第69話 一応割り振られました。
作者、車に跳ねられました。
こんにちは、勇者です。
突如決定された悪霊退治。⋯⋯あの、自分除霊とか出来ないんですが? 骨山で散々スケルトンに追い回されてたんですが?
「さて、やる奴はさっさとこれを付けな」
奥から戻ってきたギンナさんの手には木の小箱がありました。丁寧にテーブルに置いて蓋を開くと、中には指輪が並んでいます。
「なんですかこれ?」
「除霊に必要なアイテムだよ。聖職者でもない素人になんの準備もなく除霊なんてさせると思うかい?」
ギンナさんは自分たちに一つ一つ指輪を配ります。何となく厳かに銀色に光るそれを渡され、とりあえず右手の人差し指に付けてみます。うん、ピッタリ。
「それはアンタたちに憑く守護霊を呼び出す為の指輪だ。まぁ守護霊にも強弱があるからね、ちょっと検分させてもらって担当の区画を割り振るよ」
そう言ってギンナさんは懐からモノクルを取り出して右目に嵌めます。
「さ、そこに一人ずつ立ちな。ノッポの兄ちゃん、アンタからだ」
エルヴィンが指名され、ギンナさんの目の前に立ちます。スッと目を細め、上から下まで眺めると良しと一言呟きます。それからクレム、エメラダと見ていき、自分の番が回ってきました。
「よ、よろしくお願いします」
「はいはい、別に緊張しなくていいよ――――って、なんだいこりゃ」
ギンナさんが自分を見て顔をしかめました。え、何その反応。
「こりゃあ⋯⋯アンタは変なのに好かれてるねぇ。まぁいい」
そしてモノクルを取った後も、ギンナさんは自分を気色悪そうな目でチラチラと見てきます。だからナニ!? 自分の守護霊何なの!?
「次は使い方だが、ノッポ。アンタ魔法士だったね、ちょいと指輪に魔力を込めてみな?」
「俺ですか? 分かりました」
エルヴィンがグッと眼前で握り拳を作ると、付けた指輪が淡く光りだしました。光はゆらゆらと指輪から離れ、エルヴィンさんの前でどんどん膨らんでいき何か形を成していきます。これは⋯⋯。
「⋯⋯⋯⋯犬?」
「あぁ。守護霊ってのは縁があり繋がりやすい者が宿る。兄ちゃんにとってはその犬コロが自分を護ってくれる存在だったんだねぇ」
エルヴィンが半透明に青く光る犬を見つめ、何とも唖然とした表情をしています。しかしすぐ柔らかい笑顔になって、犬に視線を合わせるように膝をつきました。
「これは俺がまだ勇者だった頃に連れ歩いていたものです。色々と訓練を受けていてそこいらの魔物にも負けない強さでした⋯⋯そうか、お前がついていてくれたのか」
頭を撫でようとしますが、スッと空を切り通り抜けてしまいました。それでも犬のほうはそれが嬉しかったのか、ワンと一声鳴いてブンブン尻尾を振っています。
「とまぁこんな要領だ、別に使い方は難しくない。他の魔法具を使うのと同じだよ」
んな高級なもん使ったことないです。⋯⋯あぁ、でもエルヴィンさんの木札はある意味魔法具と言えるんでしょうか?
「さぁ、じゃあ割り振りを決めようか」
そう言ってギンナさんはテーブルに地図を広げます。覗き込むと、それは恐らくこの辺りの地理を記したものなのでしょうが形がとても特殊でした。どうやらこの墓地はかなり広大な土地に正円を描くように広がっているのです。
「なんか、随分と整った地形ですね。さっき外を歩いただけでも此処が他より低い窪地なんだってことは分かりましたが⋯⋯」
「理由はそこの魔女に聞きな。張本人なんだから」
一斉にルルエさんを見遣ると、何だか薄く頬を染めています。いや今のやりとりのどこに照れる要素があったの。
「此処は私が魔法で空けたでっかい穴の底なのよぉ。そこにそのまま墓地が出来ただけのことよぉ?」
「⋯⋯こんな阿呆みたいにでっかい穴空けて、だけってことはないでしょ」
旧アルエスタと言うからには、此処には昔その都市が円の中に丸ごと収まっていたのでしょう。つまりそれ程の大魔法で吹き飛ばしたというわけで⋯⋯怖っ!!
