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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

給金百倍、三食昼寝付きで引き抜かれました!〜超ブラック傭兵ギルドの社畜竜騎士は辺境に移り住んで自由気ままに暮らしたい〜

「はぁ、今日も今日とて仕事だな……」


 空を飛ぶ相棒の竜の上でそうぼやいたのは俺自身、イルだった。

 今日は月に一度の休日、なのに今日もこれから魔物狩りの依頼を遂行しに行く。

 半ば投げやり気味だが社畜万歳って感じである。


「イル兄、もう依頼なんて放り投げちゃおう? わたし、そろそろイル兄の体が壊れないか心配なんだけど……」


 俺をイル兄と言って慕ってくれている相棒の竜、リーナが心配そうに呟いた。

 俺はリーナの背を撫でて言った。


「大丈夫だって、今日は三時間も寝てきたんだ。普段の三倍だぞ、三倍」


「イ、イル兄の生活感がズタボロだ……」


 何かリーナは言った気がしたが、その声は風にかき消されてよく聞こえなかった。

 空の上だと飛んでいる都合上、互いに喉を魔力で強化したりしないと声が聞こえにくい。

 今のリーナの声は、何だか強化を忘れていたような気もしたが……。


「おっと、見えてきたぞ。奴らが今日の獲物だ」


「オークの大軍、それも率いているのはオークロード。またとんでもない奴らの相手を任されちゃったね……」


「ああいう連中を狩るのが俺たちの仕事だからな、仕方がない」


 豚のような頭部を持つオークは、一般的な冒険者が数人がかりで一体倒すのが定石とされる相手だ。

 加えて奴らは人間も作物も食い尽くしてしまうため、放置した際の被害は計り知れないと言われている。

 それが上位種のオークロードに統率され、数百体の群れとなって人間の街に押し寄せようとしていた。

 今回の俺たちの依頼は、このオークの群れの殲滅と街の防衛だ。


「……まったく、いくらイル兄が竜騎士で強いからって最近特に無茶振りばっかり。イル兄、この依頼が終わったら本当に休もうよ?」


「何言ってるんだよ、これから他の街の防衛依頼も入ってるんだぞ。見ず知らずとは言え、困ってる人たちを見捨てられないだろ?」


「それ、本当ならイル兄じゃなくて国が解決するべきところだよ。でもこんなこと続けてる間に妙に有名になっちゃったし、こういう依頼がイル兄宛に来るのも仕方ないかもだけど……」


