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第3話 一応全部倒せました。 後編

※10/15追記 冒険者の生業や勇者の特権について加筆したところ長くなってしまったので、今話も前後編に分割させていただきました。申し訳ございません。

 こんにちは、勇者です。


 場は移り、トゥーリの街の郊外のさらに外へやって来ました。見渡す限り荒野ではありますが、所々に草木の生えていた痕跡があります。


 魔物の群れとやらが荒らしていったのでしょうか。


「さてグレイくん、ここからが本番。本物の勇者への第一歩よぉ!」


「あの、話がトントン拍子に進んでいるとこ申し訳ないですが、自分はそんなに強くないんですよ? 多分魔物一体だけでも相当手間取ると思いますが.......」


「あらぁ、手間取る程度ならいいじゃない! 充分素質あるわよ!」


 何言ってんだこの人.......本気で頭が痛くなってきました。


「ところでグレイくんはどんな魔法やスキルを持ってるのかしらぁ?」


「自分は……魔法は使えません。子供の頃に才能なしと言われました。スキルは隠密(ハイド)忍足(スニーク)暗視(ナイトビジョン)、そのくらいですね」


 我ながら貧困なスキル構成に溜息が出ます。


 せめて戦闘系のスキルでもあればいいんですが、見張った才覚も筋力もない自分には発現できませんでした。


 巻物(スクロール)で覚えるという手もありましたが、お値段がそれはもうバカ高く、覚えても使いこなせないのでは意味がありません。


「ふんふん、なんだか盗賊(シーフ)みたいねぇ!」


「……せめて斥候(スカウト)にしてもらえませんか」





 そんなやり取りをしているうちに、目視の範囲で土煙が上がっているのが見えました。


「来たわねぇ。今回の課題はオーク。対人戦を鍛えるには持ってこいの連中ねぇ」


「オーク!?」


 そんな重量級の魔物を自分が相手しろと、しかも複数体!?


「.......ちょっと自分、お腹痛いのでトイレに」


「さ、匂いを嗅ぎつけてこっちに来たわよぉ! 戦闘の準備準備!」


「あーーーーっ、ほんと、無理ですってばぁ!!」


 そう言っている間に土煙はこちらに迫り、オークの集団が目視できるまでに近づいてきました。


 もはやこうなったら、腹を括るしかありません.......。


 魔王のくれたダガーを鞘から引き抜き逆手に持つと、浅い深呼吸を繰り返します。


 恐らく斥候であろうオークが三体、突出してこちらに走ってきます。槍が一体、棍棒が二体。自分は迷わず槍の一体へ走り出しました。


 構えて突き出す一撃を、なんとかギリギリで避けて懐に潜り込みます。


 相手が距離を取ろうと手間取っている間に、その腹へダガーの横薙ぎで切り裂きました。


 溢れ出る血と臓物の臭いにウッと嘔吐(えず)きながらも、あっさりと一体を屠れたことに驚きを禁じえませんでした。


「おっ、意外とやるねぇ~?」


「このダガー、ほんとに凄いっ」


 しかし一体を相手にしているうちに、もう二体が肉薄してきます。棍棒を力任せに振り回し、こちらを牽制しつつ仕留めようとしているようです。


 悠長な振り下ろしを、ダガーで流すように受け衝撃を逸らします。


 その隙をついて手首をなぞるように裂くと、想定外の切断力でオークの手首を切り落としてしまいました。


 悲鳴を上げるオークの隙を見逃さず、喉元に一刺し。これで二体目。


 瞬間、背中に衝撃が走り、世界がグルグルと回り出します。三体目のオークに背後から打ち据えられ、吹き飛ばされたのでしょう。


 地面に衝突した時には、口から血が溢れ身動きが取れませんでした。


 それを見たオークは鼻息を荒らげながらこちらに近づいてきます。


 あー、これで人生終了ですね.......。


「はい、治癒(ヒール)。まだまだがんばれ~ぇ!」


 突如受けた回復呪文で、身体に自由が戻ってきます。既に眼前に迫ったオークに半ばやけくそに飛び込み、腹や胸を何度も突き刺しました。


 返り血が飛び、それでも怖くて突くのをやめません。


「落ち着けぇグレイくん、それはもう死んでるからぁ。お代わりはまだまだ向こうからくるよぉ?」


 言われて振り向くと、斥候に追いついた三十体ほどのオークの群れがこちらへ突進してきていました。


 自分は足がすくみ、その場を動けません.......。


「はいやる気出してぇ! 戦意高揚(ライオネルハート)、ついでに身体向上フィジカルエンチャント


 魔法で強制的に精神を奮起(ふんき)され、跳ぶように身体が動き出す。バフの効果で動きも冴え、もはや自分はオークと同等の暴れる獣と化しました。


 切って、(さば)いて、殴って、避けて、打たれ、倒れ、回復されてまた突撃する。


 もう考えて動くのは止めています。ただ眼前の目標を捉えて穿(うが)ち、周囲の殺意を感じては飛び退きまた突っ込む。


 少しずつその動きに慣れてきて、余裕が出てきた時でした。振り抜いたはずのダガーが、腕が、その先に無いのです。


 自分の腕は、切り飛ばされていました。


「い、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ、うで、うでぇっ!?」


「はいはい今くっつけるからじっとしてぇ、中等治癒(アドヒール)


 飛ばされた腕をいつの間に拾い上げたのか、ルルエさんは自分の腕の切断部に押し付けると呪文を唱えます。


 たちまち腕はくっつき、動かすのも支障はありませんでした。


 でも自分の心は、もうその時点で折れかけていました。もう痛いのは嫌だ、嫌だ、嫌だ!


「はい逃げない逃げない。竜心激昂(ドラクルブースト)


 更なる精神高揚の魔法で、自分の恐怖心はかき消されます。むしろ、目前の豚共が動いているのがムカついて堪りません。


 何故自分がこんな痛い思いをしているのに、コイツらは意気揚揚としているのか。


 全部、殺さなきゃ。左手にも予備のダガーを取り、二刀の構えで突き進む。


 切って、捌いて、殴って、避けて、いなして、蹴って、刺して、抉って、跳んで、突いて、切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切っ、


 ―――気がつけば、そこに立っているのは自分とルルエさんだけでした。


 最後の方はもう朧げだけれど、精神高揚の魔法も切れて自分の意思で戦っていたんだと思います。


 どれだけ時間が過ぎたのか、辺りは夕陽で赤く染まり、そしてオークたちの血の海で紅く染まっていました。


 生きているオークがいないか一体一体見て回る自分を、ルルエさんは何処か恍惚とした表情で見つめていた気がします。


 一回りして生きている個体がいないと分かると、自分はルルエさんの元へ戻り、力が抜けてガクンと膝からくず折れてしまいました。


「よく頑張ったねぇ、いい子、いい子」


 抱きとめられて頭を撫でられ、何だかそれで満ち足りていくようでした。自分はそのまま、泥に沈むように眠ってしまいます。


「いい子だねぇ、私のぉ、可愛い勇者ぁ」


 この時、合わせて二百以上いたオークの群れをたった一人で葬った勇者の名が、緩やかながらに噂や吟遊詩人の詩で他所の街々へと語られたそうです。


 獣人殺しの狂勇者、それが世間で広まった、自分の最初の英雄譚でした。

ここまで読んで頂いてありがとうございます!

魔法のルビ振り考えるのって楽しいですよね。


宜しければご感想ブクマ等、

そして広告下の☆ポイント評価で応援して頂けると大量殺戮されたオークたちも成仏するかもしれません!


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