんな? サマンサさん」
「いいのよ。逆に、こちらこそごめんなさいね? ずっとイーサンが作ってくれていたからわたし、料理って出来なくて……」
この食堂は寡黙な料理人だったイーサンと、ふくよかで愛想の良いウェイトレスのサマンサでずっとやっていたらしい。あいにく子供には恵まれなかったが、夫婦仲良く過ごしていたそうだ。
サマンサは掃除洗濯は問題ないが唯一、料理だけが上達せず。今までは夫のイーサンが美味しいご飯を作ってくれていたそうだが、亡くなったことで食欲が落ちてしまった上、サマンサが作るととにかく焦げてしまうらしい。おかげでここしばらくは、食べられるのは火を使わないパンや果物くらいだったそうである。
そんな訳で、食も進まずすっかり引きこもっていたサマンサだったが、今日はイーサンの月命日だった。
それ故、墓地まで出かけていたのだが、久々に動いたせいか空腹で動けなくなり、そこにアガタ達が通りかかった訳である。
(……それは、食べた気しないだろうなぁ)
火を使わない食べ物となると、聖女時代のデフォルトだったのでアガタはすっかり共感していた。そして自分が獣人の里で温かい食べ物をご馳走になったように、サマンサにも温かいものを食べさせたいと思った。それは前世で、自分もまた食堂の料理人だったからだろう。
(生まれ変わってから、料理って子供の時の手伝いくらいでしかやってないけど……簡単なものなら)
それ故、アガタはランと話していたサマンサに、おずおずと声をかけた。
「あの……よければ私、作りましょうか?」
刹那、ランとサマンサ――だけでなく、メルも尊敬にキラキラと目を輝かせてアガタを見た。




