第68話 一応借金してました。
今話より新章突入です。
おはようございます、勇者です。
病み上がり鍛錬は午後の部も開催され、自分はクレムに滅多斬りにされて昨日は無事(無事?)終了。
その後は一週間ほど慣らしとしてみんなで鍛錬を続け、なんとか動きも取り戻せた気がします。
そして万全を取り戻し、今日こそ里のために何かするぞー! と意気込んだ朝のことです。
「はい! グレイくんの慣らし運転も無事終了したので、今日は借金を返しに行きま〜す!」
と元気よく叫ぶルルエさん。⋯⋯え、なに?
「借金ってなに!? 自分全く身に覚えがないんですけど!!」
「まぁエルヴィンに使った魔鉱石とか、その後の浄化とか諸々のお代よぉ。急いでたからツケにしてもらったの、流石に踏み倒すのは申し訳ないでしょう?」
「すぐに! 行きましょう! むしろ俺だけで行きます!」
真っ先に反応するエルヴィンさ⋯⋯エルヴィンは必死の形相でした。自分のことでいつの間にかツケが出来てたんじゃそう反応しますよね。
「いやぁそれがね? 借金って言っても、向こうは身体で支払えって言ってるのよぉ。だから皆で行ったほうが楽だと思うのぉ」
「⋯⋯か、身体?」
え、身売り? パーティ総出で身売りですか!?
「ま、すごく簡単に言えば草刈りみたいなものだからぁ。ちゃっちゃと行ってちゃっちゃと終わらせちゃいましょう!」
すごく簡単に言って欲しくないんですけど。
絶対に草刈りよりも面倒なことをやらされるのは確かです、自分の勘がそう言っています。だってルルエさんがすごく笑顔だもん!
「さぁさぁ早く行かないと進まないから! 皆手を繋いでぇ!」
ルルエさんに急かされるまま、自分たちは皆で手を繋ぎます――なんかノリで輪っかになってますけど、怪しい儀式でもするみたいですね。
「じゃあ行きまぁす! 転移!」
はい、毎度お馴染みの転移ありがとうございます。だけど今日は二日酔いもないので特に気分も悪くならずにあっさりと目的地に到着です。
初めての場所に行くのっていつもドキドキしますよねぇ、今回はどんな場所なのかなぁ――――って、
「墓場じゃないですかぁーーーっ!!」
目の前に広がるのは広野でも森林でも街でもなく、乱立する墓石の列。それも、見渡す限りの⋯⋯。
「此処だここは? 何だこの墓石の数は⋯⋯」
「うわやべぇなこれ、どこまで続いてんだ? 地平線まで並んでんじゃねぇのか」
「おー! いしがいっぱい! なにこれ?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
皆それぞれの感想を呟きながら、クレムだけはガタガタと震えています。あぁ、魔物だけじゃなくオバケの類いも駄目ですか。
「はいはい皆付いてきてぇ、これからツケのある聖職者のところに行くからぁ」
キョロキョロと周囲を見回しながら黙ってルルエさんの後を追っていくと、その先に一軒の家屋が見えました。
「お、珍しいな。女神信仰の教会なんて」
エメラダがそう言って指差す先には、屋根の天辺に特徴的なシンボルが突き立っています。
逆三角に縦棒を刺したようなそれは、自分の出身であるアルダではあまり見ないものでした。
「女神信仰⋯⋯ですか?」
「まぁもう廃れた宗教だけど、ズルーガにも幾つか似たような教会があるんだ。五つの精霊を祀るんじゃなくて、リーの女神って神様を崇めてるんだとさ」
リーの女神⋯⋯初めて聞く名前ですね。
そもそも精霊信仰が浸透している昨今では、あまり神という概念は人々に根付いていません。神=精霊の総称というのが自分の周囲では一般的な認識でした。
「女神信仰は元々アルエスタ国が広めていたものだし、グレイくんの住んでたアルダであまり知られていないのも当然かもねぇ」
アルエスタ⋯⋯死霊だらけになってルルエさんが一発で滅ぼしたっていうアレですね?