 リーナは疲れたようにため息をついた。

 俺はハッとして、リーナに聞いた。


「ごめん、こんなに毎日飛び続けてたらお前も疲れちゃうよな。この依頼が終わったら、お前はゆっくり休んでくれ。その間に俺が一人で……」


「もうっ! そういうことじゃなーい!!」


「うおっ、いきなり急降下か!?」


 リーナはオークの群れの真上に差し掛かったところで、急降下した。

 また、リーナは背に掴まる俺へ声を大きくして言った。


「イル兄! このお仕事が終わったらわたしが直接ギルド長にお願いして、絶対にイル兄をお休みさせるから! わたし頑張るもん!」


「まだまだ大丈夫だって」


「……顔色も悪くて目まいまでしてるのに、嘘ばっかり」


 いやいや、目まいだってもう慣れっこだ。

 なのにリーナはどうしてこんなに怒った様子なんだろうか。

 そう思うより先、目の前まで迫ったオークの群れへと体が動いた。


「せいっ!!」


 背から剣を引き抜き、魔力を解放して刀身を伸ばし、そのままオークどもを叩き斬る。

 俺の扱う剣は魔力を通すことで、魔力で形成された刃の長さを自由に変えることができる魔導剣だ。

 それは要するに、リーナの背の上からでも自由に敵を斬ったり貫いたりできるということ。


「それっ!!」


 掛け声の直後にリーナが光のブレスを放ち、なぎ払った先にいたオークを消し炭に変える。


『GUOOOOO!?』


 俺たちの急襲にオーク達がたじろぐ。

 その隙に、俺たちはさらにオーク達を倒していく。

 俺も一応は竜騎士、竜であるリーナに乗り手と認められただけあり魔術も扱える。

 俺は魔力を解放して手のひらへ収束させ、魔術起動の詠唱をする。


「光の裁きを、《ライトニングパージ》!!」


「ハァッ!!」


 リーナのブレスと合わせて放った無数の魔術弾は、残ったオークの群れを一気に殲滅した。

 ……ただ一体、オークロードを除いて。


『GUOOOOOO!!!』


 血走った眼を見開いたオークロードは、部下が全滅したにも関わらず俺たちへと迫ってきた。

 オークロードは大人の背丈ほどもある棍棒を振り上げ、俺たちを潰そうとするが……。


「遅い!」


 俺は地を蹴って跳躍し、すれ違いざまにオークロードの体を一閃。

 真っ二つになったオークロードの体が、砂煙を上げてドスンと地面に倒れた。


「よしよし、これで依頼完遂だな。次は……」


「だーかーらー、次はお休みって言ったでしょ! ギルドには他のメンバーもいるんだから、手すきの人に任せれておけばいいじゃない。もう……」


「でも、まだ俺動けるし……」


「逆に倒れるまで働いてどうするのよ!? ほら、一旦帰るからね〜!」


 リーナはさっさと俺を咥えて背に乗せ、そのままギルドの方へ飛び去ってしまった。


「……しかし、あのギルド長が俺に休みをくれるだろうか」


「無理矢理にでもわたしがもらうからっ! 絶対の絶対なんだからっ!」


 リーナはギルドに着くまでこの調子で、意地でも俺を休ませる気らしかった。


 ***


 ギルドについた俺は、休みなんて絶対貰えないだろうと完全に諦めていた。


 ギルド長は

「休むだぁ? んな暇あるならギルドに貢献しろっ! お前ら全員、俺のギルドがあるから飯が食えてるのを忘れんな!!」

 と怒声で言い放つような人だ。

 それに辺境の田舎から王都にやって来た頃、まだ成人の儀を終えたばかりで十五歳だった俺を拾ってくれたのはこのギルドだけだった。

 だから拾ってくれた恩もあるし、休日返上で働くのもやむなしか……と思っていたのだが。


「お前には暇をくれてやる!! 西の辺境へ行け、今すぐにだ!!」


 ギルドに戻った途端、強面のギルド長が脂汗を垂らしながら必死そうに言って来た時は何事かと思った。

 それから俺たちは今月の給料……珍しく少し多めだった……と地図を渡され、とっととギルドから追い出されてしまったのだ。

 ギルド長直々に休暇の許可を下すなんて一体何ごとだろうか。

 そう思いながら、俺たちは渡された地図に従い辺境の一角にやって来た……のだが。


「いや、流石におかしくないか!?」


 ここに至ってことの異常さを理解した俺は、地図を二度見した。

 地図に『目的地』と雑に囲われている場所についたのだが、そこには屋敷があったのだ。

 それも普通の貴族のものにしては大きすぎる、ある意味城とも呼べる代物。

 しかも、しかもだ。


「建物に刻まれている紋章、あれって四方貴族のウェストルティン家のものじゃないか……!」


「おー、あの有名な」


 リーナは軽く返事をしたが、話自体は全然軽くない。

 四方貴族とは、このログラリア王国の四方に領土を持つ四つの大貴族だ。

 王都から離れた辺境に土地を持っているものの、その権力は絶大とされ、少なくとも四つのうち二つの家が手を組んだ途端に王国どころか周辺諸国のバランスシートすら狂うと言われている。

