第34話 一応凱旋しました。
本当はこの今話と次話で一話分だったのですが、少し長くなったので分割しました。後半は後ほど投稿します。
こんにちは、勇者です。
「あらぁ、お姫様だっこなんて素敵ねぇ?」
エメラダ様を抱えてセンチメンタルに城塞から出れば、ニコニコとしたルルエさんに早速からかわれました。
「…………あの、ずっと何処にいたんですか?」
「え? 中庭の見える廊下よぉ。ずっと見てたわぁ、精霊を憑依しちゃうなんてちょっとズルしすぎじゃないかしらぁ」
「あんた見てたなら手伝ってくださいよ……」
「嫌ぁよ、それじゃ速攻終わっちゃうしグレイくんの為にならないじゃない!」
本当に今さらですけど、この人は戦力に入れちゃダメなんですね……。野外戦での大魔法が特例ということでしょうか。
「あの、グレイ。降ろしてくれ、もう歩ける」
エメラダ様が顔をそむけて言いました。
「いえ、エメラダ様は心身ともに疲弊なさっています。陛下のいらっしゃる天幕まではお送りしますよ」
「……様、いらない」
「はい?」
「様はいらない! エメラダでいい! さっさと運べ!」
自分が聞き返すと、真っ赤な顔で振り返りガオーッと怒鳴られました。なぜ怒られなければならぬのか。解せぬ。
さて、そこからが色々と大変でした。
まずエメラダ様――エメラダをズルーガ王のいる天幕まで送り届けるとそこから王の号泣が始まり、二人にさせろと半日その場で待機する羽目になりました。
次にクロちゃんたちです。なんと、クロちゃんが拡大した元の状態……よりも大きくなっていたのです。
周囲にいた兵士たちの話によると、小さかったクロちゃんがなんの予兆もなくいきなり大きくなったんだとか。
慌てて攻撃するところでしたと兵士の一人に言われ、思い切り謝罪とお礼をしておきました。
「あらぁ、私の魔法具が壊れてる……っていうかクロちゃんが急に成長したのねぇ。たぶん火の精霊による影響じゃないかしらぁ?」
ルルエさんによれば、竜は火の精霊の眷属だそうで、サルマンドラさんを憑依し寵愛まで授かったのが原因ではないかということです。
自分を通して主従契約を施したクロちゃんにその余波がいったのでしょうか……?
「これはもう成竜並みの大きさねぇ。クロちゃん、ちょっと顔下げてくれるぅ?」
「あいっ!」
轟声を響かせ良い返事をするクロちゃん。うん、元気なのはいいことです。周囲の兵士たちが失神しそうですけど。
ルルエさんは頭を自分たちの位置まで降ろしたクロちゃんになにやらゴニョゴニョと吹きこんでいる様子。
「さ、やってみなさぁい」
「わかった、るるー。われはひのけんぞくたるくろきりゅう、このみをいつわりのよりしろへとかえ、わがいこうをおおいかくせ、ぎたい!」
なんとクロちゃんは魔法を使えるようです。見る見るうちにそのサイズは小さくなり、大体クレムの身長ほどの大きな繭……というか卵? になってしまいました。
「えっと……ルルエさん、これ成功なんですか?」
「大成功よぉ! まぁ見てなさい、いま出てくるからぁ」
そう言った途端、急に卵の中からズボッと細長い何かが生えてきました。
「え!? なに……手? 人間の?」
もう片方の手も勢いよくと出てくると、卵がぐらぐらと揺れながら中から何かが這いだそうとしてきています。そうして現れたのは――真っ裸の幼女でした。
「…………えぇーーーーーーー!?」
「クロちゃん良く出来ましたぁ! 立派な人間に擬態出来たわねぇ。さ、向こうでお洋服着ましょうかぁ」
「うん、るるー。ぐれー、まっててねー!」
「あ、はい」
裸の幼女を抱き上げ手近な天幕に引っ込んでしまうルルエさん。自分も周りの兵士もその光景に唖然として、暫くその場から動けませんでした。
ちなみにクレムは、クロちゃんが巨大化したと同時に失神したということで医療テントで横になっているそうです。
「ぐれー、どぉ? クロかわいい?」
「はい、とても良く似合っていますよクロちゃん!」
そうして服を着て戻ってきた幼女改めクロちゃん。
黒を基調に金色の刺繍の入ったワンピースは彼女にとても似合っていました。腰まで伸びたツルツルの黒髪は、竜の時の鱗を思い起こさせます。
まんまるの金色の瞳はそのままで、ニッコリ笑うと――なんとギザ歯! まぁ元は竜だし当然ですかね。
ところでルルエさん、その服どこから持ってきたの……また谷間か!?
