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第54話 一応決闘しました。

 こんにちは、勇者です。


 はい、激おこです。だってこの筋肉エルフ、うちの可愛いクロちゃんを馬鹿にしたんですよ? 当人はあまり理解してないみたいですが!


 しかし次に放たれたルルエさんの決闘宣言で自分の頭と心は芯まで冷めて今やキンキンです。巷で話題の魔法を使った氷菓子よりも冷たいです。


「あの……ルルエさん? いま自分一人って言いました?」


「そうよぉ。だってグレイくん、昨日の課題まだ終わってないでしょ? 終わってないものはすぐに済ませなくっちゃ」


 ガクガクと震える自分を尻目に、グアー・リンはじめエルフの人たちは何を言ってるんだこいつはという顔をしています。そのままの意味なんですよ皆さん……。


「女、いま我々全員とこいつで決闘をしろと言ったか?」


「――――えぇ、言ったわよぉ? こんな好条件、滅多にないと思うのだけどぉ」


 女と呼び捨てられたルルエさんは若干お怒りのようですが、その顔に笑顔は絶えません。逆に怖いです。お願い脳筋、本当にこれ以上事を荒立てないで!


「それは我らに対する侮辱か? やるなら貴様ら全員で来ればよかろう。まぁそれでも圧勝なのは明白だが」


「ナニ言ってるの? これ以上ないハンディじゃなぁい。あんたたちなんてこの金髪の坊や一人いれば五分も掛からずに皆殺しよぉ?」


 ルルエさんがクレムの頭をポンポンと叩くと、ちょっと照れくさそうに笑っています。いや照れないでいいから、余計刺激するから。


「そちらが勝てばもうエルフには一切干渉しない。此処の居住権も……そうね、こちらにいらっしゃるズルーガの第一王女であるエメラダ様がきっと保証して下さるでしょう」


「うぇ!? 姐さんいきなり身バレさせるのやめてくれよっ!!」


 王女と聞き、自分たちパーティ以外の一同が目を見張る。エメラダはといえば、身分が明かされた途端に王族然として姿勢を正しました。


「いいだろう、私から父上に直訴して取り成してもらえるよう頼もう。もし勝てればの話だがな」


「ほ、本当にその女がズルーガの王女なのか? いくら法螺を吹くといっても限度があるだろう!」


「ならこれでどうだ?」


 エメラダは右手の手甲を外すと、その細い指に付けた指輪を良く見えるように掲げました。自分には良く分かりませんでしたが、どうやらそれにはズルーガ王家の紋章が刻印されていたようでみな茫然としています。


「それでぇ、あなたたちが負けたら大人しく儀式に参加なさぁい? これまでの態度も改め、今後も里に協力すること。どう? そちらにメリットはあれど、負けても以前に戻るだけでそう悪い賭けでもないでしょう?」


 グアー・リンは暫し考えるように俯き、周囲にも目配せをします。どうやらエルフ世論的には賛成派多数のようで、みな胸糞悪い笑みを浮かべていました。


「その条件、負けた後に反故にはせんだろうな?」


「えぇ、貴方達の崇める精霊の御名に誓うわぁ! せいぜい楽しく踊って頂戴な?」


 なんかどんどん話が進んでますが、自分はまだやるなんて言ってませんよ!?


「それとグレイくん。一つだけなら精霊を使ってもいいわよぉ。私も結構怒ってるから、容赦なく潰しなさい」


「あ、それならやります。よかった……」

 流石に集落の戦士全員相手に素の状態で挑めと言われたら、久しぶりに逃げ出そうと思うところでした。そういうことなら遠慮なく潰しましょう!


「貴様もこんな勝ち目のない決闘を受けるというのか!?」


 なんでアンタが一番消極的なんですか。……ひょっとして、見た目ほど豪快なエルフじゃないのかも? 高圧的な態度はその裏返しなのかもしれません。


「受けるも受けないも、ルルエさんがやれと言ったらやるしかないですし、自分の怒りもまだ収まっていませんので。時間もありませんし、さっさとそちらの手駒を全員集めてください」


「し、信じられん……」


 そう言いつつも、グアー・リンは近くにいたエルフに召集を掛けさせる。ものの数分で広場にはざっと四十人ばかりの色白なエルフの集団が揃い、手には弓を始め様々な武器が握られています。


