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第73話 除霊、エメラダの場合

「⋯⋯⋯⋯あの」


『うふふ〜、なぁにエメラダちゃん?』


 やりにくい⋯⋯。

 墓地の持ち場に着いて自分の守護霊を呼んでみれば、出てきたのはドレス姿の女性だった。自分のご先祖様だってことは間違いなくわかる。だって――――、


『エメラダちゃんは本当に私とそっくりねぇ、まるで双子みたい!』


「そう、ですね。シューリア様⋯⋯」


 ニコニコと笑いながら浮かんでいるだけの彼女――シューリアに苦笑いを浮かべる。どう接しろってんだ!? いきなり自分と瓜二つのご先祖様が出てきたって困るだけだろ! しかもこの人、


『それにしてもエメラダちゃんは強いのねぇ。今の私は何にも出来ないから助かるわぁ』


 これだ⋯⋯守護霊として呼び出し死霊と対峙してもらうはずが、何故かあたしが天の鎖でずっと戦っている。これじゃ意味ねぇだろうがあの糞婆っ!?


『鎖、使い方が上手なのね。でも、これでも私だって生きてた頃はそれで随分と戦ってきたのよ?』


「え? 意外です。戦いなんて向いてそうにないのに」


『生前の頃は奴隷解放時代の真っ只中⋯⋯それに私は賛成派だったから、一杯命を狙われたわ』


 奴隷解放――――そうか、この人はズルーガでも闇の時代を生きた人なのか。

 今でこそ奴隷など一人もいないズルーガだが、その昔は現在のスルネアのように亜人や人間を奴隷として扱っていた時代があった。その名残りが、今も王都に残る闘技場(コロシアム)だ。


『当時は貴族全員が拳闘奴隷を持つのが流行りでね、私も父に言われて持たされたけれど⋯⋯嫌な気分だったわ』


 そう言って顔をしかめる。しかし次の瞬間にはすぐ元の笑顔に戻ってまた質問責めが始まった。もうやだ、帰りたい⋯⋯。


『で、エメラダちゃんはどんな人に想いを寄せているの?』


「は、はい!? な、なんでここでそう言う話になるんですか!」


 ⋯⋯なんか今のあたし、グレイみたいな喋り方だな。そう思うとちょっとの不満感と照れ臭さが入り混ざる。


『だってその鎖は、深い恋をすればするほど強くなるもの。私がそうだったように』


「恋をして⋯⋯強くなる?」


『そう、鎖は時に縛り、時に繋げてくれる。だから人への想いに強く反応するの』


 言われて、思い当たることがあり過ぎた。それが顔に出てしまったのか、シューリア様がニヤニヤとあたしを覗き込んできた。


『ふふ、恋バナ臭がするわ! さぁ聞かせてエメラダちゃん、恋バナこそ淑女の嗜みよ!』


「いやそんなわけ――――ふっ!」


 話ながら、近づいてきた死霊の一団を鎖でまとめて縛り上げる。そのまま締め付けると、奴らは簡単に霧散してくれるからこちらとしては楽でいい。

 むしろ手間取っているのは自分の呼び出した守護霊だ。何が悲しくてご先祖の霊を相手に恋バナなんかせにゃならんのか!


「⋯⋯⋯⋯そういうシューリア様はどんな恋をなさってたんですか? そういうお話をするからには貴女もさぞ大恋愛だったのでしょう?」


『あら、あらあらあら!』


 軽くいなされるかと思ったが、意外にも照れている。なんだこの人、全然読めない⋯⋯。


『そうねぇ、フフ! 私の恋は壮絶よ? だってお相手は奴隷だったんだもの』


「はぁ、どれ――――ハァ!?」


『あはははは! 昔もみんな同じ反応したわ、何度見ても飽きないわねぇ』


 ⋯⋯冗談? いや違う。この話ぶりと照れた表情から本当のことっぽい! 奴隷と恋仲とかこの人、かなり壮絶な最後を迎えたんじゃないか?


『私の愛しい人はね、件の拳闘奴隷だったの。彼を試合に出したいのに、留めておける丈夫な鎖がないからと彼を私が繋いだのが始まりだったわ!』


 頬を染めながら話す彼女は完全に乙女の顔をしていた。中身はまるで恋の話ではないんだが⋯⋯。


『初めは何も喋らなかったんだけど、彼は試合の度に普通の鎖を引き千切ってしまってね? どうしても私に縛って欲しいと頼むの! 拘束されていない奴隷は試合に出れないし、王族の拳闘奴隷が不戦敗なんて許されない。だから私は試合ごとに彼に会いに行ったの!』


 ⋯⋯なんか、触れてはいけないものに手を出してしまった気がする。


『そうすると寡黙な彼も少しずつだけど話してくれるようになって、私の鎖を素晴らしいって褒めてくれるの。 嬉しくてたくさん縛ったわ、そうすると彼もとっても喜ぶの! あの瞬間、私たちの間には間違いなく愛が芽生えたわ!』


 ああああああこの話なんか嫌なことを思い出すのは気のせいか!? っていうかずっと思ってたんだよ! シューリア様の着ている赤いドレス、すげぇ見覚えがあるんだよ! っていうか多分着たことあるんだよ!


