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第82話 一応辿り着きました。

今回は微グロ描写があります。苦手な方はごめんなさい。

 こんにちは、勇者です。


 さて、クロちゃんの実家捜索の手段として陸路ではなく空路。要するに竜になったクロちゃんに乗って空から探そうということになったのですが、それにも準備が必要です。


 日数が掛かるとなればそれなりに荷物も必要でさてどうしようと話し合ったところ、クロちゃんに馬車を吊り下げて飛んでもらえばいんじゃね? となりまして。里の拡張も忙しい中で色んな人に手伝って頂き、幌の荷車を改造して馬車改め竜車として生まれ変わることとなりました。


 強度や安定性に問題ないか試行錯誤を繰り返し、二日ほど要してなんとか完成。と言っても吊り下げ式は風に煽られるわクロちゃんの羽ばたきでしっちゃかめっちゃかになるわで、最終的にはクロちゃんに背嚢を背負うような形で荷車を取り付けて何とか目処は立ちました。


 いざとなればルルエさんの転移ですぐ里には戻って来れます。しかしこれにも欠点があり、ルルエさんの転移の有効範囲はあくまで人や動物に限られ、手荷物以外は持ち帰れないそうです。


 竜人の里からどの程度離れているかわからない現状、荷車に積み込む荷も短い日数を想定して帰還する方向で最小限に抑え、重量はなるべく軽くするようにしました。


「ということでクロちゃん、ちょっと重いでしょうが頑張ってください」


「このくらいぜんぜん重くないよぉ! いくらでも早く飛べちゃう!」


「いや、お家探しだからゆっくり飛ぼうね、最悪自分たち空に放り出されちゃうからホントゆっくりね!?」


 クロちゃんがやる気満々なのは良いことですが、落下死とか洒落になりません⋯⋯似たようなことは一度経験してますが。


 そんな感じで不安いっぱい夢いっぱいって感じに里の人たちに見送られながら、自分たちは空の旅へと飛び立ったのでした。


「うっほぉ! まじで空飛んでるぜ! ほら見ろクレム、地面があんな遠いぜ!」


「あわわわぁ⋯⋯た、高いですね。でも風がきもちいい」


 エメラダとクレムは初めての空で割とテンション高めです。エルヴィンはといえば、意外にも高いところはあまり好きではないようで常に何かにしがみ付いています。

 自分とはわりと普段から空を飛んだりしてるので慣れていますが、流石に雲の近くまで上がったことはないので結構新鮮だったりします。


ルルエさんは風を感じながら飲む酒もまた風流とギンナさんから頂いた葡萄酒をグッと煽っています。渋いからあんまり美味くないって言ってた癖に結局飲むんかい⋯⋯。


 それからはクロちゃんの鼻や地形の記憶を頼りに、当てもなくゆったりとした飛行が続きました。

 夕暮れが近くなると一度開けた所へ降りキャンプを張って、翌朝には出発を繰り返す。特に朝焼けの中で眺める空の風景は、それは美しいものでした。


 自分は太陽の方向や夜間の星の方角で現在地を割り出しながら、手持ちの地図にざっくりとした探索範囲を書き込んでいました。あまりスルネア方面へは脚を伸ばしたくなかったので進路を微調整しながらはや三日。もう一日飛び回っても特に収穫が無ければ、一度は里へ戻ろうと思っています。


 最悪ズルーガの範囲を潰しても見つからなければ、やっぱりスルネアの方へ越境するしかありませんかねぇ。


 その日も特に収穫もなく、夜には焚き火を囲んでのお食事。里の方達からご厚意で分けてもらった羊肉の塩漬けをスープにしたり炙ったりして、一番頑張ってもらっているクロちゃんに多めに振る舞いました。


