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第44話 一応撃退しました。

 こんにちは、勇者です。


 温泉の街クルグスから竜人の里まで無事羊たちを送り届けるための依頼を受け、自分たちは出発しました。


 クレイゴーレムの引っぱる羊入りの荷車は自分が思っていたよりも速度が早く、こちらの足並みを揃えるのには丁度よい感じでした。


 出発して一日目は特になにごともなく夜を迎え、自分たちは交替で見張りながら夜を明かしました。


 そして二日目。朝食も済ませて再び馬車を進め、その平穏さにちょっと拍子抜けしていた時でした。


「……なんか、気配がしますね」


「おーグレイくんも鋭くなったねぇ。さぁ、魔物が来てるよぉ、みんな頑張ってぇ!」


 そう言いながらルルエさんは荷馬車から降りようとせず、小さな黒板を使ってクロちゃんに字を教え続けていました。


「ひぃ!? 魔物ですか、ぼ、僕ここにいていいですか?」


「いいわけねぇだろほら降りろ!」


嫌がるクレムをエメラダは自前で出した鎖で縛り付けジャラジャラと引き摺っていきます。エルヴィンさんもゆらりと立ち上がり、良く見ると数枚の木札を指の間に挟み込んでいます。


「左側面、数は結構多そうですよ! ドータさん、近付けさせませんが、一応馬車を止めてクレイゴーレムに警戒させてください!」


「はい! わかりました!」


 言いながら自分は狩猟用の弓を手にして、荷馬車の上に立って陣取ります。


今更ながらこのパーティ、前衛に主力が傾いていてバランスが悪いという話になったのです。

編成を考え、近接をクレム。中近距離をエメラダ。遠距離をエルヴィンさん。そして自分は後方からの支援および遊撃、という形になりました。ルルエさんとクロちゃん? 応援枠です。


「あ、あわわわっ」


「だぁいじょうぶだって! ここいらの魔物なんて大したことねぇから、そんなに怯えんな」


 震えながら剣を構えるクレムにエメラダが活を入れています。今回クレムを最前にしたのは、魔物恐怖症を克服させるためでもあるのです。


 とにかく魔物に相対させ、がむしゃらに慣れさせる。少し乱暴ですが、小さい竜の時のクロちゃんは大丈夫になったんですからやってやれないことはない、はず!


「クレム、とにかく目の前に来た奴に集中して下さい。相手が逃げたり討ち漏らしたりしても自分とエメラダがサポートするので」


『クレム、これを割れ』


 エルヴィンさんが一枚の木札をクレムに投げ渡します。慌てて受け取ったクレムが言われた通りにそれをパキリと割ると、何か魔法が発動しました。


対物被膜アンチマテリアルシールだ。これで低級の攻撃なら大して痛くもないぞ』


「ああ、あり、ありがとうございます!」


 エルヴィンさんにもクレムの事情は話してあり、可能な限り協力してくれるとのこと。さっそく支援してくれたようです。


「来ました。一角狼(コーンウルフ)ですね、数は……二十くらい?」


 耳を澄ませば、森の奥からハッハッと荒い獣の息遣いが聞こえ、なんとなく数を予想します。


「うわっ、きたぁ!?」


 そうしている間に二匹の一角狼がクレムの前に躍り出ました。涎を垂らしながら唸り、その額にある角を見せつけるように威嚇しています。


「クレム、なんでもいいから剣振ってろ。当たれば死ぬから」


「わかってますけどぉっ!?」


 腰が引けつつ剣をブンブンと振りまわす姿は、いつも模擬戦で自分を半殺しにする少年と同一人物とは思えませんでした。


――――う~ん、怯える姿もなかなか良いですね。


「グレイく~ん、変なこと考えてるでしょ?」


「考えてませんっ! 集中してまっす!」


 そうしているうちに、わらわらと集まった一角狼がクレムの横をドンドンすり抜けていきます。それをエメラダは鎖で打ち据えたり、近づいたら殴って蹴ってと数を減らしていく。


「おいクレム、一匹にどんだけ時間掛けてんだ!」


「だってぇ! 逃げるし、こ、怖いし!」


「あ~。もうめんどくせっ! ほら、投げてやるから斬れ!」


 こらえ性のないエメラダが、クレムと対峙していた狼に鎖を巻きつけました。それを引き摺ってぶんぶん振りまわすと、勢いに任せクレムに叩きつけます。


「あわぁっ!?」


 飛んできた魔物に反射的に刃を振れば、一角狼の強靭な強毛越しでもスッパリと両断してしまいました。


「おお、こりゃいいや。ほれどんどん行くぞ~!」


「ちょ、やめて、エメラダ様ぁ!?」


手近な狼を鎖で捕まえてはクレムに投げつける簡単なお仕事が始まりました。傍目からだとクレム的にそっちのほうが楽そうなので特に止めずに見守り、自分は回り込んでくる一角狼を矢で釣瓶射ちにしていきます。