『⋯⋯でもね、勝ち続ける拳闘奴隷はあまり喜ばれないの。程々に勝って、程々に負ける。それが一番軋轢を生まないんだって。おかしいわよね、奴隷を闘わせている時点で軋轢も何もありはしないのに』


 要するに、勝ち過ぎれば周囲の枝筋の王族や貴族が不満を抱くということだろう。たしかに軋轢もクソもない。胸糞悪い話だ。


『ある日、あの人の処分が決定されたわ。食事に毒を盛るんですって。それを聞いた時、私決心したの。こうなったら彼と逃げ出そうって!』


 まさかの駆け落ち!? 奴隷と王族が!? それは大スキャンダルというか、下手すれば当時の王権が揺るぎかねないぞ⋯⋯。

 この話をあたしが知らないということは、それは秘密裏に闇へ葬られたということだろう。そう思うと、過去のこととはいえ胸が痛くなった。


『あの人は強かったから、逃げ出すのは簡単だったわ。それから一週間の二人だけの逃避行は、本当に素晴らしいものだった! それまでの人生の中で一番輝いていたと胸を張って言えるもの。⋯⋯だけどね、エメラダちゃんもわかっている通り、長くは続かなかった』


「⋯⋯貴女は処刑、されたんですか」


『いいえ、見つかったその場で城の追手にやられたの。勿論私もあの人も必死で抵抗して、追手の殆どを壊滅させてやったわ! でも、最後に私は毒矢を受けてしまった⋯⋯』


 失敗しちゃったわ、と苦笑する彼女がとても痛々しい。分かっている、奴隷と王族の恋なんて絶対許されないってことは。それでも⋯⋯何かの形で救われて欲しいと思うのは、今を生きる王族にとって恥ずべきことなんだろうか。


『あの人もボロボロになって、もう長くなくって⋯⋯私が先に逝ってしまったけれど、あの人は無事に天へと還れたのかしら。私、それだけが心配なの。私の愛しの――――』


 零れた言葉は、やはりよく知るものだった。


『私の愛しのアルダムス。強く雄々しく、鎖と私をこよなく愛してくれた人』


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


 どうする、黙っているべきか? 彼は結局生き抜いて魔王になってしまったと。そしてあたしの仲間に殺されたのだと。

 ⋯⋯せめて終わりくらいはきちんと聞かせるべきだろう。それが私とこの人を繋いだんだと、なんとなくそう思えるから。


「シューリア様」


『なぁに?』


「その人は、その後も生き続けました⋯⋯ずっと貴女を想って。本当に貴女との思い出を大切になさっていました」


 あたしが着せられた赤いドレスは、大事に修繕されたものなんだろう。本当に何なんだあの魔王は、人間くさ過ぎるにも程がある。


「そして色々と悪事も働きましたが⋯⋯⋯⋯結果的に、安らかに眠ったと思います。それを私は、知っています」


『――――そう、貴女が彼の最後を看取ってくれたの?』


「私は遠目からでした。でも私の仲間が、火の精霊の御加護をお借りして立派に旅立てるよう計らったと思います⋯⋯⋯⋯」


 目を、合わせられない。これ以上の話を聞き出されたら、あたしはどうすればいいんだろう。でもそんな心配を余所に、彼女は嬉しそうにニッコリと笑っていた。


『そう、それを聞けただけでも胸の(つか)えが取れました。ありがとう、優しいエメラダ――――だから貴女が泣くことはないのよ』


 そっと、触れられない手で抱きしめられた。あぁ、この人はこんなに優しくて、そしてあの変態を本当に愛していたんだな。あたしも、こんな風にあいつを強く愛せるだろうか?


『さぁ、このお話はもうおしまい! 今度はエメラダちゃんの番よ!』


「うぇえ!? あ、あたしはいいです! は、恥ずかしい⋯⋯」


『あぁ⋯⋯なんて初心な想いなのかしら、これは是が非でも聞かせてもらうわ! さぁお姉さんに全部教えて頂戴!』


「いや、あの、あの⋯⋯うあぁぁぁ〜っ!!!」


 誤魔化すために闇雲に鎖を振るう。話し込んでいる間に死霊も数が増えてきたしちょうど良い、コイツらを使ってどうにか話を誤魔化さなければ!


『ちょっと〜! エメラダちゃん、聞かせてってばぁ!』


 あたしはその声を無視して、ひたすら死霊の群れに飛び込んでいった⋯⋯結局そのあとで根掘り葉掘り聞き出されてしまったので、頑張った意味はないんだが――――。

シューリア様の禁断の愛。それは変態緊縛筋肉ダルマへ注がれていました。愛は縛るもの、そして時に繋がるもの。

ほんの一時でも彼らは幸せに愛し合えたのです。


次回、待望の筋肉です!


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