「これで全部かしらぁ? じゃあ双方、離れて用意なさい。お互いに手加減は無用よぉ? 遺恨が残っちゃ困るものぉ」


 エルフ集団と自分の間で五十メートルばかり距離を取ります。互いに武器を構え、戦闘の準備は整いました。


 戦闘に関わらないエルフたちは木の上や蔦橋から広場を見下ろし、その圧倒的な戦力差の決闘の開始をつまらなそうに眺めているようです。


「では、盛大にやり合いなさぁい! 始めっ!!」


 ルルエさんの掛け声と同時に、集団から矢が雨のように降り注ぎます。自分は双剣を振るって当たりそうになる矢だけ最小限に打ち落としながら、ゆっくりとエルフたちのほうへ歩き出しました。


「なっ、一本も当たらない!?」


 誰が発したか分からない声が伝播し、やがて矢を射るのは無駄だと察したのか手に刃物を携え走り出してきます。先陣はみな――失礼ですが雑魚な実力ばかりの者で、適当に殴ったり投げたりして的確に駒を減らしていきます。


「囲め! 槍で突き殺せ!」


「……はぁ、安直過ぎです」


 十人ほど片付けた頃にようやくこちらの力に危機感を覚えたのか、エルフたちは闇雲に飛び込んでくるのをやめて二人一組になり自分を囲み、得物を槍に持ち変えてリーチを取ろうとしています。


 そうして全方向から突き出される槍をギリギリで避けつつ斬り伏せて武器を減らし、隙の出来た者から順に斬りつけます。


 勿論殺さないよう手加減して、腕の筋やら脚の腱を狙って行動不能にするよう心がけます。ついでにその辺に転がっている弓矢なんかも使わせてもらい、距離を取って日和見している奴もどんどん減らしていきました。


 始まってから十分ほどで、エルフ側の残りはグアー・リン合わせ九人。


さて、ここからが本番。残っているのは恐らく全員が精鋭でしょう。あの特徴的な黒い覆面は付けていませんが、目を見ればすぐに分かりました。


「どうも、皆さん昨日ぶりです。今日は闇打ちは無しですか?」


「……必要ない、貴様の実力は昨日で分かっている。しかしここまで戦い慣れているのは予想外だがな」


 グアー・リンの手が上がると同時に、三人のエルフが飛び掛かってきます。奇妙な形の曲剣の剣筋は早く鋭く、連携に慣れているのか一人が斬りかかっては下がり間を置かず別の者が襲いくる、見事なコンビネーションです。


「っ、くっそ!」


 その動きについに付いていけなくなり、段々と身体に浅い切り傷が増えていきます。こうしてジワジワと相手の体力を削り、最後は一気に畳みかけるのが先鋒なのでしょう。しかし、そうはさせません。


風精召依(ギア・シルフ)っ!」


 風の精霊を纏い、一気に速度を上げる。一人の攻撃のタイミングを崩してそのまま短剣の柄で後頭部を殴り気絶させると、ほかの二人がその急激な変化に驚き一瞬動きを鈍らせます。


「先にこちらが畳みかける!」


 そうして隙の出来た一人に双剣を振り下そうとした瞬間、遠距離から魔法が飛んできました。しかしその魔法は風の属性であり、風精を憑依させている今の自分には通用しません。


 背中に魔法を受けながら一人二人と斬り伏せると、途端に精鋭エルフたちに動揺が奔ったようです。


「馬鹿な! 魔法が直撃したのになぜダメージがないんだ!?」


「さぁ、なんででしょう? 試しにもっと撃ってきたらどうです」


 あまりしない挑発をついやってしまいました。これくらいの意趣返しはあってもいいでしょう?


「舐めやがって、撃て! 撃ちまくれ!」


 次々に襲う魔法は、どれも風の魔法ばかりで自分は棒立ちのまま微動だにしません。せめて別の属性の魔法を使ってくれればもう少し勝負になったのに、なぜ風魔法ばかりなんでしょうか?


 まるで雨のように魔法を浴びせられ、吸収した魔力が飽和気味になってきました。対してあちらはもう魔力が切れてきたようで、暫くするともう撃ってこなくなってしまいました。


「もう魔法は終わりですか?」


「なんだこいつ、本当に人間か……!?」


「失礼な。何の変哲も取柄もないただの人間ですよ。お返しです、竜巻刃(ブレイド・サイクロン)