 左からの群れは陽動だったようで、右側と後方からも数十の群れが出てきます。


「よっ、ほっ、はっ!」


二匹、三匹、四匹と眉間を射ち抜き、バタバタと魔物が倒れていきます。それでも怯まず諦めるつもりがないようだったので、自分は腰の雑嚢から掌大の小さな袋を矢に括り付け、それを群れの密集するところに放ちます。


矢が地面に刺さるとともに、袋に包まれていた赤い粉末がぶわっと周囲に広がります。

それを数度繰り返し射ると、次第に一角狼たちはキャンキャン鳴きながら顔を擦りだし、一目散に逃げていきました。


『グレイ、今のはなんだ?』


「ただの赤辛子と刺激の強い薬草のミックスです、よーく乾燥させて粉末状にしたものですけどね。鼻の利く獣にはこれが一番なのです」


 強くなる以前はこれを使っては強い魔物から必死で逃げだしたものです……あれ? なんか昔とやること変わってなくない?


「おら最後の一匹ぃ!」


「ふわぁぁっ!!?」


 振り向けば、他の個体より一回りは大きい一角狼がクレムに投げつけられたところでした。何匹斬り倒したのでしょう、クレムの折角可愛いスカートは血でベチャベチャでした。


「うう、うりゃあっ!」


 ちょっとその作業にも慣れてきたのか、今は飛んでくる魔物をしっかりと見て腰の入った一刀の元斬り伏せます。その分盛大に返り血を浴びてますが。


「…………おわり、かな?」


 見た感じ、いま倒した一角狼が群れのボスだったようで、取り巻きの個体も撤退しています。

自分の赤辛子を食らった奴らも暫く森の中で悶え苦しんでいることでしょう。

 一応周囲を良く見回し、襲撃が終わったことを告げます。


「大丈夫そうです。クレム、頑張ったじゃないですか!」


「うぅ……怖かったぁ。洋服血まみれぇ……」


 べちゃりと濡れるスカートを捲り涙目のクレム。でもすこし達成感のある顔をしているので、結果は良しということで。


「あらあら汚れたわねぇ、ちょっと綺麗にしてあげる。泡沫洗浄(フォームウォッシュ)


 今更出てきたルルエさんが、汚れたクレムを見かねて杖を振ります。するとモコモコと細かい泡が噴き出てクレムをドンドン包んでいきました。


「あばっ!?ゴボゴバっ!?」


「からの大噴水(スプラッシュ)。はい綺麗になりましたぁ」


 最後に勢いのある水柱を足元から立てられ、泡ごと吹き飛ばされるクレム。べちゃっと地面に落ちた時には、確かに血痕は綺麗に落ちていましたが……やることが雑!!

 思わずクレムの傍まで近づいて抱き起こします。


「あ~あ~びしょ濡れ、すぐ乾かしますね。風精浮遊(シルフウィンド)、ちょっと暖かめ!」


 精霊魔術をクレムに放つと、ふわりとその小さい身体が浮かび、暖かい風が包みこんで水気を払っていきます。数分もすると服も髪もすっかり乾いたようです。


「お兄様、ありがとうございました。うぅ、髪がボサボサ」


「中で梳いてやるよ、ほらこい」


 エメラダがクレムの手を引いて馬車の中に入っていき、丁寧に綺麗な金色の髪に櫛を通しています。

なんだか本当に姉妹のようですね……あれ、姉妹?


『……君がさっき使ったのは、魔法か?』


「え? あ、いえ。正確には精霊の力を借りた精霊魔術、とルルエさんが言ってました。自分、魔法は使えないんですが精霊術を使えるので」


 興味深げなエルヴィンさんに少し召依を見せながら精霊魔術をいくつか実践してみると、ちょっと恨めしそうな顔をされました。

 そういえば精霊術を初めて習った時、魔法士から殺意を向けられるわよ~とか言われた気がします。


『精霊術か、とっくに廃れたものだと思っていたが……そう言う手もあるか』


 何かブツブツ言いながら、エルヴィンさんも馬車へ入っていきました。なんだったんでしょう?


「あのっグレイさーん! もう進んでよろしいですかぁ?」


 ドータさんから声を掛けられ、慌てて再出発です。今回の護衛はひとまず達成できました。


「この調子で竜人の里まで順調ならいいですねぇ」


「グレイくん、それフラグよぉ」


「? フラグってなんです?」


 ルルエさんの言葉の意味が分からず首を傾げながら手綱を握り、まだまだ長い道程は続くのでした。

ここまで読んで頂きありがとうございました。

この調子でクエスト中に少しでもクレムが魔物に慣れればいいなと思います。毎度血まみれだがな!!


これまでブクマ、☆評価して下さった方々に心からの感謝を!


初見な方、面白いと思って下さった方。もし宜しければブクマやご感想等、

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