第51話 一応叱りました。
こんにちは、勇者です。
祭壇見学の後に再び郷長宅へ戻ると、エルヴィンさんはすぐにウーゲンさんの案内で資料のある書斎へと引き籠ってしまいました。探究心が溢れるのもいいですがほどほどにね……。
そして自分はというと、褒めてという願望で目をキラキラさせているクロちゃんと目線を合わせて対峙しています。うぅ、そう無垢な瞳をされると怒りにくい!
「クロちゃん、なんで竜の姿になんかなっちゃったんですか」
「うん! くろもみんなのおてつだいしたかった!」
「……そうですか。でも、クロちゃんが竜の姿になるとみんなビックリするって知ってましたよね? ズルーガでも兵士の人たちを驚かせちゃったのを忘れましたか?」
「ん、おぼえてるぅ」
「それにこれまでは、魔物と戦いになってもクロちゃんはルルエさんと一緒にお留守番してましたよね。なんで今回はお手伝いしたかったんですか」
「それはぁ、えと、クロがイイ子だから?」
自分は心を鬼にして、ペシッとクロちゃんのおでこを軽く叩きました。
「良い子は嘘なんか付きませんよ?」
「うぅ~、いたい。ほんとは、ごほうびにひつじさんがほしかったの……」
「それは良いことだと思いますか? 今回は結果的に良いことに繋がりましたが、いつもそうとは限りません」
「でも、みんなよろこんでた……」
クロちゃんがちょっと俯きがちになり、自分が悪いことをしたのかもと気付き目を泳がせています。うん、そういうのもすごく可愛い! でも躾は大事、頑張れ自分!
「ここの人たちは黒竜が大好きだったからです。でも世の中の人間がみんなそうではないんですよ。もしかしたらお父さんやクロちゃんに痛いことをした人たちみたいに、いきなり攻撃してくるかもしれないんです」
「…………でも、くろがんばったもん」
「そうですね、クロちゃんは頑張りました。そこはとっても偉いので褒めます。えらいえらい!」
ぐりぐりと強めに頭を撫でると、クロちゃんがちょっとくすぐったそうに笑います、あぁこの笑顔守りたい!
「グレイくん、まだお説教中よぉ?」
「そうでした……。それでねクロちゃん? もしこれから自分たち以外の人に、困ってるから竜になってほしいと言われても、勝手になっちゃいけません。何故か分かりますか?」
「なんでぇ? こまってたらたすけてあげたほうがいいよ!」
「そうですね。でももしその困ってる人が嘘つきだったら、クロちゃんが良いことをしたと思っても、悪いことをしてしまった事になっちゃうかもしれないんです」
ちなみに自分は過去何度も騙された実績がありますが、ここでは黙っておきましょう。
「んん、むずかしい……」
「そう、人間って難しいんです。だからクロちゃんがそういうのをちゃんと自分で分かるようになるまでは、必ず自分かルルエさんに相談すること。もう勝手に竜になっちゃダメですよ?」
「ぶぅ~! くろ、にんげんじゃないもん! こくりゅうだもん!」
「じゃ、クロちゃんだけここに置いて行って自分たちとはバイバイですね」
すると途端にクロちゃんが不安げになり、ギュッと自分の袖を握ります。
「やだ! バイバイやだ! くろはみんなといっしょにいたい!」
「でも、いつ竜になっちゃうか分からないクロちゃんは連れて行けません」
あぁ……心にもないことを言うのは中々キツイものがあります。子供を教育する世界中のお父さんお母さん、本当に尊敬します!
「ならない! おやくそくする! もうかってにりゅうにならないから、おいてかないでぇ……」
ポロポロと、クロちゃんの黒い瞳から粒のような涙が零れていきます。自分はそっとクロちゃんを胸に抱いて、サラサラの黒髪を撫でてあげます。
「はい、お約束です。厳しいことを言ってごめんなさい、でも皆で一緒に旅をするにはとっても大事なことなんです。良く覚えていてください」
「うぇぇ~、おぼえるからぁ! いなくなるのやぁ~!」
よほどバイバイという一言が響いたのか、抱きつく力も強くなり涙も止まりません。
ぐっ! この罪悪感、お裾分けしたい……そうか、お裾分けすればいいんだ!
「じゃあクロちゃん、みんなにもお約束してきましょう! みんなにギューして、今言ったことを伝えてきて下さい」
「わかった! くろ、みんなにもおやくそくする!」
自分から離れると、ルルエさんを皮切りにクレム、エメラダの胸へと飛び込み「もうかってにりゅうになりません! バイバイしないで!」と必死に懇願しています。
みんなその必死な姿に困り果て、ギュッと抱きしめ宥めています。よし、お裾分け作戦大成功!
「えうびーにもおやくそくしてくる!」
ことのほか良く慰めていたエメラダの胸からバッと顔を上げると、クロちゃんは客間を飛び出してエルヴィンさんのところへ駆け出していきました。
「……ちょっとグレイくん、あれは卑怯なんじゃなぁい?」
「そうです! あんな顔で泣き付かれたら困ってしまいます!」
「く、苦情は受け付けません!」
でも一人何も言わないエメラダが不思議で目を向けると、別にどうということもないと肩を竦めています。
「あれくらいの歳の子ならあんなもんだろ? あたしは弟や妹で慣れてるからなぁ。にしても、叱ってるグレイはお兄ちゃんというよりはお父さんって感じだったぜ?」
ププーと茶化すようにそう言われますが、あながちお父さんでも間違ってないので! あれはうちの大事な娘です!
「まぁ田舎にいる同年の友達ならあれくらいの子供がいても不思議じゃないですしね」
「……え? まて、グレイ。おまえ何歳なんだ?」
「言ったことありませんでしたっけ? 自分は二十三、今年で二十四歳です」
すると、みんな驚いた様子で自分を見てきます。なにその顔!?
「いや、てっきりまだ十代だと思ってたから……意外と年上だったんだな」
クレムとルルエさんも同様の意見らしいです。え、自分そんなに童顔ですか!? そう言えばアルダムスさんにも初対面では少年とか言われましたけど!
そんなやり取りをしていると、コンコンと扉を叩く音が響きました。振り向けば、クロちゃんに腰元へガップリとしがみ付かれたエルヴィンさんが困り顔で立ち竦んでいました。
『……子供は苦手なんだ、どうすればいい』
そのなんともいえない表情があまりにも情けなくて、全員で大爆笑してしまいます。クロちゃんもその笑いの雰囲気にようやく緊張が解けたのか、みんなと一緒にケタケタと笑っています。
とりあえずはそのまま放置するのも気の毒なのでエルヴィンさんの腰からクロちゃんを引っぺがすと、まるで赤ちゃん返りしたように抱っこをせがまれたので勿論してあげました。
うちの娘、マジ天使! 竜だけど!
ここまでお読み頂きありがとうございます。
クロちゃんを叱るのに丸々一話使ってしまった……ちょっと反省。
でも躾は大事、これでクロちゃんもすこし大人の階段を登ったことでしょう!
次回はちょっといつもと違った面子での修行回です。
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