その後はようやく歓喜の涙も治まったズルーガ王にこれでもかと賛辞を贈られ、さてルルエさんに頼んで転移で帰ろうかとしていたところ、
「凱旋もせずに帰るとは何事! 我らと共に帰路に着くのだ婿殿!」
と、ものすごい剣幕で止められ、結局討伐隊一行と四日を掛け王都へと戻ることになりました……。あと、婿殿認定やめて?
王都の外壁門に着けば、既に御触れが出ていたのかズラリと並んだ王都残留の騎士たちに迎えられ門を潜ります。
何故か白い馬に乗せられ、エメラダも自分と一緒に跨り王の凱旋に続きます。
街路に群がる民衆からの大きな歓声は、気恥しいやら心地よいやら、かなり落ち着きませんでした。
そうしてその日のうちに、エメラダの生誕祝いと戦勝祝賀がお城で盛大に開かれました。
城での会場では王を頂に、自分たちとエメラダはその下で席を設けられました。
様々な諸侯貴族が入れ替わり立ち替わり挨拶をしていきますが、自分はもう笑顔を貼り付けてよろしくお願いしますを繰り返すお人形と化しました。エメラダが使っていたあの仮面がいま切実に欲しい……。
一通り御挨拶も済み、王の一声で祝いが始まればルルエさんは蛇竜もかくやと言うほど酒を煽り始めます。
せっせと酒を運ぶ給仕さんもドン引きです。あ、もうその人に出すのは安酒で良いですから。
クレムは異国同士の王と爵位の息子と言うことで、少々堅苦しい挨拶を交わしていました。元々二国間の関係は良好ということでしたが、これを機に更に親交が深まれば良いですね。
クロちゃんはまだ人に擬態したばかりでフォークもナイフも使い方が分からず、ほぼ犬食い状態で豪勢な料理を貪っています。それを察した給仕は、クロちゃんでも食べやすい手づかみの料理を勧めてくれました。
さて自分はと言えば、もう場の雰囲気に飲まれ食事も酒も喉を通りません。傷は帰路の最中に完全にルルエさんに癒してもらいましたが、今は胃がきりきり痛んで仕方ありません……あぁ、早く終わらないかな。
「あ~早く終わんねぇかな……」
「ほんとに、はやく終わってほしいです……」
隣りに座ったエメラダが呟きました。うんうんと自分も必死に同調します。やはり彼女の性格通り、こういう堅苦しいのは苦手のようでした。
エメラダは城に着いてから即自室へと連れられ、再び見えた時には武闘大会の影武者さんのような長い髪のカツラを被っていました。どうやらその姿が公的な時の容姿らしいです。
本人の生誕祝いということもあってとても豪奢なドレスを着込んでいましたが、個人的には城塞で着ていたあの赤いドレスのほうが似合っていたと思います。
やがて夜も更け、王が一言挨拶し退出すると諸侯たちも気が抜けたのか会場内がざわざわと人の声で騒がしくなります。
楽師たちが楽器を奏でれば、広場の中央で踊る方もいました。
……これは、もう抜け出していいタイミングでは?
自分は気配を殺し、そっと席を立ち会場から抜け出しました。影が薄いあまり自力で隠密スキルを会得したのは伊達ではないのです……威張れない!
ハイエン家よりもずっと広くて入り組んだ城内を、当てもなく歩きまわります。するとちょうど庭園のような緑の多い場所に出たので、そこでひと息入れようと木立の傍に備え付けられたベンチに腰掛けました。
ふうと息を吐き、空を見上げればほんのり欠けた月が天に浮かんでいました。
それをボーっと見上げ、自分はここ数日に起こった目まぐるしい出来事を思い返して、思わず顔を歪めてしまいます。
暫くそうしていると、誰かが近づいてくる気配に気付く。
振り返ると、そこには月明かりに薄く照らされたエメラダが立っていました。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
黒髪の幼女、クロちゃん爆誕!! 決して作者の趣味ではございません!決して作者の(ry
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