「ふぅ⋯⋯馬車もそうでしたが、乗っているだけっていうのも結構疲れますね」


「そうねぇ。そろそろ飲むお酒も無くなってきたし一度里へ戻りましょうか?」


「酒は別にいいんですよ⋯⋯でも食料も水もそろそろ心許なくなってきましたし、明日は午前中に捜索をして、午後には里の方へ戻りましょうか」


 お腹が膨れて、クレムとクロちゃんはスヤスヤとおやすみしています。


「クロの記憶以外で何か情報があればいいのですが⋯⋯竜の状態ではそう易々と人里には降りられませんしね」


 若干飛行に酔って食の細いエルヴィンが、そう零しました。彼には自分特製の酔い止め酔い覚ましを調合したら、恐れ多くて服用できないと言われたので無理やり口に突っ込みました。


「⋯⋯随分と前に西の英雄が竜を討伐したって噂はアルダで聞いたことはあったんですが、詳しい場所はきかなかったんですよねぇ。あの時もうちょっと情報仕入れとけば良かったです」


 それは自分が勇者になりたての時、酒場の喧騒の中で聞いた噂話程度でしたが。あの頃はそこまで重要な情報になるとは思っていませんでしたし。今後はそう言った話はよく留めておくように心がけましょう。






 そうして一時帰還を視野に入れその日は就寝し、迎えた四日目のこと。


「ん? んんん〜?」


 変わらず朝から空を気持ちよく羽ばたいていたクロちゃんが、何やら忙しなく鼻を動かしています。キョロキョロと落ち着きなく周囲を見回し、落ち着かない様子。


「クロちゃん?」


「グレー! 何となく匂う! それにこの辺り見覚えあるかも!」


 そう言ってゆっくりと高度を下げていきます。


「クロちゃん、あまり低く飛ぶと人に見つかるかもしれませんから気をつけて」


「うん、でも――――あっ、あそこ! きっと、絶対にあそこ!」


 クロちゃんの視線の先には、小高い山が聳えていました。山頂は山肌がむき出しになり黄土色の岩が連なって見えます。その中から、黙々と煙が立ち昇っていました。


「人がいる⋯⋯のかな。クロちゃん、なるべく人目に付かないようにちょっと離れた所の森に降りましょう」


「はぁーい!」


 住処らしきところを発見して、クロちゃんが猪突猛進一直線に飛び込まないかと冷や冷やしましたが、思いのほか冷静に言うことを聞いてくれました。

 自分のいう通りゆっくりと近くの森へ降りると、念のため人の姿になってもらいます。最悪竜狩りの一団と鉢合わせってこともあり得ますし。


 地図を見ると、恐らくはまだズルーガの国境内。あとは直接歩いて見に行くしかないですね。

 最小限持てる荷物を担ぐと、下ろした荷車を深い草場の陰で枝などを重ねて隠しておきます。まぁ盗まれて困るものなんてルルエさんの飲み残したお酒くらいですが。


「さて、上空から見た限りだと人の気配もあるようです。慎重に動きましょう」


『青年、なんなら私が透明化のまま先に偵察してくるがどうだろう?』


 不意に実体化したアルダムスさんがそう進言してくれます。あまりに急だったのでエメラダがビクッとし、こそこそとクレムの後ろで隠れているようですが、全然丸見えですよ?


「そうですね、良ければ先行して様子を見てきてください。自分たちも移動しますので山の麓で合流しましょう」


『応っ!』


 そう気合いを入れてアルダムスさんはまたフッと姿を消します。う〜ん、霊体って便利。


「では自分たちも行きましょう。自分が先頭、後方はクレムとエルヴィンで。エメラダはクロちゃんを守りながら、いざという時に前も後ろもカバー出来るようにしてください。ここからは魔物もですが野盗にも気をつけて」


「私はぁ?」


「自己防衛でお願いします。あとお酒は置いていって下さい」


 皆の是の声と同時に森を歩き出します。

 あ〜、こうやって歩いてるとなんかパーティって感じする! あれ、これ前にも言った?