「ま、ここがその旧アルエスタ国領なんだけどねぇ」
「まさかの本拠地! そして滅ぼした張本人が来ていい場所ですか!?」
「別にいいんじゃない? お墓参りと思えば」
「盛大に怨み買ってそうですが⋯⋯あ、待って。嫌な予感する、やっぱ帰りたいです!」
「勇者が借金踏み倒すのぉ?」
挑発的なルルエさんの笑顔に自分はぐぬぬと歯噛みします。ついでに申し訳なさそうなエルヴィンの顔まで見ちゃったら、もう後に引けないじゃないですか⋯⋯。
「さって、婆ァー! 仕事しに来たわよぉ? もう死んでたら帰るけどぉ!」
『誰が婆だぁ! 儂よりずっと婆の癖してっ!』
教会の前でルルエさんが失礼な感じに声をかけると、勢いよく扉が開け放たれました。そこから出てきたのは、ルルエさんの着ているような法衣を落ち着かせたような黒いローブを纏ったお婆ちゃんでした。
「まったく、あれから何日経ったと思ってる? もう来んかと思ったぞ」
中から出てきたお婆ちゃんは、おいくつかは分かりませんが腰も曲がっておらず中々の長身でした。深い皺の寄った面に目つきは鋭く、白髪――というより銀髪に近い色の髪をお団子に纏めてとても小綺麗な印象です。
「ひぃ、ふぅ、⋯⋯六人か。ふん、まぁまぁ集めてきたな」
「あ、やるのは四人だからぁ。私は疲れるからやんなぁい」
「⋯⋯まぁ他のもんが気張ればそれでいい、入んな」
愛想なく中へ招かれ、言われるがまま自分たちは教会へ足を踏み入れました。中は質素なもので、恐らくは祈りを捧げる為の長椅子がいくつかあるのと、奥には乳白色の石で彫られた大きな女性の像が佇んでいました。
「あれがリーの女神様ですか?」
「そうだ。若いの、女神様を拝謁するのは初めてかえ?」
「はい。とても綺麗な女神様ですね」
崇拝する神様を褒められて満更でもないのか、お婆ちゃんはちょっと鼻が高そうです。別にお婆ちゃんは褒めてませんからね?
「さて、儂はこの教会を管理するギンナ・スムフェ。どうせそっちの婆の事だ、碌にやる事も説明されずに引き摺られてきたんだろう」
「わぁすごいその通り⋯⋯⋯⋯」
どうやらギンナさんはルルエさんの性格をよくご存じのようです。
「まったく⋯⋯これでまともな働きをしなかったらルルエ、お前がちゃんと処理しな?」
「だぁいじょうぶよギンナ婆、みんなそれなりにやれる子たちだから心配ないわぁ」
どうだか、とブツクサ言いながらギンナさんは教会の奥に引っ込んでいってしまいます。いや、だから何やるのか説明してくださいって。
「ではギンナ婆が色々と準備している間に私が説明しましょう! みんなにやって欲しい事はぁ――グレイくん、なんだと思う?」
「何となく予想はついてますからさっさと言ってください⋯⋯」
そう、予想は出来ています。これだけの大規模な墓地ですし、実はここに来るまで視界にチラチラとは見えていたのですが敢えて見ない振りを決め込んでいました。
⋯⋯だって言ったら現実になっちゃうもん、ギリギリまで現実逃避していたいもん。
「しょうがないなぁ、今日みんなにやってもらうのはぁ――――この墓地の除霊です!」
どや顔やめて。逃げたい、すぐ逃げたい。でも借金返済のお仕事ならしょうがないのです⋯⋯勇者、幽霊退治します――――。
はい、ということで皆で大掃除の時間だぁ! 女神信仰等の詳しい解説は次回以降詳しく盛り込んでいこうと思います。知らぬ間の借金に驚いたのはグレイくんより当事者のエルヴィンでした。彼の胃は果たしてどこまで保つのか!
次回、除霊準備です。
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