 日々コツコツとルルエさんに教えられた風の上位魔法……に似せた精霊魔術を放つと、魔法を使っていたエルフたち四人を風の渦へ巻きこみ空高く放り上げます。


 風の刃で身を裂かれ血を撒き散らし、各々が驚愕しながら地上を見下ろしているそこへ自分も跳んでいき、全員を蹴りつけて地面に叩き落としてやります。


 ベシャベシャと酷い音が響きますが、今の自分は普段あり得ないくらい冷静でした。冷酷と言い換えてもいいでしょう。

本当の所は一人ずつ確実に止めを刺していきたかったですが、落ちたエルフたちはもう動こうとしないのでやめておきましょう。


「な、なんなんだ貴様、昨日とはまるで別人ではないか! そんな上位魔法、普通の魔法士でも使えないぞ!?」


 残ったのは精鋭エルフ一人とグアー・リンのみ。どちらも完全に委縮していて、じりじりと後ずさっていきます。


「自分は魔法士じゃありませんから、一緒にされても困ります」


「じゃあなんでそんなことが出来るんだ!?」


「それはね、精霊と仲良しだからですよ」


 言い放ち、予備動作もなく二人へ間合いを詰める。あ、無意識で使いましたがこれが「瞬転」なんですね。


 いきなり眼前に現れた自分に怯え、グアー・リンは咄嗟に仲間を引っ張り盾にしようとしています。……こいつ本当に集落の長ですか?


 グッと拳を握り込み、盾にされたエルフの腹に正拳突きを打ち込みます。勿論ただの突きではなく、風の加護と貫通特化を付与した拳は後ろに隠れたグアー・リンにもダメージを与えました。


「ブえぐぇッ――!?」


 盾にされたエルフは気絶し、グアー・リンも反吐を吐きながら虫のように地面でもがいています。


 無様にのたうつグアー・リン。だけど、まだ足りません。こいつにはしてもらわなければならないことがあるんですから。


「グ――うげぇぁっ!!?」


 痛みから手で押さえていた腹の上を足で踏み抜き、芋虫のような動きを止めさせます。カヒュッと一瞬息を詰まらせ、グアー・リンは怯えた目で自分を見上げていました。


「詫びろ」


「へぁ……な、なに?」


「詫びろと言ってるんです。うちのクロちゃんを散々貶して、簡単に許すと思ってるんですか? 取り敢えず口で誠意を見せなさい」


 あぁ。今の自分は盛大に悪役面なんだろうなと思いながら、足に込める力を徐々に強くします。その度にグアー・リンは涎や鼻汁を垂れ流し嗚咽を洩らしています。


「ご、ごべんなざい゛、ゆ、ゆ、ゆるじでっ」


「は? それだけですか?」


 更に足に力を込める。口からは赤い泡が湧き出て、今にも白目を剥いて気絶しそうでした。まぁさせませんけど。


「それだけですかって言ってるんですが? 聞こえてました?」


「はひっ! もうじわげあり゛まぜんっ、竜人ざまの゛、ごそ、く、女にぃ、不敬をっ、をぅっ、暴言を吐い゛、で、ずびば、ぜっっ!!」


「……本当はもっと色々と言いたいことはあるんですが、子供の前ですしこれくらいにしておきます。今度また同じようなことがあれば、わかりますね?」


「はい゛、ばいっ、!だ、がら、あしぃぃぃっ!?!?」


「よろしい。ではさようなら」


 最後に、思いきり腹を踏み抜く。バキボキと良い音が聞こえ、グアー・リンはビクンと身体を突っ張り、ついに動かなくなりました。


 ……ちょっと、やりすぎた?

 改めてグアー・リンの状態と周囲を見回せば、これは中々に酷い有様。


蔦橋から見下ろすパーティのみんなへ視線をやると、ルルエさんとクロちゃん以外はドン引きしています。ドータさんには目があった途端「ひっ!?」と悲鳴を上げて顔を背けられました……めっちゃ傷つくなコレ!?


「はい、終了! グレイくんの勝ちぃ!」


「おー! ぐれー、すごーい! ボキボキっておとがした!!」


 こっちの二人はご満悦のようです。エメラダはクレムにひそひそと(あいつ案外えげつないぞ、あんまり怒らせないようにしような……)と囁いてました。ごめんね、風精使ってると風に乗って丸聞こえなの。


決闘に参加しなかったエルフたちはみな震えあがり、「風の精霊様、どうか我らに救済を!」と祈っています。その風の精霊様に今回お手伝いして頂いたわけですが、これは黙っておきましょう。


 ひとまずは決闘で丸く収まり、エルフたちは快く儀式に参加してくれることでしょう。クロちゃんを罵倒された仕返しも出来たし、満足満足!


 しかし竜人の里にもドータさんの口からこの話が広まったようで、里の皆さんには今後ずっと怯えられることになりましたけど……。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

激おこグレイくん、割と慈悲はないです。今まで一人だったこともあり、身内には特に激甘なんですね。

こうして里とエルフの集落ではグレイくんは絶対怒らせちゃいけない人と認識されました。

次回、ドータさんの恋路と魔鉱石鉱山!


そして作者のモチベ向上のため、是非ともブクマや☆評価をよろしくお願いします!

下記リンクの「小説家になろう 勝手にランキング」もひと押ししてぜひ一票お願い致します!

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