 ともあれ隊列を組んで進んでいると、一時間もしないうちに森を抜け舗装されていない広めの荒れ道に出ました。見れば真新しい(わだち)の跡もあるので、馬車での往来も頻繁なようです。


 そのまま山のある方へ歩いていくと、まっすぐ麓から山頂へ道が伸びているようでした。


『青年』


 声を掛けられ、周囲を見回す。しかしアルダムスさんは姿を見せません。ということは、やはり近くに人がいるということでしょうか。


「どうでしたか?」


『うむ。そう高い山でもないので早駆けで山頂まで行ってきたが⋯⋯当たりだな。それでだね、そちらの竜の子は⋯⋯ちと待たせたほうがいいと思う』


 その声音で、こちらにはあまり歓迎できない状況だと察します。いざという時のため、事前に打ち合わせた通りにルルエさんに目配せすると意を汲んで頷きます。


「ねぇクロちゃん、良いものあげる!」


「ん〜? なに、ひつじさん?」


「残念だけどそれはまた今度ね。ほらこれ、飴玉と言ってとっても甘いのよぉ?」


 そう言ってルルエさんが(また胸元から!)取り出した飴玉をポンとクロちゃんの口に放りました。


「おほぉぉ! 何これ甘い!」


「お口の中でコロコロするともっと甘くなるわぁ。やってみて?」


 なんの疑いもなくクロちゃんが飴玉に夢中になって口を動かしていると、やがてトロンと瞼が落ちてきました。


「⋯⋯ん、んん。なんかぁ⋯⋯ねむぅい⋯⋯⋯⋯ぐぅ」


 そのままクロちゃんはゆっくりと眠りに落ち、ルルエさんがすかさず抱き上げます。その飴玉には事前にルルエさんが睡眠薬を仕込んでいたのです。


「⋯⋯⋯⋯よくよく考えると、竜でも即眠る薬とかすごくねぇか?」


「ルルエさんの持ち物なんだから気にしたら負けです。それより薬が効いてるうちに急ぎましょう。ルルエさん、暫くここで待機しててもらえますか?」


「はいはい。落ち着いたら呼んで頂戴なぁ」


 エメラダの疑問を一蹴しルルエさんに後を頼みます。

 そしていよいよ山道を登り始めたのですが、ちょうど山頂からすれ違いざまに馬車が降りてくるのが見えました。


 チラリと布の掛けられた荷車の中身を盗み見ると、ある意味予想通りで、その予想が的中して欲しくないものが積んでありました。


「お兄様、今のって⋯⋯」


「――――先を急ぎましょう」


 クレムのか細い声を遮り、ひとまずは山頂を目指します。もうどういった光景が広がっているかは分かっていますが、それでも急がずに歩を進めてはいられません。


 中腹辺りから、妙な血生臭さが漂い始める。もはや腐臭に近く、それが間も無く山頂なのだと嫌でも悟らせました。


 そうして登り切った先には、まるで市場のような光景が広がっていました。商人らしき者たちの怒号が飛び交い、お宝を競り合っているような⋯⋯。


 そこに並ぶのは、何かの肉や黒く光沢のある品々。既に加工されているものもあれば、剥ぎ取ってそのままの赤黒い血が付いているものまで無造作に並び、ギラついた眼の男たちは一つでも多くソレを買い漁ろうとしていました。


「グレイ様、ここはどうかご辛抱を」


「わかっています⋯⋯わかっていますが⋯⋯⋯⋯」


 どうしても横目に入るソレを見て、思わずギュッと拳を握る。他のみんなもその光景に顔をしかめ、エメラダは口に手を当てなんとか吐き気を我慢しているようです。


 足早に仮の市場を抜け、行き着いた先に見えたものは――――もう自分にも耐えがたい地獄でした。


「――――――――酷い」


 そこにあったのは、徹底的に何もかもを剥ぎ取られた⋯⋯竜の骸でした。

山の頂きに群がるは、竜の骸を弄ぶ愚劣な糞袋たち。それは、果たして断罪すべきか否か――――。


次回、新たな勇者です。


そして作者のモチベ向上のため、是非ともブクマや☆☆☆☆☆評価をよろしくお願いします!

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