 そしてウェストルティン家は、西方を治める大貴族。

 俺みたいな一介の社畜には無縁の存在だ。


「一体全体、何がどうなってるんだ……!?」


「お待ちしておりました。竜騎士イルヴァリアさまとその相棒、古竜のリーナリットさまですね?」


 ぽかんとしていたら、門が開いて中から使用人と思しき人たちが出て来た。

 また、普段略している名前をしっかり呼ばれてこそばゆかったが、俺は一つ頷いた。


「ええ、確かに俺がイルヴァリアです」


 しかし俺たちを待っていたというのは……? と聞こうとするが、それより先に「さあ、中へどうぞ」と案内されてしまった。

 俺とリーナは言われるがまま、屋敷の中へ入ろうとしたのだが。


「……むぅ……」


 リーナは竜なので体が大きく、門をくぐれそうになかった。


「これは失礼いたしました。リーナさまには別の入り口の方を……」


 焦った様子の使用人の方々に、俺は苦笑して言った。


「そこはご心配なく。だよな、リーナ?」


「ふふーん、わたしクラスの竜ともなれば……」


 リーナは得意げに体を覆うように魔法陣を展開して、その体を光で包んだ。

 そして一瞬の後、人間の姿に変身していた。


「……こんなこともできちゃうのだ〜!」


「な、何と。竜が人間の姿に……!」


 驚いている使用人さんたちに、リーナはたゆんと胸を張って得意げだった。

 そう、人間の姿になったリーナは桜色の髪をした発育のいい美人さんなのだ。

 ……確かまだ人間換算では十四歳くらいだった気がするけども。


「ではお二方、こちらへ」


 俺たちは使用人さんに連れられ、屋敷の一室へと向かった。


「当家へようこそ。【第三の魔王】を屠し名高き英雄、竜騎士イルヴァリア」


 俺たちを待っていたのは、優雅に紅茶を啜る金髪碧眼の少女だった。

 少女はにこりと俺に微笑みかけてきて、思わずどきりとしてしまった。

 それから少女は俺たちに座るよう促し、使用人達に下がるよう言った。

 なるほど、差し詰めこの子がお屋敷のお嬢様といったところか。


「ちなみにイルヴァリア、あなたの横にいるその子は?」


「俺の相棒の竜です。魔術で人間の姿に変身しています」


「流石は竜種の中でも最強と名高き古竜。そのような芸当も可能であると」


 ふむふむと頷く少女に、俺は聞いた。


「すみません、俺たちは休暇がてらここへ来るようにとしかギルド長に言われていないのですが。一体どういうことかをお聞きしても……?」


 そう聞くと、少女は「えっ」とずっこけかけた。


「……き、休暇……? あなた方のギルド長から何も聞いていないと?」


「……すみません、全くでして。もっと言えば、その……失礼ながら、地図を頼りにやって来たところこのお屋敷にたどり着きまして。俺たちも何がどうなっているのかよく分かっていないんです」


「な、なるほど……」


 少女はどこか焦ったようにそう言った。

 ……それに心なしか、さっきからティーカップを持つ手が小刻みに震えている気がする。


「では、わたしのことは?」


「はい?」


「わたしのことは分かりますか?」


 じっと俺を見つめてきた少女に、俺は少したじろいでしまった。

 その、なんと申しますか。


「どこかでお会いしたことが……?」


 流石に四方貴族のお嬢様の知り合いはいない筈だ。

 ……逆に仕事漬けの毎日でこんな可愛い子と知り合うのも無理な話なのだが。

 するとお嬢様は、わなわなと震え出した。


「そう、では約束も忘れてしまったのですね……?」


「約束?」


「ええ、大切な約束です。『立派になったら迎えに行く』とわたしと交わした約束をですっ!!」


 感極まったのか、お嬢さまはガタッ! と立ち上がった。

 それから半泣きになってテーブルに身を乗り出し、俺をじっと見つめて来た。


 そして俺は、少考すること数秒。

 ……。

 …………!?

 ま、まさか!?