そしてここにある墓石は全部アルエスタ民の墓ということですか。
「まぁそう言うわけでね。ただでさえ人の来ない墓地には死霊悪霊が住み着くが、これだけ広大な土地になれば当然相応の数が湧く。昔は教会の人間が定期的に間引きしてたんだが⋯⋯最近じゃあそれもされなくなりここいらはすっかり死霊の温床になっちまったわけさ」
ふぅ、とギンナさんは溜息を吐く。ここの管理は彼女一人で行っているらしく、それをこなすのも教会周辺にしか手が届かないとか。
「私も滅しちゃった手前一応責任を感じてるからぁ、たまぁにお手伝いしてたんだけどねぇ? 最近は忙しくて中々来られなかったら、かなりの数になっちゃったらしいのよぉ」
「たまにね⋯⋯最後に来たのは十年前じゃないかい。やっときたと思ったら大事な魔鉱石かっぱらうわ、悪魔臭い兄ちゃん連れてくるわ」
ギンナさんストォーップ! エルヴィンの顔がどんどんしわくちゃになってくから、その人無駄に繊細なんですから!
「そういうことで今回はその対価に、墓地全域の除霊を請け負ったってわけぇ。一回大掃除しちゃえば向こう二十年くらいはおとなしくなるでしょうし!」
全域⋯⋯めっちゃ広いんですが?
「とりあえず守護霊の強さを見た感じでは、こんなふうに割り振ろうと思うがどうだい?」
ギンナさんは地図とは別に紙に適当な円を描き、それをホールケーキを分割するように線を引いていきます。――――ん? なんか一部めっちゃ担当域が広いんですが?
「教会が北の端にあるから、その正面をちっちゃい坊主、東側を赤髪の嬢ちゃん、西側をノッポの兄ちゃんだ」
「あの、このやたら広い南側は⋯⋯⋯⋯」
「アンタだよ、見たとこ勇者様な様だし、憑いてるのもバケモンだからこれで問題なかろう」
バケモンって何かなぁーーー!? 本当に自分の守護霊なのそれ、悪霊が憑いてるじゃなくて!?
「あの⋯⋯僕はこんなに少なくていいんですか?」
「お前さんのは一番弱っちそうだからね。ヤバくなったらすぐ教会に駆け込みな、っていうかあんまり教会から離れないほうがいい」
「ふぇぇ⋯⋯」
涙目のクレム。でもちょっと安心してそうなのは黙っておきましょう。
「すみません、俺の区画はもう少し広げてもらえないでしょうか。元は俺の責任でもありますし、これではグレイ様の負担が大きい」
「兄ちゃんの犬じゃこれ以上は任せられないね、アンタが聖魔法を使えればまた別だが?」
「⋯⋯残念ながら心得はありません」
聖魔法――――精霊を寄るべにした現代の魔法にはあまりその類のものはありません。比較的近いのは火の精霊の鎮魂の送り火や水の精霊の清めなどですが、それもこの範囲を祓うにはあまり適さないでしょう。
ギンナさんによれば、聖魔法とは件の女神様の御力を使うものだそうで、しかも数少ない女神リーの教団内でも使える者は限られるんだとか。
「まぁ女神様の御力は過去に滅ぼされた大魔王が全盛期の時代に培われたものだ。それも倒され比較的落ち着いた今ではだいぶ廃れちまったのさ」
「え? 何でですか、大魔王に対抗できるような力なら凄いものじゃないですか」
「正確には、大魔王が使役する上位の悪魔に対抗する為に一部で広がったものだ。だがそれは精霊魔法のように魔物にはあまりダメージを与えられない。女神様の御威光が影を指したのもこれが原因さね。おまけにその取得には女神様からの直接な御加護がないと無理とくれば、今の精霊信仰の普及もやむ無しってことだよ」
まったく現金なもんだ、とギンナさんは首を振りました。確かに覚えやすくダメージのある現代魔法、ひいては精霊が信仰の幅を広げるのは今の世では道理なのかもしれません。
「ほら、説明はもういいかい? 外は曇ってて分かりづらいが、夕方になったら戻ってくるんだ。夜になったら死霊どもが活発になって最悪憑き殺されるからね」
その言葉には暗に一日じゃ終わらないという含みがありました。そりゃ元は国家都市一つあった土地全てを除霊するんですから当たり前です、これ何日掛かるのかな⋯⋯。
そうして自分たちはギンナさんにちゃっちゃと追い出され、恐る恐る各自の割り振られた場所へと移動していったのでした。
旧アルエスタ国首都はルルエさんの魔法によりでっかいクレーターになっています。
体調不良やら事故ったりやら著者がガチで不運続きで更新が滞りました。次回からはもう少しペースを保てるよう努力します。
次回、続・骨と追いかけっこです。
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