「もしかして君、ローリン!?」


「よかった、覚えていてくれたのですね……!!」


 お嬢様改めローリンは、嬉しそうに俺の両手を握った。

 実を言うと、俺はここから少し離れた村にある孤児院で生まれ育った。

 そして孤児院近くの森で、よく小さな女の子と遊んでいた記憶が今でもあるのだが……。


「あのローリンがウェストルティン家のご令嬢だったなんて……!?」


「むぅ。『あの』ってどういう意味ですの?」


「よく迷子になって泣いてたローリン」


「し、心外ですわ! それはイルヴァリアが、イルがわたしを置いて行ってしまうからではありませんか!!」


 顔を赤くして猛抗議してくるローリンに、俺は苦笑した。

 ローリンは当時も体が小さかったからか、いつの間にか逸れることも多かった。

 それで泣き声を頼りにローリンを探しに行く、ということもよくあったのだ。


「でも、何でウェストルティン家のお嬢さまのローリンが昔俺なんかと……?」


 そう聞くと、ローリンはあれこれと話してくれた。

 実は当時、ローリンは俺の住んでいた孤児院近くのお屋敷に住んでいて、勉学を嫌ってよく屋敷から逃げ出していたこと。

 逃げた先で俺と出会い、一緒に遊ぶうちに居心地が良くなっていったこと。


「……そうやってイルと仲良くなって、それでもわたしは実家のこのお屋敷へ戻らなければならなくなって。最後のお別れをわたしから切り出した時、あなたは言ってくれたのです。『立派になったら迎えに行く。だから泣くな』……って」


 ローリンは少しむくれながらそう言った。

 ……確かに、そんなことを言った記憶があった。


「すぐに思い出せなかったことは謝るよ。でもまさかローリンがこんなに可愛くなってたなんて思いもしなかったから、すぐに分からなかったんだ」


「か、可愛い……!? ……いえ、そんなことを言っても簡単に許しません! 逆にわたしはあなたが竜騎士として名を馳せた時はすぐに分かりましたよ? ああ、あの時の少年だ……って!」


「そう言われると面目ない。でも、今の俺はブラックギルドの社畜だ。……君を迎えに行けるような人間じゃない」


 すると、ローリンは目を丸くした。


「あらっ、何を言っているんですか? イルさえ良ければ、今日からあなたはわたしの近衛ですよ?」


「……ん? ……んんっ??」


 一体何を言い出すのかこのお嬢さまはと思っていたら、ローリンがため息をついた。


「本当にあのギルド長はイルに何も言っていないのですね。……いいですか、あなたは超一流の竜騎士です。王都に侵攻しようとした【第三の魔王】を退け、連日魔物から人々を救う英雄。決してあのようなギルドに使い潰されても良い人材ではありません」


「まあ、確かに【第三の魔王】を倒したのは俺とリーナだけど……」


 魔王とは、全部で十二体存在する魔物の王……いや、化け物の頂点。

 魔物ですら畏怖する超常的な存在で、人類の敵とまで形容されている。


「そう、あなたはあの魔王の一体を倒したのです。であれば立派になってわたしを迎えにくる条件としては十分。しかしいつまで経ってもあなたはあのブラックギルドに縛られ、わたしの前にやって来ない。それはつまり……」


「……つまり?」


「あのギルドからあなたを引き抜き、当家に迎え入れるしかないと考えた所存です」


「いやいや待てよ……って、ギルド長が言ってた『暇をくれてやる』ってそういうこと!?」


 あの少し多めだった給金も、少ない退職金込みだと思えば納得できる。

 そしてあのギルド長の狼狽も……四方貴族の一角に圧力をかけられれば焦るってものか。


「あら、ギルド長から要点は伝えられていたのですね」


「……すっごく分かりにくかったけど、一応」


 つまり休暇だと思いきや、あれはある意味クビの通告だったと。


「それで俺を引き抜いたって、俺の同意とかは?」


「それを今から頂くのです。とは言えイルをあんなギルドに在籍させ続ける気はありませんでしたから、多少強引になってしまいましたが……そうですね。条件としては、屋敷に泊まり込みで三食昼寝付き、給金はこれまでの百倍でどうでしょうか?」


「乗ります」


「いやイル兄、早すぎない!?」


 流石にリーナからツッコミが入ったが、俺は言った。


「いやリーナ、屋敷に泊まり込みで三食昼寝付きで給金はこれまでの百倍だぞ!? それに俺はもうギルドをクビになった身だし、ここは乗るべきじゃないか?」


「それはそうかもだけど……ローリンさん。わたしからも一つ聞きたいことが」


「何でしょう?」


「イル兄の睡眠時間、どれくらい用意してもらえる?」


「昼寝と合わせて十二時間ほどでは足りませんか?」


「わたし共々よろしくお願いします」


 こうして、俺たちは夢のような転職を果たしたのだった。


《作者からの大切なお願い》


ここまで読んで頂きありがとうございます。


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